詩『言葉の街から』 ④



(2023年1月1日~    ) 継続中

 目次


※少し、「対話シリーズ」を小休止して、以下を掲載します。

[言葉の街から] 新年シリーズ 2023年01月01日 
詩『言葉の街から』 吉本隆明シリーズ 日付
1-4     吉本隆明シリーズ 2023年01月02日
5-8     吉本隆明シリーズ 2023年01月03日
9-12    吉本隆明シリーズ 2023年01月04日
13-16   吉本隆明シリーズ 2023年01月05日
17-20   吉本隆明シリーズ 2023年01月06日
21-24   吉本隆明シリーズ 2023年01月07日
25-28   吉本隆明シリーズ 2023年01月08日
29-32   吉本隆明シリーズ 2023年01月09日
33-36   吉本隆明シリーズ 2023年01月10日
37-40   吉本隆明シリーズ 2023年01月11日
41-44   吉本隆明シリーズ 2023年01月12日
45-48   吉本隆明シリーズ 2023年01月13日
49-52   吉本隆明シリーズ ※吉本隆明シリーズは、ひとまず終了です。 2023年01月14日
 詩『言葉の街から』 対話シリーズ 日付
4229-4232   対話シリーズ 2023年01月15日
4233-4236   対話シリーズ 2023年01月16日
4237-4240   対話シリーズ 2023年01月17日
4241-4244   対話シリーズ 2023年01月18日
4245-4248   対話シリーズ 2023年01月19日
4249-4252   対話シリーズ 2023年01月20日
4253-4256   対話シリーズ 2023年01月21日
4257-4260   対話シリーズ 2023年01月22日
4261-4264   対話シリーズ 2023年01月23日
4265-4268   対話シリーズ 2023年01月24日
4269-4272   対話シリーズ 2023年01月25日
4273-4276   対話シリーズ 2023年01月26日
4277-4280   対話シリーズ 2023年01月27日
4281-4284   対話シリーズ 2023年01月28日
4285-4288   対話シリーズ 2023年01月29日
4289-4292   対話シリーズ 2023年01月30日
4293-4296   対話シリーズ 2023年01月31日
4297-4300   対話シリーズ 2023年02月01日
4301-4304   対話シリーズ 2023年02月02日
4305-4312   対話シリーズ 2023年02月03日
4313-4316   対話シリーズ 2023年02月04日
4317-4320   対話シリーズ 2023年02月05日
4321-4324   対話シリーズ 2023年02月06日
4325-4328   対話シリーズ 2023年02月07日
4329-4332   対話シリーズ 2023年02月08日
4333-4336   対話シリーズ 2023年02月09日
4337-4340   対話シリーズ 2023年02月10日
4341-4344   対話シリーズ 2023年02月11日
4345-4348   対話シリーズ 2023年02月12日
4349-4352   対話シリーズ 2023年02月13日
4353-4356   対話シリーズ 2023年02月14日
4357-4360   対話シリーズ 2023年02月15日
4361-4364   対話シリーズ 2023年02月16日
4365-4368   対話シリーズ 2023年02月17日
4369-4372   対話シリーズ 2023年02月18日
4373-4376   対話シリーズ 2023年02月19日
4377-4380   対話シリーズ 2023年02月20日
4381-4386   対話シリーズ 2023年02月21日
4387-4390   対話シリーズ 2023年02月22日
4391-4394   対話シリーズ 2023年02月23日
4395-4398   対話シリーズ 2023年02月24日
4399-4402   対話シリーズ 2023年02月25日
4403-4406   対話シリーズ 2023年02月26日
4407-4410   対話シリーズ 2023年02月27日
4411-4414   対話シリーズ 2023年02月28日
4415-4418   対話シリーズ 2023年03月01日
4419-4422   対話シリーズ 2023年03月02日
4423-4426   対話シリーズ 2023年03月03日
4427-4430   対話シリーズ 2023年03月04日
4431-4434   対話シリーズ 2023年03月05日
4435-4438   対話シリーズ 2023年03月06日
4439-4442   対話シリーズ 2023年03月07日
4443-4446   対話シリーズ 2023年03月08日
4447-4450   対話シリーズ 2023年03月09日
4451-4454   対話シリーズ 2023年03月10日
4455-4458   対話シリーズ 2023年03月11日
4459-4462   対話シリーズ 2023年03月12日
4463-4466   対話シリーズ 2023年03月13日
4467-4470   対話シリーズ 2023年03月14日
4471-4474   対話シリーズ 2023年03月15日
4475-4478   対話シリーズ 2023年03月16日
4479-4482   対話シリーズ 2023年03月17日
4483-4486   対話シリーズ 2023年03月18日
4487-4490   対話シリーズ 2023年03月19日
4491-4494   対話シリーズ 2023年03月20日
4495-4498   対話シリーズ 2023年03月21日
4499-4502   対話シリーズ 2023年03月22日
4503-4506   対話シリーズ 2023年03月23日
4507-4510   対話シリーズ 2023年03月24日
4511-4514   対話シリーズ 2023年03月25日
4515-4518   対話シリーズ 2023年03月26日
4519-4522   対話シリーズ 2023年03月27日
4523-4526   対話シリーズ 2023年03月28日
4527-4530   対話シリーズ 2023年03月29日
4531-4534   対話シリーズ 2023年03月30日
4535-4538   対話シリーズ 2023年03月31日
4539-4542   対話シリーズ 2023年04月01日
4543-4546   対話シリーズ 2023年04月02日
4547-4550   対話シリーズ 2023年04月03日
4551-4554   対話シリーズ 2023年04月04日
4555-4558   対話シリーズ 2023年04月05日
4559-4562   対話シリーズ 2023年04月06日
4563-4566   対話シリーズ 2023年04月07日
4567-4570   対話シリーズ 2023年04月08日
4571-4574   対話シリーズ 2023年04月09日
4575-4578   対話シリーズ 2023年04月10日
4579-4582   対話シリーズ 2023年04月11日
4583-4586   対話シリーズ 2023年04月12日
4587-4590   対話シリーズ 2023年04月13日
4591-4594   対話シリーズ 2023年04月14日
4595-4598   対話シリーズ 2023年04月15日
4599-4602   対話シリーズ 2023年04月16日
4603-4607   対話シリーズ 2023年04月17日
4608-4611   対話シリーズ 2023年04月18日
4612-4615   対話シリーズ 2023年04月19日
4616-4619   対話シリーズ 2023年04月20日
4620-4623   対話シリーズ 2023年04月21日
4624-4627   対話シリーズ 2023年04月22日
4628-4631   対話シリーズ 2023年04月23日
4632-4635   対話シリーズ 2023年04月24日
4636-4639   対話シリーズ 2023年04月25日
4640-4643   対話シリーズ 2023年04月26日
4644-4647   対話シリーズ 2023年04月27日
4648-4654   対話シリーズ 2023年04月28日
4655-4658   対話シリーズ 2023年04月29日
4659-4662   対話シリーズ 2023年04月30日
4663-4666   対話シリーズ 2023年05月01日
4667-4670   対話シリーズ 2023年05月02日
4671-4675   対話シリーズ 2023年05月03日
4676-4679   対話シリーズ 2023年05月04日
4680-4683   対話シリーズ 2023年05月05日
4684-4687   対話シリーズ 2023年05月06日
4688-4691   対話シリーズ 2023年05月07日
4692-4695   対話シリーズ 2023年05月08日
4696-4699   対話シリーズ 2023年05月09日
4700-4703   対話シリーズ 2023年05月10日
4704-4707   対話シリーズ 2023年05月11日
4708-4711   対話シリーズ 2023年05月12日
4712-4715   対話シリーズ 2023年05月13日
4716-4719   対話シリーズ 2023年05月14日
4720-4723   対話シリーズ 2023年05月15日
4724-4727   対話シリーズ 2023年05月16日
4728-4731   対話シリーズ 2023年05月17日
4732-4735   対話シリーズ 2023年05月18日
4736-4739   対話シリーズ 2023年05月19日
4740-4743   対話シリーズ 2023年05月20日
4744-4747   対話シリーズ 2023年05月21日
4748-4751   対話シリーズ 2023年05月22日
4752-4755   対話シリーズ 2023年05月23日
4756-4759   対話シリーズ 2023年05月24日
4760-4763   対話シリーズ 2023年05月25日
4764-4767   対話シリーズ 2023年05月26日
4768-4771   対話シリーズ 2023年05月27日
4772-4775   対話シリーズ 2023年05月28日
4776-4779   対話シリーズ 2023年05月29日
4780-4783   対話シリーズ 2023年05月30日
4784-4787   対話シリーズ 2023年05月31日
4788-4791   対話シリーズ 2023年06月01日
4792-4795   対話シリーズ 2023年06月02日
4796-4799   対話シリーズ 2023年06月03日
4800-4803   対話シリーズ 2023年06月04日
4804-4807   対話シリーズ 2023年06月05日
4808-4811   対話シリーズ 2023年06月06日
4812-4815   対話シリーズ 2023年06月07日
4816-4819   対話シリーズ 2023年06月08日
4820-4823   対話シリーズ 2023年06月09日
4824-4827   対話シリーズ 2023年06月10日
4828-4831   対話シリーズ 2023年06月11日
4832-4836   対話シリーズ 2023年06月12日
4837-4840   対話シリーズ 2023年06月13日
4841-4844   対話シリーズ 2023年06月14日
4845-4848   対話シリーズ 2023年06月15日
4849-4852   対話シリーズ 2023年06月16日
4853-4856   対話シリーズ 2023年06月17日
4857-4860   対話シリーズ 2023年06月18日
4861-4864   対話シリーズ 2023年06月19日
4865-4868   対話シリーズ 2023年06月20日
4869-4872   対話シリーズ 2023年06月21日
4873-4876   対話シリーズ 2023年06月22日
4877-4880   対話シリーズ 2023年06月23日
4881-4884   対話シリーズ 2023年06月24日
4885-4888   対話シリーズ 2023年06月25日
4889-4892   対話シリーズ 2023年06月26日
4893-4896   対話シリーズ 2023年06月27日
4897-4900   対話シリーズ 2023年06月28日
4901-4904   対話シリーズ 2023年06月29日
4905-4908   対話シリーズ 2023年06月30日
4909-4912   対話シリーズ 2023年07月01日
4913-4916   対話シリーズ 2023年07月02日
4917-4920   対話シリーズ 2023年07月03日
4921-4924   対話シリーズ 2023年07月04日
4925-4928   対話シリーズ 2023年07月05日
4929-4932   対話シリーズ 2023年07月06日
4933-4936   対話シリーズ 2023年07月07日
4937-4940   対話シリーズ 2023年07月08日
4941-4944   対話シリーズ 2023年07月09日
4945-4948   対話シリーズ 2023年07月10日
4949-4952   対話シリーズ 2023年07月11日
4953-4956   対話シリーズ 2023年07月12日
4957-4960   対話シリーズ 2023年07月13日
4961-4964   対話シリーズ 2023年07月14日
4965-4968   対話シリーズ 2023年07月15日
4969-4972   対話シリーズ 2023年07月16日
4973-4976  対話シリーズ 2023年07月17日
4977-4980  対話シリーズ  ※事情により、8/17夜にUP。 2023年07月18日
4981-4984  対話シリーズ  ※事情により、8/17夜にUP。 2023年07月19日
4985-4988  対話シリーズ  ※事情により、8/17夜にUP。 2023年07月20日
4989-4992  対話シリーズ  ※8/24にUP。 2023年07月21日
4993-4996  対話シリーズ  ※8/24にUP。 2023年07月22日
4997-5000  対話シリーズ  ※8/24にUP。 2023年07月23日
5001-5004  対話シリーズ  ※8/25にUP。 2023年07月24日
5005-5008  対話シリーズ 2023年07月25日
5009-5012  対話シリーズ 2023年07月26日
5013-5016  対話シリーズ 2023年07月27日
5017-5020  対話シリーズ 2023年07月28日
5021-5024  対話シリーズ 2023年07月29日
5025-5028  対話シリーズ 2023年07月30日
5029-5032  対話シリーズ 2023年07月31日
5033-5036  対話シリーズ 2023年08月01日
5037-5040  対話シリーズ 2023年08月02日
5041-5044  対話シリーズ 2023年08月03日
5045-5048  対話シリーズ 2023年08月04日
5049-5052  対話シリーズ 2023年08月05日
5053-5057  対話シリーズ 2023年08月06日
5058-5061  対話シリーズ 2023年08月07日
5062-5066  対話シリーズ 2023年08月08日
5067-5071  対話シリーズ 2023年08月09日
5072-5075  対話シリーズ 2023年08月10日
5076-5079  対話シリーズ 2023年08月11日
5080-5083  対話シリーズ 2023年08月12日
5084-5087  対話シリーズ 2023年08月13日
5088-5091  対話シリーズ 2023年08月14日
5092-5095  対話シリーズ 2023年08月15日
5096-5099  対話シリーズ 2023年08月16日
5100-5103  対話シリーズ 2023年08月17日
5104-5107  対話シリーズ 2023年08月18日
5108-5111  対話シリーズ 2023年08月19日
5112-5115  対話シリーズ 2023年08月20日
5116-5119  対話シリーズ 2023年08月21日
5120-5123  対話シリーズ 2023年08月22日
5124-5127  対話シリーズ 2023年08月23日
5128-5131  対話シリーズ 2023年08月24日
5132-5135  対話シリーズ 2023年08月25日
5136-5139  対話シリーズ 2023年08月26日
5140-5143  対話シリーズ 2023年08月27日
5144-5147  対話シリーズ 2023年08月28日
5148-5151  対話シリーズ 2023年08月29日
5152-5155  対話シリーズ 2023年08月30日
5156-5159  対話シリーズ 2023年08月31日
5160-5163  対話シリーズ 2023年09月01日
5164-5167  対話シリーズ 2023年09月02日
5168-5171  対話シリーズ 2023年09月03日
5172-5175  対話シリーズ 2023年09月04日
5176-5179  対話シリーズ 2023年09月05日
5180-5183  対話シリーズ 2023年09月06日
5184-5187  対話シリーズ 2023年09月07日
5188-5191  対話シリーズ 2023年09月08日
5192-5195  対話シリーズ 2023年09月09日
5196-5199  対話シリーズ 2023年09月10日
5200-5203  対話シリーズ 2023年09月11日
5204-5207  対話シリーズ 2023年09月12日
5208-5211  対話シリーズ 2023年09月13日
5212-5215  対話シリーズ 2023年09月14日
5216-5219  対話シリーズ 2023年09月15日
5220-5223  対話シリーズ 2023年09月16日
5224-5227  対話シリーズ 2023年09月17日
5228-5231  対話シリーズ 2023年09月18日
5232-5235  対話シリーズ 2023年09月19日
5236-5239  対話シリーズ 2023年09月20日
5240-5243  対話シリーズ 2023年09月21日
5244-5247  対話シリーズ 2023年09月22日
5248-5251  対話シリーズ 2023年09月23日
5252-5255  対話シリーズ 2023年09月24日
5256-5259  対話シリーズ 2023年09月25日
5260-5263  対話シリーズ 2023年09月26日
5264-5267  対話シリーズ 2023年09月27日
5268-5271  対話シリーズ 2023年09月28日
5272-5275  対話シリーズ 2023年09月29日
5276-5279  対話シリーズ 2023年09月30日
5280-5283  対話シリーズ 2023年10月01日
5284-5287  対話シリーズ 2023年10月02日
5288-5291  対話シリーズ 2023年10月03日
5292-5295  対話シリーズ 2023年10月04日
5296-5299  対話シリーズ 2023年10月05日
5300-5303  対話シリーズ 2023年10月06日
5304-5307  対話シリーズ 2023年10月07日
5308-5311  対話シリーズ 2023年10月08日
5312-5315  対話シリーズ 2023年10月09日
5316-5319  対話シリーズ 2023年10月10日
5320-5323  対話シリーズ 2023年10月11日
5324-5327  対話シリーズ 2023年10月12日
5328-5331  対話シリーズ 2023年10月13日
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5344-5347  対話シリーズ 2023年10月17日
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5352-5355  対話シリーズ 2023年10月19日
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5360-5363  対話シリーズ 2023年10月21日
5364-5367  対話シリーズ 2023年10月22日
5368-5374  対話シリーズ 2023年10月23日
5375-5378  対話シリーズ 2023年10月24日
5379-5382  対話シリーズ 2023年10月25日
5383-5386  対話シリーズ 2023年10月26日
5387-5390  対話シリーズ 2023年10月27日
5391-5395  対話シリーズ 2023年10月28日
5396-5399  対話シリーズ 2023年10月29日
5400-5403  対話シリーズ 2023年10月30日
5404-5407  対話シリーズ 2023年10月31日
5408-5411  対話シリーズ 2023年11月01日
5412-5415  対話シリーズ 2023年11月02日
5416-5419  対話シリーズ 2023年11月03日
5420-5423  対話シリーズ 2023年11月04日
5424-5427  対話シリーズ 2023年11月05日
5428-5431  対話シリーズ 2023年11月06日
5432-5435  対話シリーズ 2023年11月07日
5436-5440  対話シリーズ 2023年11月08日
5441-5444  対話シリーズ 2023年11月09日
5445-5449  対話シリーズ 2023年11月10日
5450-5453  対話シリーズ 2023年11月11日
5454-5457  対話シリーズ 2023年11月12日
5458-5461  対話シリーズ 2023年11月13日
5462-5465  対話シリーズ 2023年11月14日
5466-5469  対話シリーズ 2023年11月15日
5470-5473  対話シリーズ 2023年11月16日
5474-5477  対話シリーズ 2023年11月17日
5478-5481  対話シリーズ 2023年11月18日
5482-5485  対話シリーズ 2023年11月19日
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5527-5530  対話シリーズ 2023年11月29日
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5559-5562  対話シリーズ 2023年12月07日
5563-5566  対話シリーズ 2023年12月08日
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5601-5604  対話シリーズ 2023年12月17日
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5641-5645  対話シリーズ 2023年12月27日
5646-5649  対話シリーズ 2023年12月28日
5650-5653  対話シリーズ 2023年12月29日
5654-5658  対話シリーズ 2023年12月30日
5659-5662  対話シリーズ 2023年12月31日
詩『言葉の街から』 対話シリーズ 日付
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5667-5671  対話シリーズ 2024年01月02日
5672-5675  対話シリーズ 2024年01月03日
5676-5679  対話シリーズ 2024年01月04日
5680-5683  対話シリーズ 2024年01月05日
5684-5688  対話シリーズ 2024年01月06日
5689-5692  対話シリーズ 2024年01月07日
5693-5696  対話シリーズ 2024年01月08日
5697-5700  対話シリーズ 2024年01月09日
5701-5704  対話シリーズ 2024年01月10日
5705-5708  対話シリーズ 2024年01月11日
5709-5712  対話シリーズ 2024年01月12日
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5717-5720  対話シリーズ 2024年01月14日
5721-5724  対話シリーズ 2024年01月15日
5725-5728  対話シリーズ 2024年01月16日
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5745-5748  対話シリーズ 2024年01月21日
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5900-5903  対話シリーズ 2024年02月28日
5904-5908  対話シリーズ 2024年02月29日
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5925-5928  対話シリーズ 2024年03月05日
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6111-6114  対話シリーズ 2024年04月20日







詩『言葉の街から』 新年シリーズ


 謹賀新年

 [言葉の街から] 新年シリーズ

おんなじことをくり返している
みたいに見えても
時の内側では新しい


ひとつひとつ磨いては
置いていく
手触り感がいいね


そんな言葉のすき間を
子どもらは
性急に駆け抜けていく


それもいい あれもいいさ
時間が熟成すれば
誰もがわかる時がきっと訪れるだろう




詩『言葉の街から』 吉本隆明シリーズ



言葉や意味が芽ばえる以前の
遙かなまぼろしの大陸へ
ファーストコンタクト!



といっても当てはない
もやもやの
肌感覚の帆を上げて滑り出す



死とは違って確かに体験している
はずなのに
今は不明の あなたの ぼくの どこか



何かありそうだけど言葉以前の記憶はない
ただ語られ費やされた言葉を便りに
言葉の舟に乗って進む




詩『言葉の街から』 吉本隆明シリーズ



振り返れば靄(もや)の中
全ての起源は
すばやく通りすぎるように見える



実際は今と同じように
枯葉が日々降り積もり積もって
起源の熱は底の方から微かに今に届いている



(そうだね はじまりは
年輪のように今に在り
なんらかの発動を続けているみたい)



((その発動の機構がわかれば
もっと気楽に
人の性格も歴史の性格もわかりそうなんだが))




詩『言葉の街から』 吉本隆明シリーズ



ちょうど心臓の拍動のよう
はじまりの
形をくり返しくり返している


10
目覚め始めたきみは
世界の中にいた
世界と自分の分離感を感じ出す


11
外からの視線のように きみは
狭いとか薄暗いとか
は感じない ゆらゆらたゆたう


12
大洋期の海に浸かって
ぼんやりと
沈んだ気分 〈はははどこ ははどこだ〉

註.「大洋」期については、吉本隆明『母型論』より。




詩『言葉の街から』 吉本隆明シリーズ


13
きらきら輝く天草の海
潮風たちが寄せては返す時間の波
ひとつの言葉が家々の内外(うちそと)で結晶していく


14
集落に居たたまれぬ出来事があり
一家親族は
別の言葉の地へ逃げるほかなかった


15
無言の内の人々の内心は
藁にもすがる不穏
にずしりと共鳴している あなたの母もまた


16
遠く東京の外れの月島まで
持ち込まれた言葉たち
その地で生まれた子に染み込んでゆく




詩『言葉の街から』 吉本隆明シリーズ


17
(ここは根の国か)あらゆる起源が
ここに始まる
しかも記録は不在?


18
(いやいや ひとつの起源には
もうひとつ
その前の起源があり・・・)


19
記録はなくても起源の感触が
日々流れてくる
流れ出ている気配がある


20
(自然と通り過ぎて行く
意味道でも
日々起源を反復しているのか)




詩『言葉の街から』 吉本隆明シリーズ


21
ここではいろんな地域から持ち込まれた言葉が
混じり合っているが
互いに路地を走り回り遊びにふけれればいいさ


22
(なぜぼくだけが家族の中でひとり違っていて
暗い心を
持て余して来たのだろう)


23
仲間たちと路地やはらっぱを駆けながら
もうひとりの
きみの虚(うつ)ろな目は何を探してきたか


24
〈きみはひとつしかない心をふたつにふりわけて〉
もうひとりは遙かな意味の始まりの道へ
ひとりわけもわからず歩いている

註.〈 〉の言葉は、吉本隆明 詩「ある抒情」より。




詩『言葉の街から』 吉本隆明シリーズ


25
〈通りゃんせ 通りゃんせ〉
(ここはどこの細道じゃ)(この道しかない?)
〈通りゃんせ 通りゃんせ〉


26
頼りになるちいさな明かり
もなく入り込まなくてはならない?
信じられる手肌の匂いもなく


27
確かな言葉はなくても
言葉を発する以前の
ほっとする気配がありさえすれば


28
信の舟に乗ってするりと
ひかりの世界に
下って行けたのかもしれない




詩『言葉の街から』 吉本隆明シリーズ


29
この地に生まれ出て
家族の言葉たちに撫(な)でられながら
あなたは暗黒面(ダークサイド)には落ちなかったが


30
〈ぼくは女の人が苦手だ
心の目をそらしてしまう〉
どこでならうまく出会えるのだろう


31
あなたはとってもナイーブな
ガキ大将だった
路地を少しうつむき加減に帰ってゆく


32
〈ぼくは人を愛せないのかもしれない〉
〈愛情の未熟な心〉が
起源の森へ魅かれ何度もさ迷った

註.〈 〉に類する言葉は、吉本隆明『「芸術言語論」への覚書』、「人についての断想」より。




詩『言葉の街から』 吉本隆明シリーズ


33
ちいさな群れの 人たちの
ちいさなひとかけらの
まぶしい重さがあなたにはよくわかるのに


34
なぜか何枚も重ねてしまった
〈孤独のまたむこうで
かたくなに世界を拒んでいる〉

註.〈 〉の言葉は、吉本隆明 詩「ある抒情」より。


35
〈きみには微塵にくだけて普遍になつた愛が必要だ〉
そうだろうか
それは遙かな愛の失墜の影絵ではないだろうか

註.〈 〉の言葉は、吉本隆明 詩「ある抒情」より。


36
あなたにとって女の人は超難問だった
たぶん最期まで
目を見開いて見続けようとした

註.
吉本 怖がってはいけません。そうかあ。僕にとっては女の人は難問ですね。これは解ける可能性はない。ダメだったなと思います、子供の頃から。
 (「2010年、詩人・吉本隆明が『人はなぜ?』を語る。」後編 聞き手:糸井重里  BRUTUS)




詩『言葉の街から』 吉本隆明シリーズ


37
人並みに小さなミスはあっても
なぜあなただけが
この世界を普遍の相で深く鋭く捉えているのか


38
それは遙かあなたの起源の全喪失を代償として
家族や友や科学に少し温(あった)かく補償され
生まれた視線の言葉ではないか


39
寄る辺なき中空の
温かい局所もなく
この世界に内核冷たく自らを開く


40
グレてしまうことなく
自らにこの世界を深く普遍の相で開く
ほかなかった無類の孤相よ




詩『言葉の街から』 吉本隆明シリーズ


41
追い詰められたら何をするかわからない
人の心も言葉も立っている
ちいさなやわらかな大地が大切だ


42
そこから生まれ出た
あなたには
普通のなにげない言葉の不安が気にかかる


43
それはいい スピード感の
価値堤防を乗り越えて
ゆったり風に吹かれて行くのもいい


44
衣装を変えて疾走する現在
につながれて
人の心の顔立ちの普遍の相にそっと言葉は触れる




詩『言葉の街から』 吉本隆明シリーズ


45
フランス国歌には
「武器を取るのだ、我が市民よ!」
という言葉があるという


46
この温暖・温和な社会では
普通の人々の
そんな大規模な闘争はまだなかった


47
そんな言葉の森の中 ざわつく季節に
吉本さんは書き記した
〈もしも おれが革命といつたらみんな武器をとつてくれ〉

註.詩「恋唄」(1957年)より。勁草書房『吉本隆明全著作集1 定本詩集』所収。


48
たしか吉本さんへの追悼文で
齋藤愼爾(さいとうしんじ)が語っていた
吉本さんが武器を取れと言えばぼくは取るつもりだったと




詩『言葉の街から』 吉本隆明シリーズ


49
六十年代も遠くくすぶりもうそんな時代ではなくなったけど
(この人がもしかくめいと言ったら
ぼくも武器を取るだろうな)と思ったことがある


50
大学に入りたてで
ぼくもその詩句に出会った
(この人の言葉なら信じられる)と思ったものだ


51
思えば明治維新の動乱期
固く閉じる言葉であったとしても
こんな信・不信の数々のドラマが繰り広げられたことだろう


52
押し寄せる数々の波
とのドラマの中
それでもことばはひとりひとり歩いて行く




 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4229
手すりにつかまりながら
細いロープ
の上を渡っていく ことばよ


4230
時折ふいと吹き寄せる
大風に
放った言葉たちは千々に乱れる


4231
や は  り こ  道 は
だ  だっ  な
(しまった しまったなあ)


4232
壊れた言葉の破片を集めて
修復しよう
と不安のことばは焦る




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4233
大風を受けた言葉
ひび割れや切断があったとしても
ハートの息づかいは生きている


4234
切り整えられた正装の言葉
に正装の応答
そんな堅苦しい世界もあり


4235
社会の場に偶然のように生まれる
小さな言葉場には
いろんな言葉が集まってくる (それはそれでいいさ)


4236
だけど意味論価値論すり抜けて
ああ 今日もいい天気だね
という言葉の走法は自然だ (無意識の自然の理念と思う)




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4237
歩いていると急に重くなり
言葉の足どりの
滑らかさが遠い記憶になっている


4238
(あ それいいな)と思った言葉は
重・それは 重・良質の
物でござらぬか ジュウジュウ響く


4239
ヘンだなということは重重わかっている
それでも重言葉が止まらない
(いざ ヘンだヘンだ イザヤ・ヘンダサン!)


4240
急に痛み出した言葉の歯が気になり続ける
(どんな物語があって・・・)
無痛の普通歯からはなん痛言葉か




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4241
(重力なんて気にしない)
暗黙の約束を振り切って
ふわふわふわふわ言葉が軽い


4242
軽い言葉は嫌われる
(自分だけ勝手気ままにして・・・)
軽い言葉は羨望に弾かれる


4243
それでも軽い言葉が生きる場所がある
しがらみに絡まり絡めた言葉には
軽さが光のように舞い降りることがあり


4244
ありありと軽い言葉の呼吸する
息づかい
がみずみずしい野菜のよう




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4245
「中途半端はいけねえよ」
確かにそう思う
でも蠢くクモの糸の渦中では


4246
誰もが半端な足跡を見つめている
少しはツッパって
も退いてしまう砂地のたたかいの跡


4247
クモの糸が途切れる
小さな
自分の場所でなら自由か


4248
いやいや幻の糸が
きみの中に潜(ひそ)んでいて
規制線を張っているね




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4249
おもいおもいは舞台袖
夢にも出ない
夢の通い路はゴリムチュウ


4250
そんな夢ならウチテシヤマン
夢の舞台の
空気はウチテシヤマン


4251
どこがどうあろうと
この小さな
言葉の一角だけはコフクゲキジョウ


4252
幸福劇場と聞こえてもいいさ
小さな流れの
コフクゲキジョウ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4253
千年ほど前の言葉にも
(そうだね)と感じるのは
千年経っても変わらない人の感じ方か


4254
すききらいがくうきの中
行き交って
すれ違えばストーカーも出現する


4255
相撲の立ち合いよりも
ビミョウな
すききらいきらいすききらい


4256
大は戦争から小は刃傷沙汰まで
すききらいは
変身!するのを止めることがない
 
4253 註.清少納言『枕草子』26段 にくきもの(嫌なもの) を読んで。




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4257
あっ (大丈夫だったかな)
(良かったね
暗転する事態にならなくって)


4258
あっ (危なかった
あぶなかったなあ
もう少しの所だったよ)


4259
ああ はい はいはい
(あれは 何の花かな)
はい そうですね


4260
言語の学からは断片に見える
あっ うっ えっ
人のこころことばが息づいている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4261
(もう 言葉を書きたくない)
と思うことがあって
言葉を書くことを止めることはできる


4262
(もう 言葉を口にしたくない)
と思うことはあるだろう
でも生きて緘黙し続けることはない


4263
たとえ内言語であっても
内のさざ波に
言葉は跳ねたり揺れたりしている


4264
人が生きてるかぎり
内に 外に
静かに にぎやかに 言葉は生きている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4265
あまりにもゆっくりだから
言葉たちも
ゆっくりと丘を上り下っていく


4266
(あ あ きょ   う  う
は い い   い
てぇん  きぃ   い です   ね)


4267
たぶん言葉の階段の上り下り
に時間がかかるんだ
いろんなことに気が回りすぎるのかな


4268
ああきょうは、とすいすい上り下りする
言葉の足どり
を他人事のように見ている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4269
薄暗い室内に入っていく
古びた青銅色の
ひんやりした丘陵を視線が下る


4270
冷たい 固い 静かな 微笑の など
実感を潜り
言葉は苦しげに立ち上がろうとする


4271
先生に感想を聞かれた
小学生みたいに
なかなか言葉の連なりがつかまらない


4272
造形してきた作者の
言葉の道から
誰もが少しズレて向かって行く




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4273
人混みの中さあっと通り過ぎた
女(ひと)の放ったくうき
舞い上げた風とともにふわりと来る


4274
誰もが日々すれ違う
気にも留めない
ことに誰もふと気づいている


4275
そんなびみょうな言葉があり
日を浴びて
時には人の影に落ちていく


4276
概念になれない言葉以前の
感じや匂い
晴れた日のコンビニの前にも座り込んでいる




詩『言葉の街から』 対話シリーズ



4277
言葉道にはいくつかのなじみの記憶も湧いて来る
湧いているのか
引き寄せているのか よくわからない


4278
ともかく〈わたし〉がいるから
〈わたし〉ゆえに
それらの記憶は訪れて来る


4279
(ああ そんなこともあったな)
と記憶のわたしに出会い
情感が流れ出すことがあり


4280
忘れてしまった数々の時間の場面たちは
ただ〈わたし〉に染まった普遍の姿で
いくつかの記憶像として湧いてくるようだ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4281
人間に限らず覚えている
ことは多いだろう
鳥のようにネコのように記憶の川を渡る


4282
浮上してこない記憶たちは
記憶ではない?
「待ち人来たらず」普段着で通り過ぎる


4283
装(よそお)った記憶の姿にならなくても
時時刻刻
通り抜けて行ったものたちがある


4284
過去と現在を結び付ける
記憶の姿は
〈わたし〉をある舞台に乗せている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4285
声変わりみたいに
変わってしまったら
もう元には戻れない


4286
言葉の助走期(?)のアワワから
走り出したら
いつの間にか以前は忘れている?


4287
言葉の人となる以前の
胎内の記憶やアワワの記憶
はなぜ残らないのだろう


4288
年輪には確かに刻まれていても
幼いイメージ言葉は 変成されてしまった
概念の言葉の網をすり抜けるのか




詩『言葉の街から』 対話シリーズ



4289
縁先の土の庭で姉や兄に見守られ
着もの姿でゆらゆらと
カタカタを押していたのを覚えている


4290
何歳頃のことか
小さな身の丈からの視野で
(あそこまで行くのか)という内心だった記憶がある


4291
脳中心で下位に見なされている
情感の海は
遠いはじまりの情感の海につながっている


4292
・・・みたいなおぼろげな気分
神経質に細分化する脳では
人は捉え尽くせないような




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4293
もっと以前の形もあるかもしれないが
はじまりは
(あんたは特殊能力をもっとるたい)


4294
いつの間にか巫女になり
あなたさま
と呼ばれるようになってしまった


4295
食事も家も埋葬も
何もかも
みこみこみこみこ 特別になってしまった


4296
巫女さんのひと言が欲しいばかりに
しまった
しまったしまった




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4297
貴人変人奇人芸能人
如何様でも
その特殊能力だけが輝いている


4298
フツーの人々の熱い視線を浴びて
今もなお特殊能力者たちが
スポーツ・芸能・音楽などの海を泳いでいる


4299
ゲンキ投げたり受け取ったり
舞台下のここそこで
相変わらず沈黙交易が続いている


4300
別にいいけどさ
でもそれって
平等概念はどこで息しているのかな・・・




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4301
スマホ時代ではあるが
気分の舟に乗りゆらゆらと
連絡もせずに来てしまったよ


4302
きみはどこへ出ているのかな
今何をしているのかい
ことばのぼくはあちこち考え巡らせている


4303
人と人とがすれ違うみたいに
ことばもまた
他人のことばの在りかにうまく出会えないことがある


4304
ことばとなったぼくが
うまく出会えた時
他人のことばの不在から虚しく引き返すことはない




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4305
もうずいぶん長く少しずつ
思いついたように
千葉雅也『現代思想入門』を読んでいる


4306
予想していたように
作者の内面の具体性
を潜り抜けてきた脱構築言葉たちだった


4307
その言葉たちがわりとすんなり
こちらに入ってくる
ということは欧米化の浸透のせいか


4308
しかしこの本の言葉たちを追いながら
ぼくのもうひとつの視線は
その読書空間の底をゆっくりと進んでいる


4309
けれどそれらが「現代思想の基本的なイメージ」(P176)
の全てではない
欧米でも中国でもないトウダイモトグラシイ!


4310
ぼくらの内にはいくつかの層があり
中国みたいで中国ではない
欧米みたいでオカシイ欧米 それらの下には大きな根の層があり


4311
ぼくらが学校に上がって感じた
背中の世界と
前方から来る世界の間の違いととまどいよ


4312
ここでもまた遭遇する
背中の入り組んだ列島社会と
前方の欧米化とのズレズレズレ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4313
はじめての他人(ひと)と出会う時
お互いに
いろんなものを身に付け背負い込み立っている


4314
当人の形や輪郭をしてはいるが
時代や家族や地域と
交易した跡が仕舞い込まれている


4315
優勝時のあいさつみたいに
確かに自力ばかりではない
見えない他力も背中を押している


4316
誰もがひとり歩いていくけれど
道も風景もひとりのものじゃない
(それでもひとり歩いて行くんだよなあ)




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4317
にぎやかな人間界を下って
静かな宇宙の岸辺に座るとき
にんげんは点灯した微小点になる


4318
大きな時間の波に洗われて
〈虔十公園林〉でさえ
ザザザザザと無に帰する 


4319
そんなひんやりした道筋では
勝った負けた
大きな仕事をしたなんて・・・


4320
・・・それでもまた子どもが立ち上がり
歩き出すように
人間界の軒先はもくもくと小さく明るい




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4321
あんな男がモテるわけがない
と断定調でも オットット
感じ良さそうな子を見つけているよ


4322
好き嫌いや相性があり
外見(そとみ)にはあり得ないと見えても
ぴったり出会える道があるのかもしれない


4323
多様な顔を隠し持つひとり
そんなひとりを計量する
って難しいな (自分さえうまく計量できない)


4324
お見合いで出会っていた頃なら
見知らぬ他人から日々少しずつ
ふたりの通い路を通していったのかもしれない




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4325
ケンカになれば大声も出す
大きい声は
空間を制圧しようとする


4326
ガラス戸をバンバン揺らし
ゴチック言葉は
危険な匂いを濃くする


4327
小さな声は自信が無いのではない
深い時間の井戸から出て
広場に出た言葉はまばゆいのだ


4328
小さな声は微小な言葉たち
自分の周囲に派遣して
まるごとすくい取ろうとする




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4329
たぶん誰もがふと感じることは
ギュウギュウギュウ
と窮屈にならないと向き合わない


4330
向き合ってもギリシャ神話の徒労の石積み
に見えてしまったら
徒労の通路を戻っていくかもしれない


4331
小さな綿毛が飛んでいる
何なのかはわからない
その飛跡がこちらの内面を揺すっている


4332
誰もがふと感じることには
光も影もあり
けっして軽量とは限らない




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4333
日差しはあるが寒い冬の風
が出ている
(ああ そろそろあれしないと それからそれも)


4334
おだやかな時間の中にも
次々に寄せて来る
片づけなくてはならない


4335
張り詰めて力を入れすぎると
読みを間違って
するりと飛び去ってしまうことがあり


4336
お風呂含めていい加減が
ほんとうに
人のたましいを解(ほど)くこともある




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4337
吉本さんによれば漱石はつぶやいた
〈この世に片付くものはない
片付いたと見えてまた形を変えてやって来る〉


4338
漱石はどんなつもりでつぶやいたものか
うんざりや死に傾く視線
があったかなかったか


4339
もちろん死には片付くも片付かないも無い
片づけ続ける小さな火
は消えて無に横たわっている


4340
生きていれば面倒な片づけもする
ほったらかしで
晴れた日の土手に寝そべることもあるな




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4341
ほぼ毎日の詩を書き始めて
先日で9年目に入った
10年はいきたいなあ


4342
なぜ10年かと言えば
〈10年毎日やればいっちょ前〉
と吉本さんが力説したからだ


4343
この世界にはどうでもよさそうなこと
の中にも宝石は埋もれてあり
頬を火照らせることがある


4344
ちいさなゴールを切る気分
高台からよく見えるものじゃなくて
灯台下暗しの身近な小さいもの




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4345
左に振れたり右に触れたり
びみょうな振れがあり
大きな言葉ではつかまえにくい


4346
そりゃ一部だけ取れば
左!とか右!とか上!とかなる
けれど多動しているんだ


4347
言葉のようなものを
大きな網目の言葉で
捕まえるほか方法がない?


4348
遙か言葉以前のびみょうな世界が
するーりくらーりしゅわしゅしゅ
確かにこの世界には潜(ひそ)んでいる




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4349
にんげんが言葉を生み出して十万年余りとして
言葉の岸辺には
疲弊した色とりどりの音や文字がひしめいている


4350
無数の言葉たちの夜のきらめきの中
ことばが目覚めるとき
遙かな来し方を沈黙の内に推し量る


4351
言葉も変貌する 変貌する人や社会
にシンクロして
またいつか大きな曲がり角に立つかもしれない


4352
それでも言葉への 言葉からの
小さなひと束の
エナジーフローは不変だろう




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4353
言葉はぼくのもの
でありきみのもの
であり死んでる人生きてる人みんなのもの


4354
だからぼくの気持ちばかりじゃない
自分のものとも思えない
変なものも混じっている


4355
そうやってみんなはことば人間
を生きている
今日も明日も生きていく


4356
汚い言葉団子をハートに投げつけている
今日もいい天気だ
そんな言葉戦争がいつか終わればいいな




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4357
気がかりだったことが片付くと
青空の下
我知らず深呼吸している


4358
言葉の手前には
いい感じ
というほかない光景があり


4359
そんなことがあれば
深みにはまっても
なんとか生きて行けそうな気がする


4360
他人(ひと)のそんな光景を目にすると
(ああ、よかったね)
と無言の小さな祝福と声援を送るのだ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4361
舞台に上って毎日歌っていたら
歌うことがもう無い
白紙の一瞬もふいと訪れる


4362
スランプみたいな壁の前でも
しばらくの静けさの後
手慣れた調子で自然と歌は流れ出す


4363
ひとりの時代にひとりの峠を越えて
みんなの運命を気楽に歌い出すのは危うい
空虚に耐えなくてはならない


4364
そうではなくて歌姫ヨゼフィーネみたいに
危うい人間族の運命を
無償の聴き取れない音階で歌っている者はいないか




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4365
知らなかった おとなになっても
知らなかった
蕗(ふき)のとうを食べることを知らなかった


4366
知らなかったことはいくらもあり
それはそれで
何かが欠けていた気はしない


4367
たぶん蕗のとうということを
耳にしたことはあり
(フキノトウ・・・)と通り過ぎてきた


4368
フキノトウのみちから(おう みどりの匂う)
世界の扉の前に進めなかった
この世界は広く深い (みどりの)




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4369
フキノトウの道に入る
蕗の薹(とう)が見える
かすかな苦みのみどりに匂う


4370
蕗の薹以前にも
色んな名前が
にぎやかにあったようだ


4371
いずれにしても〈それ〉を指している
名前が付けられる以前の前世も持つ
まだ寒い中のみどりの〈それ〉


4372
晴れ晴れと名前が落ち着くまでには
たくさんの出来事があり
チャレンジがあり みどりの深い時間があった




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4373
知らなかったことはいくらもあり
それはそれで
何かが欠けていた気はしない


4374
慣れてくると知らないことが
いつの間にか消えている
そうして現在の重力下の無意識を生きる


4375
現在という普通の光景面に
まいにちまいにち 誰もが
無意識に促されて意識をドライブさせている


4376
幼年は無邪気で青年は得意げだ壮年は時間に追いまくられ
老年は上り詰め来た人新世の外殻を抜け出て
無意識の大海の方から現在を眺めがちだ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4377
ほとんど気にもかけずに次々と
飛び越えて行くように見える
人の歩幅や足裏が気になることがある


4378
(変身!) 言葉の人となってしまったら
自分含めて
普通の人を背後から見てしまう


4379
言葉の道に入り込み
言葉の森のア行からワ行まで
日々行きつ戻りつジャンプする


4380
ほらほら手を当ててみなくても
心臓が拍動し
言葉の川が激しく流れてゆく




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4381
フ・リョウ・デス フ・リョウ・デス
(ふりょうか ふりょうなのか フリョウ
不良になっちまったか ウウウウウ 困る)


4382
(メインはしっかり推進してても他が不良なんだから
もうどんな言葉でも
チェーンみたいに振り回してやるぞ エイ ヤ オウ)


4383
チュウシ・デス チュウシ・デス
(今回は中止中止中止 中止するほかないか
失敗 失敗したか?)


4384
(失敗となると・・・イロイロ困ル
あんまり損害もなく失敗の手前で中止したんだから
まあ失敗トハ言エナイカ) 中止!


4385
(イヤイヤイヤ 失敗だろう
それを青空の下ではっきり認めないと
「失敗は成功のもと」が曇り空に吸い込まれていくよ) 失敗!


4386
雨で遠足「中止」など大自然力には負ける
小さい人間力の
不十分にははっきりと「失敗」という




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4387
線路の向こう 畑の梅が咲いている
近づいて見たら
また違った花模様かもしれない


4388
けど今日は出かけない
遠くの梅を
遠くのまましばらく見ていた


4389
父が植えわたしが枝払いなどして
少しばかり面倒見ているから
白いわたし梅なのだ


4390
数年前に大風で1つ倒れてまだ4つもある
自らの亡き後は考えなかったか
今は梅の花を眺めるだけになった




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4391
戦争ともなれば敵味方に分離され
日々の日差しの下
憎しみ苦しみの乾いた道を歩いて行くのだろう


4392
大自然が偶然のようにもたらす
大水害や震災には
憎しみではなく悲哀の道を人は行く


4393
昨日までは日差しに溶けていた
そのちいさな温もりが
断ち切られてしまって地に足が着かない


4394
戦争の場合も人間(じんかん)の
擦(こす)れ合う硝煙から
非戦の声なき声が聞こえてくる




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4395
大自然は責任を取らない
人間界の圏外から
慈愛と猛威を併せ持つ表情で訪れて来る


4396
先の敗戦で天皇は責任を取らなかった
軍部も政治家も芸術家も責任を取らなかった
民衆も責任を取らなかった (少しはいたのかもしれない)


4397
ただ戦勝国には裁かれて
後は黙々と
広大な焼け野が原を暗い心で右往左往した


4398
責任にも濃淡や強弱があり
最底辺でも 自問すべき
人間界に住む者としての何らかの責任はあるのだろう


★4396への「反歌」
ずいぶん離れた戦後の
時間の場所に
もやの中から寡黙な高村光太郎が浮かぶ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4399
まだ責任の圏外近くだった
若い吉本隆明青年は
戦争に翻弄された自分たちの運命の意味を必死で考えた


4400
例えば難解と言われる『共同幻想論』は
責任の圏外にいる者にも
責任を迫って来る〈権力〉の無効を白日の下にさらした


4401
〈自己幻想〉〈対幻想〉〈共同幻想〉の分離と連関から
ひとりの世界、ふたりの世界、三人以上の世界として
われら日々関係網を行き来したり、ジャンプしたりしている


4402
ひとりは深い この身近な社会も深い
その上に勝手に乗っかる国家よりも
人時間も深いなあ ぼくらに無縁な国家は不快だ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4403
いくら西欧の政治哲学の関係網を積み上げても
その圏外にはみ出して生きているひとりだから
歴史新しい国家に責任の持ちようがない


4404
たとえ同時代を生きているひとりと見ても
世代という〈共同幻想〉にはくくれない
絶えず脱けていくひとりの責任を脅迫するのは無効だ


4405
むこうだ向こうだ無効だ
詐術は言葉のマジックによってなされ
にんげんの生み出した原始の融即(ゆうそく)魔法をかけてくる


4406
なぜか人にはとっても古いものが残っていて
危機感に発動する
現在の新しい小さな芽たちがなぎ倒される

 全体への註.

「さらに言えば、団塊の世代の責任で相当に日本社会は構造的に崩れていて、今の追い詰められている状況の原因は今の若者たちではなく、団塊の世代にあるといっても過言ではありません。少子化も、若者の貧困も、全ての責任は団塊の世代が出産育児するタイミングに行った行動と、彼らが社会の中堅からトップを担った平成を通じた意思決定の数々が招いた大失敗によるところが多いのです。」
(木下斉 note「なぜ団塊問題は若者に冷たいのか?自己責任論の底辺に流れる、努力すれば報われた理由への無理解?」)





詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4407
遺伝子の道と並行して
次々にバトンを渡す
ように人が生きてきたということ


4408
あんまり口にはできないような
薄暗い迷路の日々も
はっきりと刻まれてある感じがする


4409
生自体に思い悩み苦しむ
死自体に思い悩み苦しむ
生と死の狭間に思い悩み苦しむ


4410
人のそんな思い悩み苦しみの
ひとつの集大成が仏教だったのだろう
少し新たなみちが開かれた




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4411
言葉が実装されているから
自分は自在な魚だと思い
カッコ良く飛び跳ねてみせる


4412
そんな人種が集合して
CM世界に命を吹きこむ
(人も物も生き生きと風になびく)はずである


4413
予測計測フィードバック 転倒されてしまった世界では
言葉もイメージもにんげんも
生命(いのち)も転倒されてしまっている


4414
積み上がっていく必然の風景の中
心地よさそうに見える光景から
振り向く者たちは絶句する




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4415
「シワ改善、シワ改善!ですよ」
「シュワ カイゼン! ドウデスコレ!」
(シワが無くなるとは言わないな・・・)

4416
シュワカイゼンが耳に残る
CM言葉の通路に入る
もちろん言葉の衣装を装う楽屋がある


4417
演者たちや撮影クルーたちは
「シュワ カイゼン!」のほとりで
まだくつろいでいる


4418
その内面のさざ波が見える
CM言葉に限らず 人は日々
いくつかの言葉の道を上り下りしている 




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4419
時代の花粉が飛んでいる
目には見えない
言葉の花粉となって降ってくる


4420
心地よく言葉のダンスをする者たち
を尻目に
きみは言葉の花粉症で気持ち悪い


4421
季節に関わりなく漂ってくる
見知らぬ花粉の言葉に
殺意を走らせる者たちもいる


4422
いつでもある野菜の登場と同じく
古い季節もまた
崩れかけている気配がする




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4423
何気なくあるいは意識して
言葉の道を歩いている
ようで必ずバランスは取られている


4424
例えば街路の風になびく
〈愛〉というりんごを選ぶとき
向けられた愛という概念が熟している


4425
ノー天気な「愛は地球を救う」もあれば
ひとりの言い出せない愛もあり
愛という概念野からの収穫も色色だ


4426
言葉の道を歩いているきみは
ぼんやりしていても
絶えず現在への好悪の選択をしているね




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4427
(歌う 心の中で うたう)
学校の音楽の舞台でなくっても
遙か太古から歌い続けてきているよね


4428
遙か彼方では うたいかたりまう
はひとかたまりの
この世界への問答だった?


4429
すばらしい答を引き出すためには
良い〈問い〉が大切だったか
それが今ではウケるかどうかになってしまった(いいけどね)


4430
うたいかたりまうは あれよあれよという間に
歌 物語 舞踊に分化し 高度化し
近所でも他人同士の家になってしまった(いいけどね)




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4431
外の歌や物語やダンスがどうあろうと
(歌う 心の中で うたう)
(物語る 心の中で ものがたる)
(踊る 心の中で ダンスする)
それがきみの内を流れていれば いいんだよ


4432
今風にカッコいいのがいいかい
それはいいけど
外におもねり過ぎてはいけないね


4433
うたいかたりまう 歌い 語り 舞う
現在の形式の必然の中で
きみは自分の存在の歌を歌うんだ


4434
軽くても重くてもカッコ良くてもダサくても
いいさ ただ
きみ自身のハートのはっきりした足跡であるなら




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4435
歌は別にと感じていても、
たぶんきみも
心の内のどこかにうたが流れる時がある


4436
人は生きているかぎり
歩いている限り
寝たきりでも幻の足が歩いている うたっている


4437
歌 歌 歌 ほんとうは
歌に上手も下手もない
ただハートを歌に盛り込めたかどうか


4438
吉本さんが歌うのを目にし耳にしたことがある
公の場で緊張したかな
(オンチなんかじゃないですよと思った)

註.
1987年9月12~13日に24時間連続講演と討論の『いま、吉本隆明25時』が東京・品川の寺田倉庫T-33号館で行われた。吉本隆明、三上治、中上健次三人の主催。わたしも出かけた。子細は忘れたがわたしも吉本さんが歌うのを聴いた。「図書新聞」の「最終回 吉本隆明と中上健次、消えがたい記憶」の中で、三上治が、吉本さんが歌ったのは、13日の「対談 歌謡の心(都はるみ・中上健次)」の場面であり、「大阪しぐれ」の一番を吉本さんは歌ったと記している。吉本さん、六十三歳。





詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4439
吉本青年はたくさんの歌を
詩篇『日時計篇』に
載せたうたった


4440
壮年の吉本さんは
詩集『記号の森の伝説歌』
を編んだうたった


4441
吉本さんは最期まで普通の椅子
に座りながら
かつてこの列島の歴史にない無類の歌をうたった


4442
おうちで料理しながら
レパートリー乏しい吉本さんは
軍歌などもつい鼻歌してしまった




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4443
それぞれの歩き慣れた私道から
ひとりひとり大道に入ってくる
不慣れな服、歩き方、言葉、表情で


4444
(大きな道だ でもなんかちがうなあ
くうきがつらい
もう振り返ることしかできないのか)


4445
(たくさんのひとりひとりが
大道を歩いている
彼らもぼくのようにやって来たのか)


4446
継ぎ目がよくわからない
大道の人の歴史にも
ひとりひとりの継ぎ目の物語がある




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4447
時代と同じく理屈っぽくなってしまったか
詩の 詩は 詩よ
避けられぬものならそれもいいさ


4448
固く見える概念がみどりの繊維で織られ
クールな論理の流れに
温かな春の下水が流れていれば


4449
むしろ言葉を打ち立てよ
誰もがハートで認めざるを得ない
社会を貫くひとつの水路 靄(もや)に煙っている


4450
問題は成果や目的地ではなく
そこへどんなふうに
風を呼吸しながら行くか




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4451
誰もが道を通る そして人それぞれの歩み方がある
(それは認めよう)
(しかし少し違うような気がする)


4452
同じ道を自分の道として
自然に あるいは遠慮がちに
ひとりひとり歩いて行く 歩いている


4453
ぼくはいつもこんな歩き方さ
と語っても
けっしてそれだけではないような


4454
この列島に無数の世代に渡って培われた
精神の遺伝子
固有の歩き方も重畳(ちょうじょう)しているよね




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4455
何かと対立して 何かを排除する
考え方には
どこか欠陥がある アルルの女が現れる


4456
人がのびのび自由に生きるとき
小悪も小善も
溶けて様々に変面する


4457
大きな時間の中で解決すべき問題を
今ここで
一挙に解決することはできないから


4458
一方に凝縮する考えは戸を閉めて
色色なぎ倒して
必ず薄暗い権力を構成する




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4459
もう言葉の行き止まり 言葉はありません
生きているかぎり
そんな日は訪れないような気がする


4460
覚えたてのよちよち言葉もあれば
ぶっきらぼうの愛の青い言葉もあり
契約書の迷った森の言葉もある


4461
政治家の空虚な言葉があり (ほら お前だよ)
いろんな言葉が
許されてあるように見える (ほんとうにそうか)


4462
生きているかぎり
人は小さなことばの人だから
果敢に大きく深い世界に挑み続けるんだ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4463
人はその言動によって判定されるから
放たれた言葉は
その人から分離できない


4464
言行一致という言葉があり
言行不一致という言葉もあり
言葉は信用と虚偽の間に揺れている


4465
言葉はその人から切り離せない
の向こう岸で その人は
作者に変身して物語世界を自在に書いている


4466
人々の生活の扉の向こうには
その人から分離した言葉の街が確かにあり
虚偽も空虚も群として走り回っている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4467
言葉の鳥が飛んでいく
(カッコいいな)
無数の声援に勢いがついていく


4468
入りたての演劇部員みたいに
なかなか飛び立てない
言葉の鳥もいる


4469
飛ぼうなんて思いもしない
楽屋の外の言葉たち
日差しににぎやかに葉揺れしている


4470
鳥だからといって
飛ぶとは限らない
ゆっくりゆっくり今日を歩く




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4471
言葉は湯気を立てて出立する
何ものかを運んで
何ものかを目指して進んでいく


4472
選ばれた言葉たちに
ためらいの手が
伸びてくることがある


4473
気に入られない言葉は
消去され
代わりのものが別の道を走り出す


4474
見えないにぎやかな光景が
言葉の街には
見える聞こえる揺れ動いている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4475
うんもう うんもおお
ぺぺんぺんぺん
(といっても展開しないな)


4476
どんぶらこどんぶりこ
どんどんぶらこ
どんぶりこ ドン・ブリーコ!


4477
言葉の森がザワザワしない
あちこちから
物語の火花も散らないね


4478
平熱より少しばかり低い
言葉の空気の層を
歩いている 言葉の森も森閑としている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4479
〈言葉〉に会いに行く
言葉の街では
誰のことばもそれなりに着飾っている


4480
ことばのぼくも
普段着ではないけど
できるだけラフな格好で通りを歩く


4481
ラフと言っても
ラフ通りやカジュアル通り
に入り込み歩いているわけじゃない


4482
どの通りでなら会えるのか
このぼくの
ことばのからだにぴったりの〈言葉〉は




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


なかなか思いの〈言葉〉に会えないから
やけのやん八
パチパチ火付けして回るぞ


4484
とまではならないけれど
歩き疲れた重たい足に
カランカランと音立てていくものがある


4485
〈空しさに負けた いえ言葉の街に負けた〉
と昭和の替え歌が
枯れすすきのように揺れている


4486
抜け出て昭和は遠くなってしまった
のに新しい光景が見えない
目抜き通りには昭和のおじさん言葉がいるぞいるぞ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4487
たぶん未来でもなく過去でもなく
いまここが
舞台の中心なんだろうな


4488
わかっちゃいるけど
スーツ着てても
内心は(まあのんびりいこうか)となるんだよな


4489
確かに今ここではその実現は難しい
ということは絶えずあり
今ここを泣き笑いこらえて歩く


4490
がむしゃらに努力し苦労し
ヘーゲル階段を上っていく
その果てに、ってなんかおかしくないか




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4491
比叡山を全世界と思い
自力修行の苦行の果てに
ほのかに〈仏〉を見た (よし! ヤッター)


4492
見たぞ見たぞ〈仏〉を見たぞ
とカッコを付けるともなく付ける
比叡山信仰の圏内からはかしこみかしこみ孟子孔子


4493
圏内の舞台下では
スゴイ! イヤサレルウ
とヤンヤヤンヤの騒ぎに騒ぎ川に飛び込むもあり


4494
圏外のぼくは (何それ?!)
そんな価値のピラミッドは
カチカチ山の蜃気楼にしか見えない (デモ モエテイルンダロウネ)




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4495
〈情報〉がそこにもここにもあそこにも
情報があふれている
どこにでもするりと情報がやってくる


4496
そこでもここでもあそこでも
〈情報〉している
無意識的に(全集中!) スマホは忙しい


4497
人と人との関係ばかりではなく
(こうなってしまったからには
仕方がないなあ)


4498
〈情報〉狂の時代
食べたくないものも食べさせられる
つい食べてしまう〈情報〉過食症は




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4499
〈情報〉に触れたくない時もある
木の葉で編んだ弁当を持って
自然公園に出かけたいわけじゃない


4500
〈情報〉群には何層かあって
深層(DS)の意図を
察知しているからでもない


4501
〈情報〉の自然な流れ
の騒音は仕方がない
が時には(ほっといてくれ)という気分になる


4502
無数の意図する〈情報〉の流通の底には
〈情報〉の自然な流れがあり
ぼくらは深くエンクロージャーされている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4503
どうするどうする
きみはどうする
と〈情報〉の嵐が急(せ)きたてる


4504
クリックを催促する誘惑する
メールが来る
遮断しても別の顔でやって来る


4505
きみはどうするどうする
きみが罠にはまるまでは
〈情報〉は変装し続ける


4506
三本の矢を持っているという
〈情報〉は
しかしいつもおんなじ顔つきでやって来る




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4507
急に風が出てゆらり
小道からはずれそうになる
(おっとっと)言葉が揺れる


4508
その微妙なバランスの渦中に
出て行こうとする言葉の
命運がかかっている


4509
(あ しまった 言わなければ良かったのに)
ということがあり
言葉の小道には多くの難渋がある


4510
なんちゅうことを言うんだと
責められる
のはまだ良い方で 暗転の沈黙もあり




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4511
〈情報〉という言葉を手に取る時
(ちょっとまずいかな)
という思いとともに第二層で語り合う


4512
近所のおばちゃんには
〈情報〉は手にしない
第一層で世間話する


4513
〈情報〉という言葉を手にすると
中空の
第三層へ誰でも引き込まれていく


4514
抽象概念の〈情報〉が
わたしたちの前に現れる時
ATMみたいに必ず具象的な姿をしている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4515
言葉には手垢が付いており
息もかかっている
言葉は自分だけのものだと思う


4516
けれど他の誰かも選択する
同じ言葉
それでも自分だけのものだと思う


4517
言葉はみんなのものであり
と同時に
自分だけのものみたいだ


4518
同じ言葉でも違っている
言葉たちの連なりや
言葉の体温の放つふんい気みたいなものや




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4519
誰かがある言葉を傷つけて
言葉のからだが
生彩をなくしていく


4520
〈ていねいに説明します〉
そんなつもりはさらさらないから
言葉は空虚な谷に響くばかり


4521
人はそんな言葉たちを踏みつけて
みどりの言葉の通りへ
入って行こうとするが


4522
傷つけられ汚染されてしまった
言葉のからだには
いつものように着せる服がない




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4523
(赤い椿の花が咲いている)
赤い椿の花が
咲いて いる 見える


4524
虫たちに向けては赤く咲き誇っている
のかもしれないが
人に向けてはどうなんだろう


4525
それがどうであれ
花咲く椿に
人は見入ってしまうことがある



4526
姿形は違っても
ともに生きて在ること その命に
共鳴し合うのだろうか




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4527
言葉もまた蕾(つぼみ)から花へ
散らしては
また次に鮮やかに花開く


4528
現在のひとつひとつは
発句でありながら
時間の川では連句となっている


4529
言葉を空間的に見るか
時間的に見るかで
発句ともなり連句ともなる


4530
そうして時にはつぶやくのだ
(ああこの言葉の道
の光景は前にも出会ったな)




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4531
こちらがどんなに話しかけても
ネコたちは
人並みには応じない


4532
人が呼びかけた言葉は
猫のからだの内で
どんなふうに響いているのだろう


4533
ネコはネコの事情で
〈にゃあ〉と言う
同じ〈にゃあ〉でも色々違うのはわかる


4534
でもまあしかし そんな次第でも
なんとか共存できている
同じ生きものだからか




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4535
言おうとすることの
いっぱい詰まった
総量が言葉になるわけではない


4536
言ってしまった後に
(ああ言えば良かった)
という内心の小道をとぼとぼ歩くことがある


4537
心と言葉は押せば押し返される
作用と反作用の
苦い関係を消し去ることはできない


4538
投げ出した言葉は立ち上がり
他人顔で
ぼくのもとから去って行くよ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4539
言おうとすることが別のものになったり
屈折したりする
のはなぜか 何かが介在している


4540
無心の言葉 自然な仕草の言葉
満開の桜の花を前にした言葉
言葉の道は真っ直ぐだ


4541
たまに外からも内からも
介在してくるものがなければ
風のように言葉道を流れて行く


4542
けれど煩悩と忖度配慮にまみれて
言葉たちよ
苦しげに曲がりくねった言葉道を行く




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4543
「誓いの言葉」というものがあり
門の中に入るには
誓いが求められることがある


4544
新しい世界の扉を前にして
たぶん誰もが
いくらか言葉の頬を赤らめる


4545
その時は本気だった
それが時間の流れに浸かる内に
会社のお金を使い込んだり離婚したりすることがあり


4546
誓いの言葉には背を向けてしまったことになる
それはそうでもだがしかし
人間の哀しい本質には添っていることになる




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4547
ぼくは「少子化問題」の圏外にいるから
少子化が
良いとも悪いとも思わない


4548
この息苦しい社会で選択を強いられ
当事者たちが選択した
その小さな戦士たちの姿があるばかりである


4549
政治の言葉が当事者たちの内面に下り
多数派の声に耳を傾け
対策をしてきたなら少子化は緩(ゆる)んだろう


4550
政治の言葉は文学の言葉を飛び越え
ひとりひとりに耳を傾けない
相変わらずのよそ見運転ばかりしている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4551
ただ追いまくられている
だけに見えようとも
日々誰もが小戦士だ


4552
相変わらず息苦しいこの人間世界で
人が今ここに存在し
あれこれ動き回っているだけで〈戦士〉に見える


4553
大いなる自然の側から見れば
ただ小さな明かりが
無数に点滅しているだけ


4554
〈戦士〉も〈倫理〉も関係ない
生命(いのち)を超えた 乾いた
砂嵐が吹いているばかりである




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4555
きちんと折り畳まれた死は
静かな沈黙に送られて
この世界の出口をすうっと脱けていく


4556
大いなる自然の方は
見ることもつぶやくこともなく
ひとつの死を自然に懐に受け入れる


4557
それ以外は無いみたいに重力下にあった
明滅していた小さな明かりは消え
残像ばかりを残してこの世界の橋を渡って行く


4558
人間界と大自然界で
死も二重である
重力下の不在と 無重力下の骨と




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4559
この世界の重力下では
自然と何かに触れ
感じ 考え 歩き出している


4560
外見には停滞に見えても
日々 ひとりひとり
朝のドアを開けて 感じ 考え 歩き出す


4561
ふいに現れてくる固い岩盤には
行きつ戻りつ回り道
感じ 考え 歩いて行く


4562
夜の静けさの中に横たわる
夢の中でも
無心に歩行している




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4563
ひとりは世界の部分集合だからと
他者に呼びかけ
大きなひとつに固まろうとする


4564
大きなはっきりした声で見栄えが良く
カッコいい!
でないと力が出ないか


4565
そんな言葉がのさばっている
言葉通り ジグザッグと
否定韻を響かせながらぼくは歩いて行く


4566
(ちがう 違うなあ 言葉の視線
しっくりこない
概念の構成が全く違う) ひとり。




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4567
めったなことではつぶやかない
(神も仏もあるものか)
例えばアンドウショウエキははっきりと言った


4568
神も仏もなんとなく許されて
言葉の大通りを
落ちぶれたマレビトみたいに昨日も通って行った


4569
神や仏は部分集合の人が生み出し
はじまりのホットな時があり
世界サイズに布教した


4570
ひとりが世界と見なせる段階に来て
転倒された全体集合の下
ひとりひとりがいい感じにひかっている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4571
ほんのり赤くなったことばの顔は
(あ あの情緒の流れだ)
流れに乗って「かすかに色づく」とか言葉を吐く


4572
吐いた言葉を反芻していると
(ちょっと月並みかな)
と揺れがはじまることもあり


4573
そこからさらに別の道に入って行くと
赤々と凝縮して
ゴチックの大文字で「伝統日本が赤々と色付く」とか吐き出す


4574
恥も外聞も捨てると
空虚な空洞を通って
誰もがゴチック大文字のファッションモデルとなれる




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4575
今日も言葉の椅子に座る
言葉の方に顔を向けると
言・葉たちが揺れ出す


4576
あ の方へ 
〈あ〉 がロックオンされた
内では〈あ〉が揺らぎ出す


4577
〈あ〉の次が連想されている
極微小なじかんの谷を抜ける
接続した〈い〉が火照っている


4578
急な風が起こり
空から〈そ〉が下りてくる
と 失望がくずおれる




詩『言葉の街から』 対話シリーズ



4579
言葉の丘を上り下りして
ひとつながりの
起伏を下り終える


4580
老木になってきても
ことばのからだが
少しは火照っている


4581
墨紙筆の時代と違って
手入れは気軽になった
が手入れの本質は変わらない


4582
遙かはるかな言葉のはじまりから
(あ ああ あああ・・・ちがうなあ
あ ああ あああああ だったか)




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4583
勾配のある言葉の場面で
上司から〈依頼〉されたきみは
依頼ではなく〈命令〉と感じてしまう


4584
突き詰めると(いやだな)という局面があり
「いやです」と言えない
時は〈命令〉を感じている


4585
若い言葉は(いやだな)を降り積もらせて
閉じられた言葉場
から脱け出してしまうことがあり


4586
多くの人々はいつものように
〈依頼〉〈命令〉(いやだな)のアマルガムを
黙々と潜り抜けて行くんだ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4587
ことばにも花咲く時がある
ことばのからだから
すうっと伸びて 上の方


4588
言葉たちの間(あわい)に
ぱあっと
花開いている 見える感じる


4589
よそ行きではなくて
晴れの日が
春の日差しの下ではなくても 確かにある


4590
そんな時は この世界に
今・ここに・生きて在る
ことのふしぎさに深く下って行くのである




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4591
そんな言葉を耳にする 目にする
ことばの人は
言葉の街の通りには必ずいて


4592
ひそかに交換される沈黙交易
じぶんのことばのからだに小さな明かり
を点(とも)しながら歩いて行くのである


4593
生まれも育ちもちがう
それでも
同じことばだから深く共鳴もあり


4594
(バッカみたい)と通り過ぎる
ことばもあれば
無言の内に響き感じることばたちもある




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4595
手が触れなくても
言葉は触れてくる
ことばのからだが揺れる


4596
突き飛ばしているわけでもないのに
言葉の風圧やトゲに
ことばのからだがひどく痛むことがあり


4597
ぼくらは避けようもない言葉の舞台で
頭の隅には不明の言葉の主人がいて
言葉の虜囚を演じている時がある


4598
言葉が全てというわけじゃないのに
言葉以外は
考えられない朝にまた入っていく




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4599
次々に問い詰められて
ことばの子どもは
言葉の圏外にじっと座り込んでしまう


4600
厳しく責任を追及されて
ことばの社員は
申しわけありません圏に立ち尽くす


4601
そんな言葉の丘陵を
超えてしまった死に体(しにたい)の者たちは
急な言葉の反撃に出てしまったり


4602
もういき場所はないと
息を止め
言葉の切腹に突き進むもあり




詩『言葉の街から』 対話シリーズ



4603
時にはことばも遊ぶ
〈てんさいは忘れた頃にやって来る〉
ああ、てんさい・・・


4604
〈てんさいは 甘い あまいなあ〉
土の中でよく育って
あまくなったんだよね


4605
〈てんさいは 恐い こわいなあ〉
どこから何が
押し寄せてくるかわからない


4606
〈てんさいは 木に登る〉
ほらほら危ないよ
そんな所にいたら落っこちるよ てんさい君


4607
はじまりは〈あ〉〈う〉〈お〉〈え〉程度
あるいは〈にゃお〉だったのが
あれよあれよと言葉道はにぎやかになってしまった




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4608
ことばも眠る
背中に言葉が
届いているのに気づかない


4609
揺すっても届かないおもいは
ストーカーに変身!
したらなおさら届かない


4610
悲しいストーカーは追尾する
追尾する
それでもことばは眠っている


4611
宇宙線に貫かれるように
言葉が起動しない
ことばのからだが眠っている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4612
舞台を下りると素顔に戻って楽屋でくつろぐ
そうして
今日の舞台はどうだったかなと振り返る


4613
もはや紙墨筆の時代ではないから
文字の書体や
運動感を追うことはできない


4614
文字の間(あわい)に記された
言葉たちの
流れや停滞や転換の匂いを追っていく


4615
「宇宙線に貫かれるように」がしっくりこない
ことばは リアルにぶつかり触れ感じて 目覚め
言葉を生むわけなんだけど




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4616
ことばのからだが身震いする
(あ ちょっとさむいかな)
と 「春のただ中でも少し寒い」と言葉が歩き出す


4617
ことばが夢をみる
(・・・・・・)
と 「言いようもなく 今日は足が重い」と言葉は歌う


4618
ことばの背中を流れるものがある
(うん?)
と 言葉の足は無意識の流れに入る


4619
ことばのからだが揺れる
と 言葉が動き出す
ことばの足も手も忙しくなる




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4620
「あのう ええっと あのう そのう・・・
わん!」
『One ですか? One ねえ』

4621
「ううん そうではなくて・・・
わん!」
『Wan ですか? やっぱりWan だと思いましたよ』


4622
同音の音の森を通る
((話の流れからすれば
やっぱりWan だよな))


4623
同音の森を潜り抜けてきた
わけではない
(ただ わん!しか言葉が見つからなかったよ)




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4624
コミュニケーション論が大流行りみたい
仕事や学校生活で
現場を代理する者たちが起動する


4625
コミュニケーション論
こういう時はそうして
そういう時はこうしてと手取り足取りしてくる


4626
現場人は困っている
ことが確かに覚えがあるから
胸に手を当て引かれていく


4627
(ぼくは〈コミュ障〉なんだけど・・・
それってマズイわけ?)
と コミュニケーション論の網を脱けていく




詩『言葉の街から』 対話シリーズ



4628
「人間社会で大事なことは
コミュニケーション・スキルです!」
(う、うう。うーうーうーうー)


4629
「人間は力を振り絞り
必勝を目指す存在だ!」
(カチって何?尻に火の付いたカチカチ山か)


4630
(エンクロージャーされた
ニンゲン、ニンゲンシャカイ・・・
もっと大きな世界もあるよな)


4631
息苦しい あらゆる大文字の
ゴチック文字には
疑問符を投げつけながらぼくは気ままに歩く




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4632
時には日差しを浴びた若葉の
みどりの波揺れる
やわらかな歌をつぶやいている


4633
この大地に生まれたから
善人でも悪人でも
我知らずみどりの言葉を深みに持っている


4634
日々の言葉の不等価交換にうんざりして
折り返してしまい
籔(やぶ)に入り込んだ棘(とげ)言葉もあり


4635
それでも時にはみどりの歌をうたう
気恥ずかしそうに
子どもの頃の色合いで歌っている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4636
藪を脱け丘を越えて
みどりの道に出る
はる みどりのダンスが聞こえる


4637
微妙な それはびみょうな
言葉じゃないと
掬(すく)い取れないような


4638
小さく波打つみどりは
力みすぎると
言葉の破れ目からするりと抜けていく


4639
はる 集落の向こう みどりのダンス
ダンスダンスダンス
ひかり匂う聞こえる




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4640
言葉もいつかどこかで生まれ
人から人へ
旅をしながら生きていく


4641
人の心の明暗の
スペクトルみたい
言葉にも背負った明暗があり


4642
言葉の舞台を明るくしたり
暗くしたり
うふふと戯れたり


4643
誤用してその読み意味は違うんや
御用!御用!
と責め立てられても澄まし顔




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4644
言葉にも寿命があり
いつかは
死に体になり人も離れて行く


4645
打ち捨てられた死語は
かび臭い
言葉の歴史の倉庫に眠る


4646
時折訪れて来るのは
物好きか
言葉の研究者だけ


4647
けれど時には埃を払ってリバイバル
〈スイーツ!〉
みたいな新たな装いで街を歩き出す




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4648
言葉たちの集結には未完の物語があり
ことばのからだや魂に支えられ
あるいは背(そむ)かれて物語は進行する


4649
遠い世界で大雪崩れがあり
人も国家も崩れ落ちた
そうして空虚な伽藍の言葉たちの物語も崩れた


4650
波及する波及する 世界中が共振する
張り巡らされていた 幻の
対立する言葉群がばらばらと倒れていった


4651
もう今日からは「右」も「左」もあるもんか
血塗られた「革命」という言葉が闇の方に倒れ
言葉はやけのヤンパチ融通無碍?


4652
言葉もまた敗戦の虚脱の中
クレムリンを臨む闇市の賑わいを
昔の言葉の足を引きずりながらゆらゆらとゆく


4653
「資本主義」が(もうこれからは我らの天下)
と思ったかどうか
突っ込まれることなくまた虚構の対立を演じている


4654
「資本主義」にも「革命」にもぼくはイカレたことはなかったが
ただ世界の渦中の言葉たちの
物語にならないちんもくを測り続けてきた




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4655
造花がリアルに咲く時代
「右」も「左」も
「保守」も「リベラル」も咲いている


4656
葉脈を血が流れていない
造花の言葉たちが
バーチャルな街路をのし歩いている


4657
家族でも社会でも国家でも
何か肝心なところの
傷や衝迫(しょうはく)だけが本質的か


4658
太宰治風に言えば
何か肝心なことが
薄らしていてその文字が読めない




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4659
あの峠の向こうでなら
幼子に語りかけるように
言葉は濁りなく無心に流れ出す


4660
こちらの街の通りでは
ことばはいろんなものを探知して
飛び立つ言葉は揺れ揺られ濁ってしまう


4661
ことばは場を意識する
以前に
場に左右されて言葉に影を生む


4662
だから読み聞かれる言葉たちは
文字通りを超えて
その影まで踏み込まれる




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4663
言葉には入口もなく
すうっと自然に
ことばのからだから発散される


4664
けれど詩には詩の入口があり
言葉たちは
切り整えられそれぞれの椅子に座る


4665
カジュアルもヤンキーもなんでも
言葉でありさえすれば
詩の入口は大道無門


4666
それぞれの歌を
それぞれの場所から
思いっきり歌えばいいさ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4667
やってできないことはなくても
この世界では
好き嫌い 得手不得手があり分岐していく


4668
そうして同じ言葉なのに
ひとつの固有の軌跡を
描いて行く のが見える


4669
遙か遠くまでやって来た
詩の言葉も
そんな所に始まり終わる みたい


4670
詩にも夢があり
なんにも考えずに
言葉が飛び跳ね流れる あ 初夏の風の匂い




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4671
例えば昨日通りで拾った
「出産とキャリアはトレードオフなのか?」
言葉の肌触りになんか異和感があった


4672
「出産を選べば仕事での地位を失うのか?」
と同じ意味でも 同じ場所を目指していても
なんかその言葉の泳法に異和がある


4673
同じ話でも誰がするか
どんな言葉の泳法か
によって微妙に目指す場所が揺らいでくるような


4674
例えば〈自由〉 できるだけ思いのままに振る舞う
と自由には義務が伴う
とを両極とする〈自由〉という言葉のスペクトル!


4675
子供がしゃべる〈自由〉 青年の語る〈自由〉
校長の訓話の中を泳ぐ〈自由〉
〈自由〉が言葉のスペクトルを行き交っている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4676
〈ひとはとぶ〉のは当たり前
言葉以前に
〈とぶ〉が普通自然になっている


4677
(ふつう、しぜんか・・・)
普通、自然を分節し立ち止まる
者には普通自然の影がのしかかる


4678
〈ひとはとぶ〉〈とぶは楽しい〉
〈とぶ〉を競い合い
文明も〈とぶ〉


4679
しかし〈とぶ〉の内側には
とぶベクトルと
影のとばないベクトルとがあるはずだ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4680
ゆうとうせいは〈とぶ〉こんびにてんいんも〈とぶ〉
ぼくは気にかかる
とばないもの とべないもの


4681
動物生だった時から飛躍した
人 人世界では
〈とぶ〉はどんな事情から始まったものか


4682
我知らず歩き出し
振り向いたら
〈とぶ〉ようになってしまったものかどうか


4683
(ああ 〈とぶ〉を開始する前の
ただ無心に見ていた
あの森の木々や向こうの山々が少し違って見える)




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4684
今では何にでも名前があり
新しく掘り出されたら
名前も生み出される


4685
なんじゃもんじゃの木があるという
どういう事情で
その名で落ち着いたものか


4686
遠くさかのぼれば
名前のない世界が
確かに存在していただろう


4687
そんな薄暗がりに見える世界も
名前の萌芽みたいなもので
〈もの〉を目の前に招喚していたのだろう




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4688
自分の名前は動かしようもなく
刻まれて
背負ってこの世界を歩いて行く


4689
自分の名前を反芻すると
ひとりであっても
いろんなつながりの明かりが点り


4690
意識するしないにかかわらず
生きているかぎり
この人間界に名前でつなぎ止められている


4691
名前はすでにあるものばかりじゃない
生まれた子どもに
自分が名付けることもあり




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4692
テレビで何度も出会って
その頃はぼくの場所に
根付いていた俳優の名前だった


4693
数十年の不在の後でも
顔は見知っている
のに名前が出て来ない


4694
名前は思い出せない
それでも
見慣れた実在感はある


4695
ただどうしても据わりが悪い
椅子のように
落ち着けない感じの中にいる




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4696
農作業の後のシャワー
温かい水が流れている
水に触れる (入口が開く)


4697
ふれるふれる
肌に触れる
女(ひと)に触れる


4698
ふれるふれる
木肌に触れる 作者の
普遍に溶けた固有の息づかいに触れる


4699
ふれるふれる
冷たい曲面に触れる
今は静止しているドアにも触れる




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4700
ふれる 何気なくふれる
橋の手すり
を触れて歩く少年のわたし


4701
ふれる ふれていても
気づかない
で通り過ぎる青年のわたし


4702
ふれる 時には子どもの側(そば)で
ふれる
降り積もりすぎた中年のわたし


4703
ふれる いろんな〈ふれる〉が
寄せて来る
言葉の岸辺の老年のわたし




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4704
少年がふれる
なぜ触れるのか説明できなくとも
言葉の手前ではわかっている


4705
いい感じの時もあれば
つらい時もあり
浮き浮きした時もあり ふれる


4706
たぶん自分がわかっているのを
越えた圏外では ひとり
この世界に支えられ支えている


4707
ふと立ち止まる少年の手は
この世界の見えない重力下で
自然に汗をかいている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4708
気づきと無意識の中間には
無心があり まだまだ
いろんなものが寄せて来る気配がある


4709
ロボットやAIならば
いのちの鼓動がない
から無心も揺らぎ立つものもない


4710
自信満々の論理の小屋も
言葉にならない
無心の波に打たれ続けている


4711
気づきと無意識の間(あわい)を歩く
複雑な世界への
配慮の思いを抱いて過ぎる




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4712
言葉の街の言葉通り
を進んでいくと
ふいとどこからか声がかかる


4713
よう来たねという眼差し
(ここまで来たのならほらほら
寄って行きんしゃい)


4714
いろんな言葉に出会う言葉通りでは
視線と感受と選択が
新たな通りの入口を決める


4715
言葉通りは進むに従い
言葉に出会い
急に分岐することがある




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4716
十分にそれと気づくことなく
入口を通り過ぎ
入ってしまったからには


4717
たかが言葉と見下しては
落下していく
制裁もあれば束ねられた権力もあり


4718
言葉にはからだも血も肉もあり
明暗がゆらゆら
拍動している ほら、そこ


4719
難所を通ればまだ引き返すことができる
おもいを切り捨てて
ダークサイトに落ちていく言葉もある




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4720
例えば外来の「保守」も「リベラル」も
多数の軒先の
沈黙の層の上空を飛び跳ねている


4721
魚になった言葉たちは
水に気づくことなく
割と好き勝手に泳いで行く


4722
水の下層あたりからは
ぶつぶつぶつぶつ
水泡が上っている


4723
あまりにあたりまえすぎて
水を忘れてしまった
まぼろしの言葉たち (威勢がいいな)




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4724
鼻歌うたいことばが通る
言葉が軽い
高く高く打ち上がりそう


4725
否定の韻は胸底にとどめたまま
肯定のしゃぼん玉
軽い言葉たちが舞っている


4726
言葉は否定だろうか
確かに理想の場所をおもい描く時
否定の韻が駆動している


4727
ことばのからだは今ここを生きている
否定の運動が
〈そこ〉にたどり着くのはいつのことか




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4728
否定の運動の果てに
浄土みたいな〈そこ〉へ
なんてあり得るか


4729
マルクスは〈かくめい〉を
絶えざる否定の運動
と見ていたのではなかったか


4730
しかしそれだけでは
なんとも半身が
窮屈すぎる


4731
現世肯定というわけではないが
今ここに 半身が
東京音頭を歌い踊ることもあるさ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4732
今ここの否定の中には
肯定も混じっている
その混じり合った大気を呼吸している


4733
肯定の韻は胸底にとどめたまま
否定の駆動は
違った位相を駆けていくか


4734
では否定の韻は胸底にとどめたまま
肯定のことばが舞台に乗り
身を震わすこともあるよね


4735
否定ばかりじゃ今ここはつらい
自然と肯定音頭を歌い出す
ってヘンか そりゃあアリだよね




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4736
内のどこか何かがポキンと折れた
駆けていく
駆けていく否定の丘へ


4737
その者が歩いた語った触れた
あらゆるものが
暗い否定の巣に集められる


4738
全否定も全肯定も
どこかこの世のものではない
あやしい流れに乗っている


4739
自然な日々の歩みの重力場では
矢が引き絞られる
ことはなくあいまいに風に揺れている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4740
それもあるが だからというわけでもないが
がやがやがががと投げやりでもなく
自然に肯定の韻を響かせていることがある


4741
言葉や文学は否定であるか
吉本さんが俵万智の歌に触れ
現在の肯定の文学の徴候に触れていた

 註.初出「一行の物語と普遍的メタファー ――俵万智、岡井隆の歌集をめぐって」(『現代詩手帖』1987年12月号、『吉本隆明 詩歌の呼び声 岡井隆論集』所収)




4742
肯定の歌でいいじゃんと俵万智が語っていた
失恋の否定の歌ではなく
何かいいとこ見つけて歌う
 
註.「平凡な日常は、油断ならない 歌人・俵万智」(NHK プロフェッショナル 仕事の流儀)
初回放送日: 2023年2月27日


4743
正否の論議を他所に人民服脱ぎ捨てて
駆け出した若者たち
(なあんだ こっちといっしょじゃん)




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4744
ことばには衣装があり
鏡を見て
他人の視線から言葉の良し悪しを図ろうとする


4745
ことばには素肌と化粧姿があり
足下の
水鏡にさえ映してみようとする


4746
ことばの人って大変だね
気配りに疲れて
時には無意味な言葉にぼおっと座る


4747
だからことばの人から放たれた
言葉たちには
たくさんの気配りを抜けてきた痕跡がある




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4748
ことばの人の現在から
(もしも・・・)はあり得ない
ただただ言葉の人の道を歩むほかない


4749
ここまで来てしまった
人の歩みを
無かったことにはできないから


4750
生の現実性から逸(そ)れていく
仮定法は
空想的な自在な言葉の乗り物だ


4751
(もしも人に・・・もしも人類が・・・)
そんな不毛な問いを飲み込んで
ただもくもくとことばの人は明暗を歩いて行く




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4752
遠くまで出かけても
必ず帰ってくる
人もことばも (ホッとする)


4753
目覚めてあちこち歩き回る
その後は
必ず眠りに落ちる (そうだね)


4754
あまりに当然すぎて
立ち止まって
教訓話する椅子もない


4755
日々の重力だね
(振り返れば影がある
ああ これが重力かあ)




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4756
帰ってくるところが息苦しいなら
うまく眠りに滑り込めないなら
ことばが荒れるのは自然


4757
言葉に出さなくても
沈黙は
ことばの肌は波が高い


4758
静かに座る椅子と場所がない時
ことばは
壁の前で言葉を枯らす


4759
そうして当てもなく
言葉の街へ出て行くのだ
眠り安らぐことのない喧騒の言葉の中へ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4760
「一枚の木の葉が落ちて行った。」
それは目にしていたから
確かに木の葉が一枚落ちていった


4761
一方では踏み止まっている
木の葉もあれば
死ぬことなんか思いもしない木の葉もある


4762
たぶん世界中で今この時
静かに木の葉が落ちている
踏み止まっている落ちるなんて思いもしないでいる


4763
そんなことに気持ちを向けていると
木も人も
おんなじ所に立っているみたいだ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4764
慈悲と残虐の二つの顔を持つ
大自然は
ふだんは意識されない穏やかな流れにある


4765
たぶんそこからはい上がってきた
神々も
そんな二つの顔を持っている


4766
あらゆる事実は現場から離れ
真実やフェイクとなり
二つの言葉の顔を持つ


4767
真実やフェイクは
大自然を模倣しようとする
人の追いすがる哀しい欲求か




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4768
人の世界はどこまでも関係世界だから
どんなもの どんなことにも
たくさんのつながりの糸がある


4769
あそこを歩いていく山田君と
遠い世界の戦争と
つながりの糸なんて無いように見える


4770
つながりには強弱濃淡があり
人間という基底まで下りるなら
山田君とその戦争はつながりの糸で結ばれている


4771
色んな糸を引き寄せたり断ち切ろうとしたり
大方は気づかずに 人は
糸にまみれた日々を歩いている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4772
今では言葉は瞬時に
言える書ける
玄関で靴履いて出るよりもすばやい


4773
「異次元の」と言えば
直ちに
異次元が下りてくる


4774
もちろんなそんなスッカラカンの
コマーシャル言葉でいいのだろうか
と肌身から内省は起こる


4775
一方で 何十年も経って
やっと手につかんだ
この重みある言葉もある




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4776
張り詰めて乾いた言葉ばかり
打ち上げていると
頭と心が乖離(かいり)する


4777
薬を飲んでも治らない
目まぐるしい神経網の火花と
乾いていく内臓の丘陵地と


4778
生身のにんげんを置いてきぼりに
産業は次々に
コマーシャル言葉を生産・消費する


4779
(ああこんな華やかな言葉の街に
ぼくのきみのオレのアンタの
ちいさな場所はエンクロージャーされてしまっている)




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4780
流しのたわしが移動している
いつもの場所から
こんな器具の助けでこんなところにある


4781
言葉も歩く走る移動する
同じ言葉が
他の言葉たちに支えられ変身する


4782
昨日までの素顔の言葉が
少し化粧して
新しい舞台に立っている


4783
今までの意味を解(ほど)き
別様に結び直して
新たなふんいきで踊っている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4784
頑(かたく)なな道にふいと少し新鮮な未知が
柔らかな風も吹く
〈みち〉が少しズレる


4785
わけがよくわからなくても
〈いいな この感じ〉
でもきみは墨守 折れて行く折れて行く


4786
きみが厳密に計量する甘い水
どこからか
苦行の苦みが混じってくるね


4787
ことばのみちは捉え難い
自在に見える言葉も
この日差しに貫かれて来る




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4788
風は確かに届いているが気づかない
ということがあり
ことばのからだはいつもの道に入る


4789
ことばのからだは風に触れている
のに風にふれていない
風の道にも気は向かない


4790
きっとそれが普通なんだろう
小さなすき間から
寄せる風が深みへ少しずつ溶けていく


4791
ことばが風に乗る
と いのちが鼓動し始める
言葉たちが木の葉みたいに舞っている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4792
話すことがない
書くことがない
それでも話している書いている


4793
(これは一体どうしたことか)
ことばもまた
呼吸しようという前に呼吸している


4794
ことばの人にも放たれた言葉にも
そんな二層があって
井戸端や市はにぎやかだ


4795
人はことばの人だから
生きてるかぎり
言葉を生産・流通・交換・消費する




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4796
青天を雲がゆっくり流れ
木や花が風に揺れている
のが見える 感じる


4797
小さい子といっしょにいたら
雲や風や木や花に
話しかけるのかもしれない


4798
太古の時間を背負った小さい子たちなら
まだ草や木と語り合っていた
世界の中にいるのだろうから


4799
薄暗い林に踏み入ると
なぜか湧き上がる不安
ぼくらにも太古の匂いは残っているか




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4800
木や花も遠い他人のように生きている
遠くまで分かれ来たぼくらはもう
太古の語らいはできなくなっている


4801
たとえ話しかけても
木々や花々の
無機質の反響しか感じられない


4802
内心は疑念の空気が漂い始める
太古の神話は途絶え
子どもの童話のなかに小さく収まっている


4803
墓で手を合わせはする
触れた墓石はひんやりして
ぼくらには新しい世界観が不在だ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4804
これはこれで
人が到達してしまった
新しい世界観なのかもしれない


4805
けれど木々や花々は無言
大石は動き出さず
しいんと無機質の世界になってしまった


4806
あの〈言葉〉に満ちて
人と自然の間を行き交った
深みのある言葉たちはどこへ消失したか


4807
同様にトリビアルに見えて
内では楽しみやわくわくに満ちた
あの幼年時代はどうして消え去ったのか




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4808
小山の中から鳥の鳴き声がする
どんな鳥か
人の世界の言葉に聞こえてしまう


4809
昔少年のぼくは
チョットコイ チョットコイ
と鳴く鳥に出会ったことがある


4810
確かに「ちょっと来い」と
聞こえるのである
少しふしぎな気分に落ちていく


4811
それは言葉の地平からはよくわからない
もうすでに
十分ことばの人になってしまっていた




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4812
葉が芽ばえすくすく育つ
色つやも変わっていく
五月の風に若葉が揺れている


4813
壮年の葉から見たら
若葉は
かわいくいとしく見える


4814
老年の葉から見たら
若葉の
生命感がまぶしく見える


4815
ところで人はなぜか枯葉を嫌い避ける?
老年の葉自体は
鏡に映しながら何を思うか




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4816
色々の葉の間を流れて行く
ことばの視線がある
(しっ しは しはないか)


4817
しの匂いがする時ことばの足が止まり
引き返そうとする
黒衣のことばのからだは深く黙する


4818
現在の視野からは
生は死と共存しており
人の体でも日々生と死のドラマがくり返されているという


4819
それでも老葉を避けようとするのは
究極の死
の気配を感じるからか




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4820
ひとつの木にいろんな葉が宿っている
今年も移りゆく舟旅の
ひとつひとつの樹木たち


4821
若葉 壮年の葉 老年の葉
と区別されても
ひとつの木は黙々と時間を歩んで行く


4822
植物たちについての新たな知見を頼りに
無機的な自然から
もっと深く下って行く


4823
そうしてまたいつか
深まった新たな自然のなかで
人は動植物とも再会するのかもしれない




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4824
生と死は 明るいと暗い
楽しいと辛(つら)い・・・
つまりエロスの二面を表すか (ちょっと違うような)


4825
そんな分離実験しても
生は 性は
生と死とのアマルガム


4826
それなのになぜ
明るいものや楽しいもの
がスポットライトを浴び続けているのか


4827
たしかに明るいものや楽しいものに
ことばの手は
自然と手が伸びてしまう?




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4828
(いやいや 少し違うような)
世界が雪崩れてくる
渦中にいないかぎりは


4829
明るいことにことさら手を伸ばしたり
暗いことに沈んだり
しているわけではない


4830
ふだんは無心の中に
自然と
手足も心も歩いている


4831
日々の自然な重力下
関わりの人間世界が
ぼくらを無心から有心へ引き出しに来る




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4832
校長が話をしている
長いなあ
一言で済むことをうねうね長々延ばしている


4833
(長々延ばしている?
いやきっと
変位している 話法がよそ行きなのだ)


4834
「みなさんは夏休みには・・・(キコエナイ)・・・
いろいろと・・・(キコエナイ)・・・
また元気に・・・(キコエナイ)・・・」


4835
音声が聞こえているのに言葉がキコエナイ
乾いたセミの抜け殻の
言葉たちが見える


4836
生ものの言葉なら
微風に匂い立つ
ものがあるはずなのに カラカラカワイテイル




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4837
校長の言葉を耳にしている
誰もふしぎに思わない
ように見える (見える?)


4838
おそらくひとりひとり
内面では
声に波面が様々に揺れている


4839
ていねいな役所でも行政の事務的・法的言葉
の風圧を感じる
あ 違った世界にいるなと思う


4840
幼稚園では子どもらの言葉の
小さな奔放に
ちょっと推され気味の流れに入る




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4841
言葉は目に見えないけど
この地面から出立して
上下左右自在に飛行する


4842
言葉のドローンなら
今までになく
見晴らしはいいだろう


4843
今まで捕らわれていた
しがらみが
あんなにもちっぽけに見える


4844
ああ そこまで上ってしまったら
見晴らしはいいかもしれない
が実感が薄らいでいく




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4845
あと少し味噌を足そうかな・・・
と 踏み止まって
いいねの時もあればちょっと薄いかなという時もあり


4846
その微妙な地点は
人それぞれ
かもしれないけれど


4847
だいたいその地点で良いよね
とみんながうなづく
寄り合いの場所もありそうだ


4848
言葉にもそんな微妙な地点があり
そこを間違うと
校長の言葉に行ってしまう




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4849
しまった もう取り返しがつかない
しまったしまった
言葉は確実に刺さってしまった


4850
そんな後悔に沈む
くよくよくよの
どんよりした言葉の日もあり


4851
このことばのからだの
染みついた
言葉の癖を苦くかみしめるのだ


4852
そんな言葉の日には
重たい 暗い 冷たい
堂々巡りの言葉たちが飛び交っている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4853
遠く 田植え歌や土木作業時の歌があった
ことはわかっている
(なぜ歌を歌い合ったものか)


4854
きつい仕事でも歌い合えば
からだが風に解けて
少し軽くなり力も出る か


4855
現在の仕事の現場では
どんな風通しの
歌や言葉があるのか


4856
言葉も作業着も業種で様々だ
ひとりひとりになって
解き放つ〈歌〉はあんまりなさそうだ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4857
(おもい おもいなあ)
このおもい
畳んで包んで抱えて歩いている


4858
(後振り返ると)
あそこが特異点だったか
おもいにつぶれそうで


4859
ふいと風に背を押され
魅せられて
ぶっ放してしまった んだったか


4860
今ではもうよくわからない
ことばのからだは冷えて
特異点辺りが霞んで見える




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4861
不倫りんりん鈴が鳴る
鈴を付けられた
ネコたちみたいに嗅ぎつけられる


4862
くたびれた?〈愛〉同士が
涼しい流れに
引かれる引き合う溺れていく


4863
それが〈愛〉の自然過程なのに
やっぱり老いは
ピュアなまぼろしの流れの匂いに魅(ひ)かれるか


4864
古びたことばのからだがあり
日々を右へ左へ泳いでいく
(血が滲んでもそれもいいこれもいい)




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4865
放たれる言葉が病んでいる
例えば戦時下のことばの〈三好達治〉
熱に浮かされて戦争の旗振り続けた


4866
その渦中ではいつも
気づかない
イカレちまったことばたち


4867
〈三好達治〉の亡霊が現在(いま)もいるいるいる
国家と国家の童話を
微に入り細に入り語るヤンデルセンたち


4868
トウダイモトグラシーたちの多数の影が
病んでることばには
見えない 見えないよなあ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4869
ふと鏡に映った姿を見つめている
ことがあり
そんな言葉を無言の内につぶやく


4870
まぼろしの鏡を意識した
ことばのからだも
鏡に触れてしまった言葉たちを放つ


4871
言葉って複雑怪奇だね
ひとりっきりでも
無数のものの関係網を生きている


4872
ひとりっきりと遠い他力と
そんな渦中に
ひとりひとり小さな火を点し続けている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4873
ことばのからだは泣く笑う飛び跳ねる
だからといって
放たれた言葉が泣く笑う飛び跳ねるとは限らない


4874
泣いた後にはどこかそんな気配がする
ことがあり
言葉も泣いた匂いを微かに放っている


4875
確かに言葉も複雑だ
にんげんの
心や振る舞いと同じく複雑系だ


4876
例えば放たれた言葉から
女の子の本心を ことばの姿を
追跡し突きとめるのは難しいな




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4877
ことばもからだのように自然だ
自らの振る舞いに
気づくことなく生きている


4878
そんなことばも夢は見る
事務的な文体の中にも
夢の匂いが微かにある


4879
現在の細々(こまごま)とした
言葉の流れ
の中には夢の破片も混じっている


4880
日々飛び交う言葉たちにも
深い 遙かな 時間の
濃くなった夢の刻印が微かにある




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4881
線を置き引きはじめる絵と同じく
言葉が選び置かれて
ひとつの世界が起き上がる


4882
鮮やかな色の流れの横に
薄い水溜まりがあり
言葉もまた喧噪(けんそう)に静かに佇むものもいる


4883
線や色が重なり分岐し
ひとつの絵が構成される
言葉たちもまたことばの意志に沿っていく


4884
絵でも言葉でも
作者の思い通りにはならない
無意識の線も引かれてある




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4885
人並みを超えていたら
ささいなことでも
押し押され推していく


4886
そう言えば遙か動物生でも
上に立つ
厳(きび)しい条件があったっけ


4887
ぼくらの現在(いま)でも
遙かはるかなところから
深みで押し押され推している


4888
自分にはどんなにいい人に見えても
上と下の配置を感じたら
やわらかな権力線が走っている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4889
言葉も権力とは無縁ではない
世界の渦中のことばのからだの
意志の物語を通して言葉は現れ出る


4890
言葉が心や人を揺さぶり
動かすように
言葉は権力網も忍ばせ世界に張り巡らせる


4891
どんなに無頼でも強固な意志を持っていても
道端の小さな花
をそっと避けていかないなら朝は来ない


4892
権力線のエスカレーターに乗り慣れて
朝の光も 支配恭順馴致の
ソフトな流れにしか見えないなら明日は来ない




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4893
ことばの足が逃げる逃げる
どこまで逃げるか
世界はどこまでも追って来る


4894
世界の側の追跡する言葉は
有無を言わせぬ
徴税に似ている


4895
ことばの足は走る走る
世界の淵まで走る
姿の見えないことばの逃走と追跡の物語


4896
ことばは夢を見る
穏やかな時間の
流れの中にことばの足が浸かっている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4897
まとまった言葉のない時代
長い長い時間の
〈あ〉〈え〉〈い〉〈う〉〈お〉の流れ


4898
電灯がぱあっと点(つ)く
以前には
同じような火や明かりの物語があった


4899
小さい子の〈ああ〉〈うーうー〉をくり返して
幼い人類は
ことばの人間を歩いて来た


4900
小さい子のことばの足音が
〈ぐっぱん ぐっぱん〉
今日も響いている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4901
身体に限らずことばのからだも
病むことがあり
飛び交う言葉が普通に見えても熱がある


4902
熱のあることばが
「昨日あの人に出会ったんだ」と言い出せば
無音の(キ、キキキ、キャア)を響かせている


4903
言葉は記号に収まりきらない
あふれる情感や
気配や匂いを放っている


4904
犬猫の泣き声も記号と捉えた瞬間に
モノクロの
マンガのひとこまになってしまう




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4905
カボチャが小さな実を付けていた
黄色くなって枯れていくものもあり
日毎に大きくなっていくものもある


4906
人間世界にずいぶんなじんできたから
カボチャが小さな実を付け育っていく
のをふしぎに思わない場所にいる


4907
そんな場所から眺めていても
〈ふしぎだなあ〉
と止めようもなく言葉が湧いてくる


4908
人の世界と大自然とに
またがると
いつもの自然な光景がゆらゆらしてくる




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4909
取り出せば〈時間〉と〈空間〉に
分離・抽出されて
記号のように自在に歩き出す


4910
けれども人の体と心を
分離して考えても
心身相関の統一体は逃れられない


4911
他者の内面に湧く時空も
太古の人の内面に湧いた時空も
自分の時空もまるごと取り出すのは難しい


4912
それでも人はそんな内面の時空に
くり返しくり返し
下り立とうとする




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4913
(人は何のために生きるのか)とか
(人の生きる意味は何か)とか
人の生きる価値や意味を何十万年も苦い探査をやってきた


4914
人間世界という宇宙の極微の特異点でなら
価値も意味も
生きて流布していけるのかもしれない


4915
けれど問いが間違っているのかもしれない
宇宙へ窓を開ければ足下揺らぎ
価値も意味も超えて何気なく生きていると言うほかない


4916
例えば「意味もなく高橋くんは外を見た」の「意味もなく」は
この宇宙の星々の下意味を超えて
何気なくに改訂されなくてはならない




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4917
ほんとうは家族の内が羽を伸ばし
くつろげる場所
に見えるけど そんな簡単でもなさそう


4918
不幸の家族の濁った泡が
ブツブツブツブツ
社会の表層に湧いては消える


4919
家族は社会に浮かぶ舟だから
社会の汚濁を呼吸して
家(うち)までブツブツブツブツ持ち帰る


4920
この流れる社会の渦中にいるから
今でも回りがよおく見えない
(でも主体はぼくでありきみなんだよな)




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4921
言葉たちが揺れている
「木の葉が揺れているね」
『うん ゆれている』


4922
同じ言葉でも
西山くん 山本さん
と言うほかない言葉の違いがあり


4923
同じことばの川であっても
川のそこここで
流れが違うように言葉の表情が違う


4924
ゆったり泳いでいる言葉の魚がいれば
すばやく抜けていった魚もいる
いずれもつながりのエロスを放っている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4925
今までと同じく人は
人の手や耳や目の延長として
AIをも手なずけていくだろう


4926
人の放つ言葉を社会の方に引き寄せると
作者は消える
ひとりの方へ収束させると固有の作者がいる


4927
そんなひとりと社会にまたがって
重層・連関の靄(もや)の
海から言葉は現れ出る



4928
言葉の街ではことばの人や新入りのAIが
日々絶え間なく
生産・流通・交換・消費しはじめている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4929
ゆったりした〈母の物語〉の舟に乗り
船出した
子どもは柔らかく世界を断定する


4930
強い断定も自信ありげの断定も
不安と緊張の物語
を我知らず深く沈めている


4931
(断定の口調には何かある?)
遠く〈母の物語〉の小さな火が
ことばの深みで揺れている


4932
ことばの人となったからには
断定と疑問形を抱えて
この道を生涯歩いて行くさ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4933
冷たい風が山から吹き下りる
みたいに断定する
言葉にはしかしひみつがある


4934
誰もが無自覚の舞台裏に下れば
遙か始まりと
その後の歩みとのドラマが流れている


4935
つまり知らない所で
大事なことは決まっており
言葉は演技者になって登場する


4936
(わたしは何を言いたいのだろう)
夕暮れの演技者は
ふと我に返るように立ち止まる




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4937
自分のことも世界のことも
すっかりわかってしまうなら
どうするか ことばの人よ


4938
もう思い悩むことはない
行動の人となって
まぼろしの小石を蹴りながら歩いていくさ


4939
この世界を長らく歩き回っても
自分も世界も
わからないことが多すぎる


4940
だから疑問形の風の中
見知らぬ街を
旅するように歩いている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4941
綴(と)じられた風景になる前の
うつむいて
渦中にあることばの人よ


4942
自分がよく見えない
他人もよく見えない
透明な閉じられたドーム下にいる


4943
抜け出してしまえば
ああすれば良かったこうすれば
と綴じられてしまった風景に漕(こ)ぎ出す


4944
だからことばの人よ
きみが放(はな)ってしまった
言葉たちには悔恨の滴の跡が見えないか




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4945
語り出される言葉は
言葉だけではなく
ことばの人の表情も語っている


4946
語られる言葉と語る表情
互いに補い合ったり
背(そむ)き合ったりドラマがある


4947
言葉が不明瞭でも
たどたどしくても
表情が語っていることがあり


4948
結婚式や葬儀での言葉たちは
主役を
表情に譲っているようだ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4949
SNS以前ならつぶやきは
ただ内心の舞台で
ひとりっきりだった


4950
SNSの世界では
井戸端会議みたい
回りの目や耳をどこかで意識している


4951
学校の先生みたいに啓蒙的につぶやくか
自己対話みたいにつぶやくか
あるいは意味もなくつぶやくか


4952
それでもSNSのつぶやきも
やっぱり最後は
ひとりっきりに照り返す




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4953
若いことばの人なら 時に
がむしゃらに
脇目も振らず突き進んでいく


4954
習い覚えたいくつかの概念を
振り回し
砦の言葉を積み上げていく


4955
見渡す光景は草も生えない
絶壁で
眼下には青い海に荒波が寄せている


4956
若いことばの人には
もうその光景の先は思い描けない
ファンタジー あるいは閉ざされた未来




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4957
光と大気に触れながら
青い実は大きく膨らみ
しだいに色付いていく


4958
若いことばの人もまた
いくつもの日々の出会い
を重ねて言葉は開かれて行く


4959
この人間界の表通りは
確かに殺伐としている
けどどこかに頼りになる空気や光もある


4960
不幸にも途中で倒れてしまう人もある
ほとんどは ぱあっと
知らぬ間に暗いトンネルを抜けている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4961
ことばの人も年を取る
ということは
表出される言葉たちも年を取っている


4962
例えば「木」という言葉
木との出会いの場面も異なり
木のイメージも今と昔は違う


4963
ことばの人はひとりの内で
どこまで行くんだろう
とことばの命運を考える


4964
花や木の葉が枯れ落ちていく
ことばの人もまた
一切が片づけられてしまった部屋の無言葉を予感する




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4965
ぼくらはことばの人だから
小さい頃から
いろんな言葉の教えを受けて来た


4966
だから知らない間に
イッチ二イッチ二
とことばの手足を動かしている


4967
知らぬ間に教え込まれた中には
時代のものと
遙かな人類のものと二種類がありそうだ


4968
ことばの人以前のものは
発掘しがたい
言葉味の温もりや冷たさで伝えられたのかもしれない




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4969
聞き分けのない小さい頃
言うことを聞かないと
〈あもやが出るぞ〉とおどされたことがある


4970
〈あもや〉のことはきれいさっぱり
忘れてしまって
半世紀以上が経っていた


4971
柳田国男の「妖怪談義」を読んでいたら
化物を意味する児童語として
〈あもや〉が採録されていた


4972
何という奇遇なこと
けど現在でも〈あもや〉に代わるものが
小さい子らに母などから語られているのかもしれない




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4973
〈はな〉という言葉にいつ出会ったか
今はもうわからない
でも初めての出会いの場はあったはずだ


4974
小学校では「花」に出会った
近所では見かけない
チュウリップ(の花)にも出会った画かされた


4975
言葉らしきものをしゃべるようになり
言葉らしきものを指し示され
初めの(?)から(はな・・・)という受けとめのドラマを踏んできた


4976
そこでは誰もが割と心地よい
くり返しくり返す
ドラマの主人公だった?




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


 (お知らせ)

明日から何日か、急な事情で何十年ぶりかに東京へ行かなくてはならなくなりましたので、この毎日詩のUPは中断することになります。もちろん、表現は中断せずに書き続けると思います。
これは、7/18の分です。
同時に、7/19と7/20の分も本日にUPしておきます。




4977
子どもらか転がしている
言葉の固まりは
リズミカルに跳ねている


4978
思いもかけない
言葉たちの跳ね方に
子どもらの歓声が上がる


4979
口に含まれた言葉たちは
飴のように
少しずつ溶けて身に染み渡る


4980
言葉の世界のはじまりには
こんなそんなあんな
小さな物語がある




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


※これは、7/19の分です。

4981
同じ高さの椅子に座っている
二人の言葉が
高低差のある丘陵地に分布している


4982
そんな光景の内側にいて
言葉の糸が
からみからまるからまんぼう


4983
きっちり育て上げた自らの価値の源から
おらおらおらおら
あふれ出して来る言葉のオーラ


4984
老いも若きも ことばの人よ
時にはコンビニの前に座り
青空を眺めている 脱




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


※これは、7/20の分です。

4985
同じ言葉の〈愛〉が並んでいる
軒先を通る
ことばの人にも〈愛〉がある


4986
同じ〈愛〉でもひとつずつ
微妙に違う
愛の姿や匂いがある


4987
いろんな〈愛〉に出会う
あい I アイ
会いたくない愛もあり


4988
〈愛〉といっても目まいする
迷路の地形を
誰もがカジュアルに通って行く




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4989
虫は自分の足で歩き
自分の羽で飛ぶ
人は車を装着して遠くまで行く


4990
電車は疾走する
人は居眠りしてても
目的地にたどり着く ふしぎ


4991
虫のような目や耳や触覚から
なぜ人だけが 次々と
幻の目や耳や手を拡張してきたか


4992
虫から見れば
ふしぎな光景
を人はあくせく生きている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4993
思いもしなかった 大事が
日々の時間のすき間から
急に顔を突き出してくる


4994
急なものへの備えなんてないから
重たい静かな警笛に
うろたえ沈んでいく


4995
圧倒されながらも
抜け出そうとする
(溺れるものか・・・) 水泡が上がる


4996
そうやって通り過ぎたことは
後振り返ると
静かな たたかいの跡に見える




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


4997
旅先でNHKの朝のドラマを見ていたら
〈こよみ〉という言葉。
今ではもう〈カレンダー〉になってしまった


4998
ぼくの慣れ親しんだ
〈こよみ〉という言葉も
今ではもう古びてよそよそしい


4999
〈カレンダー〉というのが自然であり
それ以外の言葉は
今はもう考えられない 何という自然の威力


5000
同じものを指示しても
時代とともに
言葉も放つ匂いも少しずつ違ってくる




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


 ※7/24の分です。

5001
歩いていてつまずきそうになる
〈あっ〉と波立ち
波紋が静まっていくことがあり


5002
時にはつまずき
倒れ込み
死の病に突き進むこともあり


5003
穏やかな日々の歩みには
けれど否定し難い
白骨の御文もある


5004
(あはれあはれ)とつぶやく
泡が空洞深く落ちていく
ほかない人の道がある




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


 ※7/25、本日の分です。

5005
〈しっ、今また死へ倒れた〉
ぼくらは
声を落とし静かにうつむく


5006
今〈死〉が通る 〈死〉が通る
(お疲れさん・・・)
お疲れさんと言おう


5007
こんな世界 少しは
楽しかったかい?
(お疲れさん お疲れさん お疲れさん)


5008
こんな世界に残された
ぼくらだって
時にはやさしく時にはツッパって歩いて行くさ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5009
若い頃は世界の不思議に戦(おのの)く
過剰な頭に
死の淵まで引きずり込まれるようなことがあり


5010
壮年になると日々の時間の流れの
慌ただしさに
この世界の表層を上り下りする


5011
老年になると命の命数を
ふと数えている
ことがある 〈後何年生きられるか・・・〉


5012
人の小さな生きる時間
の内側では
そんな移りゆく意識のドラマがある




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5013
〈スイーツ〉や〈カジュアル〉という言葉は
自然なもの
となってしまった高度大衆消費社会の今がある


5014
〈菓子〉も〈スイーツ〉も外から来た言葉
をもぎ取って
〈日本語〉にしてしまった


5015
主要な〈原日本語〉なら〈あまいもの〉か
それは骨格の部分
に潜んでいて今も不随意運動している


5016
言葉も人も出会い交わり
新芽を出し
遙かに変位して来たんだよなあ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5017
眠りから覚めたばかりの
ぼんやりした
世界を誰もが何度も通過して来た


5018
眠りは触手を引っ込めて
ただ静かに
この全世界に身を横たえる?


5019
身も心もクールダウンした
暗闇の中
夢の言葉だけが小さく点(とも)っている


5020
ぼんやりした目覚めの朝
今日もまた
世界への無数の接触糸を伸ばし始める




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5021
身は小さな部屋に寝起きして
朝になると
いつもの小さな世界に出向いて行く


5022
それでも意識だけは
遠近深浅(しんせん) 自在に
世界を巡ることができると信じている


5023
身と意識の間(あわい)に
流動する心よ
付かず離れず歩いて行く


5024
人の意識も身も心も
その確かさは
やってくる世界の方から試される




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5025
ほんとうは・・・・・
と切り出すことは
いつもの風景が揺らぎ出すから 難しい


5026
ほんとうは・・・・・
と切り出す時には
相手を自分の深みに誘い出すことになる


5027
ほんとうは・・・・・
と切り出せば
編み込まれたこの世界の裏糸が解(ほど)ける


5028
だからたいていの場合は
(ほんとうは・・・・・)
と心の内でつぶやくのである




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5029
朝(いやだなあ)と思っても
多くの者は
学校や仕事にいつものように出かけて行く


5030
ことばの人もまた
(今日は乗り気になれないな)
と思いつつ言葉を放つことがある


5031
(それはそれで仕方がない
関係は
励起された恋愛状態ばかりとは限らないし)


5032
それに踏み出してみたら
朝の空気に
心ほどけていくこともある




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5033
いつものように一日がはじまり
日を浴びて立ち回っている
(そんなことを意識することなく)


5034
けれど時には日の岸辺に座り
一息入れては
ぼんやりとながめることがある


5035
そうやってこの世界の重力に
従い抗(あらが)いあるいは無心に
日をいつものようにくり返している


5036
そんな小さな日々のくり返しの外に
何か大きな良いものが
ころがっているわけじゃない わかる




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5037
人は他人や物やシステムに
つながっている
ことはあんまり意識しない


5038
ケイタイなど新たなものが
つながりを求めてきたら
人々から三つほどの反応が上がる


5039
けれどふと振り返ると
人はみな
無数の糸につながり生きている


5040
〈死〉が訪れたらつながりの糸は
周りの者によって
ひとつずつ切り離されていく




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5041
身も心も病にかかることがあり
病になれば
ことばの人よ 言葉が異音を響かせたり


5042
言葉の顔があらぬ方に沈んでいたり
言葉よ
誰もが感じ取れる徴候がある


5043
そうして言葉の深みには
誰にも気づかれない
ような始まりの病も沈んでいる


5044
そんなあんなこんな
色々遭遇しながらも
ことばの人は今日も歩いている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5045
ぼくはいつものように歩き出す
いつもの
見慣れた光景に少し溶けていく と


5046
どこかでガシャンという音がする
微かな
異臭の感じが漂ってくる


5047
どこかのドアが開き
出入りする
気配が聞こえてくる


5048
人 人 人 慌ただしい
動きの気配を
ことばのからだは感じている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5049
風がなくても揺れている
ゆれる
場が確かにある


5050
音をたてていなくても音がする
微かな
場が確かにある


5051
気のせいでも物の怪でも
なく ただ
ふだんの小さなすき間に現象する


5052
否定するのはふだんの世界だから
すき間では否定を超えて
ただありありと存在している




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5053
「君たちはどう生きるか」
の物語もアニメ映画も見ていない
けど言葉にことばのからだが疼く


5054
その言葉は 物語は
ゴチック体ではなく
ポップな悩める字体なのかもしれない


5055
「君たちはどう生きるか」
きまじめな先生だった遠いぼくなら
子どもにどう問いかけ 自分にどう反響してきたろうか


5056
この問いには自力が思い悩み成長するという
「堅超」(しゅちょう)の物語
が潜在し道しるべとなっている


5057
けれど自力以外の半分は
やって来る世界が決める
そんな時気ままな「横超」(おうちょう)っていい感じと思わないかい




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5058
ことばの人は自分を棚上げしても
強く強く
他人に言葉を放つことがあり


5059
しだいに人間の限界を越えていくと
ゴチック一色の
警察や軍隊の言葉の峠道に入る


5060
つぶやきは内と外
微妙な井戸端
でつぶやいていて時には笑いも起こる


5061
そんなバーチャルな
〈つぶやき〉って
マウント取りもあぶり出されて いいんじゃない




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5062
人が大きくなるまでに
コワイこと
には何度か出会ってきただろう


5063
手はじめは母が言ったり
兄弟がはやし立てる
半身は家族に守られたこわいこと


5064
この家の内からはよくわからない
こわいもの こわい世界
の気配を感じてしまう


5065
そうして予言通り
大きくなってから
この世界の様々な恐いものに出会うのだった


5066
ところで暗いところに入ったら
ぞくぞく泡立つ不安
とおそれはどんな遙かな記憶のせいか



詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5067
ことばの人は何気なく言葉にする
思い悩み言葉にする
まるでからだを揺すりダンスの言葉を放つ


5068
記号論理やAIから見ると
ことばの人は
まるで雲をつかむような


5069
他人が靄(もや)の中に見える時もあるが
相撲の立ち合いのように
以心伝心心合わさる時もあり


5070
どんなことばの人でも
身の内で蠢いている
虫の居所はだいたいわかってはいるさ


5071
でもでもでも放たれる言葉は
世界内存在の
ことばの人が押し出す舟の物語だ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5072
牧歌的な抒情が
二昔前には
確かに生きていた


5073
社会の空気を呼吸しながら
牧歌的な抒情は
詩にも書かれ歌にも歌われた


5074
例えば「高校三年生」も「巨人の星」も
今ではなんかチガウ
白々しい空気に包まれる


5075
時代の言葉は更新する こうしんする
それでも幼稚園には
古い抒情が眠っているのかもしれない




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5076
現在の抒情はどのように泳いでいるか
閉塞する
時代の波にサーフィンみたいに乗れるのか


5077
マイナスの札ばかり
が手元に来て
明日の船出が思い描けない夜


5078
だからせめてバーチャルの舞台
で軽やかに波乗りするんだ
(いい汗がかけそうだ)


5079
二昔前の世界は狭まり隅に移った
バーチャル世界を拡張し
世界も抒情もレイヤ化している




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5080
張り詰めた場面でも
心のひもを緩めているかどうか
言葉の分かれ道があり


5081
それは幼稚園時代や母の胎内時代や
貫かれて芽ばえてしまった
ひとつの心の振る舞いであり


5082
固有の 母や地域性から
知らぬ間に
縫い上げられた心の裏地よ


5083
ゴチック体を引き寄せる心はどうしようもなく
柔らかな草地を踏んで
見晴らす丘の上に駆けていく




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5084
きみの日々帰っていく
たましいの場所は
どこにあるのだろう


5085
〈たましい〉が大げさなら
何気なく安らぐ場所でも
無意識的に座る椅子でもいい


5086
まだまだ仕事は遊びじゃないから
きみも
たましいをすり減らして帰ってくる


5087
子どもの頃みたいに手すりに手を触れながら歩いて行く
例えばそんな世界との関わりの姿
がぼくのたましいの場所だろうか




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5088
柳田国男は最晩年に『海上の道』(1961年)をまとめ上げた
この列島に〈稲の人〉の足跡を
どうしても刻んでおきたかった


5089
そのことも意識してか
2008年7月19日
吉本さんは『芸術言語論 ――沈黙から芸術まで』の講演を行った


5090
久しぶりの吉本さんの講演会だった
たくさんの若い人々に交じって
ぼくも熱意は受け取った


5091
息づく世界の名残のような
この世界や人々への最期のあいさつか
熱ある言葉を残していくことがある




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5092
人はいつも目標・計画・効率・努力
しているわけじゃない
何時間も眠ったりぼんやりしたり


5093
目標側の人はいつも
その圏内のことしか思わない
ような語り方をする


5094
ことばの人は固く凝り固まる
こともあれば
やわらかな風呂敷になることもあり


5095
できれば十人十色の視線
を見渡せる
そんな場所にいたいなと思う




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5096
「何が問題か 着地点はどこか」
遙か彼方を望んで
ほとんど誰もがわかっている


5097
わかってはいるけど
壁 壁 壁
の手前の哀しいワカリーヌ


5098
この列島の精神の遺伝子の通路沿いに
リュックを背負って
迷路を進んでいくカラマリーヌ


5099
取りあえずの結着ばかりが
この列島の通路に沿って
いつもこじんまりとトゲラレーヌ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5100
(うまくいかなかった)ということがあり
(うまくいったぞ)
ということがあり いずれも波立つ


5101
(いつも通りだ)は手慣れたこと
さざ波が
なめらかに立っている


5102
時には波に乗り損ねて
座礁する
目まいの日も訪れて来る


5103
外からのぞいたら
小さな時間の水たまり
いろんなものが色々泳ぎ回っている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5104
今日の朝の風に触れて
(うん?秋風か・・・)
ふと気づいてしまった


5105
そういえば「お盆過ぎると秋の気配がする」
という共同の気づき
の言葉があったっけ


5106
遙か季節の概念がまとめられ
自然の推移とともに
言葉の季節も移りゆく


5107
〈気づき〉というのは
その地域に
幾重(いくえ)にも折り畳まれた時間から発するか




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5108
〈好き〉と〈嫌い〉は確かに正反対
に見えて
〈関心〉という時空にいるのは同一だ


5109
そうして〈好き〉でも〈嫌い〉でもない
ただ青空を見つめている
〈中性〉という〈関心〉の圏外もあり


5110
それでもことばの人のひとり言葉でも
世界にこだまして帰ってくるように
三つの感情は相互に入れ替わる


5111
〈気づき〉もまた〈関心〉の時空
で〈気づく〉と〈気づかない〉
その圏外の〈自然さへの溶け込み〉の間を行き来している




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5112
ことばの人が言葉を放つ時
いつもの部屋にはいない
外の日差しや風が入る場所に出ている


5113
物語を描く時には
心の視線を集中し
醒めた力を込める


5114
放たれた言葉たちは
ことばの人の意志
を背負って次々に峠を上っていく


5115
いまここに生きていることばの人の
ためらいや無意識も
言葉たちは運んでいく がよく見えない




詩『言葉の街から』 対話シリーズ



5116
言葉に出立する朝
身支度を終えた
玄関先に木の葉が一枚落ちてきた


5117
波面が揺れる
そこへ出かける
つもりはなかったのに


5118
そちらに引き寄せられて
そちらの歌
を歌ってしまうこともあり


5119
(わかんないなあ
言葉って)
それでもことばのわたしが言葉の通りを駆けていく




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5120
結婚式にも葬式にも出ることがある
ことばの人は
「婚活」や「終活」という言葉をよく知らない


5121
ただ 結婚式であればいい感じで
葬式であれば
しみじみ沈むばかりである


5122
時代は言葉を生産する
けれど例えば「就活」言葉の
楽屋についてはあんまり語られない


5123
言葉の流行はただ人の表層を
すくい取って
流れ行くばかりである




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5124
毎日行ったり来たり
そうして帰り着く
もっとも自由度が高い?小さな世界


5125
外も内もいやなことやつらいこと
がないわけじゃない
時には涙こらえて歩いているよ


5126
だからSNSの仮想空間に入り込み
ふと見上げる空は
(なんて自由自在なんだ)と思えてしまうのか


5127
匿名の疑似自由自在が
抑えていた内圧を開放する
論理の空想の陰謀論の覆(くつがえ)されたおもちゃ箱




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5128
見慣れた光景に見えて
その中に下りて行くと
色々の糸が走り 太い細いがあり


5129
抽象画の光景の中に
ぼくと他者 ぼくと物
いくつもの糸が張り巡らされている


5130
この世界から去ってしまったものたち
とのつながりの糸は
すでに幻の糸に変わってしまっており


5131
もうピンで固定されてしまった
それでも時折
湧いてくるイメージが幻の糸を揺する




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5132
「有名人」の何気ない言葉にも
たくさんの「いいね」が付く
別にどうでもいいんだけど 少しふしぎ


5133
親鸞みたいに長く修行して
ついには比叡山を下った
〈有名人〉もいるのかもしれない


5134
他からどんな言葉の衣装を着せられても
もはや「有名人」ではなく
普通人みたいに言葉の飛び石を踏んでいく


5135
このちっぽけな社会の
個々の小さな場面で
人は言葉をどう計量しどう対処するか (大きい問題だ)




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5136
自分はこんなつもりなのに
他人にはそんなつもりと見える
切り取られた光景がある


5137
ことば人の通る道は
誰もおんなじだとしても
歩き方は違っている


5138
そうして湧き上がってくる
言葉たちも
ひとりひとり顔立ちがちがう


5139
〈こんなつもり〉が〈そんなつもり〉に
なってしまう
ことばの人通りを黙々と歩くのである




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5140
あんまり知らない他人の場合
ひとつの言葉は
ぬうっと現れる触れてくる感じる


5141
見知った他人の場合なら
ひとつの言葉は
ぼくの隣に自然に腰を下ろす


5142
(下りて行く) 言葉はクモの糸
蜘蛛を連想してしまったら
毛深い虫たちが糸を紡(つむ)いでいる


5143
そんなひとりの部屋に籠もったら
にんげんが
ふしぎな生きものに見える




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5144
ひとつの言葉は群れの言葉
を予感させる
それでもひとつひとつと群れとは違う


5145
ひとつひとつの言葉たちが歩いていく
出会う言葉たちの小さな物語
その足跡が群れに見える


5146
だから言葉の大きな群れの中に
言葉たちの小さな物語を読まないなら
言葉の群れの移動にしか見えない


5147
言葉たちの小さな物語のひとつひとつ
それって見聞きし出会う
今ここの言葉の街歩きだね




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5148
「熱意はきっと子どもに届く。」
という言葉に昨日ぶつかった
引き絞られたひとつの流れに間違いない


5149
けれど言葉の現場ではいろいろとぶつかり
ことばの人は修正も加えるから
流れ全体をつかみきったとは思わない


5150
例えば熱意に見向きもしない子どもに
どうことばの人は振る舞うか
ぼくの保留の視線はそこに置かれている


5151
人は素直な優等生ばかりじゃない
いいかんげんも気まぐれも約束破りもいる
そんなことばの人の光景が言葉の入口だ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5152
けんか腰になるなんて
ふだんならほとんどない
のにこの世界では毎日目にしている


5153
ひと昔前までは(チクショウ! うふふ)
気に食わないこといいねえと思うこと
あっても内でつぶやくだけだった


5154
今ではつぶやきが次々に外に出て行く
たぶん弓矢や刀やミサイルが
舞っている 舞っているよお


5155
例えばケイタイもスマホも
今ではずいぶん落ち着いたろうが
この新しいつぶやき言葉の流れはどうけりを付ける?




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5156
ことばの人が広い仮想の舞台に出てしまい
戸惑いながら場馴れしていく
つぶやきのパンドラの箱が開いてしまった


5157
ああだこうだそうじゃない花がきれい
AKSH KASH SAKH
誰も抜きんでることができない


5158
毎日坂を上って行き下ってくる
そんな所からではなく
向こうの明かりのない峠の方からも世界は見渡せる


5159
無意識的なあらゆる利害を超えて
あちらから アリもネコも勘定に入れて
こちらのことばの人の流れを見つめている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5160
商品の裏書きやマニュアルや公文書など
読みづらい書きづらい
と感じ始めたのはいつ頃からだったか


5161
昔からメガネはかけてきた
最近は車に乗る以外は
メガネはほとんどかけていない


5162
(メガネが近場で合っていないんだよな)
時々拡大鏡を当てることもあり
そんな不自由に 慣れれば慣れよ慣れる時


5163
また新しい段階に踏み入ってしまうのか
どうかわからない
人の生涯にはいくつもの峠がありそうだ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5164
いくつもの苦い経験が
言葉を生み出した
「覆水盆に返らず」


5165
もうなってしまったものは
仕方がない
が言葉を呼び寄せる


5166
そこで色々な仕方がない
の表情たちが
通り過ぎた時間を反芻する


5167
もうそんな目には遭いたくない
と心の内に掲げるも
覆水覆水覆水が・・・




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5168
人間界に引き寄せれば最大の「公害」は大自然だ
けれど公害の死として人間界を越え
ただ自然のままにサイクルし振る舞う


5169
大自然自体には善も悪もなく
柔らかな雨をもたらし 火山を大爆発させもする
時に慈母の表情 時に猛威の顔 に見える


5170
人は一方で相変わらず硝煙を上げながら
人間界を守り積み重ね
いろんな倫理を築いてきた


5171
人は例えば毒か無害か厳密に計量し
黙する大自然に代わって
理想の大自然を描いてきた?




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5172
ぶつかり合うことのない言葉の道を
ひとり ゆったり
歩いている (草々のみどりがいいな)


5173
時にはことばの人と人がぶつかり合う
嫌な通りにも引き込まれる
自らのことばの人の倫理をかける


5174
例えば柔らかな優しいことばの人でも
子育ての中では
引き絞ったきつい言葉も放つかもしれない


5175
どんなことばの人でも
豹変したように見える時がある
それは襲ってきた現実が半ばは強いている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5176
人と人とが関わり合う
世界には中心があり
周辺地帯にまで波及してくる


5177
そうして「勝ち組」と「負け組」とか
何度でも化粧直しして
くだらぬ言葉が湧いてくる


5178
(いや どんなに不動に見えても ほんとうは
中心と周辺
あるいは上位と下位なんてまぼろしさ)


5179
世界は ただフツーのことばの人の
無数の軒先から
かき消されることなくさざめきする




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5180
社会の中心に漂う空気
がいいものとは限らない
社会の周辺に流れる空気もいいとは限らない


5181
きみはやけのやんぱちにも
熱い巨人の星にも
変身!することなく呼吸している


5182
ただ ひとり 振り返って
しずかに下っていった
言葉の通りに現れるものたち


5183
社会を上(のぼ)っては行かない
地べたのひとつひとつの
小さないいものも匂う




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5184
江戸期の地震を起こすという大ナマズも
現在の陰謀論も
人が考えることには違いないし


5185
因果の関係を認める
言葉には違いはない
では何が問題なのか


5186
人が生み出し磨いてきた
〈科学〉という鏡には
それら薄ぼんやりの像はもはや映らない


5187
それら人類の童話期とも呼ぶべき言葉たちは
キュウリもしゃべると信じる幼児にはウケても
もはや青年期以降の主流の言葉ではない




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5188
もう少し強く絞り出すと
同じ言葉なのに
勢いと強が籠(こ)もるだろう


5189
相手の話している言葉を
全身と耳とで
感じ取ると子どもでもそれがわかる


5190
(おんなじ言葉なのにね
ひとりひとり
籠もるものが違っているよ)


5191
心のチューブの絞り方が
意図を超えて
放つ言葉には盛り込まれてしまう




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5192
地球の長周期の振る舞いが
今は温暖化なのか寒冷化なのか
知らないけど不穏な天気を感じている


5193
遙か縄文期には海進も海退もあり
じわじわ数十m海面の変貌に戦(おのの)き移動したか
この地の縄文遺跡も高台にも分布している


5194
知ってはいる 原初の地球の大変動も
海進も海退も大地震も
それでも不穏な気配に深みで戦いている


5195
知ってはいる 恵みの雨や日差しばかり
ではなく暗転する姿も
激しい形相で荒れ狂う心なき身の自然よ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5196
「う・・・えまじか・・・あどおだー・・・」
あ、え?なんですか。
「ちょっとアンケートしてます。いいですか?」


5197
「今の社会どう思いますか」
社会 どう って あんまり
そんなに大きい抽象的なことは考えませんね


5198
(まいにちは ちいさなことの
ひとつひとつ
出してみがいては片づけるような・・・)


5199
(この足が踏み 呼吸する社会も
キチキチの服みたいなものでなく
ゆとりがあれば残虐事件も減るだろうな)




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5200
会議になれば会議のことばの人になり
葬式では葬式の
ことばの人へ場面転換する


5201
次々に面を変えていく変面師みたいに
ことばの人は
言葉の衣装を変えている


5202
シームレスに移り変わっていく
ように見えても
心がいたむ時があり イタイイタイ


5203
(ああ 今日はとっても疲れちゃったな)
という時があり
また軒先を潜って帰ってくるのである




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5204
長く胎内にいたはずなのに
その記憶が
全く無いなんてふしぎだ


5205
全く無いはずはないのに
気配感触 (ナイナイナイ)
すらしないなんてことだ


5206
子ども言葉の時代から大人言葉の世界へ
切り替わって来たように
記憶も切り替わってしまったのか


5207
わからない ただこの手の感触に
この心の感受に
深く溶け込み残っているような気がする




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5208
歌はほとんど歌わない
それでも
歌がこの世界にあるのはいいな


5209
歌の始まりもよくわかっていない
それでも
世界内存在のぼくらが内から放つものだ


5210
メダチタイユウメイニナリタイ
も引き寄せてしまったけど
今も歌の本質は変わらない


5211
こころ揺られ揺れ歌い
空気を震わせ伝い
またこころ揺れ揺られ歌い出す




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5212
ぼくが歌わないフレーズや歌がある
かたくなに
すり抜けていく歌の道がある


5213
なぜ歌わないのかはわかっている
その歌の道に踏み入ると
自分が自分でなくなってしまう


5214
歌は心の火を燃やすものなのに
固く冷たい世界の扉に通じる
ある種の歌にはそういう怖さがある


5215
癒されるなんて簡単に言っちゃいけない
ナイナイ通りで
ありありときみは異世界に拉致される




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5216
ぼくが歌わない歌はすぐにわかる
肌合いで
はっきりと感じ取れる


5217
ぼくの歌う歌は うたの名は
よくわからない
すでにぼくの手の内にあるのかどうか


5218
ぼくの歌ううたの感触だけは
はっきりしている
肌合いで感じ取れる


5219
今はそれだけがぼくのうたの道の
たよりになる
まぼろしのバイクさ (風を切ってみたいな)




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5220
違法な行為の人を見たからといって
きみは法を背にして
通報するか徒党をなすか石を投げるか


5221
法を背にする法の人は
見逃すことなく
きっちり法の網をかぶせるかもしれない


5222
ドラマの中の暴れん坊将軍は
たぶん観客の意思を汲(く)んで
時に法に目をつむり法を越えまた法の人となる


5223
人も人類も遙か無法の時代があり
法の隣に座るようになり
法の穴に落ち込んでは小法群に絡め取られる




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5224
ブンガクは振り返ることばの人だ
自分も他人も人間も
何でも振り返り振り返る考える


5225
振り返ることばの人は人を裁かない
服を脱いだら自分と変わり映えしない
どんな悪も悪人も裁断できない


5226
善も悪も好きも嫌いも自然も
生きてきた人間本質のもうもうと
物や人に触れて吐き出すものだから


5227
ただ (うれしいね) (かなしいね) とつぶやく
遙かな虹を眺めながら
ことばの人は言葉たちの軌跡をなぞってゆく




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5228
ところでそうは言っても
悪が自分に襲ってきたら
また別問題になるような気がする


5229
誰もが今ここが中心であり
距離と共に
関心も反応も自然と薄れていく


5230
戦国の世とは違う今ここの内では
守るという意識もあんまりなく
ここの自然さに浸かっている


5231
ドアを蹴破って悪が踏み込んできたら
どうするか わからない
ただがむしゃらに振る舞うしかない




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5232
そんなことを考えてしまう
のは今ここに下りてくる空気
が濁り澱んでいるからだ


5233
昔サリン事件の後しばらくは
電車の中 張り詰めて
周囲に触手を伸ばしていた


5234
今ここに漂う空気に押され
今ここを死守するために
払い振り払い撃ちてし止まん


5235
日々の割と柔らかな
自然さから
身を固くしている自分がいる




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5236
「人を殺してみたかった」
(何じゃそりゃあ?!)
病んでるヤンデルヤンデルセンの童話


5237
半ばはこのどんより濁った空気のせいだ
責める責める責め立てられ
イカレてしまったか


5238
(急にキラリとどこから来るかわからない)
そんな視線には
通りを行く人たちが背中を気にしているように見える


5239
きれいに晴れ上がっていても
人も中空も
病の皮膜に覆われている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5240
初めにはニラや山椒や海辺の小さな巻き貝などの
目に触れる場所で歌われた
〈撃ちてし止まん〉


5241
〈やっつけてやる〉というのは
人でも軍でもなく
ありふれた俗謡の一節だった


5242
説話から鬼が招喚され
今度は鬼畜米英として
戦争の物語の中に加えられ生きて歩いた (あーらふしぎ)


5243
近代戦と軍と民衆と〈撃ちてし止まん〉
その虹色の内に
接続してしまう自然なふしぎがある




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5244
〈撃ちてし止まん〉にもいくつかの層があり
どこにどう置かれるか
生け花のように見え方が違ってくる


5245
ひとつの言葉自体には
意味も価値もあり
そこに別の言葉が連結されてぶるっと揺れる


5246
選択し連結された文脈の中で
言葉たちは
仕事を終えた人々のようにくつろいでいる


5247
読者は言葉たちをたどりながら
振り返る振り返る
自分をめくる現在をめくる




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5248
そこに飛び石があれば
〈あ〉〈い〉〈た〉〈い〉
と飛んでいくのかどうか


5249
そこに花びらがあれば
好き 嫌い 好き 嫌い
と花びら占いをしてしまうのかどうか


5250
そこに飛び石がなければ
まぼろしの飛び石
を現前させて飛んでいくのかどうか


5251
わからない
わかるわからない以前に
すでに踏み出してしまっている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5252
「みんなうすうす気づいていた」
(ミンナ ウスウス 気ヅイテ イタ)
今ことばの人が次々に堰(せき)を切っている


5253
薄暗い奥の窓が開いて ウスウス
がらんどうの部屋の ウスウス
時間は止まっている ウスウス


5254
薄々の空気がふるえていた
当事者たち以外は閉ざされた部屋の外
で過呼吸したり息を詰めたりしていた


5255
「みんなうすうす気づいていた」
人間悪の近傍で
こんなことがあちこちで起こっているような




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5252
ふと目を向けていることを意識する
鏡には
ぼくに彩られた〈もの〉が見えている


5253
振り返る〈今〉はいつも遅れて来る
それ以外は
絶えず流れる〈今〉に埋もれている


5254
ことばの人となってしまったから
時にはふと
〈今ここに〉を意識する


5255
そうして後は生きものたちと同じく
不付随運動のように
この世界内に生きている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5256
ぼくが意識しないと
ぼくの立ち上がる〈今〉はない
誰もが立ち上がる〈今〉を持つ


5257
〈今〉が言葉の舟に乗って
進み巡る
小さな詩や物語の断片を放つ


5258
現在の中に舞う それら
〈喜〉〈怒〉〈哀〉〈楽〉の流線は
深みで無意識的な志向性を帯びている


5259
沈黙の内で鏡の前に立つ
ことばの人は
そんな時間を持ってしまった




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5264
滴が落ちている
ぽつ ぽつ ぽつ
(しずくがおちている)


5265
気づく前から落ちていた
のだろう
割と規則的に落ちている


5266
なぜか なにか
はわからない
ただ滴が落ちている を目にしている


5267
ことばの触手を伸ばすと
たくさんの複雑な事情を振り切って
どんよりとにじり寄ってくるものがある




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5268
風が出だした
大きな木の葉たちが
揺れている 盛んに揺れている


5269
ことばの人が揺れの中に
揺れの渦に
引き寄せられていく


5270
みどりの波が手招いている
流れている
空気感に少しずつ染まっていく


5271
ただの〈揺れ〉が虹色のスペクトルを下り
明暗のある別の世界へ
意味はつながっていく




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5272
(もうきみは ただの葉揺れではない
言葉の舟に乗って
人間界を旅していくのだ)


5273
例えば自然からの変位は
自動的だから
引き込み線や若見え化粧は見えない


5274
ことばの人の手によって
瞬時に
〈葉揺れ〉は〈人の不安〉にも変位するし


5275
小さな家の内の喜びに満ちた
出来事に
伴奏する〈喜びの歌〉ともなる




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5276
ことばの人は自由自在
に言葉を生み出す
ように見えるのは無理もない


5277
建物を建てるのとは違って
言葉はあっという間に
出来上がるように見える


5278
でも建物も言葉も同じだ
初めに現在に促され
意志の物語によって建物も言葉も立つ


5279
不自由通りを進みながら
言葉たちは
微小な自由片をきらきらと振りまいていく




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5280
仕事や学校には休みの日があり
仕事しない学校行かない
日が人にはある


5281
けれど人が生きるのは
休みはなく
からだも心も休みなく生き続けている


5282
ぼくの言葉もまた休むことなく
(もう九年になるか)
現在に立ち歩き続けている


5283
別に気負いはないけど
習慣色から少しずれた色合いの
言葉の通りを歩き続けている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5284
(あ 急がないと 間に合わない)
そんな時間もあり
駆けていく時がある


5285
(今 いまを逃したら 言葉は無力だ)
言葉にも
そんな場面がやって来ることがあり


5286
この世界内の
かんけいの糸をつなぎ止めた
言葉たちが小さく点(とも)る時があり


5287
ことばの人は 日々
言葉のドラマの中を
潜(くぐ)り抜けていく




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5288
他人や自分とテキパキやり取りする
ことばの場面があり
きみはそれが全てと思っていないか


5289
引っ込み思案に見える人の
きみには焦れったい
スローなことばの時間もあり


5290
どしゃ降りやにわか雨や
霧雨や無雨の
いろんなことばの雨模様があり


5291
場面を生きることばの人の
ひとりひとりの
意志の物語が言葉の雨模様になっている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5292
ことばの人が言葉の街に入る
踏み均(なら)された通りは
ひとつとは限らない


5293
それでもどの言葉の通りも
この現在の
日差しを浴びている


5294
昭和風に駆けていこうと
平成風に歩こうと
令和の尖端にたむろしようと


5295
ほら おんなじ現在の
日の匂いが
立ち上って来るよ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5296
言葉の街に新しくできた
まぼろしの井戸端
に出かけていると「井戸端会議」になってしまう


5297
時代劇の長屋の井戸端では
桶に水をくみ顔を洗い
野菜を洗ったり洗濯したりしている


5298
そんな光景は消失した
井戸端はまぼろし
暇なまぼろしの風が流れている


5299
井戸端の向こうでは
(洗濯は終わったかい?
買い物は行ってきた?夕食は何にする?)




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5300
ひとりふたりの相手がいたり
大勢の前だったり
そんな場で沈黙し続けることは難しい


5301
そんな時の〈沈黙〉は
何を浮上させ
ことばの人をどこへ運んでいくか


5302
つながり場のそんな〈沈黙〉は
つながりの糸を
絶ちきることを意味しているか


5303
あるいは 普通の慣れた層で
の出会いの
拒絶に当たっているか




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5304
感じいい空気の中に
さむい 感じが
湧き出す時秋が傾いていく


5305
長かった暑いあつい夏の後
すばやく通り過ぎる
この疲労野曲線に 秋が 秋よ 秋の


5306
ことばの人は沈黙の岸辺にいる
まだ言葉の席はなく
秋の不在に浸かっている


5307
自然にもこの世界内にも
今は言っても仕方がないことがあり
ただ沈黙の内に佇(たたず)むのである




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5308
無言の内に 〈あき〉
とつぶやくと 静かに
胸腹(きょうふく)の内にこだましていく


5309
時間の波が立って
この地の〈あき〉が
列島の〈秋〉の舞台に浮上する


5310
この地の〈あき〉も
確かに
列島の〈秋〉の近傍にはある


5311
キュウリも年中見かけるようになり
〈あき〉も〈秋〉も差異を解かれて
気象の大きな乱れの波に浸かる秋




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5312
昔あんなに好きだった
〈ムングランファングレン〉
が今は色褪せて見える


5313
それを見るとドキドキして
その言葉を匂い
噛(か)みしめるとぱあっと色時間が流れた


5314
今では色褪せて普通のものになってしまった
〈ムングランファングレン〉
でも誰もがそんな変貌の物語を生きる


5315
今はもうムングラと呼んでもいいけど
その音の向こう 今でも微かな
昔のあの頃の名残火が燃えている気がする




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5316
〈普通〉のもの うーん
どんな場所から
照らすかで普通のイメージは変わる


5317
ワクワクの熱ある視線の場所からは
普通なんて フツーなんて
道端の石ころみたいにしか映らない


5318
〈普通〉自体にも
普通とフツーとふつうの種族があり
〈普通〉場でも微妙に通じ合えない


5319
ことばの人は主に普通自体を黙々と生き
時に熱ある場所にも出向く
そうして時には難しい〈普通〉問題に登頂し始める




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5320
テレビから あるいは外で十メートル位離れた所から
よそ行き姿の岸田くんを見ていたら
良い人に見えるのかもしれない


5321
フツーなら 檀上の政治家になるなんて
イヤだイヤだとしか思えない
のにバカにうれしそうだし なんかヘン


5322
パンケーキの会食写真を撮らせたり
秘密にドリルで穴空けたり
閉じられた普通の数々に手は染まっている


5323
政治も政治家もなんか勘違い
カンチガイばっかりだよなあ
(当選したらバンザイだなんて)




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5324
例えば家族の生身の空間では
距離感を持て余して 時にふてくされ
人倫の舞台裏の楽屋に寝そべることがあり


5325
バーチャルな舞台なら
退(ひ)いたり避(よ)けたり隠れたり
自在な距離感の中にいる錯覚が持てる


5326
小さな自分が大我になり
大きな船に乗り
大河の上を自在に流れて行く 気分か それはいい


5327
けれど 漂っている 寄ってくる ものたち
言葉の小舟たち に見えて
ええいじゃまだじゃまだと突っ切って進む もある




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5328
遠い他人事だけど難しい
遠い 他人事 だから
(うーん むずかしいな)


5329
人も集団(国家)も追い込まれると人倫を越え
閉じられた病の世界で
残虐のかぎりを尽くすことがあり


5330
やわらかな日々の時間が暗転して
硝煙の中 一点に集中し
敵か味方かしか眼中にない


5331
人ゆえに遠い他人事も気になってしまう
複雑にからみ合って硝煙に煙っている
その根っこを探り当てようと意志することしかできない




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5332
あと一塗りすると厚化粧になってしまう
峠の茶店で一息入れて
引き返してくる


5333
あとひと回しすると
ねじ切れて
壊れてしまう不安が漂う


5334
そんな微妙な関係や
張り詰める言葉の
場所が確かにあり


5335
一方で 降ってくるいいかげんな政策でも
自分の見積もりが大ざっぱでも
ぼくらはなんとかやりくりしている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5336
ぼくらの収束する意志は一点ではなく
スペクトルをなしていて
それぞれが気ままに遊行している


5337
けれど 吹き下りてくる
ろくでもない風には
ぼくは悲否避否否と言葉を打ち鳴らす


5338
そう (黙っていちゃわからない)
者たちが
上の方で風を操(あやつ)っている


5339
ぼくらは風を計測・計量する
この日々の暮らしの手で
風の方位と散布の分布を感じ取る




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5340
言葉を消したり追加したり
修正が終わった
もう引き返せない


5341
自己対話が終わり薄化粧した言葉たち
を箱に入れて
テープでしっかり留める


5342
後は読んでくれるかもしれない
読者の前にそっと差し出すだけだ
薄化粧はしてても上げ底はない


5343
読者は箱を空ける
ぼくの舞台近くまでうまく下ってきて
同じ光景を見れたらいいな




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5344
分離し難いことに
ぼくのいい感じに呼吸する言葉に
この大気の促す言葉との格闘があり


5345
この列島の無意識的な遺伝子
みたいな言葉もあり
そのことを微かに感じている


5346
さらに面倒なことには
ぼくの気づけない
無意識のような部分の言葉もある


5347
そんなこんなが錯綜して
霧の中から
ぼくの言葉たちが転がり出てくる




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5348
ことばの人は自分が主人
と思って運転し始める
と すでにいろんな客が乗り込んでいる


5349
静かな客ばかりではなく
(そっちの方へ進め)
(あっちはヤバイ!)などと無言で促すもあり


5350
ことばの人は普通は聞く耳持っていて
回りのいろんな促しに
気配りしながら進んでいく


5351
(今は現川(うつつがわ) 次は水無瀬川(みなせがわ)に入ります
それから夢駅で止まります)
ことばの人は内心でつぶやきながら言葉を放つ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5352
人間界の関係の糸が揺する
促す〈責任〉は
時代や地域で色合いが違う


5353
今から見れば軽い禊(みそ)ぎから 切腹へ
辞任や刑期や罰金に
〈責任〉の取り方も変移してきた


5354
(きみは戦火をただ眺めていただけだったろう)
と責められても圏外の者には
遠い現場の責任の取りようがない


5355
(きみは歌手たちのファンとして事務所も支えただろう?)
と圏内の近傍者として迫られても
悪事務所の責任は取りようがない




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5356
ただし人間界という関係の
薄ういつながりの
渦中にいても 微かにざわめくものがあり


5357
遠い戦争や紛争も
ひとりの人の悲しみも喜びも
ぼくの内にある 細うい線に触れてくる


5358
その触れる 揺れるから かんじかんがえる
感じ考える
ついとそうした椅子に座ってしまうのである


5359
こんな時それは
「人類の一員としての責任」
という固い言葉とは少し違うような気がする




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5364
(物々しいぞ)と感じたら
外には明るい笑み言葉
を手にした人間たちがドシドシ一列に歩いている


5365
ぼくには無関係のはずだが
軽い威圧感のあるドシドシが
(固い重い) つながりの触手をこちらに伸ばしているような


5366
社会の通りでは場面に応じて
誰もが静かに (そう人類史の自然として)
すばやく変面するのがフツーだ


5367
ドシドシ組は二心(ふたごころ)無し
変面もしない
とゴチック言葉で触れ回っているのだが (それってヘン!)




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5368
気になっている言葉がある
〈世界がぜんたい幸福にならないうちは
個人の幸福はあり得ない〉註.


5369
「世界」は、人間界のことか
副詞「ぜんたい」は、すっかりの意味か
主観的な「幸福」は、人間の本質力の十全な発現のことか


5370
それが人類の歴史の時間の中での話なら
理想の明かりの点る道
を人がとぼとぼ歩いて行く姿のことだろう


5371
抽象の論理レベルでは確かにそうだが
しかしそれなら
わずか100年の人の生涯では〈個人の幸福〉は不可能となる


5372
確かにこの世界の不幸の数々が
遠くから 近くから あるいは自身から
今もぼくらの内に影を落としぼくらの「幸福」が陰る


5373
けれど人間的な現実の有り様では
少し違うような気がする
影を振り払うようにあるいは影を忘れて無心に幸福するのだ


5374
それは影差す中の幸福の破片かもしれない
が小さな宝石のように
誰もが深く身に染み味わうのだ

5368註.宮沢賢治『農民芸術概論綱要』より。




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5375
学校は窮屈だった
後からの視線では
小さすぎる椅子や机だが そんなことではない


5376
寄せ集められた世界とその出し物を
当然自然
と受けとめることはできなかった


5377
出会ったりぶつかったり手をつないだり
水槽の中
誰もが気ままな泳ぎ方を禁じられている


5378
誰もが有無を言わせぬ見えざる手に押され
歩んできた
あの子は その子は 今どうしているか




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5379
二昔前と比べて世界が広く近く小さくなり
物や人の交通が
格段に目まぐるしくなってしまった


5380
のんびりゆっくりのリズムでは
昔の民話に足取られ (しまった)
と交通のやり取りを逃してしまう


5381
イイカゲンな人も目立つようになった
ぼくの内にもイイカゲンがあるのだが
スルーとセーブで煮詰めない  いい加減よ


5382
しっかり感じ考える人もまた
この世界の思わぬ所にちゃんと控えていて
この世界はいい加減に回っている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5383
昨日と同じ言葉通り
を歩いている
のに何か少し違う風を感じる


5384
それは言葉にはならない
通りを流れる
風の匂いのようなもの


5385
(ああ あれ あれ・・・)
と言葉が浮かばない
今日の予定表からこぼれているもの


5386
そんな新しい脇道
の予感が流れる
朝の光を浴びることがある




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5387
人は あれもこれもそれも
考えてきた
たくさんたくさん考えてきた


5388
人は くり返しくり返し
考えてきた
それでも解けない曇天が続く


5389
数千年の闇から ぱあっと
秋の青空みたいに
解が打ち上がり広がるといいな


5390
けれど わからないことが多すぎる
あれもそれもこれも対立しこんがらがって
うーん よくわからないな




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5391
物語の語り手〈私〉ミミには美鈴の語る言葉は
きれいな文字になって
こぼれ落ちるのが見える


5392
『吹上奇譚』第四話ではミミの母にも
美鈴の語る言葉は
文字となって見える


5393
初めは作者の荒唐無稽な話と思ったが
『カエルの声はなぜ青いのか?―共感覚が教えてくれること』
に人の語る言葉が文字に見える話があった


5394
それは一風変わった街に住む人物たち
がそんな普通の世界から一段下った
こわれやすい柔らかな世界を生きて呼吸する喩なのだろう


5395
そうしてそういう世界を記述し見渡す
作者もまた
そんなことばの人の姿で立っている

註.吉本ばなな『吹上奇譚』第四話まで読み終えて。




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5396
ことばの人となってしまっているから
言葉数が少なくても
その言葉も沈黙もことば色をしている


5397
ついにきっぱりと別れてしまっても
降り積もった時間から真っさらなお互いへ
は戻れないことば人(びと)


5398
人や生きものの遙かな果てしない無言葉期は
想像もできないが
ことば人から想像するしかない


5399
そこから浮上してことばの人になってしまったんだから
人や生きものの無言葉期も
ぼくらと微かなことばつながりがありそうだ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5400
決まってその曲がり角で
そんな曲がり方をする
自分にふと気づくことがあり


5401
曲がり角で他人にぶつかったり
ぶつかりそうになったり
ひやりとすることもある


5402
そんなヘンな自分が
嫌になったり
ふしぎに思えたり


5403
けれど誰もが曲がり角で
いろんな色合い放ちながら
にんげんの道を曲がっている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ



5404
鏡に映る自分に
ひとりでいても
軽くとまどうことがあり


5405
たぶん鏡慣れた女性なら
鏡の映す姿と
対等に渡り合うのかもしれない


5406
時折意識する鏡の中の姿と
取りあえずの
折り合いを誰もが付けているようだ


5407
日に一度は鏡の前に立つが
大体において
自然にスルーして鏡に背を向ける




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5408
卑弥呼の生きた時代には
鏡は神に属するものだった?
きらきら ものを超リアルに映す


5409
普通の人は水鏡は知っていた
水面にゆらゆら
姿がぼんやりと映っている


5410
映す威力の差に
神が呼び込まれ
神器として座し始める


5411
今では〈神〉は軽く微かになってしまった
〈神業〉とか〈神対応〉になって
人間界にフレンドリーに棲息している




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5412
人の生涯にも季節がある
秋の紅葉みたいな
表情の時期もあり


5413
また同じ言葉でも
そんな秋の表情
を放つ時があり


5414
秋の紅葉からはらりはらり落ちていく
言葉の道を
歩いていることばの人もいる


5415
思えば〈神々〉も言葉の秋を歩いている
無力感を噛みしめて
人気(ひとけ)無い夜の裏通りを歩いている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5416
学校で〈わかる〉ということは
選択・配列された〈知〉だから
そんなに難しくはない


5417
二次方程式の解は
目まいの虚数であっても
グラフとx軸との座標上の関係としてイメージできる


5418
大いなる自然から身を守るように
ことばの人が築き上げた
人間界の土台や枠となる神話や概念たち


5419
言葉で設けた土台や枠を取り払うと
ことばの人は〈わからない〉
生きることや死ぬことさえよくわからない




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5420
古い引き出しの中から
ふと見つけ出してしまった
少年の頃市販のヒコーキやグライダーを作ったことがある


5421
とても軽いバルサ板というのも知った
バルサ板が南米産とは知らなかった
ただうまく飛んでくれるかだけが気がかりだった


5422
少年たちの知らない所で一機のヒコーキのためには
生まじめな素材の検討や発見
くり返しの飛行実験がなされていたに違いない


5423
〈空を飛ぶ(そらをとぶんだ?!)〉部品たちが
縦長の紙袋に入れられて
店先に吊られてあったんだったか




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5424
別に「自分探し」にどこかに
飛び出そうとか
そういう少年ではなかつたような気がする


5425
たぶんこの鈍色(にびいろ)の光景は
重力の主調音となっており
時折祝い事や祭りの明るい変調があるのだろう


5426
日々の時間には小さな明かりが点ることもあり
日が重たく陰ることもあり
そんな波風を受けながら歩いて行くほかないか


5427
だからヒコーキを飛ばす時は夢中だ
時間が少しだけ輝いて
そんな風(かぜ)に乗って飛んでいく




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5428
日々心を占める問題は
振り返る間もなく
すでに向こうからやって来てそこにいる


5429
なやみなやみしナヤミーヌ
まぼろしなのに
もう踏み固められて審判の椅子になっている


5430
けれど大切な課題は
そんなことばかりではない
自然なこと普通のことにも隠れている


5431
たしかに今は自然なことフツーのことかもしれない
けれどそこには 振り向いて
結び目が解かれるのを待っている人影がある




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5432
人によって〈自然なこと〉は
違うことがあり
すれ違うと風が軋(きし)みを立てる


54233
たぶんそれぞれの家から
人が背負ってきた
〈自然なこと〉があるのだろう


5434
大多数が背負っている
〈自然なこと〉があり
時々人はその荷にふと気づき下ろして憩(いこ)う


5435
〈自然なこと〉が少しヘン
に感じられ
言葉の味が変わると風が立つ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5436
「5年で」、5年後には・・・
と今この状況に 腕組みして
スルーしたら別れ別れになるぞ


5437
人間界の糸つながりには
親子恋人集団と
糸の大小はあっても(その時期を逃したら・・・)は同じだ


5438
「おわび」は和語、「謝罪」は過ちや罪を伴う漢語
おわびはこの列島の春霞
大陸の謝罪は痛みや血が流れる


5439
言葉に心がぴったりの時もあれば
言葉と心が解離して
乾いたすき間風が流れている時もあり


5440
ことばの人のすき間では
舌を出したり隠匿したり
意味とは別のドラマが進行している




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5441
(風が出て来たようだ)
「風が強いね」
いろんな風に関する言葉がある 物語がある


5442
事実のみを指示する
ように見える言葉もある
が言葉は事実へのベクトルだ


5443
だから〈風〉に触れたことばの人は
情動の ある量を載せて
事実に向かう 言葉よ


5444
ことばの人が内省するとき
言葉たちは
『言語にとって美とはなにか』を実感している




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5445
「大谷選手が」「大谷さーん」「キャアア」
(知らないし 知ろうとも思わない)
ふうんとスルーする


5446
(大谷君や・・・将棋の・・・誰だっけ)
身近でないし 「有名人」には
ほんとに何の興味も無いなあ


5547
すごい人間力を発揮している
かもしれないけど
それって同じ人間だもの


5448
アツくなり過ぎるのが
よくわからない
スルーするぼくは一点くらいは曇りのある晴天


5449
もちろんフツーの大谷君にも
同じく
遠くからあいさつはする




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5450
一人前に育ってしまったら
ネコは身を寄せ合うことなく
〈ひとり〉を生きて行けそうに見える


5451
ぼくら人間の場合は
〈ひとりぼっち〉という言葉には
否定的な匂いがあり


5452
〈ひきこもり〉へのまなざしには
違いへのとまどいや
社会の糸が自然に伸び出し揺れている


5453
人は動物生の時代から
次々に壁を築き上げ
少し窮屈なバベルの塔に今も生きる




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5454
「個人的に自由に個体として生きたい
にもかかわらず
そういうものをやむをえずつくっちゃって
そしてある歴史をへてきちゃった」


5455
〈ひきこもり〉と〈他人に手を伸ばす〉
社会の渦中の ふたつに挟まれた谷間に
今では誰もが思い悩み揺れている


5456
個と集団と いずれかの極に
アクセントを置き過ぎる
のは人間を見誤るのかもしれない


5457
(他人のことは知ったことじゃない
オレは気ままに歩くさ)
はできるならもちろん最高さ

5454の註.
吉本隆明『マルクス―読みかえの方法』より
「そういうもの」は、制度や観念の世界を指す。




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5458
規則や法を作るのも
作ったものを改めるのも
止めるのも とっても面倒なことだ


5459
無数の沈黙の声を背景に
一般には 規則も法も
始まり動き出し終わる


5460
ひとりひとり関係し合うこの世界では
ひとりの頭や手だけでは
解決できそうにないことがあり


5461
その積み重なった沈黙の澱みが
規則や法を呼び寄せ
鳴子(なるこ)を張り巡らせた新たな世界を支えている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5462
ドラマ『暴れん坊将軍』では 毎回
無敵の将軍吉宗が乗り込んで
悪人どもを成敗・解決する場面がある


5463
(スカッとするな)(そんなバカな・・・)
(いくら何でも・・・)
観客の思いをよそにドラマは進行する


5464
遙か太古 人の社会が小さな集落レベルなら
祭祀・行政を司るシャーマンや長老の下
そんなことがあり得たかもしれない


5465
複雑に膨れ上がってしまったこの人間社会では
法と徴税と権力網を張り巡らせ
国家が取り巻きどもを伴って一人歩きしている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5466
(ああ 寒くなったね)
(うん そうだね)
みんなが認めそうな季節感だ


5467
と思ったら 「みんな」って誰だろう
という内省が
この列島や海の向こうへ走る 走る


5468
この列島だけでも
同じ季節の枠の中
風も寒さも雪のイメージも違うようだ


5469
違う中でも秋の紅葉や初夏の若葉
この列島上 点滅する
少し違った肌合いでおんなじように感じている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5470
(sさ さむい!)
《さむuい!》
冬ですね


5471
(それ とっとっと)
《トットト ?》
言葉の季節が軋(きし)む


5472
(それなおしといて)
《なおす ナオス naosu?》
言葉の風が冷たい


5473
人と人とが出会う場では
同一性と差異の
とまどいがちに 冬が下りてくる




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5474
一枚の葉をすべり下る
(つめたいなあ)
もう秋ではない 冬か


5475
《ふゆだふゆだ
またしばれるふゆがくるぞ
かぜのつめたさがみにしみる》


5476
冬に身を守るふんい気が
葉裏にも
漂っている 《ふゆ が くるぞ》 (もうふゆだね)


5477
人の世界でも
木や木の葉と同じように
冬に身を固くして自然に越えていく姿がある




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5478
言葉をしゃべった後に
しゃべってしまった・・・
という反響がすることがあり


5479
言葉を書いた後に
(なんかちがうな)
(まずいな)と修正を加えることがあり


5480
言葉は ひとりでいる場合も
人間の関係網の
渦中にすでに収まっている


5481
だからにんげんの糸に触れたくない
逃(のが)れたいひとりっきり
は閉じた病の言葉のようにシュールな流れに浸かる




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5482
「言葉を持っているのは幸か不幸か」
花占いをしてみても
言葉の運命は変えられない


5483
きみはもう〈ことばの人〉
になってしまったのだから
〈ことばの人〉の運命の水路を行くしかない


5484
「もしこの世界に言葉がなければ」
なんて無意味な仮定法だ
架空の人架空の世界架空の歴史だ


5485
ぼくらはもう何でも言葉さ
言葉の舟に乗って
言葉で見る言葉で触れる言葉で区画する




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5486
「もし無人島に行くとしたら・・・」
の仮定法は
ほとんどあり得ない言葉の遊びに近く


5487
確かに学校や仕事を選択しているけど
ぼくらが選択する前に
世界がすでに訪れていることが多く


5488
〈自由意志〉や〈選択〉は
生身の言葉には遠い
純粋言葉の匂いがする


5489
人と世界の半分しか語らない
のに全世界を掌握した
思い込みの言葉族に世界は満ちている 


5490
人と世界の紡ぎ出す糸
を記述し語る言葉たちは
ぼくらの土の匂う実感によって判定される




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5491
他人のいる場で言葉が出ないことがあり
その場に流れる言葉の色に
なんとか翻訳するのも難しい


5492
そんなことは誰にもありそうで
齟齬(そご)を抱えて
祖語の森を沈黙が歩いて行く


5493
そんな時 ぼくの言葉
きみの言葉
この列島に伸びている言葉たちよ (その下での)


5494
好きな歌にのせて歌ってみるか?
でも歌の言葉じゃない
外来の書き言葉が神々(こうごう)しくカッコよさそうだ


5495
(このきもち 書き記すには漢語にのせる外ない?)
〔うまくのって輝いてくれるかな?〕
[ロデオの暴れ馬に振り落とされてしまうか]


5496
(あの多様にうごめく大陸の匂い
一筋の固い漢詩と読んでしまう)
[柔らかな恋愛詩なのにね]




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5497
祝詞(のりと)の言葉みたい
に書き記される
言葉たちは神々しく輝いていた


5498
それが今やどうしたことか
言葉はスピード感の大量生産
過剰に生産され続けては通りで踏みつけられている


5499
世界よ ことばの人よ
言葉の中の 外へ伸びる触手たちや
小さな火は 深みに埋もれてしまったか


5500
漢語からカタカナ語へ
時代は反転しても
言うにいわれぬ祖語の翻訳は難しい




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5501
柄柄柄ドイタドイタ
殻殻ミヲカタクシテ
コトバノ通リヲ開ケヨ!


5502
土死土死ドス タトエバ
コンナ時ニハ ドス
コンナ風二書クドス


5503
明るく華やかな言葉の通りから
薄暗い言葉の森へ
少し奇妙な音の響きがドシドス流れて来る


5504
目覚めるとにぎやかな言葉通り
スキルやリスキニングの帽子をかぶった言葉たち
が大手を振って歩いて行く (クソッタレ)




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5505
ボールを投げる
と ボールが 飛んで・・・行く
ボールは飛んで行ってしまった


5506
〈ボールを投げる〉には
当然に
投げる前と投げている時と投げた後があり


5507
観客たちは投げた後ばかりに駆け寄り
顔の表情や
ボールの球速を知りたがる


5508
人は誰でも日々〈ボールを投げる〉
いつでもどこでも
その全過程には風だけが触れている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5509
〈ひとりの力〉が遙か後方に見えてしまうような
重機の力があり
この世界を削ったり掘り返したりする と信じられている


5510
重機の力は〈みんなの力〉
ひとりひとり結合手を差し出して
〈みんなの力〉≡〈ひとりの力〉が生まれていく


5511
〈ひとりの力〉は〈みんなの力〉の磁場の中
もはや昔の自分ではなく
平板な《ひとりの力》となってしまっている


5512
属する〈みんなの力〉の判断が優先されて
いくつも目をつぶり
昔の〈ひとりの力〉は考える森の奥で眠っている


5513
必ず訪れる凝り固まる対立の丘
を超えていく
のは無糖派無灯派 派の無い 〈ひとりの力〉の無党派だ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5514
ひとりの力が ちっぽけに見える
ひとりの力が 大きく見える
そんな矛盾の谷に〈ひとりの力〉は沈んでいる


5515
〈みんなの力〉の作り出した威力
にマレビトを遇するように
ひざまずいて来た歴史のひとりひとりがあり


5516
ひとりとひとりが〈ひとりの力〉
を絞り出す前に
〈みんなの力〉に遠慮する風習があった


5517
ひとりひとりの時代になっても
古い精神の遺伝子が作動して
〈みんなの力〉に道を譲るひとりがいる


5518
もっと気楽にひとりしようぜ
ひとりひとり
そこからしか小さな未知の朝は始まらないからね




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5519
確かに〈ひとり〉で生きているのではない
他人と関わり合いながら
それでもひとり生きている


5520
人間世界の囲いの中に
〈ひとり〉は
ひとりひとり生きている


5521
〈みんな〉の影や大いなる自然の影を背に受けて
〈ひとり〉は
人間界の張り巡らされた糸通りを歩いて行く


5522
だからひとり引きこもっていても
ひとりっきりじゃない
いつもふたつの影を背にしている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5523
〈ひとり〉が声を挙げる
無人島なら
鳥の声かこだましか返ってこない


5524
ひとりっきりでも
ことばの人は
言葉ゆえにつぶやきも反射する


5525
言葉は双方向のベクトルだ
放たれたら
何かを乗せて返ってくる


5526
そうしてまた違った位置から
つぶやくのだ
同じ言葉でも色合いが違ってくる




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5527
ひとり 子どものように
〈もの〉を見る 触れる
もちろん心の内にさざ波立つ


5528
〈もの〉は 触れても
揺らしても
静かだ 静かなままだ


5529
同じ場にふたりいて
ひとりひとり
〈もの〉触れている 街を呼吸している


5530
ひとりひとりでも
互いの内の水面に
反響し 共鳴している ふたり

註.「街を歩き外で踊る2人組ダンスユニット。」アグネス吉井の表現を観て。




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5531
「嫌いな言葉は何ですか」
(表向きだけが
明る過ぎる言葉かな) ((・・・太宰治ノ 必死ノ格闘))


5532
「イヤな言葉は何ですか」
(元気アタエルとか
元気モラッタかな) ((アノ権威ノ ヤリキレナイ湿地))


5533
「好きな言葉は何ですか」
(西瓜かな
あの緑の肌や蔓や赤い果肉が目の前に浮かぶよ)


5534
「いい感じの言葉は何ですか」
(うーん うそいつわりなく言いたい・・・
言葉の手前の風のようなことばかな) ((ウーン 言葉デ言ウノハ難シイ))




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5535
また戻ってきた
始まりの
母音が煙り棚引く はじまりの集落に


5536
(あの時は気づかなかった
知らぬ間に
口は色んな母音たちを招喚し夢中だったのだ)


5537
〈あ〉がいい感じにダンスしている
聴衆は無く
言葉はリズムに乗っていた


5538
あの頃の時間そのもの
には戻れない
ただ微かな実感をたよりに近接する




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5539
太古の人の心の内や
ことばの有り様が
よくわからない と思うことがあり


5540
振り返れば 少年だった自分も
見知らぬ他人も
よくわからない 感じがする


5541
「こんにちは」とあいさつされる
そこに (アナタ神ヲ信ジマスカ)や
(ソレッテ自衛ノ戦争ダゼ)や 埋もれていないかどうか


5542
ともかく 寄せ来る草木を払いのけて進む
ひとりの小さな世界には
にんげんの核の振る舞いが続いているんだろうな




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5543
秋の木が冬の方へ
倒れ込んでいく
幹や枝葉が微かに軋(きし)んでいる


5544
訪れた冬の中の視線には
秋の枯葉や
落ちていく葉の視線が溶けている


5545
ある対象を純粋に見る
ということは難しい
視線にはいくつもの季節が溶けている


5546
だから視点や立場が固まる
のを避(よ)けながら
ただ冬の中に静かに深く立つのである




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5547
「生卵は食べれません」
と避(よ)けて
固くなる場所がある


5548
子どもの頃 兄弟たちと
生卵を飲み込む
失敗がどろりと生きもの感で過(よぎ)る


5549
卵焼きは食べるのに
生はいけない なまは
いけないルージュマジック!


5550
誰にも固く立ち尽くす
場所がありそうだ
なかなか雪解けは難しい




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5551
もしもことばの人が
言葉は苦ばかりと感じるならば
わたしは言葉の海の岸辺に黙して立つ


5552
もしもことばの人が
言葉遊びに耽(ふけ)るなら
(おおそのアクロバットいいじゃない)とニヤリとする


5553
もしもことばの人が
悲恋の定型をなぞっているだけと見えても
半分はくだらないとは思わない


5554
もしも自分の言葉が
圧を与えてしまうと感じられたら
その言葉は出さずにたたき割ってしまう




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5555
言葉を覚えたての頃は
こちらから見たら
ことばの人はよちよち歩き


5556
歩くぐっぱんぐっぱんの
気に入って
(うんじゃ うんじゃ)とつぶやいたり


5557
たぶん本人の内では
未熟なことばの人とも
未熟な言葉とも思っていない


5558
遙かな本人が今ここのぼくに
なっているんだが
昔も今も内の視線と外からの視線とがあり




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5559
ことばの人の内では
行っては戻り
行っては戻りして言葉が形なさない時があり


5560
晴れ上がった大空の下
沈黙の内海が
たださざ波立っているばかり 見える


5561
表現された言葉の価値以前に
価値の服を着込まない
素肌のことばの人が居り


5562
いつものように立ち上がって
カチカチ山を通り
言葉の海辺に下りてくる




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5563
遠くなった自然界と 人間界との
交差する渦中に浮かぶ
小さな小さな舟 (あっ人だ)


5564
小さな舟でも拍動している
その揺らぎから
絶えずまぼろしを呼吸している (見える)


5565
白い息が上がっている
ことばの人が
言葉を吐いたり吸ったりしている (微かに白いなあ)


5566
深い病に落ち込まないかぎり
ことばの人は
言葉の自然を疑うことはない (遠くまで来たもんだ)




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5567
小さい頃はことばの人も言葉も
家族サイズだった
世界はまだこぢんまりしていた


5568
そんな世界の外があるなんて
よく知らず 駆け回り
ことばの人は自足していた


5569
引き出されるように学校に行くことになり
よく知らない言葉によって
外の世界が晴れ上がっていった


5570
それとともに言葉と拡がった世界は
うまく馴染めない
上げ底になっている感じがした




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5571
『ブラタモリ』を観ていたら
「TVなんか見てないで どこかへ一緒に行こう」
と井上陽水の歌が流れ て ながれだす


5572
「TVなんか見てないで」は
たぶん もっといいことがある
とささやいている けど もう旧時代の用法か・・・


5573
もちろん恋人同士なら
いっしょにTVなんか見てても
どこかに出かけてもOKさ


5574
TVなんかTVなんかTVなんか
TVなんか とくり返し
言葉の濃度を上げるとまた別の歌が流れ出す


5575
別にどこへ行っても何をしても
いいけどさ
ぼくらはフツーに深くエンクロージャーされてる

註.「TVなんか見てないで・・・」は、井上陽水「女神」(2015.7.29)




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5576
シワが無くなるわけじゃない
そこは認めている だから「シワ改善」
何度も連呼されるCMに奇妙なカイゼン感になる


5577
まったくの他人事として見れば
(笑っちゃう)
でも誰もが出会う自然の道


5578
しゅわっしゅわっ
シワ改善 舞台に立つ
確かにカイゼンして見える


5579
ひらひらと枯れ落ちていく生命感
(それは避けられない自然)
それでも認めたくない生命感のあがき


5580
圧倒的な自然の推移に
滑稽なあがきに見えても
それもまた小さな生命の自然 だよなあ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5581
雑草だけが言葉の草だ
と頑なに屈折した言葉の原に
くさぐさの硝煙が上がり


5582
いくつもの不毛な草論争・草批判が
くり返され (それとは無縁に
草たちは日を浴び呼吸していた)


5583
まとい付く頑なな枯草たちを踏み越えて
ひとり しなやかなことばの人として立つ
と 言葉の原にみどりの時間の風が流れている 感じる見える


5584
そうやって立っていると
〈自己表出〉と〈指示表出〉と連れ立って
風の時間の深みから言葉の芯として抽出されてきた

註.〈自己表出〉と〈指示表出〉は、吉本隆明『言語にとって美とはなにか』の基軸。




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5585
同じ時代の同じ場所に
立っていても
見える感じる情景は違う 違うなあ


5586
同じ本やドラマを潜り抜ける
大まかなモチーフ把握の一致はあっても
様々な印象の花盛りだ


5587
本やドラマや職人技で
全体の流れに浸かりながら
個々のものに下りて行く同じ道がありそうだ


5588
冬陽を浴びて言葉たちが葉揺れしている
その芯の方から
それぞれ小さな火が点っている 見える




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5589
その場にいても気づかない
かもしれない
その場にいなくても気づくかもしれない


5590
ことばの人の時間には
深さと広がりがあり
別の時間や場所とも共鳴することがあり


5591
自分のいる時間や場所に
大切な小さな窓が開いていれば
他に容易に絡め取られることはない


5592
誘い来る大声の明るい屈折した
言葉を避(よ)けて
鼻歌歌い進むのさ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5593
ふいに訪れて来るように見える
他人の言葉には
開け広げられた善意の手もあれば


5594
巧妙に誘い込んで
その道しか通れない
閉じた悪意の言葉の手招きもあり


5595
照れくさそうにやって来て
あれこれ手助けする 無償の
善意の言葉の足があり


5596
良い香りを噴霧し誘い込まれたら
簡単には抜けられない
悪意の言葉の足も立っている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5597
人間は 善と悪との二元論
で捉え尽くした
と締めくくるには微妙すぎる


5598
場があり人がいて
人に寄せて来るものがあり
関係のドラマが始まる


5599
「それって自己責任だ」
と場と関係から切り取って
簡単に断定することはできない


5600
善も悪も人間的な場に生起し
人が揺られ揺らした関係網の
揺らぎによって人間界の掟から判定される




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5601
例えば追及される渦中の
子どもが
沈黙で耐えるということがある


5602
(自分も悪かったけど
言わないではいられない)
(言っても伝わらない)(風が冷たいな)


5603
(言葉を尽くせばわかり合える
なんてウソだ)
目の前の言葉の道が荒れ模様で踏み出せない


5604
(沈黙は金だとは思わない)
それしかない
という強いられた選択の椅子に座り続ける




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5605
昔は〈あ〉から〈い〉へ行き着くには
ことばの手が
籔(やぶ)をかき分け歩かなくてはならなかった


5606
わずかな時間でも道中の思いがあり
〈あ〉〈す〉へ曲がりそうになったり
紆余曲折があり


5607
今や〈あ〉〈い〉は瞬時だ
昔の道中の思いは
立ち上がる微かな空気の揺らぎのよう


5608
ことばの人の内で
内面化されて
微小な泡を放って〈あい〉が浮上する




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5609
語りから文字に天候が急変して
言葉の道が装い新たになっても
〈あ〉〈い〉の道筋は変わらない


5610
太古と同じように歩いて行く
言葉の星々が
ことばの人のからだを震わせる


5611
(ああ きっとあの星が〈あい〉ね)
(おお そうだ あれは〈あい〉だね)
ことばの人に響き合う 〈あい〉


5612
言葉やことばとなった自分
を時に鏡に映しては
ことばの人はふしぎな気分になるのである




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5613
〈あい〉も生きている
自然界と人間界にまたがって
人の時間の流れに年もとる


5614
若い頃や子どもができた頃は
〈愛〉は青々揺れている
まぶしいほどのひかりを浴びて


5615
慌ただしい日々の波を受け
〈愛〉も色褪せて
見える (見えるのは仕方がないか)


5616
それは表面が傷つきはがれた〈愛〉
しずかに点(とも)る
核となった〈あい〉かもしれない




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5617
〈あい〉も旅をする
人と人との間で
また 言葉たちの間で


5618
〈あい〉の時間のスペクトル
の一帯だけから
〈あい〉を語ることは難しい


5619
〈あい〉が虹色に輝いて見える時
見える色 見えない色
すべての中に〈あい〉は流れている


5620
〈愛〉と〈憎しみ〉は
固く手をつないだり
他人のように背中合わせになったり




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5621
比叡山山頂でもなく
もっと遠くでもなく
今ここで〈あい〉の岸辺にいる


5622
今ここに〈あい〉が漂っている
よくは見えない
存在感が微かにある


5623
ぼくは〈あい〉 ぼくの〈あい〉
ぼくへ〈あい〉
〈は〉〈の〉〈へ〉が揺らいでいる


5624
〈あい〉はぼく 〈あい〉のぼく
〈あい〉へぼく
〈は〉〈の〉〈へ〉の命がか細い




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5625
(山に)きょうもまたまたまた
(山中の)あちこちそちこち
(朽ちた枝や)あるるれおらお


5626
農道を上ってきた
人気(ひとけ)ない
山林に入る 少し薄暗い


5627
(あの枝は)きるるきらる
(小さくはないぞ)しゅっしゅっ
(頭頂部の切断は)身がきりりきるる


5628
まだまだ素人剪定だけど
その木の枝振りや葉を見て
切り整える 虎刈りにはしない

 





詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5629
学校の先生を十年したことがある
例えばガッコウのせんせいなら
学校の先生になってしまう


5630
それは自然でもあり
恐ろしいことでもあり
誰もが脱ぎ捨てることはできない


5631
別の小世界の人と出会えば
それはわかる
こちらの小世界の内にいたらよくわからない


5632
小世界内に張り巡らされた規範や掟に
糸引かれながら
人はギクシャク動き回っている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5633
今ではことばの人は
大いなる自然に遠く 人間世界の
微細な関係の網目に揺れている


5634
言葉たちは関係の網目を
やさしく揺らす
弾(はじ)く あるいは逃れようとする


5635
言葉が生きてあるかぎり
人里離れても
関係の網目から離脱はできない


5636
だから言葉たちは
関わり合いを望まなくても
関わり合いを録してしまっている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5637
そうやって言葉はいつも
自然に あるいは意識的に
関わり合いの歌を歌っている


5638
アツすぎる恋唄も
冷たく背中を向けたひとり歌も
ひとりひとりの固有の場から打ち上がる


5639
(今日は蒸し暑いね あっ 花火だ)
(冬の花火もいいね)
いろんな花火が上がっている 見える


5640
打ち上げた者にそんな気はなくても
花火を見るひとは
身も心も揺すられることがあり




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5641
路上に下りると 時代の中心の顔や表情が
知らぬ間に変わっている
と 誰もがそのことを肌で察知している


5642
秋の木の葉が落ちていく
その一枚の内にも
現在(いま)の時代の表情が映えている


5643
「天上(テッペン)でのshining star」
めざすのはいいさ
けどその戦いが「愛で磨(と)ぐ矛」や「愛で編む盾」って・・・


5644
「ここfar east の地から神風吹き荒れたなら」
までもあるんだね
漢語欧米語のごった煮ツッパリ 無惨。


5645
時代の顔は疲れているけど
もっとやわらかな
肩肘張らないフツーが流れているのに

註.
「 」は、グループ『THE RAMPAGE』の新曲「SOLDIER LOVE」の歌詞より引用。




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5646
路上から上に上がると
掃き忘れられた
秋の木の葉たちがまだ見える


5647
訪れて腰を下ろした冬の中にも
秋たちの残骸が
微かに息をしている


5648
大いなる自然から見たらいずれも無意味な
肯定と否定にも二種あり
冬と秋のように現在を構成している


5649
ことばのにんげんが呼吸する
生み出す言葉は
簡単に肯定と否定に分離できない




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5650
グループに入っていたり
側にいたり
すると景色が変わってくる (内からはよく見えない)


5651
グループが批判される
と 凝集するものがあり
固くギクシャク矢を放つ一団が現れる


5652
グループの圏外にいる
フツーの人々は
異様なふんいきを察知する


5653
グループの砦からは
そんなフツーの人も
冷たい肯定と否定の篩(ふるい)にかけられる




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5654
言葉の街の通りから
敷かれた言葉の小道を
誘われるようにたどって行った


5655
いつもと変わらない風景に
突然現れた
「ダーウィンはDSです。」


5656
フツーの風景の中
色んな言葉たちが
乱反射している 屈折して現在を脱けるもあり


5657
人が生み出してしまった
言葉の収蔵庫から
自在に選び出されて来るように見えて


5658
けれど人の性(さが)に沿う善悪を超えた
自然さの大道が
確かにあるような 匂いがある




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5659
あと少し力を加えると
泡立ちはじめる
そんな水域があり


5660
そこを色で塗ってしまったら
そこにその色を使ったら
予期せぬ光景に出会うことがあり


5661
なんにも手を加えていない
はずなのに
無意識的な手が触れていることもあり


5662
閾値(いきち)を越えて木の葉が落ちる
と 暗転する光景
もはや元に戻しようもなく




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5663
そこで必死さを幾重にも畳んで
説話の言葉が生まれる
少し余裕の表情が流れ出す


5664
今はもう廃れてしまった
祭りや数々の年中行事には
必死さが溶け込んでいた


5665
現在(いま)ではコスパやら婚活終活やら
小さな物語が次々に湧き立ってくる
必死さも溶けている


5666
だから新年もあれこれを設けて
少しでも必敗を避(よ)けようとする
(それもいいじゃない)




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5667
「アノ子はキライ その子はすき」
はっきりと
好き嫌いが分かれていく


5668
厚い氷のように固まってしまった
好き嫌いの表面は
簡単に溶け出すことはなく


5669
たぶんくり返された出会いの
ドラマによって
すきとキライに枝分かれしていくが


5670
「・・・は好き・・・はキライ」
好き嫌いはいいさ
けどその手前の決めてしまう根っこの問題がありそう


5671
この世界では時に キライな相手とも
手を組まなくてはならない
ことがあり 付き合い方が必要だ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5672
ことばの人が言葉を放った
微かに冷気が見えて
他人(ひと)に触れて転がっていった


5673
転がり落ちた言葉たちは
すれ違いの物語の枠の中
ひんやりと鈍色(にびいろ)で横たわる


5674
ことばの人が言葉を放った
やわらかな日差し色の
他人(ひと)に触れて静かに染みていった


5675
染みていった言葉たちは
沈黙の森の中
木の淡い花々になった




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5676
ひとりひとりの(それ イヤだなあ)
に加えて この列島の織り成す
時間の《それは イヤだ》がありそうだ


5677
ふたつは同じ一つに見えて
同じ土に育ったひとりひとりには
小さな自力の息づかいがあり


5678
(イヤだなあ)の力線や
分布などを
ひとりひとりのものとして持っている


5679
(イヤだなあ)を根の方に下ると
《イヤだ》に出会う
干上がった湿地に出るような気がする




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5680
(その戸を押してしまったら
もう元には戻れない)
習俗や規範や倫理に織り上げられたこの世界の縁


5681
(このドウシヨウモナイ
袋小路には
もうまぼろしの一本道しかない)


5682
(通信ハトダエタ
犯罪カドウカハモハヤ関係ナイ
タダ固ク閉ジテイク バカリダ)


5683
今日も世界の縁から
この世界の苦を鏡に映すように
投身していく者たちがいる




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5684
この世界の縁から脱けるのは
社会的な死以外に
もうひとつまぼろしの道がある


5685
人里離れた家に
ぽつんとひとり
住む住まぬは関係なく


5686
自分ひとりの内から
この人間界の城壁を越えて
下って行く ほら今 下って行くぞ


5687
数々の自然の声にかき消える
あらゆる人の声が静かに腰を下ろす
大いなる自然 と言うほかない巨大な椅子に


5688
そうしてこの世界を脱けても
生きてる限り
還って来なくてはならない シン・人として




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5689
生きていれば何とか還り着く
旅の荷はなく
自分の部屋は以前と変わらない


5690
いつものように腰を下ろす
と 肌合いの感じで
なぜかしんしんとする


5691
微かな〈しんしん〉を集めて
束ねると
〈シン〉という音や匂いになった


5692
シン・ぼく ぼく・シン
何だか新しい
かんしょくから匂ってくる シン・




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5693
降り積もった歴史的現在の重力を受けて
ことばの人は
瞬時に 自然に ことばを想起する


5694
けれど言葉が形成(かたちな)し生まれ出るのは
そんなに簡単なことではない
いくつものバリアーを脱けたり戻ったり


5695
大気に触れてブラウン運動みたいに
うごめき ぶつかり 反射する
しばらくして〈あ〉がようやく水から上がる


5696
だからひとつひとつの言葉の
選択・転換・喩には
小さな迷走の物語が併走している




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5697
ほんとうは意味もなく
飛んだり跳ねたりする
そんな時間がたくさんあった方がいいな


5698
意味過剰と価値過剰の現在に
カチカチ山から
ムイミに鼻歌歌い下ってくる いいね


5699
もやもやすることが多い日々の
気晴らしみたい
海が凪いでキラキラしてる いいね


5700
時には ひとり
海辺の砂浜に座り
砂をムイミに積んでいる いいね




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5701
遙か クニのない時代
人は何を第一とし
日々を渡ってきたのだろう


5702
凪(な)いでいた時間の海から
クニや国が急浮上して
心魅(ひ)かれ萎(しお)れもやもやしていった


5703
それでも人は相変わらず
第一のものを抱きしめて
日々を渡っていく


5704
そうしてこの特殊アジアの病の
愛国や懐国が
相変わらず〈ひとり〉に取り憑いている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5705
本来ならばクニや国は
その芽くらいはあっても 家の中にはいない
力はあっても 抽象の 人でなし


5706
人が操(あやつ)っているつもりでも
人波に乗って 国は
クールランニングもあれば暴走もする


5707
愛国でなくても「勉強しなさい」にも
社会の主流や国の表情が
父や母の背後霊としてある


5708
やっとまた クニ以前の 国よりひとり!
の時代になったのに
古めかしい特殊アジアの愛国の亡霊が蠢(うごめ)いている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5709
自分と 自分自身 他者 組織
三つのつながりを 日々
ほぼシームレスに行き来している 自分


5710
三つのつながりに湧き立つ
このクニの 自分の 幻想たちは
位相は違っても同型だろう


5711
だから一つの局所での出会い
の 好きやキライにも
ひとりの全体像が滲(し)みている


5712
それでも人は (そんなのカンケイねえ)
とひとりひとり
自分の日溜まりを生きる




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5713
ひとつの言葉は 遙か始まりは目の前で
次に対象不在で
今やそれらはシームレスで 表出される


5714
前景を持つひとつの言葉には
宇宙も他人(ひと)も自分も
後景に滲(し)みている


5715
ことばの人となってしまった
からには もう
言葉なしには生きられない


5716
ことばの道に入り込む以前も
人は やっぱり
ことば色の夕日や木の葉を呼吸していたのだろう




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5717
いつもの風景の中に
ひとつの言葉が
椅子に座りひとつの場所を占める


5718
ひとつの言葉の中にぎしぎしするんと入る
広く深い空洞
の中を滑(すべ)っていく


5719
ひとつの言葉が吐かれる
までのためらいや
吐かれた後の解放感が漂っている


5720
ひとつの言葉は人の手で選択され
人の意志の印が押される
そうして舞台に現れる




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5721
遙かことばの人の始まりは
無邪気な子どもみたい
言葉をなめ回し転ばしていたのだろう


5722
ことばの人の青年期には
もやもやを持て余し
悩むことばの人になってしまった


5723
ことばの人の壮年期は
明るく振る舞う言葉でも
ドロッとした本心みたいなものが漂っている


5724
ことばの人の老年期は
高が知れてることばのからだゆえ
無限の可能性みたいなCM言葉を使わない




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5725
例えば万葉期には
ストレートな心根の
言葉の川が勢いよく真っ直ぐ流れた


5726
局所キラキラの平安期には
人工の小さな流れに引き込まれ
言葉は巡る曲水の宴


5727
キンキラキンと言葉の細身を上り詰める
新古今 それでも周辺には
西行みたいな異類のことばの人もさ迷っていた


5728
古今集の仮名序あたりから
言葉って何?が始まり 言葉に底流し
今もさらなる深みにはまっている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5729
言葉は自由自在だ
空も飛べば土中にも潜り
リアルもバーチャルも突き抜ける


5730
言葉は大言壮語
政治家みたいにウソも平気だ
でもことばのからだは切り離せない


5731
言葉には黙して語らない
ということがあり
日々黙々道を歩く


5732
それでも言葉は
時に夢を見る
あの無邪気だった日々よ そしてそんな未来よ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5733
言葉が風に揺れている
風のせいか 葉の意志か
揺れは多様だ


5734
葉揺れの現場に下りてみる
動きの瞬時
を捉えるのは難しい


5735
けれど触れてみたいんだよな
言葉の現場に
快不快 意志従順 開放自閉・・・


5736
上の方では 議論している
やり合っている
言葉の秘密の部屋は閉じている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5737
ひとつの言葉が下りてきた
空気が軽く張り詰め
こちらのことばが自動起動する


5738
ひとりの内でも
そんなことがあるけど
他人の時みたいに張り詰めることはない


5739
人と人とがひとつの場にいると
場の温度が上下動して
言葉と言葉がブラウン運動する


5740
言葉と言葉がぶつかり合うこともあれば
張り詰めた沈黙の渦中
言葉と見えないことばがぶつかり合うこともある




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5741
自分の家(うち)でくつろいでいた
言葉たちが立ち上がって出かけて行く
そこやあそこに座ると変身する


5742
自分の家(うち)で自然にやりとりしていた
言葉と言葉の通路
はガシャンと閉ざされてしまった


5743
もうそこでは自宅と違う
言葉の服やマナー
歩み方をするしかない


5744
自分の家(うち)では笑い話
にすぎない言葉たちが
そこではゴチック体で生真面目に歩いている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5745
がまんして食べることもあるが
食べ物は
好きかキライで別れていく


5746
人の日々には好きかキライ
のスペクトル
が深く日差している


5747
きっぱりと割り切れない
でもやもやする
帯域に立っていることも多い


5748
好きかキライにくっきりと
別れていく
その深舞台には語られていないことがある




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5749
好きかキライは理屈じゃない
と思えることが
その淵源を語っている


5750
好きかキライは考える前に
自動起動する
感情の波が急に寄せて来る


5751
遙かな胎内の大洋の
日々のさざ波大波
深ク刻マレテイル 波の物語


5752
気づいた時には自然にできていて
歩み出すように
自然さの深みには物語が沈み反復されている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5753
キライから好きになる
命あるものでなければ
可能かもしれない


5754
命あるものは動く
かく乱したり増幅したりする
とキライは感じるのかもしれない


5755
キライからせめて中性へ
行く長く困難な道は
ありそうに思える


5756
個や集団などの抜け出る道がないなら
いろんなレベルの戦争が
終わることはないことになる




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5757
人通りの少ない道で
知らない人とすれ違うとき
あいさつされることがあり


5758
あいさつされたらこちらも
あいさつする
小さく波面が揺れて静まっていった


5759
同じ地域に暮らしている
縁からか
ともかく自然に流れ出して来る


5760
外国の知らない人々にも
小さく波立つことがあり
心が焦ってつんのめることもある




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5761
もうなんにも言わなくていい
内なる丘陵地に
日が差しやわらかな風が流れている


5762
そんな時には少し固い言葉の椅子ではなく
やわらかな風の椅子
の方に座り続ける


5763
砂場で砂の家や町並みを作る
黙々とした心の手には
言葉が要らないように


5764
(ああ いい天気だ
風も優しい)
と無言のことばの肌で感じている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5765
歳のせいや病気のせいによって
いつもはすっと通り過ぎていた草花が
やわらかに内に花開いてくることがあり


5766
木の葉の緑が
雨の後でもないのに
みどりにつやつやかに見え


5767
生きてる実感の椅子に
ゆったりと
腰を下ろすことがある


5768
人間界の今の急な流れから
ちょっと身を引けば
それだけでもう しっとりみどりの景色が浮上する




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5769
ことばの人が言葉通りを歩く
言葉通りに入るぞ
と意識しなくても入っていることがあり


5770
ふく気付くと無意識のように
自然に
内語をつぶやいている


5771
ことばの人は どこかで挨拶を述べる
正式書類を書く
そんな意識的振る舞い以外が多い


5772
言葉通りでつぶやく内語以前もあり
アカルイ クライ カルイ オモイ
言葉の水溜まりを踏んでいく




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5773
この列島の温和と呼ばれた言葉たちも
SNSの匿名舞台ができて
言いたい放題やけんか腰の言葉もにぎわっている


5774
「温和」な精神の遺伝子でも
例えば戦争になると 鬼畜米英 欲しがりません勝つまでは
恋愛禁止 などなど古い回路が流れ出す


5775
状況はひとりを蹴飛ばし言葉場を制御する
状況言葉は制御され さすれば
裏金通りを歩いているのに平気で人の徳目を説く


5776
不毛に思えても言いたいことは
きちんと言った方がいいさ
(温和を脱けて 一滴)クソッタレ!




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5777
言葉通りはにぎやかだ
表通りは やさしく 無権力で
映像や音楽を駆使してもてなしてくる?


5778
言葉通りはにぎやかだ
中通りは 忙しく 時間に追われて
価値の階段を日々上り下りする


5779
言葉通りはにぎやかだ
バーチャル通りは 国家社会に憑かれて
くまモンみたいに威勢がいい


5780
言葉通りはひっそりしている
裏通りは ひとりサイズ
世界の網からこぼれて黙々している




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5781
言葉は 言葉で他の言葉を追い落とし
ギュウギュウと
ねじ伏せようとする


5782
勝ち組やら負け組やらが
言葉によって浮上する
けれど言葉の存立を決めるのは〈人間の本性〉だ


5783
確かに言葉は自由だ 恣意的だ
何でもありだ
4回転アクセルのアクロバットもお手のもの


5784
それでも長く生き残る言葉は
主流を流れる
〈人間の本性〉通りを通って来るはずだ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5785
人は、桃源郷や小国寡民、ユートピアなど
みどり葉の理想の世界を願い描いてきた
そうして意識的な革命の物語を実践した


5786
小は企業爆破から大は中露の革命まで
ことごとく血塗られて
密告暗黒強制収容所と無惨な失敗に終わった


5787
終わったんだ 人類の〈革命〉は 今や
『猿の惑星』の
自由の女神像の残骸みたいに横たわっている


5788
それならば薄暗い舞台裏で暗躍する国家社会の渦中
ひとりひとりの無言の〈かくめい〉と権力の内省が
揺さぶり居住まいを正させる自然に任せる外ないのか?




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5789
人のキチキチと詰めていく一面を
全てのように見なし向かうと
人はのんびりゆっくり面へ脱け行こうとする


5790
例えば建前の学校の先生は
子どもらがするりと抜け出る中
啓蒙主義の不毛な永久革命の道を歩んでいる


5791
晩年の吉本さんがよく語っていた
ものごとを過ちなく捉え尽くす
にはお猿さんからたどり直すほかないと


5792
(今は少しわかるような気がする)
そうでないと モチーフの如何に関わらず
多面の人間の本性・本流から外れてしまう




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5793
Since 2015.2.2 毎日歩いて
十年目のはじまりのことばの空か
やっとここまで来てしまった


5794
いろんな分野に十年選手たちがいる
いる いる いる
(少し意識して 半ば以上自然な手付きをくり返して来た)


5795
拡張すれば、あらゆる生き物は
中途で倒れたものたちに黙礼しながら
次々に十年選手を越えていく


5796
恒河沙(ごうがしゃ)みたいな
水と日差しを浴びて
ガンジスの岸辺から飛び立っていく




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5797
十年を越えてどこへ行くのか
なぜ歩み続けるのか
わからない (わからないとしか言いようがない)


5798
森も大地も星々も
しずかだ
ほんとうに静かだ


5799
そんな道を生きものたちに遅れて
人も黙々と通って行く
となりの言葉通りを歩いていく


5800
十年目の大空の下
ベンチに座り見渡している
一滴(ひとしずく)の感傷に染まって また立つ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5801
例えば気づきは風だ
積み重ねられた楽屋の時間の方から
新しい風が吹いて いる


5802
(ああ きみが運んでくれたんだ)
風が真新しい服を着ている
(これを知らせに来たんだね)


5803
そんな特別の出会いの日には
好きな飲み物を
ゆっくりと飲み味わえばいい


5804
きっときみは歩いて行く
奥深い森の
静かな みどりの道




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5805
言葉にも粒子と波動との二重性があり
いずれの見え方も
自然に現れて来る


5806
ほろほろと言葉から滴(したた)る
悲しみの
微細な粒子たちがあり


5807
言葉たちが力強く屈折していく
熱狂の
波動の束がある


5808
粒子と見ても波動と見ても
言葉の存在感を
見誤ることはない




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5809
ことばの人が流れに入った
言葉が選択される
と 小さな火が生産≡消費される


5810
ことばの人は生み出した言葉の
薄明かりの下
言葉に触れる言葉を撫(な)でる


5811
瞬時の内に言葉は次々に
選択・接続されて
言葉たちは青白い火花を放ち始める


5812
悲喜交々(こもごも)の微粒子たちが
飛び交っている
そうして大きな幻のうねりとなって流れ出す




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5813
遙か ことばの人の
始まりの言葉は
幼子の不定形の言葉みたいだった?


5814
全てのことが後からの視線
でしか追えない
わけではないが それが自然になっている


5815
始まりの現場よ
今ここの そのもの
をぼくらは誰も語れない


5816
ただ想像の 内からの視線
が慎重に下りていく
今ここに下りていくように 下りてゆく




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5817
〈普通〉に気づくことは
普通の流れの
外れや外からやって来る


5818
例えば少し大きな病になると
何気なかった普通の
重量に思い至る


5819
普通を普通とも思わず
普通に
その内側を誰もが歩いている


5820
もちろん普通もよくかき混ぜると
虹色で
普通もフツーもふつうも泳いでいる




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5821
他の生きものたちは たぶん
自然に溶けて
走り出し飛び跳ね眠る


5822
ことばの人となってしまった
人だけは
今でも自然に溶けながら目覚めてしまった


5823
目覚めてしまったから
〈宗教のようなもの〉から
〈善〉と〈悪〉の言葉たちが抽出された


5824
沈黙の内を流れる風につぶやいていた
〈ああいいな〉や〈それはイヤだな〉
が寄せる〈善〉や〈悪〉の言葉の流れに浸かり染まってしまった




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5825
産まれ育つ中でいろんなものを受け取る
ゆずり葉というよりも
人は人類の陽と影を刻みつけられる


5826
人によって固有の微差と
列島人の 縫い合わされた
共通の仕草が自然な顔になっている


5827
ある者たちは縄文の海進や海退の
右往左往を語り継ぎ
肌に刻んだ 稲も入っていた


5828
また遅れてやって来た者たちが
干上がった湿地に
本格的に稲作を始めた


5829
人が行き交い混じり合い
日々の長いくり返しの中
言葉も風習も習俗もひとつに縫い合わされる


5830
単一の 純粋に見える
日本語を日に透かして見る
と 微かな 毛羽立ちや別文様や・・・




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5831
日曜朝のニュースに何気なく乗る
ゆりかもめ
がやって来た 乗る


5832
ゆり・かもめ ゆりか・もめ
初めて乗る
座り心地がもやもやする


5833
ああ もう行ってしまった
ゆりかもめ
時々 少しヘンに言葉が匂うことがある


5834
自分のせいか 言葉のせいか
少しはわかっても 深くは追えない
ゆりかもめを降りる




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5835
ことばの人は嘘をつくことができる
日々の生活に
ひびを入れないためウソをつくことはある


5836
あるいはことば遊びから
ウソをつくこともあり
ウソとホントの間を軽快に滑っていく


5837
さらに人を巧妙に誘い込み
物や心を吸い取る嘘もあり
次々に食虫植物の中に消えていく


5838
最後にはCMみたいな
いい人いい風景いい言葉
の中にもたくさんの嘘が溶け込んでいる




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5839
今年は暖冬のようだ
朝の空気も
例年ほど冷たすぎることがない


5840
冬の朝 昔の水道の水は
ズキッと冷たく
身を固くして顔を洗っていた


5841
今は給湯器からの水で
温かい流れに
身を解(ほど)いて顔が洗える


5842
厳しい自然の姿が予測・対応され
マイルドに薄められてきた
それでも時には自然の猛威に笹の小舟状態になる


5843
水利用の姿形も大きく変わったが
水は今日も
人の肌に触れ内に入り巡り巡って流れ下っていく




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5844
太古の人々から伝えられてきた
微かな
骨太の文体があり


5845
この世界と人との関わりと
この世界で生まれ変わる人のあり方が
長老の柔らかなゴシック体で語られてきた


5846
文体とは精神の織り成し方であり
人の力が微力であった
歴史の段階の謙虚さが自然と籠もっていた


5847
人力を増した現代では世界は殺伐としている?
それでも 通り過ぎた太古のように
ただ黙々と人の影が今も歩いているのが見える




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5848
ことばの人が 語る 書き付ける
世界が全てではなく
言葉の通りには言葉にならない流れもあり


5849
言葉通りは沈黙の通りに
通じていて
ことばの人は言葉と沈黙とを呼吸している


5850
だから 表れた言葉だけを
受けとめ
味わえばいいのではなくて


5851
誰もがある全体像に出会おうとして
自然と 言葉の通りから
沈黙の通りまで出向いていくのである




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5852
例えば 戻ってきた若い青江又八郎が
長屋の井戸端で
おかみさんたちから声かけられる
その時の返したぽつり言葉とはにかみの表情


5853
背にはどこからともなく迫って来る不穏
(その由来はわかっている)
不穏を抱えていても 青江又八郎は
日々用心棒稼業に出かけては長屋に戻ってくる


5854
自分の長屋に近づくと
きっちりと結んだものが
少し解(ほど)けて
いい匂いも漂っている


5855
ドラマがぼくに見られている
ぼくはドラマの内に入り込む
そうしてまた
たぶんぼくも誰かに見られている

註.
青江又八郎(役 村上弘明)は、藤沢周平原作のドラマ『腕におぼえあり』の主人公。




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5856
まつ 人は待つ
待つ待つ待つ待つ
待っているとマツマツする


5857
マツマツする光景のなか
待ち続ける
すると すとんと順番が回ってくる


5858
待っていたことは忘れて
少し解(ほぐ)れ 入る入る入る
開いたドアを押していく


5859
待ち終えたからといって
さわやかな風
とは限らない部屋に入る




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5860
「私 待つわ いつまでも待つわ」
と歌われても
とても困ってしまうな


5861
いつも誰かに待たれている
いつも誰かを待っている
なんて プレッシャーだな しかも不可能の足音


5862
確かに 死は カフカの『城』みたいに
わたしたちを 静かに
待ち続けているのかもしれない


5863
そんなこと考えて
日々歩く
旅をするなんて うんざりだな




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5864
待つということにも
起承転結の
小さな物語がある


5865
待ち続けて さらに待って
「待てど暮らせど」
に終わった一日もあり


5866
待ちに待ちを重ね 待ちかねて
マチマチ感の中
「待ちに待った」ものが現れることがあり


5867
待ち続けて 自力や自己責任を越えた
霞(かす)んだ峠があり
もうそこでは「果報は寝て待て」と寝転ぶんだ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5868
急にドアが開いて訪れた
面倒な問題の
舟にしぶしぶ乗る(ともかく出立しなくては)


5869
晴れの日もあれば天候不順もあり
「待てば海路の日和あり」とつぶやきながら
ともかく舟を進めていくんだ


5870
早め早めに仕上げて後はのんびりしよう
から期限近くまでズルズル
のんびりやろうに変わってしまった


5871
いずれにしても「歳月人を待たず」
と気にしすぎはよくないな
できるだけゆったりと舟に乗っていたい




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5872
こことそことあそこに出かけて、
しばらく待って
知りたいことを尋ねていた(ああ 疲れたな)


5873
今や居ながらにして
知りたいことは
ある程度検索できる(ああ なるほどなるほど)


5874
出かける・ドアを開ける
待つ・聞く・調べる
の全体がぐらりと入れ替わった


5875
待つことの新たな物語と
心の波立ちは
新たな時代の慣用句を促している




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5876
「あなたはどうしますか」
と言葉で あるいは沈黙の内に
迫られることは多い


5877
上は法から あるいは他人から
下は詐欺まで
「どうするどうするどうする」


5878
たいていの場合「どうするか」は
気楽なパズルの進め方
をどうするかとは違っている


5879
こちらの感じ考えと
向こうの決め事と
接触面に火花が飛んでいる




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5880
ぼおっとして一線を越えたら
飛んで火に入る夏の虫
気に入らない制服も身に着けなくてはならない


5881
そうしているいるいる
気に入らないものたちが
いるんだよなあ


5882
がまんして一線をキープしていると
いろんなものが溜まり
言葉も重く濁っていく


5883
(これが生きることか)
繰り返される自問は
いつも弧を描いて落ちていく




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5884
がまんし過ぎると 黒いものが
ガマガマガマガマガしく
溜まっていく


5885
一線が霞(かす)んで
夕暮れから
黒い森にすべり込んでいく


5886
ジタバタジタバタ
タバタバタ
堂々巡りして出口が見つからない


5887
圧に任せて蹴破ったら
何かが割れ砕け
地が流れた 血が流れた




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5888
時折ガラスの心 毛羽立たせ
没入して
一線を越えて負世界に落ちる者たちがいて


5889
無言たちの外側を擦(かす)り
ニュースの表層に
浮上してくる言葉と映像


5890
大多数の者たちは
一線の手前で
身に染み込んだてつがくで立っている


5891
頼りなくてもその古ぼけた
継ぎ接(は)ぎの
てつがくしかない 一線を守る




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5892
いいないいな
面倒な書類を書き上げた
後の小さな風はいいな


5893
いいないいな
行き違いすれ違いの
後の新たな出会いの風はいいな


5894
いないないないな
否定の言葉ばかりでは
小さな風は流れない


5895
無無無無無 無しか
ないと思われたら
小さな風を呼び込む小窓を作らなくっちゃ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5896
ことばの人が揺れている
ひとつの言葉へ
定まらない (揺れる)


5897
その言葉を足がかりに
言葉の坂を
上って行くか 下って行くか


5898
揺れている 揺れているということは
世界が まだ
舞台に上っていない?


5899
言葉は 一つの世界を呼び出して
ふさわしい衣装を着せ
表情を絞り出し踊り出させる




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5900
ことばの人が足踏みならす
すると 舞台上の
小さな世界が動き出す


5901
ことばの人のリズムに共鳴して
世界には
リズムの風が流れ出す


5902
そんな小さな世界が
見つめているのは
この現在の渦中の世界だ


5903
ことばの人を背にして
小さな世界が 目を上げて
歌い踊っているよ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5904
生み出された作品を
ひとりの作者から解き放すと
現在という作者が抽出される


5905
ひとりひとり 現在の渦中にあり
現在の大気を呼吸し
幻のたましいの交換(獲得・贈与)をしている


5906
現在の大気は 固有の他者ではなく
まぼろしの巨人のからだの
マス・イメージだ 血は流れていない


5907
だからひとりが生み出した作品でも
現在の方に解き放てば
マス・イメージの巨人の振る舞いに見える


5908
でもしかしそうは言っても
作品はひとり
の固有のからだでイヤイヤをするのである

全体の註.吉本隆明『マス・イメージ論』を思い浮かべて




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5909
有名という名ののれんの内から
表現されようと
素人という門口から表現しようと


5910
にんげんの表現では同一だ
ただ 手の習練による
慣れ 深さ 鋭さ 柔らかさの


5911
違いはそれぞれ確かにあり
内から汲(く)み上げる
固有さが普遍の色合いを放つ時


5912
あらゆる作者たちは
今ここを生きる人々や
未来の通りを歩く人々と出会うのである




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5913
無音と感じている
感度を上げると
いろんな音が聞こえてくる


5914
水中の魚たちや虫たち
無音で動いている
超高感度の耳目にはにぎわいが泡立っている


5915
言葉通りを黙々と歩いている
ことばの人も
それぞれの音が波立っている


5916
自分でも気づかない
そんな音の波が
語り出す言葉にまとわりついている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5917
沈黙と発話 沈黙と書字
峠の手前と向こう
言葉の道は通じている


5918
沈黙から語り出すとき
確かにある変位はあっても
対立する境界ではない (ただ何かが飛び立ってしまう)


5919
この場で 沈黙して 何も言わない
それは明らかに
寄せ来る場では受容に見える?


5920
反と受容はそんなに単純ではなく
反でも受容でも
沈黙もあれば発話もあり




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5921
今 この場に いる
場は多層多重での気配があり
今この場にはいろんな層が響いている


5922
今この場で終わることもあれば
ずっと後まで
保留の後引くこともあり


5923
ことばの人もすっきりしないのだ
だからそんな時は 発声練習みたいに
あ、ああ あ とか言ってみるのである


5924
ものごとをすっぱりと切り落とし
鮮やかな断面!
と思えてもまだ何かが残しているような




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5925
いろいろな書体があるように
今ここを生きる言葉も
いつも尽くせぬ思いを抱えている


5926
澱(よど)みないゴシック体もあれば
言葉の水面と水面下に
行きつ戻りつのかすれた変体仮名もあり


5927
書体を渡り歩いては
しっくりいかない
心をなだめようとする


5928
けれどそれは言葉を持ってしまった
ことばの人の
言いようもない 定めにちがいない




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5929
ことばの人のからだに
身に付けてしまった
さびしい衣装を一時脱ぐ(脱げるのか?)と


5930
透き通るまっ青の
青空が
現れるわけではなく


5931
それでもそんな丘陵地に寝転んで
つかの間の夢心地に
うたた寝することはあり


5932
目覚めると少し着心地の悪い
衣装をまた身に付けて
何事もなかったように見慣れた道に出る




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5933
現在の渦中(自分の背中のようによく見えない)
去って行った女(ひと)の
カチューシャ(髪留め、髪飾り)は何色だったか


5934
今は(昔は?)よくわからない
何かが流れているのか(いないのか?)
通りを歩いている(それは確かだ)


5935
認知症は身心の大きなつまづきか(病の境界は?)
誰もが軽くつまづくことはあり
笑って済ませている


5936
思い詰める積めると(うっ 重い)
後ろの方に峠が見える
こんな人気(ひとけ)無い所まで来たか




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5937
新しい物語やドラマに入って行く
見慣れない光景 人 人 人
右も左もよくわからないな


5938
不慣れや戸惑いばかりじゃない
心ひかれもあり
物語やドラマの森に入り込んで行く


5939
そうして人はみな
世界に立ち歩き
歩いて来たんだろうか


5940
今ではこの世界の
色んな言葉たちにも
慣れてしまった しまった




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5941
ベンチに座らなくても
ネットのベンチに座る
いろんな言葉たちが通り過ぎて行く


5942
こちらにやって来る言葉もある
無音の中から(じじじ)
言葉には響きがあり(ジジジ)


5943
この世界の表層の主流にはカースト制とまでは行かない
歪(ひず)んだ価値序列があり
言葉が流れに乗ってくる (ジジイ?)


5944
〈老人力〉を生み出した赤瀬川原平や
〈超人間〉という言葉を編み出した
老いた吉本さんの内側がわかるような気がする




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5945
何かいい いいなあ 好き
とっても好き
からだを解(ほど)いて下って行く


5946
何かいや いやだ 嫌い
とっても嫌い
からだを固くして閉じていく


5947
普通は好きでも嫌いでもなく
まあ自然に
出会い通り過ぎる


5948
ひとりの感情の源流には
転写された 列島で培われた母の物語があり
遠く現在まで流れ下ってくる?

註.吉本隆明『母型論』の横に立って。




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5949
自分の部屋の片付けは
自分でするほかない
捨てるものは捨て 残すものは再配置する


5950
少しずつ見晴らしよくなっていく
片付け作業にも
人の固有の癖が出る


5951
ネット社会の魔術から
耳目も責任も届かなかった遠くの事象が
まるで自分の部屋の出来事みたいになった


5952
重たい人事もあれこれ再配置したり
片付けたり
簡単にできそうな魔法に掛けられる




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5953
ひとりの小さな言葉にも
大きな世界の
風やみどりが波立っている


5954
この世に生まれてことばの人は
母や身近な人から
世界を丸ごと口移しされる


5955
そんな世界を核として
言葉と共に
世界も深みを増していく


5956
バカなことを言ったりしたり
することがあっても
夢の中では世界の核に触れている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5957
社会の生産交換消費
の熾烈な現場からは
たぶんひとりの無言は見えない


5958
無言の内のひとりの人
(そこから見えるかい?)
も外界と小さな生産交換消費を行っている


5959
「ただぼんやりと通りを眺めている
だけじゃないか」
では見えない ことばの微世界があり


5960
誰もが 今ここに
小さな火を沈めて生きている
(生きているなあ)




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5961
こわばったことばの手
をちょっと休める
からだに日差しを受ける (あったかい)


5962
家の外に出ると いい天気でも
なにかと身構えている
自分がいる ふと影を振り返る


5963
外では自分の影の上を
いくつもの言葉たちが
普通に通りすぎて行く


5964
お互い様だけど
外では人は
配慮が過剰か過少だ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5965
初めは不慣れで先の見えない
みちでも
次第に踏み固まって流れ出す


5966
(ああ これが普通や自然
ということなんだ)
と丘の上に立って思う


5967
下の方のことを忘れてしまった
わけじゃない
でももうここまで来てしまった


5968
踏みしめる足下には
いくつもの
小物語たちが横たわっている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5969
誰も考えたことがないことを
考えてみる 青年期の夢
言葉を超えることは可能だろうか


5970
誰かが考えたことの沼地
を広げたり深めたり
できるだけじゃないのか


5971
誰もが感じ考えること
は月並みで色褪(あ)せ
オールドファッションに見える


5972
歩き出して若者になると
オールドファッションを脱け出し放浪し
壮年過ぎたら家に帰って行く




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5973
まず始めに幼児の
ふと突き動かされた
初めての声があった 言葉の幼年期


5974
上がるひとつひとつの声に
沈黙の世界が
微かに揺れているように見え


5975
応じる世界の枝葉に幼児は笑い
声の響きに
身をふるわせ手足と歌う


5976
期待した 思いが届かず
身がよじれる時は
世界に向けて涙を歌う 詩の幼年期




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5977
学校にエンクロージャーされた
土ぼこりの少年期
遊びに熱中する歌は無償だった


5978
慌ただしい青年期になると
世界が傾いて
こちらにあれこれ圧をかけ規制する


5979
言葉の幼年期には 詩は
世界への讃歌だった
言葉の青年期には 詩は不在への問いかけになった


5980
初めひとりひとりのものだった詩は
言葉の青年期には
専門詩人が登場しはじめる 詩の青年期




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5981
人間社会にほとんど取り込まれてしまった
天と地が分離してしまった 言葉の壮年期
地で働くばかりは嫌じゃないが窓がない


5982
言葉の壮年の効率競争成果らが
社会の主流を覆(おお)い
カチカチ山に日が上り日が沈む


5983
世界は人間界の区分された小社会
を日々行き来して 疲労野
詩の言葉はひとりひとりの奥深く潜(ひそ)んでいて


5984
夜更けに脱け出た専門詩人たちは
遠くまで耳を澄ませながら
歌の不在の詩を歌い始める




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5985
世界に向けて歌う詩に限らず
あらゆるものは
変位変貌を遂げ老いていく


5986
言葉の老年期は後ろ向き
内省的になり
専門家の手のなかで言葉の老いを迎えている


5987
もちろん 非専門詩人たる
大多数の人々は 日々のすき間から
詩と意識せずにふと詩を歌い出すことがあり


5988
たぶん 未来のどこかで
専門詩人と非専門詩人たちは 衣装を脱いで
あらたな詩の場所に出会うのかもしれない




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5989
宇宙から眺めると ことばの人である人が
生きて呼吸している
言葉自体が詩である 遙かな光の粒の揺らぎ


5990
狭い人間界内では
非詩的なことばかり
生み出し消費しているように見え


5991
どこからどう見るか
人もものごとも
視線毎に多様に浮かび上がり


5992
けれどもうそれ以上は行けない (宇宙の果て?)
絶対的な視線
絶対的な場所がありそうな気がする




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5993
太古には宇宙も大地も
ひとつながりの世界
洞窟や粗末な家屋から恐る恐る眺めていた


5994
人の感じ考えもひとつに溶け合って
宇宙と大地はひとつながり
慈悲と無慈悲の日差しを浴びて来た


5995
そんなひとつながりが生み出した
仏教の阿弥陀如来は
黙する宇宙の内省に見えたのか?


5996
近代以降 今や宇宙と大地は分離してしまい
時にふとつぶやき出される
ひとつながりの言葉は太古以来の名残か




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


5997
「今日一日の感想を書いてください」
(かんそう?)
別にありません


5998
「昨日と違うこととか何かあるでしょう」
(そんなに言われても・・・)
本当に何にもありません


5999
「じゃあ何にも考えずに毎日生きているんですか」
(そんなに迫られても・・・)
いや、そりゃあ人だから、感じ考えますよ


6000
ではあなたはどうなんですか
「私の今日一日の感想は
良い日小旅を終えた です」




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


6001
雨が降っている
(今日は一日雨や雨模様だった)
明日の日曜はもっと激しい雨予報


6002
天気は避けられない用件に似ている
(その圏外に居続けることはできない)
雨の渦中を潜り抜けていく


6003
天気はぼくの行動を規制する
人事と違って
作為や意図を感じることはなく


6004
まさしく自然にぼくが
意志して行動している
みたいに見える感じるのだ 天気行




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


6005
気にもしなかったこと
が指摘されると
ひとつのスペクトル帯が現れ座る席を問われる


6006
農業中心からサービス業中心へ
ガラガラと入れ替わり
人は人を過剰に気にするようになった


6007
以前は作物と静かに目で対話しながら汗を流し
年中行事や祭を除けば
あんまり他人との行き来もなかった


6008
木々や作物の自然波の呼吸から関わり合う人間波の呼吸へ
産業社会の転換が
絶えず人の心にさざ波立てている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


6009
どうしても冷たい所があって
全体に温(ぬく)もりがないなら
冬の冷たい水道の水に耐える外ない


6010
だからあったかな水が肌を流れ
温もりの
染み渡ってゆくのはラッキーだね


6011
いろんな姿形を持つ水が
今ここでは
否定されることなく ある


6012
無理に力こぶを入れずに
普段着のあったかさが
やり取りできる市(いち)なら そりゃあいい




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


6013
溶け合った感覚が触れる 全体は普通味で
(フツーだなあ・・・)
に微かに滲(し)みる微量があれば


6014
そのビリョウがあれば
じわじわと
いい表情へ上がってくる


6015
過剰なCMも説明もいらない
過剰包装もいらない
ただビリョウがあれば


6016
ビリョウを求めて数億光年・・・
(いやいや 足下にあるんだけどね)
発掘・探査が難しい




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


6017
確かに 自分のことさえよくわからないのに
他人のことが
わかるわけない と一応は言える


6018
例えば 話す言葉の感触や
言葉のリズムから
おぼろげには他人の姿形が浮上する?


6019
さらに 行き来をくり返せば
ある謎とともに
他人はより輪郭を感じ取れるようになる?


6020
振り返り 鏡と出会いくり返し
自分自身の場合も
そんな風にするほかないか




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


6021
言葉の始まり辺りでは
幼子みたいに言葉数少なく
言葉の宇宙は靄(もや)に包まれていた


6022
その代わり指し示す力も
心みたいな水圧も
〈う う うう ううう〉と強かった


6023
途方もない時間を潜(くぐ)り
言葉の道も踏み固められて
言葉の宇宙が晴れ上がってきた


6024
近代以降はひとりひとり
共同体から少しずつ解き放たれ
ひとりの言葉が成熟していくかに見えて・・・


6025
時間の流れの中で壊れ果てた慣習の
残骸たちに足取られながら
ひとりひとり過剰な言葉通りをとぼとぼ歩いている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


6026
風が歌っている 「愛のある生活」
「愛がなければ生きていけない」
愛愛 会い 愛愛あああ


6027
「love」もなく「愛」もない
時代が
ずっとずっとあった


6028
今でもCMとは違って
言葉の住居区では
恥ずかしそうにしか「愛」は行き来していない


6029
風が歌っている 「愛のある生活」
「愛がなければ生きていけない」
アイノアル アイ 痛っ アイガナケレバ うっ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


6030
〈・・・〉とか〈愛(いと)おしむ〉とか
の海から浮上して
「愛!」 はちょっとよそよそしい


6031
息苦しくても何度も出会うと
身慣れてはくる
ただ芯の方ではイヤイヤしている


6032
「愛」を載せて海を渡ってきた異人たちは
牛乳を飲み牛肉を食う
(もしかして人の肉も食うのか?)


6033
不慣れな出会いでは
疑心暗鬼や陰謀論が
カビのように自然に繁殖していく


6034
「愛」には異人の匂いがあり
今日もなお
よそ行き通りに飾られている




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


6035
「言いたいことは はっきりと
大きな声で 言いなさい」
もやもやと言うに言われぬものが立ち込める


6036
「はっきりと」言葉に成りきれない
言葉の駅頭の木
言・葉たちが揺れている


6037
例えばその木に咲いているさくら
(いいな・・・)
「美しい」の言葉は感じるものに追いつけない


6038
大樹の木の葉の数以上に
言葉はあるのに
ぴったりの言葉はなかなか見当たらない




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


6039
言葉に詰まるということがあり
言葉の席は その時
注目に静まりかえっている


6040
言葉に詰まる時 ことばの人は
息苦しい水中で
一瞬泳ぎ方を忘れている?


6041
言葉になれない沈黙が
ことばの人たちの
自然な戸惑いの視線を感じている


6042
一瞬の空白の後
身を解(ほど)いて
言葉が水中を泳ぎ出す




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


6043
それで目的地に行けるのか
十分に掬(すく)い取れるのか
自分の言葉をチェックする


6044
他人の言葉もチェックする
あの意味はどこへ着地したのか
危険な匂いが漂っていないか


6045
言葉が飛び立つには
整備士が要る
一応どんな言葉も整備されて来る


6046
ことばの人には ひとりの整備士
ほかにもみんなの整備がいる
みんな言葉ばかり考えている整備士だ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


6047
言葉の街の通りでは
言葉と言葉が交差する
すれ違う 衝突する


6048
強い意図を持った言葉同士なら
入り混じって
広場で威勢がいい


6049
強勢の言葉と弱勢の言葉なら
二層分離して
水と油に鈍く光っている


6050
弱勢の言葉同士なら
コンビニの前で
思い思いに座り込んでいる




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


6051
「・・・で申しわけありません」
(うーむ 駿河いや縋(すが)る思いはないか)
モウシワケアリマセン か


6052
申しノわけ入リテ
ありまアコンナトコロ二
抜ケ道ガアリャアせんカ


6053
「申しわけありません」を非破壊検査する
検査の道筋に くっきりと
言葉の繊維と織り目が投影されている


6054
あえて検査しなくても
言葉たちの匂いや感触は
誰もがことばの肌で直に感じ取る




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


6055
言葉が編み上げる
ひとつの論理として
打ち上げることができなくても


6056
同じ花火を感じている
論理の発射台から
遠く離れて感じている


6057
積み上げられた時間の言葉場には
論理と論理以前とがあり
論理の方が上位と見なされているふしがある


6058
そんな空気に背を押されても
言葉の中に 直(じか)に
花火を感じ見ている実感の方がいい




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


6059
ひとつの論理や法を生み出して
しまった以上
もう後戻りはできない


6060
もちろん 流動する論理や法の隣で
(そんなこたあ知らねえ)
無縁みたいに生きることはできるさ


6061
輪廻転生や禊(みそ)ぎ盟神探湯(くがたち)や
いつの間にか
消失してしまった?


6062
それでも 古い心身は反応している
上から欧米由来の近代の論理や法がかぶって来る
人や世界が軋(きし)みながら動いて行く




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


6063
三千円以内で済ますつもりで
出かけたら
五千円にもなってしまった


6064
三千円以内で済ますつもりを
特に気がけたら
二千五百円だった


6065
心づもりと結果の間には
本人の その場で
いくつもの小物語があり


6066
結果は何でもシンプルだけど
勝ちか負けか
予測通りか予測外れか




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


6067
誰もが流れとは無縁ではなく
流れに浸からなくても
流れからの圧を受ける


6068
ある所から流行も流れ出す
こちらにも流れて来る
無数の流行が現在を揺さぶっている


6069
法や規範と違って流行の圧は弱いから
気ままに着込んで
遊び戯れるのもいいけど


6070
ぼくは身構えちゃうなあ
例えば流行の言葉に出会ったら
コスパタイパ パパイヤとひねくれてしまう




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


6071
生み出されてしまった
法の内では
法は〈価値〉の上下には踏み込まない


6072
ただ 法は遵守されることが〈価値〉であり
背くのは無価値の違法
という法の地平だけが全てのように広がり


6073
一方 文学の言葉たちは
人の揺れ立つ
でこぼこの悲しい〈価値〉の上下を照らし出す


6074
自然な慣れと新しい流行の
揺れ動く現実面には
〈価値〉の上下・新旧の煙が上がっていないか




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


6075
(その線 ちょっと太すぎないか)
言葉通りで感じる
ぼくの横を大きなニシキヘビが滑って行く


6076
(うーん 少し濃すぎるかな)
言葉通りで思う
ぼくにはもっと微妙な言葉の歩き方が必要だ


6077
(おっとー ぶつかるところだった)
言葉通りで避(よ)けた
言葉の冷や汗を感じている


6078
まいにちまいにち人は歩く
言葉通りで
言葉に言葉の言葉から言葉へ言葉する




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


6079
言葉が走る 走る走る
座挫座座座
何かを引きずりながら言葉が走る


6080
言葉が泣いている 泣いているよ
深深深深深
なぜだか言葉が泣いている


6081
言葉が飛んでいる 飛んでいる
飛飛脱 飛飛脱
気持ちよさそう言葉が飛んでいる


6082
言葉が沈んでいる どんどん沈んでいくよ
沈潜深潜潜潜
もう言葉を脱ぎ捨てて沈む




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


6083
言葉の街には言葉の植物園があり
日差しを浴びて 一様に
吸葉(すうは) 吸葉 葉吸吸とみどりの呼吸をしている


6084
言葉の植物園だから
人に集められ世話され
眺められ感じられている言葉の植物たちだ


6085
だから月夜の晩には夜露に濡れて
荒々しい自然の移り行く中での
遠い息づかいを静かに夢に見ている


6086
言葉の植物園の外では
植物たちがどんな日々を生きているのか
ことばの人にはよくわからない




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


6087
言葉の街の言葉の動物園では
獰猛(どうもう)なライオンも
ネコみたいにミャオミャオ鳴いているように見える


6088
言葉の動物園の犬が
無言で遊遊遊と
何度も斜面を下っていくのが見える


6089
捕食関係にある動物たちが
なぜか柔柔柔と仲良くしている
場面も目撃することがある


6090
言葉の動物園で見聞きする
それは間違いではないだろうが
言葉ではエンクロージャーできない動物面もありそうだ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


6091
ことばの人がからだを意識する
間もなく
いくつかのことばの色粒が前面に集まる


6092
水面に急に姿を現す
泡となった言葉たち
次々に舞い上がって行く


6093
ひとつのまぼろしの時空へ
言葉たちが
泡泡泡と分布していく


6094
そんな言葉の森から 言葉の物語と
言葉の小さな夢が
青葉若葉のように匂い立ってくる




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


6095
いつもスムーズにいくとは限らない
前面に出た赤い粒たちが
不安に揺れ出す


6096
ちょっと落ち着いて考えよう
とみどりの粒たちが
揺れる赤を染める


6097
不安に共鳴した黒い粒たちが
薄(うっす)らとして
背後を通り抜けて行くこともあり


6098
ことばの人が主体だと言われても
色んなことが錯綜として
靄(もや)に包まれている言葉場




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


6099
目にも留まらぬ速さで
一瞬の内に
事は成されるものとしても


6100
捉える術(すべ)はある 例えば
ハイスピードカメラの映像を
スローで見るように


6101
対象は 見る目にしっかりと
把捉され
てしまうだろうか?


6102
対象の 内にある動力源と
小さな火
まではまだよくわからないなあ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


6103
〈わかったこと〉と〈わからないこと〉
人や人類が生きる限り
どちらも残り続ける気がする


6104
人も人類も 終局のない
味わいと探索と内省の
旅なんだと思う


6105
もちろん〈死〉によって
人も人類も
途絶えてしまうだろう


6106
それにも関わらず
人も人類も
例えば 〈水は水素と酸素から成る〉をも更新し続ける




詩『言葉の街から』 対話シリーズ


6107
またこの世界に生まれ変わりたい
とは思わないけど
そんな視線でこの世界を見る


6108
と その草この草あの木その木
この人あの人・・・
世界がいとおしくなることがある


6109
亡くなった父母 兄弟
亡くなってしまった知り合いたち
この世界がいとおしいぞ


6110
ヘンな者たちがのさばる
クソッタレのこの世界だけど
自然も生き物たちも人も いとおしいぞ 世界よ




詩『言葉の街から』 対話シリーズ







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