詩集 うさぎのだんす



 まえがき

  詩を書き継ぐわたしの言葉の現在に促されるようにして、徐々に浮上してきたひとつの詩の有り様のイメージがあり、ふと思いついた詩篇の題名がある。もしかしたらそういう題名の詩集があるかもしれないと検索してみたら、あった。詩集『ウサギのダンス』というのがあった。というわけで、詩集『うさぎのだんす』とする。自分の中で、継続中の三詩集との関わりがよく見えない部分があるが、とりあえず始めてみようと思う。
                                    (2014.2.2)



No 題名 日付    No 題名  日付 
入っちゃだめ ① 2014.2.2   21  花が咲いている  2014.2.18
ひがもえあがる 2014.2.2    22 発声練習  2014.2.19 
入っちゃだめ ② 2014.2.2    23 なんとなくおとがなみうっている  2014.2.19 
4  ああ そういえば  2014.2.5   24 均衡点  2014.2.21 
5  今 なにか口ずさんでいる 2014.2.5    25 言葉の接触面 2014.2.21  
こらこら  2014.2.8    26 キーボードを打っている  2014.2.22
あらあ 2014.2.8    27  わからない 2014.2.22   
8  思い起こす  2014.2.10    28 さくら木の下で 2014.2.24
9  あいさつ 2014.2.10   29 大きな声を出さなくなった 2014.2.24
10 うつむく言葉 2014.2.12    30 きらい 2014.2.24
11 ゆらゆら 2014.2.12   31  小景  2014.2.24 
12 あーね 2014.2.13    32  ぐるぐるまわる  2014.2.26 
13 あることないこと 2014.2.13    33 ぼんやりと見える 2014.2.26 
14 ああいいな 2014.2.13   34  今は 2014.2.27  
15  あけびの話  2014.2.13    35  街に出る  2014.2.27  
16 どんどんどん 2014.2.15   36  話し合い  2014.2.28 
17 しこり 2014.2.15    37  飾る  2014.2.28
18 一区切り 2014.2.16    38  交叉する  2014.3.02 
19 恋と言えば 2014.2.16    39  見えないところがある  2014.3.02  
20 うさぎのだんす  2014.2.18    40  目の検査  2014.3.02  


No 題名 日付   
41  日々のあわいには  2014.3.02    
42 こころづもり  2014.3.03  
43 狂言から  2014.3.03   
44  高速度撮影から   2014.3.04   
45 超高速度撮影から   2014.3.04   
46 メリーゴーランド   2014.3.04  
47  ジェットコースター   2014.3.04  
48 歩いて行くよ  2014.3.05  
49 重力の話 2014.3.06  
50  胎内画像 2014.3.07   
51  下るまなざし 2014.3.08    
52 峠にて  2014.3.10  
53 言葉がない と言っても   2014.3.10   
54  なじみの場所  2014.3.10   

 あとがき (2014.3.10 )




 入っちゃだめ ①


そこは入っちゃだめです

いいじゃん
なにか壊すわけでもないし

いいや だめです

ふうーん
なんかよくわからんな

物は壊れなくても
(壊れるものがあるんだよ)

(こわれるもの……)
こ・わ・れ・る

おいおい
入るなって言ってるだろうが
殴るぞ

…………

コノヤロー





 ひがもえあがる


静かに
日が落ちる

ひとつの(まばた)きの内に
反転して
火が落ちる
非が 否が 費が 碑が 秘が落ちる
燃え上がる






いろんなものが
入り乱れて
ぶつかり合い つながり合い
日が
燃え上がる

焼け跡には
死体はない
ただ
通りがかる者には見えなくても
焼け焦げた言葉や
言葉の灰が
散乱している
の が
見える

魔が差した後のように
静かに
日が落ちている





 入っちゃだめ ②


入っちゃだめだよ

……

おいおい 聞こえないのかい

…………

だめなんだよ

ぼくの紙ヒコーキが
飛んで
入って行ったから…

カミ ヒコーキ?

………………

ダメ!





 ああ そういえば


ふと
わきあがる

ああ そういえば
そんなことが あった
こんな場面が あった

悪いことばかりでなく
いい感じのことも
ふうっと
寄せては
返す

時間の波に
今 うまい具合に乗って
滑り出すのは
いい
けど
染みついたバランスから
失速して
波をかぶることもある
くり返しくり返しやってるのに
似た角度に入り込む


日は差し
海は 深みまで
動きを止めることはない





 今 なにか口ずさんでいる


今 なにか口ずさんでいるだろう

いや

口ずさんでいたやん

いやいや
なんにも口ずさんでいないよ

いいや 口ずさんでいた!

ふうーん

………

……………





 こらこら


あっ おー


そんなに大きな声を出したら
いけません

 

こら こら

いけないよ
 ね

あ おー

うーん



なに おじさんやってるのよ






 あらあ


あらあ
おじぞうさんをけったらいけません

なんでや

おじぞうさん

けったら
い・け・な・い・の

なんで

おじぞうさんは
おじ ぞうさんは
大きくて……
おじぞうさん は……

………

(地域によっては
おじぞうさんを引き回したり
川に投げ込んだりして
子どもがいっしょに遊ぶ風習もあった)






 思い起こす


よく思い起こすことがある
過去の情景は
降り積もる時間の砂浜から
拾い出された
ごくわずかの砂粒が
よくわからない物語の断片のように
手肌にくっついてくる

砂粒をこすってみても
他の砂粒とあんまり変わらない
砂粒だけど
なぜかはわからなくても
ひとりひとり
ちがって見える
ちがって感じる
ちがって匂い立つ
ような

くりかえしくりかえし
思い起こす遠い情景があり
歳とともに
いくらか年輪を重ねている
ような





 あいさつ


子どもなら
きょうはよかてんきですね
とは言わないな
おはよう
とか
よっ
とか
おすっ
とか
見知った顔には
いくらか助走を付けて
あいさつを
(瞬時に)
打ち上げる

世代や地域によって言葉が違うように
あいさつにも異なる言葉の地層があり地肌がある
言葉が違う
抑揚が違う
ひとり ひとり 違う
違ってはいても
ひとみな
流れ出す支流は
靄(もや)に包まれた大きな流れから出てくる



10

 うつむく言葉


雨に
うつむく言葉もある

あ 雨か
なぜか窓のかーてんも下りていて
室内の空気が晴れない
言葉が
中心で
ぐるぐる ぐるぐる
もたれていて
曇っている
滴も落ちてくる
カーテンを開け放ったくらいでは
内と外のあめはあがりそうにない

言葉は顔を上げていても
うつむいていく言葉のからだがある

雨上がりの
晴れ渡った日差しを
日々くり返しているうちに
解けていく言葉のからだもあれば
なかなか解けない言葉の骨格もあり

時折 小さく疼き寄せる



11

 ゆらゆら


何ゆらゆらしてるの

だんすしているんだよ

ゆらゆらしてる
ようにしか見えない

イインダヨ
コレデ
イイノ

ソオ

(おりんぴくでは
ダンスの
うちとそとが
熾烈につながり
演技してる
うん?
うんうん
うん?)




12
 あーね


この地の子どもに
なるほどね と言うところを
あーね と言うことがある
自分の流れに触れ 相手に放つ
たぶん感触を楽しんでいるのだろう
あーね
と言う
少し異和があった
わたしの小さい頃は耳にしたことがない
からだに響かない
誰が言い始めて どのように伝播したものか
九州辺りに棲息している
割と新しいものらしい

採集されて
ああね ああね
を何度くり返しても

にはならない

あーね



13

 あることないこと


めでぃあの中では
あることないこと膨らんで
一色(ひといろ)の像になって歩き出す

古事記の中では
ウルトラマンみたいな神々が
某(なにがし)の祖先とある
(そんなばかな)
と思っても
ばかげていると言わない者も
未だに信じる者も
いる

芸能人や政治家などが
象になって歩いている
(そんなことはないだろう)
と思ってみても
象は 生きて 歩いている
時には 大きな鼻を持ち上げている
時には 草も食べている
(象だ 象だ 本物の 象だ!)
((いやいや 俺では ない!))
まてまて まてえええ
本人が叫び追いかけても
ぬかるみに足捕られ
象に襲われ
やつれた小人になってしまう

悪意と作為が
微妙にまぶされて
(たぶん そんなこともあったのだろう)
という背景に支えられ
象はまぼろしの血流を手にして
物語をどしどしどしと歩き始める

めでぃあは
大から小まで
人と人とのあわいにあり
多様な色 微妙な色合い
が一色へ
奥深い一語 何気ない数語
がまぼろしの手で連結された千語の物語へ
増殖し織り上がる
ほんとは恐ろしくも何ともないけど
ふりかかると恐ろしい
白いごはんが
嫌いなふりかけの味や匂いになる
のを振り払えない



14

 ああいいな


靴を百足持っている
五つ星の店で百回食べた
海外旅行を百回やった
そんなことではない
ここからは
そんなこたあどうでもいい

それはそれでいいんじゃない
別に
うらやましいとも
ああいいなとも
思わない
まったくの中性だ
日々の渦中に
お金のことを気にすることはある

とある風景の渦中で
流れる うねる
こころのバランスが
びみょうにいいとき
お金のことはつい忘れてしまって
ああいいな

おも


(ひとのはじまりから
あまりにとおおおくきて
これっぽっちだけど
とてつもないじかんのじゅうりょくに
なんとも いいようがない)



15

 あけびの話


あけびはいいな
食らいつきたいほど
いいな

二三度食べたことはある
別にそれほどの
感じではなかったな

秋映えの
うすむらさきに
ぱっくりと実をさらし
匂い立つ
いいなあ

ふうーん

ひかりを浴び音に乗り
身が躍動する
大気がふるう
にぎわいに染まる町
いいな

それって
AKBの話じゃないのかい



16

 どんどんどん


(どんどんどん)
はーい
誰もいない

(どんどんどん)
はい
誰も いない
たしかに耳は聞きからだは感じ取ったのに
姿はない

(どんどんどん)
うるさいな
邪魔なんだよ

(どんどんどん)
遠くからか
大気を伝って漂ってくる
祭りではない
この地の少しなつかしい浮立(ふりゅう)の音ではない
遠くから
はしゃいだ気分に乗ってる
鈍い響きがする
無視しよう
としても粘りつく

(どんどんどん)



17

 しこり


わけもわからない頃
母から引き離されるように
ひとりひとりの家(うち)から
寄せ集められ
何者かに急き立てられるように
走り 止まり 回り たどり うねり
食べ 飲み 笑い 泣き 触れ合い
くりかえしくりかえしの
時間の織り模様が
どこかにしこりの綾を沈めて
それが自然な日々に見えてくる
学校の

例えば体育祭をやるとき
様々な人の振る舞い様
(これをやろう)
(いやそれがいい)
(ぼくはいやだな)
(おれは出ないよ)
(ぼくは係だから まとめなくゃならない)
結んでいく 反発する それていく
この世界の人の有り様が
凝縮されている

みんな
わけのわからないしこりがあっても
給食の机が一斉にひっくり返ることはない
疼きを忘れてしまったかのように
大人しく
ひとりひとり木樵になって
学校の植木を切り整えている



18

 一区切り


ゆっくり
顔が上がり 下がっている
思いが上がり 下っている
なんてことのない
ちいさな一区切りに
人の いつもの癖が
腰を下ろしている
空が
曇る

書いて
出さなかった
メールには
滲みはなくても
揺らぐ顔が表情の痕跡を残していた

言いそびれた
ためらいの言葉は
遠く 深く
舞い降りすぎて
時間の渦にのまれていた

ああ それは

見知ったこの町が
揺れている



19

 恋と言えば


これが
恋か
知らなかった
流れが
渦を巻いている
小さな火傷(やけど)のような
火照りと 化粧の匂い
肌合いが波打っている

ひとり 青葉の時は
もう
うしろに倒れ込んでしまい
今はもう 未知の葉揺れに
からだが傾(かし)いでいる
いちまい にまい ……
葉は色合いを変えている

華やいだ町に
入り込んでいる
ひと ひと ひとが
車の速さに合わせるように
自然と足早に通り過ぎていく
なにもかもが
自分の背景のように
静かな
祭りのカーテンが下りている

カーテンをかいくぐってみても
またカーテンがあり
ほんのり波打ち
世界が縮んでいる



20

 うさぎのだんす


もうとしなのに
おどりだしている
見た目は
気にしない

なぜ
おどりだすのかは
わからない
けんこうのためではない
それでもいいけど
ではない
…ではない
…ではない
ないないないない

行間を縫うように
まぼろしの
あせみずたらし
てあしが ふみならしている
言葉と言葉の
地域の境をこえ
国境もこえて
おどりだしている
言葉の抑揚や色合いが変化(へんげ)する
時間の深みから噴き上がってくる 言葉の


    お
         おああ

こえも
こえていき
ブーメランみたいに
舞いもどり
そらに
響いて
いる



21

 花が咲いている


まだ寒いのに
しろい梅のはな うすももいろの杏のはな
隣り合って咲いている
(昨年は 父が遺した杏をはじめて収穫した
それまでなんの木の実かわからなかった)
ここから
見え



     お
           おああ

しろとほあいと
うすももいろとぴんく
同じようで
同じでない
切り開かれる
時間の地肌が
ちがう
匂い立つ時間のかおりが
ちがう
同じ船に乗っていても
行き先や 帰り着く先が
ちがう


     お
           おああ




22

 発声練習


(ひとつの言葉にも開かれ滲み出す時間の深度があり
層成す時間が匂い立つ)

あ あ あ あ あー
深度1 現在近傍

阿 阿 阿 あ ああ
深度3 近世

阿 安 あ 安 阿
深度5 古代

阿P 阿P 阿P 安P 阿P
深度6 弥生

Pha Phu Pha Phu Phe
深度7 縄文

あっ あいた!
深度10 国家以前
どうした?
ああ 足の指先をぶつけてしまって (ああ)



23

 なんとなくおとがなみうっている


言葉の後景に
あるいは
言葉のなかに
なんとなく
音が流れている
音がうねっている
「兎のダンス」でも
「ウサギのダンス 」でも
ない
見知らぬ
おとが
なみうっている
言葉には
いろんな横穴が空いているよう

(あっ(あ(ああ(あ あ あー))))
(おっ(お(ああ(お お おー))))

自分を振り返れば
言葉には
ひとりの
脈打つ血流から気化した
流れがあり
リズムがあり
色合いがある
言葉には
じんるいの
脈打つ血流から気化した
流れがあり
リズムがあり
色合いがある
いま ここで
混じり合って
喉や手から
湧き上がる

(あっ(あ(ああ(あ あ あー))))
(おっ(お(ああ(お お おー))))



24

 均衡点


タイマーをセットして
給湯器からのお湯を張る
タイマーが切れて
あともうすこし
と風呂にお湯を入れ続け
気は解け気ままに振る舞っていた


あ ああ

急に思い出しかけつけ

ああ やっぱり

お湯があふれ続けていた
ことがある

若い頃ふくおかのアパートに住んでいて
とある夕方
風呂のガスをつけ ちょっとだけ いいか
手持ち無沙汰に
寝転んで寝入ってしまった


あれっ

眠たげにかけつけると
風呂の水が
お湯を過ぎて沸騰していた
その後あくせくうすめて
なんとか風呂には入れた
ことがある


その気はないのに
いい均衡点を通過してしまう
ことが人にはある
タイマーひとつで
救われる場合もあれば
救命具がなく
溺れてしまうこともある
人と人とのあわいにも
均衡点付近が靄(もや)に包まれている




25

 言葉の接触面


言葉の肩が触れる
あ すみません
 亜きしノはしま亜かもりはしセに亜
壊れた言葉の左翼か

言葉の肩がぶつかる
あ すみません
 亜嫌中韓悪男滝昇天照国見下々あ亜
壊れた言葉の右翼か

言葉のからだがぶつかる
あ すみません
 デフレインフレ管理経営ターゲットゴウゴウユーノウ
どこの宣伝マンか

言葉の芯がぶつかる
あ あのう
 音速の 生存する 暴走する 意志
頭が言葉になっちまった詩人か

言葉がぶつかりそうになる
あ すみません
 あ いえ こちらこそ
あぶなかったな
もう少しでぶつかるとこだった



26

 キーボードを打っている


この大気の下
言葉が滴り落ちてくる
あるいは
言葉は湧きだしてくる
れいのうしゃではない

積み重なりの今から
ピアノかあれば
自然に弾き出すように
絵筆があれば
手が勝手に動くように
人の

白い野を越えている
 d\e k 0b5we. a
人の姿は ない
 vsk rt@q f ue a
踏み固められた道に
 2ntq/o;q na i a
溶け込んだ日差しがあり人の影があり
 s: byq@ vx@dt@ 3l vsk t:@ t@ 3l a
まぼろしのように匂い立つ
 j-@\d k 94 i i6eqz a




27

 わからない


人みなするように
ふと視線が下る

どこへ行くのか
よくわからない
どこから来たのか
どのように来ているのか
よくわからない

わかっていることから
数え出す
わからなかった岩山も
あるとき ひと触れで崩落し
年輪のようにまたひとつ加わる
少しずつ 数え方も変わってくる

幼時の記憶のような
だれもがわからないことは忘れ去り
日々熟(こな)れた手足が動いている
ように見える
わからないことなんて無いかのように
自信満々に語る者もいる
だれも奥底の微かなもやもやは 消えない

どこへ行くのか
よくわからない
どこから来たのか
どのように来ているのか
よくわからない
わたしは
人は

わたしの
人の
背中やこの歩みの中から 
いま ここに
わからないことは浮上する
わたしはわたしであり
わたしは人でもあり
いま ここに 生きて在るのだから
時間の織り目から滲み出す
わからなさの匂い
ひと息のコーヒーにかすかに匂い立つ



28

 さくら木の下で


小さい子がいう
カメさんになりたい

若者がいう
職人になりたい

老年がいう
なりたいものはないが
ねこの まあるくなってじっと佇んでいる
いいねえ

(滲み出し
触手をのばす
言葉は
ほの暗い在所の軒先から
ふるふるこぼれ落ちている
春霞の さくらの木のように
はなやいだ大気の下 しずかな
樹液が 絶え間なく 律動している)



29

 大きな声を出さなくなった


子どもの頃は
大きな声を出していたような
流れ高まり
放つ声 大気ふるわせ
帰ってくる
増幅された膨らみに からだの芯ふるい 波に乗り
また声を放つ
潮が引いていくと
ちっちゃな自分に戻っている

太古には
子どもでなくとも
大きな声を放つことがあったのかもしれない
しなびた風景を新たにつなぎ留めるよう
みなの肌触れ合いぶつかり合い
手を打ち 足踏み鳴らし 裸の肌が波打つ
しぼりにしぼり 汗は膨らみ 蒸気が上がり
大きな声が律動する

大きな声を出すと体に障る
大きな声を出すと回りの視線が気になる
そんなことではなくて
大きな声は変貌して
選挙の投票みたいになってしまった
はいこうしてここに書いてああしておしまいです
黙々と 行って帰ってくる
よそゆきを着込んだ
ひとりひとりの黙々に
ひとつひとつの大きな声は溶け込んでしまって
町中では大きな声を出すことがない



30

 きらい


ぴーまんきらいうめぼしきらい

ぴーまんはにがい
うめぼしはすっぱい
苦と酸にからだが折れ逃げる
うめぼしのはちみつ漬けのように
ぴーまんも少し甘くできるのかもしれない

あのひときらい

他人がきらいであれば
避けることもできる
けれど どんな小さな集まりでも
かならずうまく合えない者がいる
日々の積み重なりに
きらいが中和していくこともあるかもしれない

自分がきらい

まっすぐ進んでピンに当たる
と身をよじっても
溝の方にそれていくということがある
ボーリングのように
もう一度トライ
しても苦い後味が引いている
付き合うほかない
時間の根深い結晶に
日々ひなたの匂いを振り振りかける

生きているのがきらい

もうこの峠まで来たら
あとはない
谷は深あく 暗い
前のめりに
こころの襞が 白んで乾いている
水でも飲んで…… いや
そこ そこの わずかの残り振り絞って
自ら 水を少おし 飲み
フラッシュバックを越えて
いのちの裏側まで隈なく歩き回るがいい
あたりまえのように
どこにも日は差しているのだから……



31

 小景


あーん おくちをあけてくれる
 あああん
あーーん よ
 あああんあんp
えーとね あーーん これくらい
 ああんんp
じゃあ それを なんどかつづけてくれる
 ああん ああんp あああん ああんp あん
もういいわよ
ああ そこが すこしはれてるね
わかんなかったね
じゃあ おくすりのんどこうか
ちょっとにがいよ
 ああp あああp ああp
これで だい じょおう ぶ



32

 ぐるぐるまわる


(風が急に倒れ込んでくる)

まわっ

いる
ぐるぐるまわ

おなかもすこしぐるぐる
なりだして
言葉もぐるぐる
まわりだす
まわってまわってまわって
まわるうう

こんにちは
今日は新製品の案内に伺いました。
(きよは
しんせい ひん のあない
にうかうか がいまし た)

まわってまわってまわって
まわるうう

(わからないけど どっかに
地球の自転のような 静止領域が
あるような)
(風が つ め た い)



33

 ぼんやりと見える


途中に見つけた
いい感じの小枝で
背の高い草をなぎ倒しなぎ倒し
歩いて行く
橋の欄干では
叩きながら通っていく
縁起をかついでいるわけでもないな
最後まで叩いていかないと
何かが終わらないようで
歩調を合わせて
叩いて渡る

リズムをとっているわけでもない
口ずさんでいるわけでもない
ただ叩いて渡っている

なんでもない
遠い光景
が浮かび上がってきたら
たぶんわたしの現在(いま)がどこかで呼び寄せている
日々の慌ただしい手順の波に溶け込んでいて
わかりはしないが
ひとつの感情の曲線に
若い芽がぼんやり見える



34

 今は


赤ちゃんの今から
今の今は想像すらできなかった
今の今から
赤ちゃんの今はよくわからない
わからなくても
今の今の今をいくつも越えて
この今に来ている
振り返るといつも
今は燃え尽きた煙のよう

せわしない日々でも
ゆったりと歩いたり
お茶でも飲んだりする
ふと ありふれた今が揺らぐと
いつも
今は
先の見えない
壁に似ている
急に倒れ込んでくることはなくても
からだのどこかで壁を意識している

もういいかい
もういいよお
戦(おのの)きとともに
言葉に不安がよぎっていく
当てはなくても
とっくに手足は駆け出している

(いまいまいまいまいま)



35

 街に出る


この服で出かけるよ
 ちょつと地味だね
これ に するか
 それは派手すぎる
じゃあ どれがいいの………
 うーん ええっとね……

街に出る
うらぶれてはいても
にぎやかにいろんな旗
風になびいている
街中の言葉たちもいくらかなびいている
 いま飾ってるよ

とある店の前で立ち止まる
明るい照明の下
化粧した品々が
誰かを待っているように静かに腰を下ろしている
 いま飾ってるよ

ほしいものはなかったのに
見回している内に
これください
と言ってしまった
こちらとちがって
店の人は
見知らぬ他人
から
いくぶんにこやかな顔つき

変貌を遂げていた
いつものように お金以外に
どこかで なにか交換をして
 いま飾ってるよ
帰って来た



36

 話し合い


本日はお忙しい中集まっていただいてありがとうございます
話し合いは型通りに始まる
話し合いに加わっている
町内の班長会や職場の会議など
加わりたくなくても
加わらなくては
ならないことがある

話し合いの場には
およそ二つの層があり
議題に関わる層と
議題を超えた層があり
 賛成だ
 賛成はするが……
 反対だね
 とりあえずの解決として仕方ないか
  ああ早く終わらないかな
  今日はカレーだな きっと
  議題自体が無意味だな
  あ 笹が揺れている

話し合いの場には
沈黙が重奏している
けれど
ふんわり引き寄せられ
浮上してきた言葉たち
掃き寄せられ
なびいている
沈黙の噴流に押され
結論が下される

最終的な取り決めの後には
いつも帰って行く
沈黙たちの通り道がある
    向こうには 古くからの山々や海がひらけ
  なだらかな丘陵を成している
苦も喜も踏みしめられた
相変わらずの土ぼこりのする道を
下っていく
小さい頃から見知った人々はあんまり見かけなくなってしまったな
  下っていく
   点点点と影を引いている



37

 飾る


(飾りっ気がないと
部屋が静かすぎる)
なにげなく
花を飾る
絵を飾る
置物を飾る
飾ってしまっている
(部屋のくうきが変わる)

せんたくした
服を着る
(着飾るが少し忍んでいる)
洗い仕舞い込まれた中から
ひとつを選び取る
派手な鳥や歌手たちのようには
着飾ることはない
けれど ぱんつをはいて
うっすらと着飾っている

言葉が
かたち成しはじめる
どこからともなく
よぎるものがあり
着飾ってしまっている
出かけた道の途上に佇んで
何か忘れ物があるような
と触手が下り
あちらこちらと探して回る
靄(もや)が深い
 おっとお
つまづきそうだ



38

 交叉する


たとえば
皿など洗っていると
知らぬ間に
足もとに来ていて
踏んづけそうになる
少し踏んでしまって
 ふぎゃ
というときもあり
 どきり
よろけてしまう
 ごまちゃーん ぽい ぽい
こちらには
知らぬ間に 急に
と見えても
ねこにとっては
このねこの見渡す筋道がある
このねことこのひとと
ふだんの視線のちがいは
見渡す世界のちがい
うまく交叉するのがむずかしい

    ふぎゃ
 どきり



39

 見えないところがある


見えないところがある
見えるということは
芯から湧き立つ
匂い色合い漂い流れ
しっとり
肌合いに感じること

見えないところがある
自分の中でも
気づいたときには
角を曲がってしまっていた

見えないところがある
身近なひとの
繰り返し目にする光景に
視線が折れて込んでしまう

見えないところがある
足もとにすり寄ってくるのに
触れようとするとすり抜けていく
片手を柱で支えて見つめていると
片手の方ばかりじっと見ている
遊ぼうというのか ねこは
視線がさまよう



40

 目の検査


ひとりひとりの中に視線が注いでいます
あるいは 視線が湧き上がり
深い時間のいくつもの層から
踊り出すように
視線が行き交い
言葉は視線たちに溶け込んで
姿かたち成し匂い香り肌合いを放っています

何が見えますか
 人人人 目の前を歩いています
 (ちょうどいい いま 人の目線の高さ)

何が見えますか
 家家家 田田田 山山 干拓地 海
 (高い ヒコーキに乗っているぞ あれは五十年前のぼくの家)

何が見えますか
 しいんとしている 人の内臓のよう
 (高過ぎ 目がくらむ人工衛星 ぼくの誕生以前)

何が見えますか
 岩土岩水
 (暗い 地下何層だろうか 生き物のいない地球のからだの中)

では 次行きます
何が見えますか
 心配する パニックというのだ
 最悪の事態 想像する、 「手がかり」を
 ひとつずつの 現場の問題、
 勇気と尽力 感謝 します。

 深い悲しみ 恐怖 人間のこころは、
 ほっとく 暗い 洞窟の闇のなか
 射してくる光 脱出
 光の穴から、 空気も、希望も 出入り

 右に行くか 左に向うか、
 「どちらの判断も尊い」 と 思 う
 「右往左往」 反対側のリスク 覚悟
 「右往」のみ

 ぼくらは 元気な者 として 動いて います。 註.

 沈黙の流れに溶けている 時おり泡立つ

何が見えますか
 サ行のように凪いだ海
 遠い星のようにきらきら光っている

何が見えますか
 五十音が溶けてしまったような ・ ・・
 静まり帰っている

何が見えますか
 マントルの熱気
 ぼわっと感じる あっちち

はい
これでおしまいです
まあ問題ないでしょう

 註.「今日のダーリン」(2014.2.27、糸井重里『ほぼ日刊イトイ新聞』)の言葉から



41

 日々のあわいには


日々のじかんのまぎれから
ふと言葉が湧いてきたら
そうっと 書き付けることもあれば
なんども反芻していても
しだいに消えていくこともある
たとえ消えてしまっても
まあ いいか……

そうだね
それがいいね
あいづちを打っても
長い時間の流れでは
そんなことあったかな
ということもある

あれ それ それ
あれは なんだったかな
とってもたいせつなことのようで
思い出せない
流れに下っても
しずかに 泡立つばかり
一日と一日のあわいには
そんなことがある



42

 こころづもり


湧き立つ雲のような
こころづもりがあっても
歩き出したら
予期しなかった
影も差してきて
こころ模様が揺らいでくる

木々でも
人でも
流れに出会う
あ そこはまたいで
歩く
こちらからも
流れ出している
出会うものや人たちも こちらも
幾たび訪れきたか 春霞
春霞に揺らいでいる

自分のこころづもりでも
自分に こちらとあちらの意味があるように
こちらとあちらのこころ模様が見分けがつかない
春霞
ふいと
さくらの小枝を折り取って
家路についている



43

 狂言から


でん でん むーし むーし
でん でん むーうしむーしい
 やあ     やああ      よおああ
   ぽこぽこ     ぽこぽこ
      ヒュー         ヒューア

でーん でーん むーし むーし
まい まい まーい まーい
 やああ   よああ      よおおお
    ぽこぽこ   ぽこぽこ
      ヒュー         ヒューア    ヒュー

でーん でーん むし むーうおおあーし
まい まーい まーい まもおあーい
     ぽこ   ぽこ     ぽこぽこ
                     ヒューア

つのだーせ つのだーせえ つのだああーせえええい
やり だーせ やあり だーーーせえい えいえいえい
 やああ   よああ      よおおお
    ぽこぽこ  ぽこぽこ
       ヒュー      ヒューア    ヒュー


  註.
『schola(スコラ)坂本龍一 音楽の学校』(能/狂言1 NHK 2月27日)を聴いて。登場する野村萬斎の、昔、NHK『にほんごであそぼ』に出た「ややこしや」がおもしろかったので、この番組を聴いてしまった。能とか狂言には興味は持てないが、二つの出し物がわたしの耳を捉えた。たまたま柳田国男の「蝸牛考」をいま読みかけている。




44

 高速度撮影から


う うっ
う ううう
う う う
うみんp
うみんp がうんp
うみ が うまうまp
ウクライナ
う うっ
う ううううう
うみが
うみが うまうまれ るんるん
うみが うまれる

海が生まれる




45

 超高速度撮影から



・・
・・・

・・・
・・

おお
・・
・・


なみ ぬう
・・・
うう

うねるるるるるどどど
・・・・・・
うね るるるるる ど どど
・・・・・・・・
・・

うみ
・・・

・・・・
わた うみん


・・・・・・・
うみが うまれ れれれれれえ
・・・・・・・・・
・・
・・・
うみが うまれ る

海が生まれる



46

 メリーゴーランド


めーりさんの
ひつじ
ひつ

ひーつじ
めーーり さんのー
ひ  つじ
かわ い  いーね

めーーり
さんの
ひつ

し つ じ
 つじ
めーり さんー
 む かーえ
しっ かり もーー
の だーー


めーり さん

ねむる
ねむる ねむる
めーり さんは
ねーむる
…… ……



47

 ジェットコースター


めーりさん

めーりさ
ん の


ひ ひひ
ひ ひ ひ ひ (ゴホ ゴホッ)
ひ ひ ひーーーい

めっ
ひっ
うっ
うおっ うおっ おっ おお
うおおおおおおおおおおおお
(グル グル グルグル)


めーりしゃん
はあ
ぬむる のむるーよ
ふう




48

 歩いて行くよ


大気が冷たければ
少し厚着する
風が強ければ
鼻歌でも歌い
踏ん張りながら歩く

どうしようもないことが
押し寄せてきたら
押したり引いたり
回り道したりすり抜けたり
なんとかしようと足掻くだろう
たぶん


くたびれた
言葉の靴でも
立ち止まって
ほとんど触ることのなかった
ひもを結び直し
出かけるにはつらい
小雨降る日でも
雨をかき分けるように
歩いて行くよ

ああ
あめがつめたいな
肌合いにまでしみこんでくる
言葉も縮こまる
手をこすりながら
歩いているよ
車はときおり通り過ぎても
ひとにはめったにであうことがない



49

 重力の話


重力といっても
物理学の話ばかりではない
とりあえず重力と呼ぶもの
目には見えないようで
見えるときがある
仲違いした重圧に
顔も重たく 少しゆがんでいる
早く出かけたい子どものからだは
待ちかねて重力をはねのけようと揺れ動いている

重力の話には
まだ先がある
遥か 人が魚だったとして
そんな時の重力は
消失している?
遥か 人が鳥だったとして
重力を振り切ろうとする飛行の繰り返しは
消失している?
 そんなこと考えても無意味だ!
断定の裏側にも現在の重力がかかっている

ふだん気にも留めないことが
気になったら
きみは現在の囲いから少しだけ後景に移動している
重力が少しだけ揺らいでいる
ふだん人が気にも留めないようなことが
気になりすぎていたら
きみは若すぎるか老年か
あるいは不幸な生まれだったのかもしれない
重力がずいぶん揺らいでいる

NASAの重力観測衛星によると
物理学でも
この地球は一様な重力分布でもないらしい
心や精神にも重力の揺らぎの場があり
ふだん気にも留めないことが
気になりだしたら
気づかなかった
きみの中で
重力分布が変動している




50

 胎内画像


動いていますね
ほら ここが顔ですよ そこが足
はい あ こっち見てる

  うっぷぬっぷ うっぷぬっぷ
  うっぷぬっぷ うっぷぬっぷ
  (外からの 気配)ぱ ぱ ぱ
  ぱっぷぱっぷ ぱっぷぱっぷ

赤ちゃんは狭っ苦しく感じないんですか
そりゃあ 大丈夫ですよ 小宇宙ですから
はあ

  つるりんぱ つるりんぽ
  うっぷぬっぷ うっぷぬっぷ
  (かおがきこえる)ぷぬ ぷぬ ぷぬ
  (おとがみえる)ぷぬ ぷぬ ぷぬ
  (においがふれる)ぷぬ ぷぬ ぷぬ
  (むこうに なにがあるのか まあいいか)
  うっぷぬっぷ うっぷぬっぷ
  うっぷぬっぷ うっぷぬっぷ
  ゆらゆらゆうらり ゆるゆるゆるん

ちゃんと育っていますか
大丈夫ですよ 良好な発育です

  (おとやかげがとけてながれ くる
  うすいまくのむこうから うえのほうから
  あったかい ひざしのよう)ぷにゅぷにゅ ぷにゅ
  (ぼくはあなたのようで あなたはあなたのよう)
  (そっちのみずは なんかにがい)くにゅくにゅくにゅ
  うっぷぬっぷ うっぷぬっぷ
  うっぷぬっぷ うっぷぬっぷ
  うっぷぬっぷ うっぷぬっぷ
  ふあああ~あ



51

 下るまなざし


誰でもふとうつむくときがある
肌慣れた場に
静かに着地してゆく
上の方から吸引するものや
飛び交う言葉のかけら
嫌な自分も顔を出している

もうひとつ下ってゆくと
子どもの頃の原っぱに出る
草は踏みしだかれ
鳥が舞っている
吸引するものも 飛び交う言葉もなく
土や草の匂いの
ことばが漂っている

下るまなざしになった言葉が
さらに下ってゆくと
くらい洞窟の
所々に小さなひかりが差している
ここはどこ
という思いが起こることもなく
手探りで ゆっくりと歩いている
 きん こん かん
かすかな 水気のある音が
響いている
 きんこん かん
フラッシュバックのように
寄せてくる波をかぶりながら
 きん こん かん
半ば怖いもの見たさに
音の源流の方へ
歩いている

ふいと途切れて
さらに下っている
どこまで続く?
巨大な白い紙の 小さな点
言葉は無い
無音の
ただ 微かに周囲が黙々と波打っている



52

 峠にて


(なべに500ml水を入れ
42度まで暖めます)

温度計はない
指の感触では
まだぬるい
あと少し
峠でひと息
辺りの草花を眺めていた
下の方を振り返ることはしない

なべはぽつぽつ泡が出始めている
差し入れようとする指は
直前で引き返している
よそよそしい他人のように
峠を越えてしまっていた

(町田康なら踊り出す……
うどんの言葉は うどんの言葉は
煮え二重過ぎて あぢ あぢ あぢぢ
味は和華蘭 腰も和華蘭
わからん音頭だ くにゅくにゅくにゅ
にゅくにゅくにゅく あぢ あぢ あぢぢ)

調理ではないから
ゆっくりと下降していくのを待っていたら
あの場所にたどり着ける
かもしれない
熱すぎるゆの
風呂のいい湯加減の言葉みたいに
やわらぐ場所に



53

 言葉がない と言っても


こ 言葉がない
 無いと言っても 何かあるでしょう さやさや
ちいさな波紋が立っている
 ほらね 何かあるでしょう たとえば……
消すに消せない過去が
ふいと巻き上がった風に押され
転がり込んでくると
言葉の頬が赤らむ
 そうそう
いつもの屈折点が
年を経て摩耗していても
 ずきん ずきっ
うずき出す
風景が縮むのは
 ちいさく ちいさく
こんなとき
いずれにしても
生きて 在る
かぎりは
寄せては返す
とある岸辺に佇んでいる

こ 言葉がなくても
この世界に深く捕らわれていても
そんなことはなかったように
 ああ そうね
お茶も飲めばコーヒーも飲む
ウーロン茶も飲んだしキムチも食べたことがある
(キムチは肌に合わないな)
 水が合わない 水がちがう
水のちがいは
びみょうに作用している

こ 言葉があっても
繰り出すおしゃべりを
ぺらぺらぺら
ぺぺら ぺらぺら ぺぺらぺら
 調子いい
ページを繰るようにたどっていくと
ひっそりと凪いだ海面がある
 もうフィナーレ? あれは それは これは
あらゆるものが 寄せては返し
層を成して 溶け込んでいる



54

 なじみの場所


言葉にいかれてしまった
ように見えても
はだかで走り出したりはしない
言葉のからだに
黙する水面(みなも)に
流れ続ける
いちにーさん さんにーよん さんさんさん
反芻する
うつむく おもわず笑い ひそかに泣き 歩み 止(とど)まる
踏み固められた地に
日差しが
すこし まぶしい

こわいことに
生きていても
言葉が死ぬことがある
3万言費やしても
しずく滴る言葉は流れていない
抜け殻みたいに固くなっても
気づかないことがある
かすかな音や匂いが
生きて在るかぎり
底の方では湧いている

言葉のからだを下る
生きて 在る
かぎり
くりかえしくりかえす
いくつもの層を潜って
遥か下の方
透過した日差しを浴びて
流れ 流れる
無数のちいさなあかりが
自然になにかと 分かち合いながら
ぼおっと
癖のある等身大に
点滅している




 あとがき


  この一月ほど毎日のように詩を書いてきた。若い頃は毎日のように詩を書いていた時期があった。詩を書きながらふとそのことを思い起こしていた。あらゆる専門的な表現者のようにいつもより濃密な凝縮した時間を体験したが、そのことが言葉にうまく凝縮・展開されているかどうかはなんとも言えない。ただ、さて街に出るぞという心積もりとじゃあ人みなどこかで感じるようなやさしい言葉で行こう、ということはなかなか難しい。場違いなものの登場のように絶えず寄せてくる言葉があって、うまく格闘できたかどうか、詩の言葉が場違いなものになっていなければいいなと思う。また、人みな固有の癖のようなものがある。そのわたしの固有の癖のようなものが少しでも普遍の流れの方へ開かれていたらと思う。まだまだ続けられそうだけれど、これで一区切り。またいつか。                 (2014.3.10)











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