1
百万言費やし合うも
発発 発発発
滲(にじ)み出すは絵の具の濁り
2
今となっては憎み合う男女
ものみな
磁石みたい二極に分離す
3
信長は攻め滅ぼし
女子供も数百人閉じ込めて
家々を焼き払ったよ
註・『信長公記(しんちょうこうき)』より
4
フロイスは冷静の割には
対立する仏教徒を
悪魔の手先と何度も呼んだよ
註・『フロイス日本史』より
フロイスは、日本にやって来た宣教師。
5
豊後(ぶんご)のキリシタン大名は
十字架汚され
仏教徒を殺してしまったよ
註・『フロイス日本史』より
6
歴史とは時間つながり
遠くても
今も着ている心の麻古着(あさ ふるぎ)を
7
歴史とは時間つながり
新味旧味
層成す心ふいと奏(かな)でる
8
戦国の世にわれ居れば
血縁の
結ぶ絆に武器持て駆け出(いで)しかも
[短歌味体な]―戯れ体
9
見え見えのバレバレなのに
暗転し
別の物語事実を覆う
10
人の世なら何でも有りか
動いてる!
じっと見てたのに
碁石の位置が
11
子どもなら肌で嫌うよ
嘘つきは
言葉塗り重ねても尻尾が出てるし
[短歌味体な]
12
今の世にわれ徒党・絆なく
寄せ来る言葉の洪水
静かに庭掃く
13
ここでならあいさつもしよう
日々変わらず
日差し柔らか風の匂う
14
ないないと否定の韻の
響く彼方
古びた日差し今日も差してる
[短歌味体な]
15
(あなたは今ハゼの木の下!)
耳から下り
言葉が肌を発火させる
16
くたびれてスイッチ切れば
まぼろしの
言葉の洪水さっと潮引く
17
まぼろしと思いなせども
渦下り
肌逆立てる波風の立つ
[短歌味体な]
18
なあんにもなくてもなくとも
てくてくと
日々の足音みたい歌は志向す
19
それはあなたこれはわたし
同じ足
跡でも違う声の響きが
20
言わないが中心にふんばり歌う
「つまらないものですが」の重力を受けて
[短歌味体な]
21
何気ない「つまらないものですが」にも
遙か果てより
響き貫く人の世の年輪
22
小石にも幾多の歳月
刻まれて
ああ いまここのこの姿かたち
23
歴史とは重力みたい
いまここに
見えない力 重力場のよう
短歌味体な
24
はらはらとものみなすべて
移りゆき繰り返しゆく
原原原
25
張るの日差し肌ゆるみゆく
なびきゆき滲み出しゆく
春春春
26
りんりんと鳴き出し静まり
梅匂う ゆるみゆく日差しに
凛凛凛
短歌味体な
27
はっきりと意味はなくとも
微かに見ゆ
靄(もや)のかかる街朝の震えるを
28
はっきりと意味はなくとも
揺れ揺られ
しっとり触れる朝の始まり
29
はっきりと意味はなくとも
身は揺られ
るんるんるん走り出すよ
短歌味体な
30
オレなんて短歌なんて
おもい渦巻き
清冽に湧く朝もあるさ
31
ずっしりと蹴られなくとも
こころ傾(かし)ぐ
重い渦巻きぐんぐんぐん
32
はっきりと意味では言えぬ
二月の梅
わが眼差しに触るる流るる
短歌味体な
33
大きく移ろう時に
姿現す
死んだ男の遺言人は
註.鮎川信夫の詩「死んだ男」を思い起こして
34
やっぱりねもう忘れてる!
歳のせい?
けれどけれども今こここそ戦場(いくさば)
35
時間の波頭(はとう)の下に
ひっそり
深く残り来る根太いものは
註.この列島人の精神の遺伝子を思って
短歌味体な
36
鈴隣鈴 タイマー止まらず
隣倫隣
慌てふためく蟻たちのよう
37
毛布毛布(もふもふ)と波打つ心
砂利砂利
思いの外に砂をかむ時
38
sun sun sun 日差しの下に
曇曇曇
忍び寄るはどこの差し金か
短歌味体な
39
がんばらんばうーばんぎゃーか
のおのおのお
すうすうすうぎゃあけんついてのお
註.みな九州の或る地方の方言から
40
らんららん run ran run
駆け出しの
背を押すリズム足に馴染み居る
41
そおおかあ そおだねえええ
知らぬ間に
峠を越えて異流に踏み居る
短歌味体な
42
駆けていく言葉はおわぬ
こぼれ落つ
ひとつひとつ背負い追いきれぬ
43
追う言葉出会うは靄(もや)の
彼(か)は誰(たれ)時
敵か味方か獣か人か
44
大車輪 光る言葉よ
寄せ来る波
と観客を掻き分け掻き分け
45
ここじゃない ああそこでもない
ふんい気は
肌にわかるのに言葉に終えぬ
46
追う言葉知らぬ所で
ばったりと
ああ小さい頃のけんちゃんじゃ
47
いくつもの層成(そうな)し眠る
駆ける言葉
姿形成(かたちな)す追う言葉に
短歌味体な
48
世の中の天気模様の
どうであれ
子どもも遊ぶ犬も遊ぶよ
49
他人(ひと)知らず我知らずにか
ぶつかった
通路に尾引く心模様二つ
50
言葉さえ水面(みなも)に落ちれば
ざわざわと
胸騒ぎ波立て駆け出しゆくよ
51
言葉なんて言葉なんてさあ
と言っても
放てば血滲(にじ)み不穏(ふおん)が匂い立つ
52
沈黙の海に飛び交う
飛び魚の
上っては下り耐え居る疲労の
53
きらきらにカッコ良さげに
飛び魚の
心貫く大いなる日差し
註.大いなる自然、そして人間界の喩ということを思って
短歌味体な
54
走る走る電車はまだか
波打つ肌に
ふいと流れ出すは津軽海峡冬景色
55
カッコつけ踏み出す挨拶
イメージは
根太い足の万葉集
56
まあだだよ もういいかいい
我知らず
顔を出してる梁塵秘抄(りょうじんひしょう)
短歌味体な
57
ほんとうのほんとにほんとの
ほんとうさ
ほんとうに触れ居(い)るは難しい
58
くりかえしくりかえしても
大声でも
ほんとうは遠い深い霧の中
59
ひっそりと旅する者あり
ほんとうを
あるは銀河鉄道に あるは車に乗り
60
目まぐるしくくたびれるほどの
繰り返し
一ミリしか動かなかった
61
ほんとうは
時の渦のなか主流沿いに
微量の姿形改まりゆく
短歌味体な
62
日々出会うA→Bの一歩が
目まいのよう
複雑系にすってんころりん
63
一刷毛(ひとはけ)の あ→いに刻まれる
無限に
戦(おのの)き震うこの一歩は
64
例えばA→Zとあ→ん
ちがうねえ
流るる速さ寄せ来る景色
短歌味体な
65
南無阿弥陀(なんまいだ)
南無阿弥陀(なんまいだああ)
足しびれ
南無阿弥陀(なもあみだああ)
痛みの分かれゆく
66
歌うこと無くても歌う
自己矛盾(ねじれてる)
この駆動する energy flow(ひかりひかるる)
67
なんであれ生き継ぐかぎり
平等に(ひとしなみ)
光輝光(ひかりひかるるひかるらん)
短歌味体な
68
鈍鈍鈍大気温(ぬる)んで
呑呑呑
からだのなんか緩(ゆる)みゆくよ
69
歯歯歯思わず笑い
roll down roll down
見えないしずく心模様
70
夢無霧萎(しお)れゆく枝葉
水吸水
夢幻の遠い出来事のよう
短歌味体な
71
よく切れる(あぶな!)
これほどすごい(初めは皆)
包丁は(中程には)
お買い得だよ(鈍くなりいくよ)
さあ スゴーイ さあ スゴーイ さあ(ものみなすべて)
72
風が吹く(そおねええ)
気持ちは懸かる(さむいわねええ)
部屋の中(まだまだね)
古びたハンガーに(春が咲き出すの)
温(ぬる)くくつろぐ(まちどおしいわ)
73
これとこれ(ええっと)
書いてもらうと(あれなんだっけ)
あとはOKです(ハイハイ)
こちらの方で(風に吹かれて……)
うまくやります(ハイハイ)
短歌味体な
74
節分みたい転げてくるよ
微笑みは
花ほころぶ流れに乗って
75
信号みたい点滅してる
人の手足(てあし)
心も頭も苦の韻を踏み続け
76
春みたい巡り来るよ
昨年と
微妙に違う衣装をまとい
短歌味体な
77
あいうえお遠い書き始めを
繰り返す
自らは見えぬ背の不安から
78
12 12 そんなリズムが
あったんだ
12 12 12 知らぬ間に滲(し)みている
79
111 11 111 11 11
背景音楽(BGM)のよう
気づいたら遠い海辺を歩いていたよ
短歌味体な
80
秋風の身に浸(し)む季節は
逆らうよう
情感の「シュミテクト」
81
何気ない日々のあわいから
敢闘賞!
例えば台所(だいどこ)の「キッチンペーパー」
82
あれこれと立ち回ると
忘れてる
熱湯にしてた 熱(あちっ)! 「はひふへほー」
短歌味体な
83
こぼれそうな(あ)
ころがりそうな(う)
煙揺れ(あ)
くり返しくり返す(う)
平均台みたいな(う)
84
打ち上がるこころの下から
くねくねと
幻の風景(けしき)求め坂を上る
85
手すりからどちらに向かう?
付き従う
影みたいな言葉のスロープ
短歌味体な
86
影の声 ダメよダメダメ
そっちへは
転がり落ちる死語の谷間
87
ひっそりと坂を上りゆく
汗もでる
頼みの綱はわが年輪の現在(いま)
88
ひとりから姿くらまし
のっぺりぺり
徒党頼むは顔立ち歪む(文体臭う)
短歌味体な
89
ほんとうはどうでもいいのに
あたまいいね
と思うあり人の層成す心は
90
遙かなり人界超えて
振り向けば
人皆同じ光の明滅
91
開かれぬ仏典を背に
仰ぎ見る
今ここの夜空に浮かぶ星々を
短歌味体な
92
ひとつとて立ち現(あらわ)るが
束になり
ずんずんずんと締め上げて来る
93
戻りがけに蹴つまづくよ
ああそうなんだ
急に剥(は)がされた冬の朝の布団のよう
94
わからないが降り積もりゆく
わからない
それでも平気にはな歌歌い行く
短歌味体な
95
偶然に小枝が落ちた
流れに
わたしの小枝を浮かべ流してみる
96
鳥の群れつつ飛んでゆく
手が伸びる
触手のよう とんで とびゆく
97
1+1が難問に見ゆる時
つむじ風
さっと掠(さら)いゆく人の不明の闇に
短歌味体な
98
さっちゃん早いものだね
卒業か
ぐぐぐっと一刷毛(ひとはけ)振り返り来る
99
すいません いえいえこちらこそ
(よそ見してたか)
春の気配匂い立ち流るる
100
はじまりは不明の芽吹き
中ほどあって
いろんなやり取りふろしきを結びゆく
[短歌味体な]100首に及んで
①「短歌味体な」の作品数が100首になりました。途中から、100首になったらまた別のことをしようと思い立ちました。普通に誰もが経験していることですが、なんでもその世界に入り込まないと見えない、感じ取れない、ということがあります。そして、そこには何かがおぼろに立ち上がってきます。
②わが国のすぐれた批評家の一人である内田樹は、『日本辺境論』(2009年)で、地理的にアジアの辺境たるこの列島が精神史的にも辺境ゆえに、この地からは自前の宇宙論など出たことはないし、これからも出ててきそうにないと述べていました。
③中国に任官願いの類いを書いた「倭の五王」辺りから、官僚層・政治支配層のアメリカ追従の現在に到るまでならそのことは当たっているでしょう。しかし、時間のスケールをもっと過去にさかのぼっていくと、その辺境論が無効になる地点があるはずです。その向こうまで突き抜けてみたい。未来に向けて。
④わたしは以前、詩で宇宙論的な試みをやったことがあります。内田樹のその本を読んだからではなく、それとは別に、わたしの固有のモチーフからです。
また、短歌のような詩型でもそのような試みがやれないものか、と書き進めて思うようになりました。これはその無謀な試みです。
⑤日々いろいろと書き継いで、あとで総合するように構成できたらな、と考えています。 次から、[短歌味体な Ⅱ]になります。少しゆっくりやります。
目印が付いているものは、□:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)です。
|
短歌味体な Ⅱ
[短歌味体な Ⅱ] □入口論、●宇宙論、▲世界論(人界論)
1 □
葬式の服に付いてる
糸くずの
夢幻(むげん)に舞い深く深く落ちゆく
[短歌味体な Ⅱ] □入口論、●宇宙論、▲世界論(人界論)
2 ▲
はじめには桜咲き匂う
中程に
きゅうきゅうと追い詰めらるる
3 ▲
ゆったりとくつろぎ微笑む
人は皆
無数の糸引き引かれつつも
4 ▲
歳重ね流れ流され
分かち難し
法の刀のざっくり善悪
5 ▲
そうそうそう相槌(あいづち)の内に
静かに
わたしだけの響き鳴っている
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
6 □
気づいたら入っていたよ
入り口は?
カフカの迷路城(めいろ)はここじゃない
7 □
気づいたら入っていたよ
入れたよ
万人向けの「どこでもドア」
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
8 □
無意味な仮定としても
もしきみが
いまここにいなければ〈世界〉は無い?
9 □
きみが居るから世界はかげり
父の死に
揺らぎ流るる木々のざわめく
10 □
加速器もSpring-8も要らぬ
誰もが持つ
きみの小石を投げてみよ
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
11 □
世界は志向される前に
空気のよう
不随意的に現前してる
12 □
小石落つ広がる波紋
日々新々(あらた)
世界の顔を盗み来る
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
13 ●
たとえ波風立たずとも
日々微々進(すすむ)
世界の色合い更新しゆく
14 ●
芽をだし枝葉身に付け
花開き
枯れ死にゆく宇宙もまた
15 ●
果てもない
言葉も超えて
星々はまた輪廻転生す
[短歌味体な Ⅱ] 椿シリーズ
16
外力と内力と(そとからうちからひびきあい)
揺れ揺られ
ひとひらひらの流るる小舟
註.例えば、椿の花びらの落下から
17
風に揺る赤い椿の
落ちゆきて
死に顔みたい血の気の引きゆく
註.例えば、椿の花の死ということ
18
血の気引き薄らぎゆくよ
今はもう
眠るる木々に流れ落つ星夢(せいむ)
19
夢に見た明日は消失
静まりゆく
永遠(とわ)に眠るよ深深深(しんしんしん)
[短歌味体な Ⅱ] 目覚めシリーズ
20
林林林(りんりんりん)奥深くまで
流れ来る
眠霧(きり)打ち払い朝のはじまる
21
ring ring ring(りんりんりん)流れ切断
左手に
慣れた足取り流れ下りゆく
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
22 ▲
知らぬ間に伸びる伸びる
触手は
ここからいくつもの垣根を軽々超え
23 ▲
魚類から人へ何億年?
方舟(はこぶね)出(い)づ
暗黒の宇宙(くらいうみ)へ何億年?
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
24 ▲
大宇宙上陸(くらいうみへ)その時反復する
遙かな
魚類からの記憶ふりふらふりっぷ
25 □
百数十億年(はてしない) 無言の内に
静静静(しいずかに)
血の巡るに耳を重ねる
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
26 □
断崖にふるふるふるう
舞い落ちる
全ゆる言葉踏み締め踏み締む
27 □
無門の隔靴掻痒(かっかそうよう)に
ふいと風
吹く吹き下る大気の言葉
註.大道無門ということから
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
28 ▲
一人きり限りある時空(せかい)
身に染みて
思い巡るは時空(じくう)を超えて
29 ▲
羽震わし鳥瞰(ちょうかん)しつつ
地に降りて
羽休めては餌(えさ)をついばむ
30 □
掬っても言葉の網が
救えない
ざるをこぼれ落つ水気のような
31 □
たしかにその辺りよね
巣くうもの
姿が見えぬUFOキャッチャー
32 □
はっきりと掬えなくとも
未知の網
しっとり道を濡らしている
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
33 ▲
少しずつそう少しずつ
step by step(すてばいすて)
呪文無くても積み重なりゆく
34 ▲
おまじない痛いのとんでけ
とんでけー
言葉の流線が染み渡りゆく
35 ▲
見渡せば遠い灯りの
明滅す
旅ゆく途次の心細さよ
36 ▲
せわしなく地を這(は)う蟻よ
見渡せば
幾野(いくの)の間にか丘陵(おか)を越えている
37 ▲
像が揺らぎかたち成しゆく
一区切り
旅の中途に一息をつく
[短歌味体な Ⅱ] あそびシリーズ
38
やんややんおっとどっこい
すっとこ
どっこいどっこいしょ
39
えいさーさえいやさあー
英才(えいさあ)の
栄西(えいさあ)ころんでお茶飲みころぶ
註.栄西は、中国(宋)から茶の種を持ち帰り栽培法を広めた、とか。
40
run run run だんだんだん
dam dam dam
らむらむらむだむだむだむだ damnn
38-40の註.主に音の響きということを思い
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
41 ●
静けさを深く踏みゆく
無音韻
寄せ来る光果てなき時間(とき)の広がり
42 ●
例えばねふとこぼれた
一滴にも
宇宙原理は貫かれてある
43 ●
人を超え言葉を超えて
ただ黙す
絶えず蠢(うごめ)くこの宇宙は
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
44 ●
有無(うむ)もなく日差す光に
這(は)い回る
ただ蟻のよう平たい世界の
45 ●
日差し来る有も無も超えて
ヘーゲル超え
染み渡り来る他力(たりき)の光
46 ●
現るる生あるものの
ずっと前
闇と光の静宇宙(とき)があった?
47 ▲
わかるよ人界でなら
スイスイスイ
自力走行普通に見える
註.人間界での人間の有り様を思い
48 ▲
それでも何か作動する
子を助く
母のような世界の手招き
註.人間界での他力性を思い
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
49 ▲
わからないなぜ生まれたか
この問いは
受身のわれらの不安なストーカー
註.
宇宙的規模における人間存在の根源的な受動性ということを思う。「なぜ生まれたか」、「なぜ生きるか」、「なぜ人を殺してはいけないか」などの様々な根源的な問いも、宇宙的規模においては無意味な問いである。さらに、問いに限らず、生贄(いけにえ)や人柱や殺人や戦争などなどの人間的な諸行動の善悪を問うこともまた、宇宙的規模においては無意味な問いである。そして、あたかも宇宙(大いなる自然)自身の内省でもあるかのように、人間界における人類史の精神史的な歩みそのものがあり、その積み重ね来た人類史の歩み自体がそれらの問いに対する答えに、絶えず更新していく答えに自然となっているように見える。 |
50 ▲
不安咲きふあんふおんと
神になり
人界にまで引き移さるる
註.
遙か遠い人類のはじまりに、まず自然界とまだちっぽけな人間界の交わる渦中にまず<何か大いなるもの>が感知され、次第に<神>とかたち成し、生み出されてきた、次の段階として整序され膨れ上がっていく人間界の渦中にその<神>が写像された、つまり、〈自然〉=〈神〉から、それを名残として保存しながら〈特別の人間〉≒〈神〉へ転位した、いずれの段階も果てしない時間をたどりながら、と想像の線分を引きつつ。 |
51 ▲
わからなかった本願他力
宇宙の下(もと)
受身のわれらにスポットライト
註.
宇宙的規模における人間存在の根源的な受動性ということと、親鸞の「本願他力」ということを思う。わたしは親鸞の「本願他力」ということがよくわからなかった。わたしたちは、向こうから(現実世界)の助け(他力)も部分的にはあるけれども、生きていくにはこの人間界では日々<自力>を行使しているし、行使せざるを得ないからである。そして、わたしは、人間界を超えたところの宇宙的な規模の下での根源的な受動性の人間存在の有り様を指して、親鸞は<他力>の存在と見なしたのではないかと思うようになった。現在では、宇宙規模のレベルと人間界のレベルははっきり区別されているが、人間の起源のほうへ時間を遡(さかのぼ)っていくにつれて、おそらく現れる世界は、その両者が未分化なものとしてイメージされ、考えられていたと思う。親鸞の人間は<他力>的な存在という見方にもその未分化のなごりがあると思われる。 |
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
52 ▲
塗り替えて輪廻転生は
浄土へ
きちんとそこにあの世として建つ
53 ▲
「そんなの信じられなーい」
茂りゆく
言葉たちに薄らぐ浄土
54 ▲
浄土じょどジョウド
返り咲く
空無通り過ぎ現世(このよ)の大地に
全体の註.浄土というものもよくわからなかった。もはや輪廻転生もあの世の存在もほとんど信じることのできない世界にわたしたちは居る。したがって、現在における浄土とは、現在の社会の死後の、望ましいイメージの世界のことではないか。そうであるとすれば、浄土とは、絶えず更新されゆく現在の渦中の、望ましい未来性の別名に過ぎなくなる。浄土というイメージや考えの移り行きを思って。
|
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
55 ▲
いつの世も言葉(ことのは)以前も
以後もあり
しるしるしゅわ 反復(くりかえし)の現在(いま)
56 ▲
衣替えヘーゲルもマルクスも
日差し新(あら)た
歴史の春芽吹きふくらむ
57 ▲
くりかえしくりかえす元(もと)に
あるものは
静かな春この桜咲かせる
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
58 ▲
片付いてほっとゆるみゆく
漂うは
入れ立てのコーヒー香舞い立ち匂う
59 ▲
ありがとう たった一言に
おもい悩む
何気なさの遙か手前に
60 ▲
日々流るちいさなことに
ひたすらに
ちから入り入る重心のよう
61 ▲
ナノなのでそう簡単に
花は花は花は
咲く ことはない振り向く抒情
註.一時テレビでしつこく流れていた「花は咲く」に戯れて。
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
62 □
いろ褪(あ)せ縮み枯れゆくも
正視すべき
新たな生命(いのち)生み生まれゆく梅
63 □
見渡せば咲き匂うさくら花
知らぬ間に
散り急ぐ花々はおぼろな記憶のよう
64 □
おぼろげな記憶かき寄せ
選り分けて
静かに積もる人の匂い立つ
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
65 ▲
やわらかに柳あおめる
生まれ育ち
なら自然と言葉の行間(ことば)のせせらぐ
註.石川啄木「やわらかに柳あをめる 北上の岸辺目に見ゆ 泣けとごとくに 」 をふと思い引き寄せて。 |
66 ▲
深傷(ふかで)負い生まれ育ち
冬に墜(お)つ
ぐるぐるぐる毛羽立つ悪は
註.世の「凶悪」と呼ばれる事件を思って。
67 ▲
悪の華ふいと湧き出る
沈黙のよう
咲き誇るるもこの世のかなしみ
註.日々現象する事件を思って。
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
68 ▲
誰もがなんらかの傷を
刻まれて
生まれ育ち修復しゆく
69 ▲
悪ければ新芽芽吹くよう
くり返し
樹木の年輪探査し(たずね)歩くよ
註.中途までしか読んでいない『母型論』(吉本隆明)を思いつつ。
70 ●
木の葉が木の枝ぶりが
ああでなく
こうそうなった 言葉もまた?
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
71 □
遙かな 人間になる前は
ネコみたい
だったかどうか 霞(かすみ)棚引く
72 □
あれこれと身振り言葉を
送っても
返りくるくる原型の言波(ことば)
註.ネコと付き合っていて。
73 □
わからない言葉以前は
もやの中
赤ちゃんばぶばぶ這い出して来る
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
74 ▲
わからない言葉同士でも
匂い立つ
例えば笑みの流れ滲(し)み入る
註.「奇跡のリンゴ」の木村秋則さんが、外国に出かけてだったと思うが、互いに外国語を知らないのにある外国人と意思疎通ができて語り合ったとある本の中で述べていたことに、わたしがふしぎな思いを抱いたことを思い出して。 |
75 ▲
似ていてもフリーズとプリーズ
夕暮れに
彼(か)は誰(たれ)ぞ誰ぞ不穏ざわめく
註.もうずいぶん前になるが、アメリカ留学中の若者が、ハローウィン期間中に他家に迷い込んで射殺されたというニュースを思い出して。 |
76 ▲
freezeとplease フリーズとプリーズ
あちらとこちら
耳流れ来たる湧き立つ異形
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
77 ▲
何気なく過ぎゆく時も
張り詰めて
一秒(とき)を刻むも共に現在(いま)にあり
78 ▲
二層なす身体と頭脳(こころとあたま)
無意識(しらぬま)に
頭ばかりが疾走しゆく
79 ▲
嗅ぎつける不幸の心
ドアを開け
奔流する時代(とき)の舞台裏
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
80 ▲
日々日差す何埋めようと
呼び寄せる?
「あかまたくろまた」(註)湧き立つまなざし
註.「沖縄県八重山列島の豊年祭に登場する来訪神」
81 ▲
見え見えの自作自演
それでもなお
祭り沸き立つ劇の本質(とりこ)よ
82 ▲
舞え舞い立つ鳥の航跡
汗ぬぐい
ひっそり閑祭りの後は
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
83 □
ぎんぎんぎらぎらぎりゅ
ぎりゃぎん
ぐらぐらぐりぐるぎりゃぎりゅぎん
84 □
しーはほすーはほんのり
すーはしは
すーはほほほんぽんぽんぽんぱ
83~84註.わたしの愛読する、作家の町田康を思い浮かべつつ。
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
85 □
心踏む鈍い音階
風に押され
染み渡りゆき果てまでころびゆく
86 □
麦踏みNO!こころ心踏み
分けゆくよ
みどり滲み入り希薄なりゆく
87 □
避け難く朝は訪れる
色合いは
個の固有値(さだめ)より放たれゆくよ
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
88 □
スルーされ幸いなるか
無邪気に
門の手前に歌い踊るよ
註.この世界には、例えば、作家に限らず避けようもなく悲劇の門をくぐる人々がいる。おそらく本人のほとんど与り知らぬ「生い立ち」と深く関わっている。そして、生きることにその自らが与り知らぬ由来を求める旅が加わる。無意識的なあるいは意識的な悲劇の旅の途次で、その門を固く閉ざしたり、飾り立てたりする者もいる。しかし、それは特権的なものでもなく、生い立ちの不幸を背負わざるを得ない限り、避けられないということにすぎない。人がほんとうは、その門が見えず、門から「スルーされ」るのは、「幸い」であるよと思いつつ。 |
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
89 ●
今ここが全てのように
風の吹く
宇宙(とき)のすべてを知らないのに
註.人は、現在に重力の中心があるから現在が全てのように生きて活動している。これは生活実感からもそうだ。しかし、一方、わたしたちの生活には自身のあるいは人類の過去や未来もいろんな形でやって来る。このことは人の生み出す考えや思想においても同様である。 |
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
90 ▲
滴定の一滴(ひとしずく)から
湧き立つは
朝靄のなか過去のわたしか
註.滴定(てきてい)
「定量分析の操作の一。試料溶液の一定体積をとり,これに含まれる目的成分と反応する物質の濃度既知の標準溶液を加えていき,目的成分の全量が反応するのに要した標準溶液の体積から,目的成分の濃度,あるいは全量を求めること。」
|
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
91 ▲
笑っても泣き出しても
ほんとうは
よくわからない樹液の律動(リズム)
92 ▲
風流る(ぶるっと身震い)
桜匂う
花見の宴に浮かれ騒ぎ立つ
93 ▲
巡り来た春の衣装を
身にまとい
桜花(おうか)の道を西行の行く
94 ▲
やまだくん な やまだくんさあ
おい!きいてるかあ
桜の小舟蛇行し綻(ほころ)びゆく
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
95 □
静かなる会議の時間(とき)
浮遊して
臨死体験(ぼんやり)してる居るのに(?)居ない(?)
96 □
どんなにも些細(ささい)に見えても
誰もがも
その言葉のドア開け閉めし行く
97 □
口癖は我知らぬ間に
踏み固まり
どうでもいいよいいよと開け行く
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
98 ▲
目まいするくたびれ果ての
忘れ果て
追いまくられの「逝きし世の面影」
99 ▲
前駆する言葉晴れ上がり
揺れ揺らぐ
後ろ髪引くためらう心
100 ▲
ありとある習わしを切る
夢に沈む
鋭い爪の前駆細胞
註.前駆細胞
「幹細胞から特定の体細胞や生殖細胞に分化する途中の段階にある細胞。幹細胞は体のさまざまな組織・臓器に分化する能力をもつが、前駆細胞の分化能力は限られている。」 |
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
101 □
ひと休みしてもいいけど
染み付いて
あれこれ手の動き立ち回る
102 □
(入り口は どこそこですか)
問う前に
きみはもうすでにそこここに立つ
103 □
目をつぶる深く広がる
沈黙も
何かが在るよさざ波の立つ
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
104 ●
経文も言葉も超え
有と無(うとむ)超え
超えられぬわたし超え行く海原
註.例えば、蟻の感知し、捕捉できる世界は、わたしたち人間とは異なるのではないか。同様に、どれほど人類史としての歩みと積み重ねをもってしても、わたしたち人間の感知し、捕捉できる世界は、この宇宙の一部に過ぎないのではないかという疑念がわたしにある。それは、地球という局所からの観測であるけれども、この宇宙全体が局所的に等質であると仮定してもである。わたしの内省や言葉を媒介し駆使して、わたしたちは世界を捉えようとする。少しずつ世界の像は深まりゆき、同時に追究するわたしたち人間の像も深まりゆく。いずれにしても、人はこの宇宙を、追究する人間という自らの存在の有り様を含めて、追究することを止めることはないだろう。それが人が「生きて在る」あるいは「生きていく」ということの半ばを占めているだろうから。後の半ばは、現在を味わい尽くすこと。 |
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
105 ▲
お悔やみ欄知ることもなく
若い頃は
微熱の中空さ迷い歩く
106 ▲
年重ねつながりの糸の
絡(から)まれど
自由過ぎも不自由過ぎもなく
107 ▲
結ぼれるこの世の糸が
ぷっつりと
切れ消え行くに線香ひとつ
註.時折来ていた親類の訃報のみならず、事件などで亡くなった人々をふと思うこともある。直接のつながりはなくても、この世に、共に在ったことからの、お別れのあいさつのような……。 |
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
108 □
赤ちゃんのあぶあぶあぶう
自ずから
添いゆく母の入り口見ゆる
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
109 □
振り返る流れは揺らぎ
片隅に
静かに湧く青い道あり
110 □
くたびれてついうとうとと
小舟に乗り
どこどこ経てか今ここに覚(さ)む
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
111 ▲
何もない何(なん)にもないなあ
風の吹き
雲の流れゆくわたしの中に
註.この人間界の日々の様々な場面では、言うべきことは何にもなくても何か言わなくてはならないことがある。ほんとうは、自然界と人間界にまたがって何にもないの中に佇んでいたいのに。 |
112 ▲
わけもなく意図もなくなく
思い出す
ただらあらあと広がり響く
註.ふと中原中也の「らあらあと」という詩句が思い浮かんだ。調べてみると、「ただもうラアラア唱つてゆくのだ。」(「都会の夏の夜」『山羊の歌』)
|
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
113 ▲
ただひとりさびしくはない
人間界(ひとのよ)を
超え出る目と手足があれば
註.わたしたちに閉ざされた人間界だけしかなければ、息苦しすぎるだろう。しかし、それは幸いにも風穴のように自然界や宇宙に開かれて在る。
|
114 ▲
旅行してもしなくても
誰でもが
日々千里旅し巡り来る
註.わたしたちの日々の歩みは、具体性としては小さくても精神的には千里の巡回に値するのではないか。
|
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
115 □
気づかれぬ空気のように
日々眠る
覚えなくとも寄せ来る夢波(ゆめなみ)
116 ●
人が居る居ないの外(ほか)に
闇光(やみひかり)
巨きな時を静かに刻む
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
117 ▲
沈黙のさざ波立ち居る
閉ざされた
部屋の窓から言葉の飛び立つ
註.例えば、遠い昔の重苦しい会議の場を思い出して、言葉というもの、その現実の場を離脱するあるいはそこへ回帰する志向性を思いつつ。 |
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
118 ▲
言葉に色が付いてたら
パッとわかる
例えばみどりそのこころ模様の
註.ツイッターで時折出くわす「有名人」のつぶやきで、例えば自分の過去の体験の内省なのか自己主張なのか他人を教え導きたいのか、腑分けし難くよくわからないときがある。その人に長らく付き合ってみればわかってくるのかもしれないが、色が付いてて瞬時にそのこころ模様がわかればいいな思う。変なこと言えば自分が自然に恥ずかしくなってしまうような。個々人のこころ模様とそれがどこどことつながっているかという接続図が瞬時にわかれば、世の中無用の混乱や対立が少しは晴れ上がるかもしれない。因みにわたしには他人を教え導くなどという大それた考えは皆無である。 |
[短歌味体な Ⅱ] ゆるゆるシリーズ
119
ゆるゆると服ゆるみゆく
ゴム疲れ
時折手を当て気がける気分
120
ゆるゆると日差しに温(ぬる)み
解(ほど)けゆく
日々反復に染みたリズムは
註.「ゆるキャラ」なるものをふと思い浮かべ、その祖先は太古には神だったのだろうと思いつつ。ああ、わたしはそれにのめり込むのと別にというのとの中間地帯に居るなと思い、自分なりのゆるゆると。 |
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
121 ▲
回って回って回るう
裏通りは
目まぐるしい時に肩固く張りゆく
註.肩が凝るということ、その現場の有り様を想像して。
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
122 ▲
言葉は高層ビル
ずずずんと
寡黙(かもく)な地階からにぎやかな高層まで
註.社会に流動する全ての言葉を高層ビルに見立てて。
123 ▲
言葉は記号ではない
ざっくりと
こころやからだ突き刺し刺さる
註.言葉は人間の証(あかし)かもしれないが、一方、言葉は不幸の証でもあるかもしれない。
|
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
124 ▲
深い闇打ち震えるは
何ゆえに
生きものみな体中(からだ)走りゆく
125 ▲
震えるを打ち消し消さんと
声絞る
わあおおおーんわおわおおーん
[短歌味体な Ⅱ] 方言シリーズ
126
開けば時匂い立ち
閉じれば消え去りし時
方言集
127
方言が消え去っても
残っている
ふっくらくらのスイーツのように
128
声聴けば見えない線が
群衆の
耳柔らかく左右に分断す
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
129 ●
風が立ち日は差し巡り
内になびく
動植物の自然な足跡
130 ●
この地にて
姿形変え
今に在る
数十億年の
黙する大地よ
131 ●
大地には
生あるものが
未だない
聴く者いない
時を刻むばかり
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
132 ●
おぼろげに
不在の日々を描き出す
自由自在の言葉という奴
133 ●
宇宙に股(また)掛ける時
目まいのよう言葉は凍る
(あっおっうっい)
134 ●
人だけか
言葉に咽(む)せる森さまよい
沈黙の太鼓どんどん鳴らす
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
135 □
さざ波立つ内なる森の
葉揺れひとつ
みどりに染まる気は樹を生みゆく
136 □
石投げて水面(みなも)見つめる
時もある
1234………湧き上がる抒情(うた)
[短歌味体な Ⅱ] 歴史的追体験シリーズ
137
汝我流流哉(ながるるか)
張留野御空仁(はるのみそらに)
汝我流流哉(ながるるか)
木之内鳴御空野(このうちなるみそらの)
光微射手(かすかにさすひかり)
138
Is it flowing ? (ながるるか)
In the spring of the sky (はるのおおぞらに)
Is it flowing ? (ながるるか)
In this inner blue sky (このうちなるそらに)
filled with light.(ひかりみちみちて)
139
「スイーツ」に制圧されても
ひっそりと
当てのある層に饅頭座す
140
時を経て混じり合い
響き合い
饅頭とスイーツ共存す
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
141 ▲
遠目には見知らぬ他人
囲われて
角出し槍出し底なし沼へ
142 ▲
あがいても言葉の手足も
みんな 泥まみれ
ああ どこにある「ほんとうのこと」
註.宮沢賢治―吉本隆明の「ほんとうの考えと嘘の考えを分けることができたら、その実験の方法さえ決まれば」を思いつつ、また現下の福島原発大事故が当該生活者住民にもたらした、もたらし続けているこまごまとした諸問題と、その上空で相対立する放射能被害問題を思いつつ。 |
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
143 ▲
ほんとうは 人それぞれの
色放ち
交錯しても黒く濁らぬなら
144 ▲
誰にでもなじみの音色
ふいと来る
ゆあーんゆよーんゆやゆよん
註.中原中也「サーカス」より
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
145 ▲
折れ曲がる人付き合いの
意味別れ
二心ありの「いい加減」
註.「いい加減」という言葉に二重の意味が発生したことを想像しつつ。
146 ▲
距離により湧き方ちがう
イメージの
体温となって流れ下る
註.例えば、歌手や芸能人や有名人や王などに対して人が熱くなるのは、自分との距離感の大きさゆえか、その距離感を縮めようとして熱くなるのか、もちろん、わたしのように距離感の大きさゆえ無関心ということもあり得る。 |
[短歌味体な Ⅱ] 現在(いま)シリーズ
147
日差し浴び風の流るる
このひととき
振り返れしみわたる時!
148
おいしいと言わなくたって
流れ下る
このあじわいの言い様もなく
149
いやなこと霧と散ること
なくっても
この束の間は雲散霧消!
150
内向きに生きものみたいに
ただ和(なご)む
宇宙の下(もと)これこそレアメタル!
[短歌味体な Ⅱ] 数学シリーズ
151
その時の心を微分
探査する
弓形(ゆみなり)集い黙すベクトル場
152
見慣れてる中心近傍
両端の
果ては不明の平行線
153
直感に不審の煙
立つ見ゆれど
補助線なしでは炎が見えぬ
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
154 ▲
ちょっとした一言なのに
軽くなる
人のこころの飛び交う大空
155 ▲
1g増やしただけで
味ちがう
心模様の変化する境界値(へんげするさかい)
156 ▲
投げ入れてしまった一言
こうかいに
荒い波風立つのが見える
[短歌味体な Ⅱ] ええっとシリーズ
157
ええっと ええっとね なん
だっけなー
ええっとえーとね (ぐるぐる巡る)
158
ええっと日がねええーとえーと
日が赤と
赤と黄そんでねえーと混ざってね
159
えーとはいわかりました。
いいですよ。
えーとはいその日までには。
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
160 ▲
独り言つぶやく人も
無言でも
あれこれそれとカジュアル・トーク
161 ▲
くり返しおさらいしてても
相手には
ビミョウな誤差や屈折生まるる
162 ▲
ひとひとがうまくかみ合う
時あれば
流行歌軽やかに舞う
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)
163 ●
沈黙の奥の奥まで
すべり落ち
古井戸の底染み出すものあり
164 □
何もない
と振り返り言うも
何かある
生きてるかぎり
舞台裏は駆動し続ける
165 □
あ お
ああー
あっああー おっおおーー
註.そういえば、小さい頃山遊びなどでそんな声出していた
ような………。 |
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論
166 ★
う (みず) (水なのか?)
(ちろちろち)
(きらめいている) う (水なのか・・・)
註.人間の遙かな遠い記憶、瞬間のまぼろしのように。
167 ★
・・・ゆれ・・て・・・・
・ゆ・れ・・
・て・・ゆれてい・・・る・・
168 ★
はじまりは言うに言われぬ
苦労して
この穏やかな海に溶け泡立つ
[短歌味体な Ⅱ] リズムシリーズ
169
みずみずみずみずみずみず
ずずみずず
みずみずみずみずみずみずみず
註.短歌形式の中で、何かリズムのはじまりのようなものを思いつつ。
170
たんたんらららたんたんた
んたんらら
らららたんたんらららたんたん
171
みーんみんみんみんみーん
みんみーん
みんみんみんみーんみんみん
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論
172 ★
ゆらゆらら 踏み出す一歩
後ろ髪
引かれ幻の踏み行く小道
173 ★
あいさつの「はじめまして」は
遙か遠く
出会いの時の踏み均(なら)し秘め
174 ★
名札付く言葉以前の
顔立ちは
すっぴんぴんと微笑むばかり
註.言葉の品詞(名札)ということを思いつつ。
175 ★
風の音の沢沢沢と
吹く時は
葦(あし)も膨らみ言葉もふくらむ
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論
176 ★
生まれ立ての赤裸(あかはだか)のよう
染み付いた
観念の服脱ぎ立つ気分
177 ★
場面変わり声色(こわいろ)変
・・・さま
初源も今も平等の揺らぐ
註.名字がないとか言われる人々の映るテレビを観てて、ふと。
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論
178 ★
な・が・れ・て・流れているよ
今ここに
始まりから始まり巻き込み
179 ★
なるようになるほかないか
流れ来た
始まりからの海波に心逆らう
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論
180 ▲
「あ」と「い」の距離を走破する
時間(とき)の内に
人それぞれの匂い立ち込む
181 ▲
一つ言葉分解しても
あいうえお
微分して導線の行方見る
182 ▲
ハッとする深み増しゆく
色合いの
言葉染みてる地を踏みゆく
註.電子空間に限らず、思いがけず、普通の人々の味わい深い言葉に出会うことがある。それぞれなんらかの仕事や専門があるのだろう。このしんどい同時代を踏み歩いてきた年輪からいい香り立つのに出くわすことがある。
|
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論
183 ▲
なにゆえにひとりに帰り
ちいさな場
一人一人でまもりまもらん
註.「まもる」(古語)は、見守ると守るとの意。
184 ▲
洗練しカッコ付けても
やり込める
学の表情(ことばのよそおい)ボスザルに似て
185 ▲
恐れなす獣のように
呼び込むや
宗教・イデオロギー(まじないにきょうつうのまぼろし)
186 ▲
石持て打つ残虐も
イエスを超え
疾走する世界に互いに打たるる
註.事件として浮上する残虐は、ワイドショーでも真面目くさって裁かれるが、内省を迫るイエスを超え、つまり内省の余裕すらなく、当事者たちはこの世界の流れに追いまくられ、互いに打たれている。そこから見ると行き場のない黙する〈悲〉の情景が見えるような。 |
[短歌味体な Ⅱ] みどりシリーズ
187
いのち震う木(こ)の葉一枚
イメージの
伝わりゆくは姿形のみ?
188
言葉からみどり滲(にじ)んで
しみ渡る
イメージの野に木々の揺れ立つ
189
説明も意味もいらない
風流れ(風流れ)
みどり滲んで以心伝心
190
ありふれた日々の葉裏に
日の差して
みどりふるえる 掃除の後のよう
[短歌味体な Ⅱ] みどりシリーズ
191
頭降るあたま振る振る
かぼんすの
自信に満ちてみどり湖渇(こかつ)しゆく
註.「かぼんす」は、仮分数から来たと言われる方言か。頭でっかちのこと。小さい頃聴いたことがある。近・現代は、言葉に言い表しがたい情感的な「みどり」が隅に追いやられて、人の心~精神の領域は、「頭」中心の段階に入り込んでしまっている。
|
192
あっ あちっ ずっきんきん
知らぬ間に
みどり流れる木の葉のふるえる
193
ひとりひとり言葉同じく
みどりでも
色香ちがい 共にふるえる
[短歌味体な Ⅱ] みどりシリーズ・続
194
しっとりと雨にぬれ煙る
葉のつやの
言葉を超えて 浮上するイメージ
195
日々眠り 起き くり返す
ふしぎはない
けれど 時に みどり影射す
196
「ああいいね」 言葉は走り
意味伝う
その道はずれ 言葉の芯が火照っている
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論
197 ★
知らぬ間に心臓動き
大気を吸う
ひとつ流るる 今を生きる
198 □
重々巡り巡っても
始発する
終着点は言葉であるよ
199 ●
静けさの夜の底を
突き抜ける
ただ 暗闇と小さな光
200 ▲
振り返れば あれこれそれと
色鮮やか
ひとつ流れに引き絞られゆく
[短歌味体な Ⅱ] ちょっと試みシリーズ
201
ざっくり るる るるる
はじまりは
新たに設けた引き戸を引く
202
かあかあかあ ふいとカラス鳴き
大気震う
裏切るように無音の時流る
203
どんぶらこ ぐずぐずして
心急(こころせ)き
家の内にて早(はや)出会い演じてる
204
黙黙黙 煙出なくても
母子(ははこ)のように
晴れも曇りも屈折も伝う
[短歌味体な Ⅱ] ちょっと試みシリーズ・続
205
石 木の葉 人の
足音
風の 時は 刻み畳まれゆく
206
音の 湧き 流れ
下る
桜花(おうか)滲み入る 春 sun sun
207
お構い無しに音の湧水あり
例えば
三波春夫 キング・クリムゾン
208
宇宙レベルでたかが音たかが言葉
人界に降り立てば
言うに言われぬ人の織り成し
209
恐っ 刃鋭い
切っ先の
山場を越えて下りゆくあり
[短歌味体な Ⅱ] 物語シリーズ
[短歌味体な Ⅱ] 物語シリーズ
210
居たでしょうあの方の側に
微笑んで
イターニン夢の中まで追跡さるる
211
独りなら気楽なのに
背広着て
宗派の門叩き歩く
212
独りでは重量オーバー?
ふらふらと
宗派の門へ荷を運びゆく
213
七日前 あそこにあなたを
見かけました
そんな馬鹿な 事実溶け煙る
註.裁判というものが存在せざるを得ないように、恐ろしいことに〈事実〉というものは、悪意や作為や精神の病からを含めて、一つとは限らない。
|
[短歌味体な Ⅱ] 物語シリーズ・続
214
花ちゃんは笑顔がステキ
と言われても
肌を流れ落つ 花曇り
215
花曇りいのちの陰り
ドア開けて
また輝き出す 春の一日
216
春の一夜(ひとよ)語られなかった
種々(くさぐさ)の
言葉を浮かべ川に流してる
[短歌味体な Ⅱ] 物語シリーズ・続
217
夢の一世(ひとよ)と離脱はしない
黙黙と
ありふれた日々をゆったり歩く
218
弓なりに引き絞られても
気ままに街歩き
YesとNoの谷地(やち)の住民たちは
[短歌味体な Ⅱ] ちょっと試みシリーズ・続
219
深深途(しんしんと)静まり深まり
ぎっくり
腰折るるときイメージ野、暗転位す
220
るんるんるん言葉揺れ止み
ただ流る
流れに流れるんるんるるる
221
えええっ! 見てたの?
(装いもなく
ぼんやりとして佇む私?)
222
えさ投げる ひたすらの鯉たち
水面(みなも)から
返り来る思い水面へ浮かべ返す
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論
223 □
足もとに小石のあるが
ふと懸かり
歩み入るのは何の通路か
224 ●
重力なんて気にしない
実感無く
実感超え作動す宇宙原理は
225 ★
おそらくは月に降り立たずとも
始まりは
体の重み自ずから覚(おぼ)ゆ
226 ▲
知ってても知らなくても
変わらない
この人の世 光り明滅す
註.人の日々の営みとこの世界の移りゆきということを思い浮かべて。
[短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論
227 □
ただいまと日々帰り来る
不思議さよ
と迷い込めば深淵(しんえん)開くか
228 ●
砂を見る ひとつひとつの
乾ききり
夜が下りれば冷えゆくばかり
229 ★
いつからか 振り返ることもなく
手際よく
焼き上げていく厨房の人
230 ▲
目に染みる煙り漂い
ストーカー
振り払っても煙煙煙
[短歌味体な Ⅱ] ちょっと試みシリーズ・続
231
うっ ココデハイエヌ
イッテモ
シカタガナイ舞台ノ上ノヨウナ む
232
春 トイウコトハ
無意識ノ
内ニ季節ガ前提ノ流レ 去り
233
私・も・その・川・の・流れ・に・漬かり
つながり・の
糸・共鳴・し・止ま・ず
註.この人間界で、人は〈ひとり〉でありながら、誰でもなんらかのつながりの糸を繰り出したり、糸を引き寄せたりする存在であるなあという思いから。 |
[短歌味体な Ⅱ] ちょっと試みシリーズ・続
234
急に決壊しても
また補修(なお)し
定常値更新しゆく
註.作品が何を指示(意味)しているのかわからないことがある。それは作者固有の極私的な表出なのか、あるいは、あらゆる対象を貫く抽出された本質的なイメージを指示しようとしているのか、ここでは後者をイメージして。 |
235
あっ どうしたの?
いや別に
(こころころころ つまづきかける)
236
おっ (言葉はなくてもいい)
ふうはあふう
いま出来たてのコロッケは・・・
[歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論
237 □
ドア開ける 日々くり返す
透き間より
アブナイ匂い微かに煙る
238 ●
人間界(ひとのよ)の蟻さんたち
俺 俺 俺!
あちこちそちこち (・・・・・・)
239 ▲
ズームイン 一つ一つの
川砂の
重み増し増す画面いっぱいに
240 ★
ズームアウトをくり返し
踏み踏み
固まる芯ははじまり記憶す
[短歌味体な Ⅱ] ちょっと試みシリーズ・続
241
オレオレ! 意味が立つのは
引き連れて
前後左右に仲間居るとき
註.このことは、言葉の表現に限らず、人間世界でもそうだ。しかし、前者は自然だが、後者は権力的な場面だ。 |
242
何ですか?! ていねいすぎる
しゃべり口
矢継ぎ早に杭打ち来る
243
独り言と思いきや
輪の中に
描きつつーと中心を占む
242・243註.ネットでの言葉をたどっていて、ほんとに手ぶらな自分を見つめ語る者ばかりではなく、意識的無意識的に他を当てにする作為的な言葉もあるな、という思いから。 |
[歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論
244 □
日差しやら風雨にさらされ
ひび入るよ
芯の芯までざっくりんりん
245 ●
記憶あり巨きな時間が
ゆったりの
夢の中までりんりんと響く
246 ▲
くり返す日々の自然に
溶け込んで
思いもしないぱっくり破局
247 ★
そういえばいちにーさんぽ
立ち上る
遠い微気配またぎ越し来る
[短歌味体な Ⅱ] ちょっと試みシリーズ・続
248
心急(せ)き流れ下る
笹舟は
右へ左へ「あざーす」と浮上
註.「あざーす」は、若者語で「ありがとうございます」の短縮形と電子辞書にある。 |
249
ころがるこころころころ
ちら見して
またころがりごろごろ
[短歌味体な Ⅱ] ちょっと試みシリーズ・続
250
生き急ぐ青葉の季節は
うわの空
しっとり濡れるみどり跨(また)ぎゆく
251
悪意や照れを脱色し
たむろする
茶髪の「きもっ」「あざーす」
252
歳によりものの見え方違う
例えば
「きもっ」「あざーす」はどこへ去りゆく?
[歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論
253 □
なぜなのか ものみなすべて
静止せず
始まりあって終わりがある
254 ●
生きものの数に合わせて
たくさんの
時間と空間(ときとば)がある 巨きな時間(とき)の内に
255 ▲
人のみがこの宇宙(せかい)の
沈黙の
さざ波立つ由来訪ねてる
256 ★
数百万年(ながいとき)歩み来た人の
足跡は
いろんな癖を今に刻みつつ
[短歌味体な Ⅱ] イメージシリーズ
257
デコポンと言い終わらない
途上に
イメージは黄色く匂い包まれ
258
当てもなく駆動し初め
煙りゆく
イメージの流線(ながれ)は波立ちゆく
259
気がつけばここで行き止まり
と とっとっと
幕引きかけてまたイメージは流れ出す
[短歌味体な Ⅱ] イメージシリーズ・続
260
くり返すくり返しゆくと
おぼろげに
深く イメージ場に言葉の飛び跳ねる
261
ぼんやりとそこに力入(い)り
イメージの
流れ逆巻き言葉の追いすがる
262
夕暮れの降り来る階段
イメージの
火照る終点(おわり)から花火の上がる
[短歌味体な Ⅱ] イメージシリーズ・続
263
人界の巨きな年輪
分け入って
〈本願他力〉とイメージす すすっと
註.おそらく、自己責任や自力中心のこの人間界と自力を超出した宇宙という次元(つまり、無に近い人の存在)とが、言葉によってある深みにおいて相互に出会う場から、親鸞の〈本願他力〉のイメージが浮上してくるという思いから、そのイメージ場に向けて。付け加えれば、親鸞のその〈本願他力〉という概念は、当時の仏教の言葉や概念に囲まれながら、一方で、大多数の人々の現世での苛酷な有り様への眼差しを突き抜けるようにして、繰り出されている。しかも、その言葉は現在に生きる思想性を持っている。 |
[短歌味体な Ⅱ] ちょっと試みシリーズ・続
264
塀塀塀門という門
鍵がかけ
られ塀塀塀知る由もない
註.「現在は樹木亭々として景観豊かな庭も古邸も高い塀に囲まれたまま放置されていて、門という門の鍵がかけられているので、内部を窺い知る由もない。」(「是公さんのこと」、『漱石の長襦袢』半藤末利子 文春文庫) |
[短歌味体な Ⅱ] イメージシリーズ・続
266
三時とは例えば時計
針の位置
暑い日差しを苦しげに動く
267
デジタルはただその時を
生きている
顔立ちして生ひ育ちゆく
268
せせらぎの水音聴こゆる
画像超え
みどり滴り流れが速い
註.テレビに映るせせらぎの場面や水音から。
[短歌味体な Ⅱ] イメージシリーズ・続
269
まぼろしの梅干し赤く
しゅみていく
ぽたりぽったり舌を励起(れいき)す
270
一言(ひとこと)に多言味(たごんあじ)あり
多言にも
ひそやかな一言うずくまり居る
[短歌味体な Ⅱ] イメージシリーズ・続
271
こぼれ出るちっちゃい子の
ふだん着の
「ぽんぽんいくね」に乗り込んでみる
[短歌味体な Ⅱ] 速度論シリーズ
272
タンタンタタタタンタン
タンタタタ
タンタンタタタタタタタタン はやっ!