短歌味体なⅠ

 100首
(2015年02月02日~02月24日)





百万言費やし合うも
発発 発発発
滲(にじ)み出すは絵の具の濁り



今となっては憎み合う男女
ものみな
磁石みたい二極に分離す



信長は攻め滅ぼし
女子供も数百人閉じ込めて
家々を焼き払ったよ

 註・『信長公記(しんちょうこうき)』より



フロイスは冷静の割には
対立する仏教徒を
悪魔の手先と何度も呼んだよ

 註・『フロイス日本史』より
   フロイスは、日本にやって来た宣教師。



豊後(ぶんご)のキリシタン大名は
十字架汚され
仏教徒を殺してしまったよ

 註・『フロイス日本史』より



歴史とは時間つながり
遠くても
今も着ている心の麻古着(あさ ふるぎ)を



歴史とは時間つながり
新味旧味
層成す心ふいと奏(かな)でる



戦国の世にわれ居れば
血縁の
結ぶ絆に武器持て駆け出(いで)しかも



 [短歌味体な]―戯れ体



見え見えのバレバレなのに
暗転し
別の物語事実を覆う


10
人の世なら何でも有りか
動いてる!
じっと見てたのに
碁石の位置が


11
子どもなら肌で嫌うよ
嘘つきは
言葉塗り重ねても尻尾が出てるし





12
今の世にわれ徒党・絆なく
寄せ来る言葉の洪水
静かに庭掃く


13
ここでならあいさつもしよう
日々変わらず
日差し柔らか風の匂う


14
ないないと否定の韻の
響く彼方
古びた日差し今日も差してる


15
(あなたは今ハゼの木の下!)
耳から下り
言葉が肌を発火させる


16
くたびれてスイッチ切れば
まぼろしの
言葉の洪水さっと潮引く


17
まぼろしと思いなせども
渦下り
肌逆立てる波風の立つ


18
なあんにもなくてもなくとも
てくてくと
日々の足音みたい歌は志向す


19
それはあなたこれはわたし
同じ足
跡でも違う声の響きが


20
言わないが中心にふんばり歌う
「つまらないものですが」の重力を受けて


21
何気ない「つまらないものですが」にも
遙か果てより
響き貫く人の世の年輪


22
小石にも幾多の歳月
刻まれて
ああ いまここのこの姿かたち


23
歴史とは重力みたい
いまここに
見えない力 重力場のよう


24
はらはらとものみなすべて
移りゆき繰り返しゆく
原原原


25
張るの日差し肌ゆるみゆく
なびきゆき滲み出しゆく
春春春


26
りんりんと鳴き出し静まり
梅匂う ゆるみゆく日差しに
凛凛凛


27
はっきりと意味はなくとも
微かに見ゆ
靄(もや)のかかる街朝の震えるを


28
はっきりと意味はなくとも
揺れ揺られ
しっとり触れる朝の始まり


29
はっきりと意味はなくとも
身は揺られ
るんるんるん走り出すよ


30
オレなんて短歌なんて
おもい渦巻き
清冽に湧く朝もあるさ


31
ずっしりと蹴られなくとも
こころ傾(かし)ぐ
重い渦巻きぐんぐんぐん


32
はっきりと意味では言えぬ
二月の梅
わが眼差しに触るる流るる 


33
大きく移ろう時に
姿現す
死んだ男の遺言人は

 註.鮎川信夫の詩「死んだ男」を思い起こして


34
やっぱりねもう忘れてる!
歳のせい?
けれどけれども今こここそ戦場(いくさば)


35
時間の波頭(はとう)の下に
ひっそり
深く残り来る根太いものは

 註.この列島人の精神の遺伝子を思って


36
鈴隣鈴 タイマー止まらず
隣倫隣
慌てふためく蟻たちのよう


37
毛布毛布(もふもふ)と波打つ心
砂利砂利
思いの外に砂をかむ時


38
sun sun sun 日差しの下に
曇曇曇
忍び寄るはどこの差し金か


39
がんばらんばうーばんぎゃーか
のおのおのお
すうすうすうぎゃあけんついてのお

 註.みな九州の或る地方の方言から


40
らんららん run ran run
駆け出しの
背を押すリズム足に馴染み居る


41
そおおかあ そおだねえええ
知らぬ間に
峠を越えて異流に踏み居る


42
駆けていく言葉はおわぬ
こぼれ落つ
ひとつひとつ背負い追いきれぬ


43
追う言葉出会うは靄(もや)の
彼(か)は誰(たれ)時
敵か味方か獣か人か


44
大車輪 光る言葉よ
寄せ来る波
と観客を掻き分け掻き分け


45
ここじゃない ああそこでもない
ふんい気は
肌にわかるのに言葉に終えぬ


46
追う言葉知らぬ所で
ばったりと
ああ小さい頃のけんちゃんじゃ


47
いくつもの層成(そうな)し眠る
駆ける言葉
姿形成(かたちな)す追う言葉に



 短歌味体な


48
世の中の天気模様の
どうであれ
子どもも遊ぶ犬も遊ぶよ


49
他人(ひと)知らず我知らずにか
ぶつかった
通路に尾引く心模様二つ


50
言葉さえ水面(みなも)に落ちれば
ざわざわと
胸騒ぎ波立て駆け出しゆくよ


51
言葉なんて言葉なんてさあ
と言っても
放てば血滲(にじ)み不穏(ふおん)が匂い立つ


52
沈黙の海に飛び交う
飛び魚の
上っては下り耐え居る疲労の


53
きらきらにカッコ良さげに
飛び魚の
心貫く大いなる日差し

註.大いなる自然、そして人間界の喩ということを思って


54
走る走る電車はまだか
波打つ肌に
ふいと流れ出すは津軽海峡冬景色


55
カッコつけ踏み出す挨拶
イメージは
根太い足の万葉集


56
まあだだよ もういいかいい
我知らず
顔を出してる梁塵秘抄(りょうじんひしょう)


57
ほんとうのほんとにほんとの
ほんとうさ
ほんとうに触れ居(い)るは難しい


58
くりかえしくりかえしても
大声でも
ほんとうは遠い深い霧の中


59
ひっそりと旅する者あり
ほんとうを
あるは銀河鉄道に あるは車に乗り


60
目まぐるしくくたびれるほどの
繰り返し
一ミリしか動かなかった


61
ほんとうは
時の渦のなか主流沿いに
微量の姿形改まりゆく


62
日々出会うA→Bの一歩が
目まいのよう
複雑系にすってんころりん


63
一刷毛(ひとはけ)の あ→いに刻まれる
無限に
戦(おのの)き震うこの一歩は


64
例えばA→Zとあ→ん
ちがうねえ
流るる速さ寄せ来る景色


65
南無阿弥陀(なんまいだ)
南無阿弥陀(なんまいだああ)
足しびれ
南無阿弥陀(なもあみだああ)
痛みの分かれゆく


66
歌うこと無くても歌う
自己矛盾(ねじれてる)
この駆動する energy flow(ひかりひかるる)


67
なんであれ生き継ぐかぎり
平等に(ひとしなみ)
光輝光(ひかりひかるるひかるらん)


68
鈍鈍鈍大気温(ぬる)んで
呑呑呑
からだのなんか緩(ゆる)みゆくよ


69
歯歯歯思わず笑い
roll down roll down
見えないしずく心模様


70
夢無霧萎(しお)れゆく枝葉
水吸水
夢幻の遠い出来事のよう


71
よく切れる(あぶな!)
これほどすごい(初めは皆)
包丁は(中程には)
お買い得だよ(鈍くなりいくよ)
さあ スゴーイ さあ スゴーイ さあ(ものみなすべて)


72
風が吹く(そおねええ)
気持ちは懸かる(さむいわねええ)
部屋の中(まだまだね)
古びたハンガーに(春が咲き出すの)
温(ぬる)くくつろぐ(まちどおしいわ)


73
これとこれ(ええっと)
書いてもらうと(あれなんだっけ)
あとはOKです(ハイハイ)
こちらの方で(風に吹かれて……)
うまくやります(ハイハイ)


74
節分みたい転げてくるよ
微笑みは
花ほころぶ流れに乗って


75
信号みたい点滅してる
人の手足(てあし)
心も頭も苦の韻を踏み続け


76
春みたい巡り来るよ
昨年と
微妙に違う衣装をまとい


77
あいうえお遠い書き始めを
繰り返す
自らは見えぬ背の不安から


78
12 12 そんなリズムが
あったんだ
12 12 12 知らぬ間に滲(し)みている


79
111 11 111 11 11
背景音楽(BGM)のよう
気づいたら遠い海辺を歩いていたよ


80
秋風の身に浸(し)む季節は
逆らうよう
情感の「シュミテクト」


81
何気ない日々のあわいから
敢闘賞!
例えば台所(だいどこ)の「キッチンペーパー」


82
あれこれと立ち回ると
忘れてる
熱湯にしてた 熱(あちっ)! 「はひふへほー」


83
こぼれそうな(あ)
ころがりそうな(う)
煙揺れ(あ)
くり返しくり返す(う)
平均台みたいな(う)


84
打ち上がるこころの下から
くねくねと
幻の風景(けしき)求め坂を上る


85
手すりからどちらに向かう?
付き従う
影みたいな言葉のスロープ


86
影の声 ダメよダメダメ
そっちへは
転がり落ちる死語の谷間


87
ひっそりと坂を上りゆく
汗もでる
頼みの綱はわが年輪の現在(いま)


88
ひとりから姿くらまし
のっぺりぺり
徒党頼むは顔立ち歪む(文体臭う)


89
ほんとうはどうでもいいのに
あたまいいね
と思うあり人の層成す心は


90
遙かなり人界超えて
振り向けば
人皆同じ光の明滅


91
開かれぬ仏典を背に
仰ぎ見る
今ここの夜空に浮かぶ星々を


92
ひとつとて立ち現(あらわ)るが
束になり
ずんずんずんと締め上げて来る


93
戻りがけに蹴つまづくよ
ああそうなんだ
急に剥(は)がされた冬の朝の布団のよう


94
わからないが降り積もりゆく
わからない
それでも平気にはな歌歌い行く


95
偶然に小枝が落ちた
流れに
わたしの小枝を浮かべ流してみる


96
鳥の群れつつ飛んでゆく
手が伸びる
触手のよう とんで とびゆく


97
1+1が難問に見ゆる時
つむじ風
さっと掠(さら)いゆく人の不明の闇に


98
さっちゃん早いものだね
卒業か
ぐぐぐっと一刷毛(ひとはけ)振り返り来る


99
すいません いえいえこちらこそ
(よそ見してたか)
春の気配匂い立ち流るる


100
はじまりは不明の芽吹き 
中ほどあって
いろんなやり取りふろしきを結びゆく






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