短歌味体なⅡ宇宙論的な試み

 500首
(2015年02月24日~8月21日)





目次


[短歌味体な]100首に及んで  2015年02月24日  
       短歌味体(みたい)な Ⅱ
     □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、 ★:起源論
     日付
短歌味体な Ⅱ 1  2015年02月24日 
短歌味体な Ⅱ 2-5 ▲▲▲▲ 2015年02月26日 
短歌味体な Ⅱ 6-7 □□ 2015年02月27日  
短歌味体な Ⅱ 8-10□□□  2015年02月28日  
短歌味体な Ⅱ 11-12□□ 2015年03月01日 
短歌味体な Ⅱ 13-15●●● 2015年03月02日 
短歌味体な Ⅱ 16-19 椿シリーズ 2015年03月03日 
短歌味体な Ⅱ 20-21 目覚めシリーズ  2015年03月04日  
短歌味体な Ⅱ 22-23▲▲ 2015年03月05日 
短歌味体な Ⅱ 24-25▲ 2015年03月06日  
短歌味体な Ⅱ 26-27□□  2015年03月07日   
短歌味体な Ⅱ 28-32 ▲▲□□□ 2015年03月09日  
短歌味体な Ⅱ 33-37▲▲▲▲▲  2015年03月10日 
短歌味体な Ⅱ 38-40  あそびシリーズ 2015年03月11日  
短歌味体な Ⅱ 41-43●●● 2015年03月12日   
短歌味体な Ⅱ 44-48●●●▲▲   2015年03月13日   
短歌味体な Ⅱ 49-51▲▲▲ 2015年03月14日  
短歌味体な Ⅱ 52-54▲▲▲ 2015年03月15日  
短歌味体な Ⅱ 55-57▲▲▲ 2015年03月16日 
短歌味体な Ⅱ 58-61▲▲▲▲ 2015年03月17日 
短歌味体な Ⅱ 62-64□□□ 2015年03月18日  
短歌味体な Ⅱ 65-67▲▲▲  2015年03月19日   
短歌味体な Ⅱ 68-70▲▲ 2015年03月20日   
短歌味体な Ⅱ 71-73□□□   2015年03月21日 
短歌味体な Ⅱ 74-76▲▲▲    2015年03月22日  
短歌味体な Ⅱ 77-79▲▲▲     2015年03月23日   
短歌味体な Ⅱ 80-82▲▲▲  2015年03月24日 
短歌味体な Ⅱ 83-84□□      2015年03月24日 
短歌味体な Ⅱ 85-87□□□   2015年03月25日 
短歌味体な Ⅱ 88 2015年03月26日  
短歌味体な Ⅱ 89  2015年03月27日  
短歌味体な Ⅱ 90▲   2015年03月28日   
短歌味体な Ⅱ 91-94▲▲▲▲     2015年03月29日  
短歌味体な Ⅱ 95-97□□□ 2015年03月30日 
短歌味体な Ⅱ 98-100▲▲▲   2015年03月31日 
短歌味体な Ⅱ 101-103□□□  2015年04月01日 
短歌味体な Ⅱ 104  2015年04月02日 
短歌味体な Ⅱ 105-107▲▲▲ 2015年04月03日 
短歌味体な Ⅱ 108  2015年04月04日  
短歌味体な Ⅱ 109-110□□  2015年04月05日 
短歌味体な Ⅱ 111-112▲▲ 2015年04月06日  
短歌味体な Ⅱ 113-114▲▲  2015年04月07日   
短歌味体な Ⅱ 115-116□●   2015年04月08日    
 短歌味体な Ⅱ 117▲   2015年04月09日   
短歌味体な Ⅱ 118  2015年04月10日 
短歌味体な Ⅱ 119-120  2015年04月11日  
短歌味体な Ⅱ 121▲  2015年04月12日
短歌味体な Ⅱ 122-123▲▲   2015年04月13日 
短歌味体な Ⅱ 124-125▲▲    2015年04月14日 
短歌味体な Ⅱ 126-128 方言シリーズ  2015年04月15日 
短歌味体な Ⅱ 129-131●●●  2015年04月16日 
短歌味体な Ⅱ 132-134●●●  2015年04月17日  
短歌味体な Ⅱ 135-136□□ 2015年04月18日   
短歌味体な Ⅱ 137-140 歴史的追体験シリーズ  2015年04月19日  
短歌味体な Ⅱ 141-142▲▲     2015年04月20日 
短歌味体な Ⅱ 143-144▲▲     2015年04月21日 
短歌味体な Ⅱ 145-146▲▲  2015年04月22日 
短歌味体な Ⅱ 147-150 現在(いま)シリーズ   2015年04月22日 
短歌味体な Ⅱ 151-153 数学シリーズ  2015年04月23日 
短歌味体な Ⅱ 154-156▲▲▲   2015年04月24日
短歌味体な Ⅱ 157-159 ええっとシリーズ  2015年04月25日 
短歌味体な Ⅱ 160-162▲▲▲    2015年04月26日 
短歌味体な Ⅱ 163-165●□□  2015年04月27日  
短歌味体な Ⅱ 166-168★★★ 2015年04月28日 
短歌味体な Ⅱ 169-171 リズムシリーズ 2015年04月29日  
短歌味体な Ⅱ 172-175★★★★  2015年04月30日 
短歌味体な Ⅱ 176-177★★   2015年05月01日  
短歌味体な Ⅱ 178-179★★  2015年05月02日 
短歌味体な Ⅱ 180-182▲▲▲   2015年05月03日  
短歌味体な Ⅱ 183-186▲▲▲▲  2015年05月04日   
短歌味体な Ⅱ 187-190 みどりシリーズ  2015年05月05日  
短歌味体な Ⅱ 191-193 みどりシリーズ・続   2015年05月06日   
短歌味体な Ⅱ 194-196 みどりシリーズ・続    2015年05月07日 
短歌味体な Ⅱ 197-200★□● 2015年05月08日 
短歌味体な Ⅱ 201-204 ちょっと試みシリーズ  2015年05月09日 
短歌味体な Ⅱ 205-209 ちょっと試みシリーズ・続   2015年05月10日  
短歌味体な Ⅱ 210-213 物語シリーズ    2015年05月11日  
短歌味体な Ⅱ 214-216 物語シリーズ・続     2015年05月12日 
短歌味体な Ⅱ 217-218 物語シリーズ・続  2015年05月13日  
短歌味体な Ⅱ 219-222 ちょっと試みシリーズ・続  2015年05月14日   
短歌味体な Ⅱ 223-226 □●★▲ 2015年05月15日  
短歌味体な Ⅱ 227-230 □●★▲  2015年05月16日   
短歌味体な Ⅱ 231-233 ちょっと試みシリーズ・続    2015年05月17日   
短歌味体な Ⅱ 234-236 ちょっと試みシリーズ・続     2015年05月18日  
短歌味体な Ⅱ 237-240 □●▲★   2015年05月19日   
短歌味体な Ⅱ 241-243 ちょっと試みシリーズ・続    2015年05月20日   
短歌味体な Ⅱ 244-247 □●▲★    2015年05月21日   
短歌味体な Ⅱ 248-249 ちょっと試みシリーズ・続     2015年05月22日 
短歌味体な Ⅱ 250-252 ちょっと試みシリーズ・続   2015年05月23日  
短歌味体な Ⅱ 253-256 □●▲★     2015年05月24日  
短歌味体な Ⅱ 257-259 イメージシリーズ   2015年05月25日  
短歌味体な Ⅱ 260-262 イメージシリーズ・続  2015年05月26日 
短歌味体な Ⅱ 263 イメージシリーズ・続   2015年05月27日 
短歌味体な Ⅱ 264 ちょっと試みシリーズ・続     2015年05月28日  
短歌味体な Ⅱ 266-268 イメージシリーズ・続   2015年05月29日   
短歌味体な Ⅱ 269-270 イメージシリーズ・続   2015年05月30日 
短歌味体な Ⅱ 271 イメージシリーズ・続 、272 速度論シリーズ 2015年05月31日  
短歌味体な Ⅱ 273-276 速度論シリーズ・続 2015年06月01日
短歌味体な Ⅱ 277-279 速度論シリーズ・続 2015年06月02日
短歌味体な Ⅱ 280-284 □●●▲★   2015年06月03日
短歌味体な Ⅱ 285-287  ちょっと試みシリーズ・続 2015年06月04日 
短歌味体な Ⅱ 288-291 □●▲★ 2015年06月05日  
短歌味体な Ⅱ 292-295 □●▲★ 2015年06月06日   
短歌味体な Ⅱ 296-298 数学シリーズ・続  2015年06月07日   
短歌味体な Ⅱ 299-300 ちょっと試みシリーズ・続  2015年06月08日  
短歌味体な Ⅱ 301-302 政治論シリーズ  2015年06月09日 
短歌味体な Ⅱ 303-304 政治論シリーズ・続 2015年06月10日  
短歌味体な Ⅱ 305-306 政治論シリーズ・続  2015年06月11日 
短歌味体な Ⅱ 307-309 政治論シリーズ・続  2015年06月12日 
短歌味体な Ⅱ 310-311 政治論シリーズ・続  2015年06月13日 
短歌味体な Ⅱ 312-314 ちょっと試みシリーズ・続  2015年06月14日 
短歌味体な Ⅱ 315-316 政治論シリーズ・続   2015年06月15日 
短歌味体な Ⅱ 317-320 □●▲★  2015年06月16日 
短歌味体な Ⅱ 321-323 ちょっと試みシリーズ・続   2015年06月17日 
短歌味体な Ⅱ 324-326 ちょっと試みシリーズ・続  2015年06月18日
短歌味体な Ⅱ 327-328 政治論シリーズ・続    2015年06月19日 
短歌味体な Ⅱ 329-330 政治論シリーズ・続   2015年06月20日  
短歌味体な Ⅱ 331-333 政治論シリーズ・続    2015年06月21日  
短歌味体な Ⅱ 334-337 □●▲★   2015年06月22日  
短歌味体な Ⅱ 338-340 政治論シリーズ・続    2015年06月23日 
短歌味体な Ⅱ 341-345 政治論シリーズ・続     2015年06月24日 
短歌味体な Ⅱ 346-349 □●▲★  2015年06月25日  
短歌味体な Ⅱ 350-352 ちょっと試みシリーズ・続    2015年06月26日  
短歌味体な Ⅱ 353-355 ちょっと試みシリーズ・続  2015年06月27日 
短歌味体な Ⅱ 356-359 □●▲★   2015年06月28日   
短歌味体な Ⅱ 360-362 政治論シリーズ・続    2015年06月29日 
短歌味体な Ⅱ 363-365 普通はシリーズ 2015年06月30日 
短歌味体な Ⅱ 366-369 □●▲★    2015年07月01日 
短歌味体な Ⅱ 370-372 舟のイメージシリーズ  2015年07月02日  
短歌味体な Ⅱ 373-375 戯れ詩シリーズ 2015年07月03日  
短歌味体な Ⅱ 376-377 普通はシリーズ・続  2015年07月04日  
短歌味体な Ⅱ 378-380 独りのシリーズ   2015年07月05日  
短歌味体な Ⅱ 381-383 独りのシリーズ・続   2015年07月06日  
短歌味体な Ⅱ 384-387 □●▲★     2015年07月07日   
短歌味体な Ⅱ 388-389 掛け合いシリーズ   2015年07月08日   
短歌味体な Ⅱ 390-391 掛け合いシリーズ・続    2015年07月09日
短歌味体な Ⅱ 392-395 □●▲★      2015年07月10日   
短歌味体な Ⅱ 396-398 掛け合いシリーズ・続  2015年07月11日  
短歌味体な Ⅱ 399-400  □●▲★  2015年07月12日   
短歌味体な Ⅱ 401-402  □●▲★  2015年07月13日   
短歌味体な Ⅱ 403-404  引用シリーズ  2015年07月14日   
短歌味体な Ⅱ 405-407  引用シリーズ・続   2015年07月15日 
短歌味体な Ⅱ 408-410  引用シリーズ・続   2015年07月16日 
短歌味体な Ⅱ 411-413  ふと眺めるシリーズ  2015年07月17日  
短歌味体な Ⅱ 414-416  □●▲★   2015年07月18日 
短歌味体な Ⅱ 417-419  □●▲★   2015年07月19日 
短歌味体な Ⅱ 420-421  ふと眺めるシリーズ・続 2015年07月20日  
短歌味体な Ⅱ 422-424  □●▲★    2015年07月21日 
短歌味体な Ⅱ 425-427 この地では誰もがあるあるシリーズ  2015年07月22日 
短歌味体な Ⅱ 428-429 何んかよくわからないシリーズ   2015年07月23日  
短歌味体な Ⅱ 430-431 何んかよくわからないシリーズ・続    2015年07月24日  
短歌味体な Ⅱ 432-434  □●▲★  2015年07月25日   
短歌味体な Ⅱ 435-438  □●▲★   2015年07月26日 
短歌味体な Ⅱ 439-441 朝シリーズ   2015年07月27日  
短歌味体な Ⅱ 442-443  漱石シリーズ 2015年07月28日  
短歌味体な Ⅱ 444  漱石シリーズ・続  2015年07月29日  
短歌味体な Ⅱ 445-447  小さい子のための歌シリーズ  2015年07月30日  
短歌味体な Ⅱ 448-449  □●▲★   2015年07月31日   
短歌味体な Ⅱ 450-451  □●▲★  2015年08月01日 
短歌味体な Ⅱ 452-453   57577シリーズ 2015年08月02日 
短歌味体な Ⅱ 454-455  小さい子のための歌シリーズ・続   2015年08月03日 
短歌味体な Ⅱ 456-458  大人のための歌シリーズ 2015年08月04日 
短歌味体な Ⅱ 459-461  少年のための歌シリーズ 2015年08月05日 
短歌味体な Ⅱ 462-464  □●▲★   2015年08月06日 
短歌味体な Ⅱ 465-467  黒シリーズ 2015年08月07日 
短歌味体な Ⅱ 468-470 定住と旅シリーズ  2015年08月08日 
短歌味体な Ⅱ 471-473 舌足らずシリーズ  2015年08月09日 
短歌味体な Ⅱ 474-475  □●▲★   2015年08月10日  
短歌味体な Ⅱ 476-478 観察シリーズ   2015年08月11日   
短歌味体な Ⅱ 479-481 少年の日々シリーズ 2015年08月12日 
短歌味体な Ⅱ 482-484 何気なく音を感じるシリーズ  2015年08月13日 
短歌味体な Ⅱ 485-487  □●▲★  2015年08月14日  
短歌味体な Ⅱ 488-490  夢うつつシリーズ 2015年08月15日  
短歌味体な Ⅱ 491-493  □●▲★     2015年08月16日 
短歌味体な Ⅱ 494-496  本流のイメージシリーズ  2015年08月17日  
短歌味体な Ⅱ 497-498  赤ちゃんのための歌シリーズ  2015年08月18日 
短歌味体な Ⅱ 499  □●▲★ 2015年08月19日 
短歌味体な Ⅱ 500  □●▲★  2015年08月20日 
短歌味体なⅡ、500篇にて終了  2015年08月21日 









  [短歌味体な]100首に及んで



①「短歌味体な」の作品数が100首になりました。途中から、100首になったらまた別のことをしようと思い立ちました。普通に誰もが経験していることですが、なんでもその世界に入り込まないと見えない、感じ取れない、ということがあります。そして、そこには何かがおぼろに立ち上がってきます。

②わが国のすぐれた批評家の一人である内田樹は、『日本辺境論』(2009年)で、地理的にアジアの辺境たるこの列島が精神史的にも辺境ゆえに、この地からは自前の宇宙論など出たことはないし、これからも出ててきそうにないと述べていました。

③中国に任官願いの類いを書いた「倭の五王」辺りから、官僚層・政治支配層のアメリカ追従の現在に到るまでならそのことは当たっているでしょう。しかし、時間のスケールをもっと過去にさかのぼっていくと、その辺境論が無効になる地点があるはずです。その向こうまで突き抜けてみたい。未来に向けて。

④わたしは以前、詩で宇宙論的な試みをやったことがあります。内田樹のその本を読んだからではなく、それとは別に、わたしの固有のモチーフからです。
 また、短歌のような詩型でもそのような試みがやれないものか、と書き進めて思うようになりました。これはその無謀な試みです。

⑤日々いろいろと書き継いで、あとで総合するように構成できたらな、と考えています。 次から、[短歌味体な Ⅱ]になります。少しゆっくりやります。

 目印が付いているものは、□:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)です。







   [短歌味体な Ⅱ] □入口論、●宇宙論、▲世界論(人界論)


1 □
葬式の服に付いてる
糸くずの
夢幻(むげん)に舞い深く深く落ちゆく




   [短歌味体な Ⅱ] □入口論、●宇宙論、▲世界論(人界論)


2 ▲
はじめには桜咲き匂う
中程に
きゅうきゅうと追い詰めらるる


3 ▲
ゆったりとくつろぎ微笑む
人は皆
無数の糸引き引かれつつも


4 ▲
歳重ね流れ流され
分かち難し
法の刀のざっくり善悪


5 ▲
そうそうそう相槌(あいづち)の内に
静かに
わたしだけの響き鳴っている




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


6 □
気づいたら入っていたよ
入り口は?
カフカの迷路城(めいろ)はここじゃない


7 □
気づいたら入っていたよ
入れたよ
万人向けの「どこでもドア」




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


8 □
無意味な仮定としても
もしきみが
いまここにいなければ〈世界〉は無い?


9 □
きみが居るから世界はかげり
父の死に
揺らぎ流るる木々のざわめく


10 □
加速器もSpring-8も要らぬ
誰もが持つ
きみの小石を投げてみよ




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


11 □
世界は志向される前に
空気のよう
不随意的に現前してる


12 □
小石落つ広がる波紋
日々新々(あらた)
世界の顔を盗み来る




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


13 ●
たとえ波風立たずとも
日々微々進(すすむ)
世界の色合い更新しゆく


14 ●
芽をだし枝葉身に付け
花開き
枯れ死にゆく宇宙もまた


15 ●
果てもない
言葉も超えて
星々はまた輪廻転生す




 [短歌味体な Ⅱ] 椿シリーズ


16
外力と内力と(そとからうちからひびきあい)
揺れ揺られ
ひとひらひらの流るる小舟

 註.例えば、椿の花びらの落下から


17
風に揺る赤い椿の
落ちゆきて
死に顔みたい血の気の引きゆく

 註.例えば、椿の花の死ということ


18
血の気引き薄らぎゆくよ
今はもう
眠るる木々に流れ落つ星夢(せいむ)


19
夢に見た明日は消失
静まりゆく
永遠(とわ)に眠るよ深深深(しんしんしん)




 [短歌味体な Ⅱ] 目覚めシリーズ


20
林林林(りんりんりん)奥深くまで
流れ来る
眠霧(きり)打ち払い朝のはじまる


21
ring ring ring(りんりんりん)流れ切断
左手に
慣れた足取り流れ下りゆく




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


22 ▲
知らぬ間に伸びる伸びる
触手は
ここからいくつもの垣根を軽々超え

23 ▲
魚類から人へ何億年?
方舟(はこぶね)出(い)づ
暗黒の宇宙(くらいうみ)へ何億年?




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


24 ▲
大宇宙上陸(くらいうみへ)その時反復する
遙かな
魚類からの記憶ふりふらふりっぷ


25 □
百数十億年(はてしない) 無言の内に
静静静(しいずかに)
血の巡るに耳を重ねる




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


26 □
断崖にふるふるふるう
舞い落ちる
全ゆる言葉踏み締め踏み締む


27 □
無門の隔靴掻痒(かっかそうよう)に
ふいと風
吹く吹き下る大気の言葉

 註.大道無門ということから




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


28 ▲
一人きり限りある時空(せかい)
身に染みて
思い巡るは時空(じくう)を超えて


29 ▲
羽震わし鳥瞰(ちょうかん)しつつ
地に降りて
羽休めては餌(えさ)をついばむ


30 □
掬っても言葉の網が
救えない
ざるをこぼれ落つ水気のような


31 □
たしかにその辺りよね
巣くうもの
姿が見えぬUFOキャッチャー


32 □
はっきりと掬えなくとも
未知の網
しっとり道を濡らしている




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


33 ▲
少しずつそう少しずつ
step by step(すてばいすて)
呪文無くても積み重なりゆく


34 ▲
おまじない痛いのとんでけ
とんでけー
言葉の流線が染み渡りゆく


35 ▲
見渡せば遠い灯りの
明滅す
旅ゆく途次の心細さよ


36 ▲
せわしなく地を這(は)う蟻よ
見渡せば
幾野(いくの)の間にか丘陵(おか)を越えている


37 ▲
像が揺らぎかたち成しゆく
一区切り
旅の中途に一息をつく




 [短歌味体な Ⅱ]  あそびシリーズ


38
やんややんおっとどっこい
すっとこ
どっこいどっこいしょ


39
えいさーさえいやさあー
英才(えいさあ)の
栄西(えいさあ)ころんでお茶飲みころぶ

 註.栄西は、中国(宋)から茶の種を持ち帰り栽培法を広めた、とか。


40
run run run だんだんだん
dam dam dam
らむらむらむだむだむだむだ damnn

 38-40の註.主に音の響きということを思い




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


41 ●
静けさを深く踏みゆく
無音韻
寄せ来る光果てなき時間(とき)の広がり


42 ●
例えばねふとこぼれた
一滴にも
宇宙原理は貫かれてある


43 ●
人を超え言葉を超えて
ただ黙す
絶えず蠢(うごめ)くこの宇宙は




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


44 ●
有無(うむ)もなく日差す光に
這(は)い回る
ただ蟻のよう平たい世界の


45 ●
日差し来る有も無も超えて
ヘーゲル超え
染み渡り来る他力(たりき)の光


46 ●
現るる生あるものの
ずっと前
闇と光の静宇宙(とき)があった?


47 ▲
わかるよ人界でなら
スイスイスイ
自力走行普通に見える

 註.人間界での人間の有り様を思い


48 ▲
それでも何か作動する
子を助く
母のような世界の手招き

 註.人間界での他力性を思い




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


49 ▲
わからないなぜ生まれたか
この問いは
受身のわれらの不安なストーカー


 註.
宇宙的規模における人間存在の根源的な受動性ということを思う。「なぜ生まれたか」、「なぜ生きるか」、「なぜ人を殺してはいけないか」などの様々な根源的な問いも、宇宙的規模においては無意味な問いである。さらに、問いに限らず、生贄(いけにえ)や人柱や殺人や戦争などなどの人間的な諸行動の善悪を問うこともまた、宇宙的規模においては無意味な問いである。そして、あたかも宇宙(大いなる自然)自身の内省でもあるかのように、人間界における人類史の精神史的な歩みそのものがあり、その積み重ね来た人類史の歩み自体がそれらの問いに対する答えに、絶えず更新していく答えに自然となっているように見える。



50 ▲
不安咲きふあんふおんと
神になり
人界にまで引き移さるる


 註.
遙か遠い人類のはじまりに、まず自然界とまだちっぽけな人間界の交わる渦中にまず<何か大いなるもの>が感知され、次第に<神>とかたち成し、生み出されてきた、次の段階として整序され膨れ上がっていく人間界の渦中にその<神>が写像された、つまり、〈自然〉=〈神〉から、それを名残として保存しながら〈特別の人間〉≒〈神〉へ転位した、いずれの段階も果てしない時間をたどりながら、と想像の線分を引きつつ。



51 ▲
わからなかった本願他力
宇宙の下(もと)
受身のわれらにスポットライト


 註.
宇宙的規模における人間存在の根源的な受動性ということと、親鸞の「本願他力」ということを思う。わたしは親鸞の「本願他力」ということがよくわからなかった。わたしたちは、向こうから(現実世界)の助け(他力)も部分的にはあるけれども、生きていくにはこの人間界では日々<自力>を行使しているし、行使せざるを得ないからである。そして、わたしは、人間界を超えたところの宇宙的な規模の下での根源的な受動性の人間存在の有り様を指して、親鸞は<他力>の存在と見なしたのではないかと思うようになった。現在では、宇宙規模のレベルと人間界のレベルははっきり区別されているが、人間の起源のほうへ時間を遡(さかのぼ)っていくにつれて、おそらく現れる世界は、その両者が未分化なものとしてイメージされ、考えられていたと思う。親鸞の人間は<他力>的な存在という見方にもその未分化のなごりがあると思われる。





 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


52 ▲
塗り替えて輪廻転生は
浄土へ
きちんとそこにあの世として建つ


53 ▲
「そんなの信じられなーい」
茂りゆく
言葉たちに薄らぐ浄土


54 ▲
浄土じょどジョウド
返り咲く
空無通り過ぎ現世(このよ)の大地に


全体の註.浄土というものもよくわからなかった。もはや輪廻転生もあの世の存在もほとんど信じることのできない世界にわたしたちは居る。したがって、現在における浄土とは、現在の社会の死後の、望ましいイメージの世界のことではないか。そうであるとすれば、浄土とは、絶えず更新されゆく現在の渦中の、望ましい未来性の別名に過ぎなくなる。浄土というイメージや考えの移り行きを思って。





 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


55 ▲
いつの世も言葉(ことのは)以前も
以後もあり
しるしるしゅわ 反復(くりかえし)の現在(いま)


56 ▲
衣替えヘーゲルもマルクスも
日差し新(あら)た
歴史の春芽吹きふくらむ 


57 ▲
くりかえしくりかえす元(もと)に
あるものは
静かな春この桜咲かせる




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


58 ▲
片付いてほっとゆるみゆく
漂うは
入れ立てのコーヒー香舞い立ち匂う


59 ▲
ありがとう たった一言に
おもい悩む
何気なさの遙か手前に


60 ▲
日々流るちいさなことに
ひたすらに
ちから入り入る重心のよう


61 ▲
ナノなのでそう簡単に
花は花は花は
咲く ことはない振り向く抒情

 註.一時テレビでしつこく流れていた「花は咲く」に戯れて。




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


62 □
いろ褪(あ)せ縮み枯れゆくも
正視すべき
新たな生命(いのち)生み生まれゆく梅


63 □
見渡せば咲き匂うさくら花
知らぬ間に
散り急ぐ花々はおぼろな記憶のよう


64 □
おぼろげな記憶かき寄せ
選り分けて
静かに積もる人の匂い立つ




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


65 ▲
やわらかに柳あおめる
生まれ育ち
なら自然と言葉の行間(ことば)のせせらぐ

 

 註.石川啄木「やわらかに柳あをめる 北上の岸辺目に見ゆ 泣けとごとくに 」 をふと思い引き寄せて。



66 ▲
深傷(ふかで)負い生まれ育ち
冬に墜(お)つ
ぐるぐるぐる毛羽立つ悪は

  註.世の「凶悪」と呼ばれる事件を思って。


67 ▲
悪の華ふいと湧き出る
沈黙のよう
咲き誇るるもこの世のかなしみ

  註.日々現象する事件を思って。




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


68 ▲
誰もがなんらかの傷を
刻まれて
生まれ育ち修復しゆく


69 ▲
悪ければ新芽芽吹くよう
くり返し
樹木の年輪探査し(たずね)歩くよ

 註.中途までしか読んでいない『母型論』(吉本隆明)を思いつつ。


70 ●
木の葉が木の枝ぶりが
ああでなく
こうそうなった 言葉もまた?




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


71 □
遙かな 人間になる前は
ネコみたい
だったかどうか 霞(かすみ)棚引く


72 □
あれこれと身振り言葉を
送っても
返りくるくる原型の言波(ことば)

 註.ネコと付き合っていて。


73 □
わからない言葉以前は
もやの中
赤ちゃんばぶばぶ這い出して来る




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


74 ▲
わからない言葉同士でも
匂い立つ
例えば笑みの流れ滲(し)み入る

  註.「奇跡のリンゴ」の木村秋則さんが、外国に出かけてだったと思うが、互いに外国語を知らないのにある外国人と意思疎通ができて語り合ったとある本の中で述べていたことに、わたしがふしぎな思いを抱いたことを思い出して。



75 ▲
似ていてもフリーズとプリーズ
夕暮れに
彼(か)は誰(たれ)ぞ誰ぞ不穏ざわめく

 註.もうずいぶん前になるが、アメリカ留学中の若者が、ハローウィン期間中に他家に迷い込んで射殺されたというニュースを思い出して。



76 ▲
freezeとplease フリーズとプリーズ
あちらとこちら
耳流れ来たる湧き立つ異形




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)



77 ▲
何気なく過ぎゆく時も
張り詰めて
一秒(とき)を刻むも共に現在(いま)にあり


78 ▲
二層なす身体と頭脳(こころとあたま)
無意識(しらぬま)に
頭ばかりが疾走しゆく


79 ▲
嗅ぎつける不幸の心
ドアを開け
奔流する時代(とき)の舞台裏




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


80 ▲
日々日差す何埋めようと
呼び寄せる?
「あかまたくろまた」(註)湧き立つまなざし

 註.「沖縄県八重山列島の豊年祭に登場する来訪神」


81 ▲
見え見えの自作自演
それでもなお
祭り沸き立つ劇の本質(とりこ)よ


82 ▲
舞え舞い立つ鳥の航跡
汗ぬぐい
ひっそり閑祭りの後は




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


83 □
ぎんぎんぎらぎらぎりゅ
ぎりゃぎん
ぐらぐらぐりぐるぎりゃぎりゅぎん


84 □
しーはほすーはほんのり
すーはしは
すーはほほほんぽんぽんぽんぱ

 83~84註.わたしの愛読する、作家の町田康を思い浮かべつつ。




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


85 □
心踏む鈍い音階
風に押され
染み渡りゆき果てまでころびゆく


86 □
麦踏みNO!こころ心踏み
分けゆくよ
みどり滲み入り希薄なりゆく


87 □
避け難く朝は訪れる
色合いは
個の固有値(さだめ)より放たれゆくよ




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


88 □
スルーされ幸いなるか
無邪気に
門の手前に歌い踊るよ


  註.この世界には、例えば、作家に限らず避けようもなく悲劇の門をくぐる人々がいる。おそらく本人のほとんど与り知らぬ「生い立ち」と深く関わっている。そして、生きることにその自らが与り知らぬ由来を求める旅が加わる。無意識的なあるいは意識的な悲劇の旅の途次で、その門を固く閉ざしたり、飾り立てたりする者もいる。しかし、それは特権的なものでもなく、生い立ちの不幸を背負わざるを得ない限り、避けられないということにすぎない。人がほんとうは、その門が見えず、門から「スルーされ」るのは、「幸い」であるよと思いつつ。





 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


89  ●
今ここが全てのように
風の吹く
宇宙(とき)のすべてを知らないのに
 

  註.人は、現在に重力の中心があるから現在が全てのように生きて活動している。これは生活実感からもそうだ。しかし、一方、わたしたちの生活には自身のあるいは人類の過去や未来もいろんな形でやって来る。このことは人の生み出す考えや思想においても同様である。





 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


90 ▲
滴定の一滴(ひとしずく)から
湧き立つは
朝靄のなか過去のわたしか

  註.滴定(てきてい)
「定量分析の操作の一。試料溶液の一定体積をとり,これに含まれる目的成分と反応する物質の濃度既知の標準溶液を加えていき,目的成分の全量が反応するのに要した標準溶液の体積から,目的成分の濃度,あるいは全量を求めること。」





 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


91 ▲
笑っても泣き出しても
ほんとうは
よくわからない樹液の律動(リズム)


92 ▲
風流る(ぶるっと身震い)
桜匂う
花見の宴に浮かれ騒ぎ立つ


93 ▲
巡り来た春の衣装を
身にまとい
桜花(おうか)の道を西行の行く


94 ▲
やまだくん な やまだくんさあ
おい!きいてるかあ
桜の小舟蛇行し綻(ほころ)びゆく




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


95 □
静かなる会議の時間(とき)
浮遊して
臨死体験(ぼんやり)してる居るのに(?)居ない(?)


96 □
どんなにも些細(ささい)に見えても
誰もがも
その言葉のドア開け閉めし行く


97 □
口癖は我知らぬ間に
踏み固まり
どうでもいいよいいよと開け行く




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


98 ▲
目まいするくたびれ果ての
忘れ果て
追いまくられの「逝きし世の面影」


99 ▲
前駆する言葉晴れ上がり
揺れ揺らぐ
後ろ髪引くためらう心


100 ▲
ありとある習わしを切る
夢に沈む
鋭い爪の前駆細胞

  註.前駆細胞
「幹細胞から特定の体細胞や生殖細胞に分化する途中の段階にある細胞。幹細胞は体のさまざまな組織・臓器に分化する能力をもつが、前駆細胞の分化能力は限られている。」





 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


101 □
ひと休みしてもいいけど
染み付いて
あれこれ手の動き立ち回る


102 □
(入り口は どこそこですか)
問う前に
きみはもうすでにそこここに立つ


103 □
目をつぶる深く広がる
沈黙も
何かが在るよさざ波の立つ




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


104 ●
経文も言葉も超え
有と無(うとむ)超え
超えられぬわたし超え行く海原


  註.例えば、蟻の感知し、捕捉できる世界は、わたしたち人間とは異なるのではないか。同様に、どれほど人類史としての歩みと積み重ねをもってしても、わたしたち人間の感知し、捕捉できる世界は、この宇宙の一部に過ぎないのではないかという疑念がわたしにある。それは、地球という局所からの観測であるけれども、この宇宙全体が局所的に等質であると仮定してもである。わたしの内省や言葉を媒介し駆使して、わたしたちは世界を捉えようとする。少しずつ世界の像は深まりゆき、同時に追究するわたしたち人間の像も深まりゆく。いずれにしても、人はこの宇宙を、追究する人間という自らの存在の有り様を含めて、追究することを止めることはないだろう。それが人が「生きて在る」あるいは「生きていく」ということの半ばを占めているだろうから。後の半ばは、現在を味わい尽くすこと。





 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


105 ▲
お悔やみ欄知ることもなく
若い頃は
微熱の中空さ迷い歩く


106 ▲
年重ねつながりの糸の
絡(から)まれど
自由過ぎも不自由過ぎもなく


107 ▲
結ぼれるこの世の糸が
ぷっつりと
切れ消え行くに線香ひとつ

  註.時折来ていた親類の訃報のみならず、事件などで亡くなった人々をふと思うこともある。直接のつながりはなくても、この世に、共に在ったことからの、お別れのあいさつのような……。





 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


108 □
赤ちゃんのあぶあぶあぶう
自ずから
添いゆく母の入り口見ゆる




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


109 □
振り返る流れは揺らぎ
片隅に
静かに湧く青い道あり


110 □
くたびれてついうとうとと
小舟に乗り
どこどこ経てか今ここに覚(さ)む




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


111 ▲
何もない何(なん)にもないなあ
風の吹き
雲の流れゆくわたしの中に

  註.この人間界の日々の様々な場面では、言うべきことは何にもなくても何か言わなくてはならないことがある。ほんとうは、自然界と人間界にまたがって何にもないの中に佇んでいたいのに。




112 ▲
わけもなく意図もなくなく
思い出す
ただらあらあと広がり響く

  註.ふと中原中也の「らあらあと」という詩句が思い浮かんだ。調べてみると、「ただもうラアラア唱つてゆくのだ。」(「都会の夏の夜」『山羊の歌』)





 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


113 ▲
ただひとりさびしくはない
人間界(ひとのよ)を
超え出る目と手足があれば

  註.わたしたちに閉ざされた人間界だけしかなければ、息苦しすぎるだろう。しかし、それは幸いにも風穴のように自然界や宇宙に開かれて在る。



114 ▲
旅行してもしなくても
誰でもが
日々千里旅し巡り来る

  註.わたしたちの日々の歩みは、具体性としては小さくても精神的には千里の巡回に値するのではないか。





 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


115 □
気づかれぬ空気のように
日々眠る
覚えなくとも寄せ来る夢波(ゆめなみ)


116 ●
人が居る居ないの外(ほか)に
闇光(やみひかり)
巨きな時を静かに刻む




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


117 ▲
沈黙のさざ波立ち居る
閉ざされた
部屋の窓から言葉の飛び立つ

  註.例えば、遠い昔の重苦しい会議の場を思い出して、言葉というもの、その現実の場を離脱するあるいはそこへ回帰する志向性を思いつつ。





 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


118 ▲
言葉に色が付いてたら
パッとわかる
例えばみどりそのこころ模様の

  註.ツイッターで時折出くわす「有名人」のつぶやきで、例えば自分の過去の体験の内省なのか自己主張なのか他人を教え導きたいのか、腑分けし難くよくわからないときがある。その人に長らく付き合ってみればわかってくるのかもしれないが、色が付いてて瞬時にそのこころ模様がわかればいいな思う。変なこと言えば自分が自然に恥ずかしくなってしまうような。個々人のこころ模様とそれがどこどことつながっているかという接続図が瞬時にわかれば、世の中無用の混乱や対立が少しは晴れ上がるかもしれない。因みにわたしには他人を教え導くなどという大それた考えは皆無である。





 [短歌味体な Ⅱ] ゆるゆるシリーズ


119
ゆるゆると服ゆるみゆく
ゴム疲れ
時折手を当て気がける気分


120
ゆるゆると日差しに温(ぬる)み
解(ほど)けゆく
日々反復に染みたリズムは

  註.「ゆるキャラ」なるものをふと思い浮かべ、その祖先は太古には神だったのだろうと思いつつ。ああ、わたしはそれにのめり込むのと別にというのとの中間地帯に居るなと思い、自分なりのゆるゆると。





 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


121 ▲
回って回って回るう
裏通りは
目まぐるしい時に肩固く張りゆく

 註.肩が凝るということ、その現場の有り様を想像して。




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


122 ▲
言葉は高層ビル
ずずずんと
寡黙(かもく)な地階からにぎやかな高層まで

 註.社会に流動する全ての言葉を高層ビルに見立てて。


123 ▲
言葉は記号ではない
ざっくりと
こころやからだ突き刺し刺さる

  註.言葉は人間の証(あかし)かもしれないが、一方、言葉は不幸の証でもあるかもしれない。





 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


124 ▲
深い闇打ち震えるは
何ゆえに
生きものみな体中(からだ)走りゆく


125 ▲
震えるを打ち消し消さんと
声絞る
わあおおおーんわおわおおーん




 [短歌味体な Ⅱ] 方言シリーズ


126
開けば時匂い立ち
閉じれば消え去りし時
方言集


127
方言が消え去っても
残っている
ふっくらくらのスイーツのように


128
声聴けば見えない線が
群衆の
耳柔らかく左右に分断す




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


129 ●
風が立ち日は差し巡り
内になびく
動植物の自然な足跡


130 ●
この地にて
姿形変え
今に在る
数十億年の
黙する大地よ


131 ●
大地には
生あるものが
未だない
聴く者いない
時を刻むばかり




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


132 ●
おぼろげに
不在の日々を描き出す
自由自在の言葉という奴


133 ●
宇宙に股(また)掛ける時
目まいのよう言葉は凍る
(あっおっうっい)


134 ●
人だけか
言葉に咽(む)せる森さまよい
沈黙の太鼓どんどん鳴らす




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


135 □
さざ波立つ内なる森の
葉揺れひとつ
みどりに染まる気は樹を生みゆく


136 □
石投げて水面(みなも)見つめる
時もある
1234………湧き上がる抒情(うた)




 [短歌味体な Ⅱ] 歴史的追体験シリーズ


137
汝我流流哉(ながるるか)
張留野御空仁(はるのみそらに)
汝我流流哉(ながるるか)
木之内鳴御空野(このうちなるみそらの)
光微射手(かすかにさすひかり)


138
Is it flowing ? (ながるるか)
In the spring of the sky (はるのおおぞらに)
Is it flowing ? (ながるるか)
In this inner blue sky (このうちなるそらに)
filled with light.(ひかりみちみちて)


139
「スイーツ」に制圧されても
ひっそりと
当てのある層に饅頭座す


140
時を経て混じり合い
響き合い
饅頭とスイーツ共存す




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


141 ▲
遠目には見知らぬ他人
囲われて
角出し槍出し底なし沼へ


142 ▲
あがいても言葉の手足も
みんな 泥まみれ
ああ どこにある「ほんとうのこと」

 註.宮沢賢治―吉本隆明の「ほんとうの考えと嘘の考えを分けることができたら、その実験の方法さえ決まれば」を思いつつ、また現下の福島原発大事故が当該生活者住民にもたらした、もたらし続けているこまごまとした諸問題と、その上空で相対立する放射能被害問題を思いつつ。





 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


143 ▲
ほんとうは 人それぞれの
色放ち
交錯しても黒く濁らぬなら


144 ▲
誰にでもなじみの音色
ふいと来る
ゆあーんゆよーんゆやゆよん

 註.中原中也「サーカス」より




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


145 ▲
折れ曲がる人付き合いの
意味別れ
二心ありの「いい加減」

註.「いい加減」という言葉に二重の意味が発生したことを想像しつつ。


146 ▲
距離により湧き方ちがう
イメージの
体温となって流れ下る

 註.例えば、歌手や芸能人や有名人や王などに対して人が熱くなるのは、自分との距離感の大きさゆえか、その距離感を縮めようとして熱くなるのか、もちろん、わたしのように距離感の大きさゆえ無関心ということもあり得る。





 [短歌味体な Ⅱ] 現在(いま)シリーズ


147
日差し浴び風の流るる
このひととき
振り返れしみわたる時!


148
おいしいと言わなくたって
流れ下る
このあじわいの言い様もなく


149
いやなこと霧と散ること
なくっても
この束の間は雲散霧消!


150
内向きに生きものみたいに
ただ和(なご)む
宇宙の下(もと)これこそレアメタル!




 [短歌味体な Ⅱ] 数学シリーズ


151
その時の心を微分
探査する
弓形(ゆみなり)集い黙すベクトル場


152
見慣れてる中心近傍
両端の
果ては不明の平行線


153
直感に不審の煙
立つ見ゆれど
補助線なしでは炎が見えぬ




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


154 ▲
ちょっとした一言なのに
軽くなる
人のこころの飛び交う大空


155 ▲
1g増やしただけで
味ちがう
心模様の変化する境界値(へんげするさかい)


156 ▲
投げ入れてしまった一言
こうかいに
荒い波風立つのが見える




 [短歌味体な Ⅱ] ええっとシリーズ


157
ええっと ええっとね なん
だっけなー
ええっとえーとね (ぐるぐる巡る)


158
ええっと日がねええーとえーと
日が赤と
赤と黄そんでねえーと混ざってね


159
えーとはいわかりました。
いいですよ。
えーとはいその日までには。




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


160 ▲
独り言つぶやく人も
無言でも
あれこれそれとカジュアル・トーク


161 ▲
くり返しおさらいしてても
相手には
ビミョウな誤差や屈折生まるる


162 ▲
ひとひとがうまくかみ合う
時あれば
流行歌軽やかに舞う




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)


163 ●
沈黙の奥の奥まで
すべり落ち
古井戸の底染み出すものあり


164 □
何もない
と振り返り言うも
何かある
生きてるかぎり
舞台裏は駆動し続ける 


165 □
あ    お
ああー
あっああー  おっおおーー

 註.そういえば、小さい頃山遊びなどでそんな声出していた
    ような………。





 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論


166 ★
う (みず) (水なのか?)
(ちろちろち)
(きらめいている) う (水なのか・・・)

 註.人間の遙かな遠い記憶、瞬間のまぼろしのように。


167 ★
・・・ゆれ・・て・・・・
・ゆ・れ・・
・て・・ゆれてい・・・る・・


168 ★
はじまりは言うに言われぬ
苦労して
この穏やかな海に溶け泡立つ




 [短歌味体な Ⅱ] リズムシリーズ


169
みずみずみずみずみずみず
ずずみずず
みずみずみずみずみずみずみず

 註.短歌形式の中で、何かリズムのはじまりのようなものを思いつつ。


170
たんたんらららたんたんた
んたんらら
らららたんたんらららたんたん


171
みーんみんみんみんみーん
みんみーん
みんみんみんみーんみんみん




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論


172 ★
ゆらゆらら 踏み出す一歩
後ろ髪
引かれ幻の踏み行く小道


173 ★
あいさつの「はじめまして」は
遙か遠く
出会いの時の踏み均(なら)し秘め


174 ★
名札付く言葉以前の
顔立ちは
すっぴんぴんと微笑むばかり

 註.言葉の品詞(名札)ということを思いつつ。


175 ★
風の音の沢沢沢と
吹く時は
葦(あし)も膨らみ言葉もふくらむ




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論


176 ★
生まれ立ての赤裸(あかはだか)のよう
染み付いた
観念の服脱ぎ立つ気分


177 ★
場面変わり声色(こわいろ)変
・・・さま
初源も今も平等の揺らぐ

 註.名字がないとか言われる人々の映るテレビを観てて、ふと。




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論


178 ★ 
な・が・れ・て・流れているよ
今ここに
始まりから始まり巻き込み


179 ★
なるようになるほかないか
流れ来た
始まりからの海波に心逆らう




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論


180 ▲
「あ」と「い」の距離を走破する
時間(とき)の内に
人それぞれの匂い立ち込む


181 ▲
一つ言葉分解しても
あいうえお
微分して導線の行方見る


182 ▲
ハッとする深み増しゆく
色合いの
言葉染みてる地を踏みゆく

  註.電子空間に限らず、思いがけず、普通の人々の味わい深い言葉に出会うことがある。それぞれなんらかの仕事や専門があるのだろう。このしんどい同時代を踏み歩いてきた年輪からいい香り立つのに出くわすことがある。





 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論


183 ▲
なにゆえにひとりに帰り
ちいさな場
一人一人でまもりまもらん

 註.「まもる」(古語)は、見守ると守るとの意。


184 ▲
洗練しカッコ付けても
やり込める
学の表情(ことばのよそおい)ボスザルに似て


185 ▲
恐れなす獣のように
呼び込むや
宗教・イデオロギー(まじないにきょうつうのまぼろし)


186 ▲
石持て打つ残虐も
イエスを超え
疾走する世界に互いに打たるる

 

 註.事件として浮上する残虐は、ワイドショーでも真面目くさって裁かれるが、内省を迫るイエスを超え、つまり内省の余裕すらなく、当事者たちはこの世界の流れに追いまくられ、互いに打たれている。そこから見ると行き場のない黙する〈悲〉の情景が見えるような。





 [短歌味体な Ⅱ] みどりシリーズ


187
いのち震う木(こ)の葉一枚
イメージの
伝わりゆくは姿形のみ?


188
言葉からみどり滲(にじ)んで
しみ渡る
イメージの野に木々の揺れ立つ


189
説明も意味もいらない
風流れ(風流れ)
みどり滲んで以心伝心


190
ありふれた日々の葉裏に
日の差して
みどりふるえる 掃除の後のよう




 [短歌味体な Ⅱ] みどりシリーズ


191
頭降るあたま振る振る
かぼんすの
自信に満ちてみどり湖渇(こかつ)しゆく

  註.「かぼんす」は、仮分数から来たと言われる方言か。頭でっかちのこと。小さい頃聴いたことがある。近・現代は、言葉に言い表しがたい情感的な「みどり」が隅に追いやられて、人の心~精神の領域は、「頭」中心の段階に入り込んでしまっている。



192
あっ あちっ ずっきんきん
知らぬ間に
みどり流れる木の葉のふるえる


193
ひとりひとり言葉同じく
みどりでも
色香ちがい 共にふるえる




 [短歌味体な Ⅱ]  みどりシリーズ・続


194
しっとりと雨にぬれ煙る
葉のつやの
言葉を超えて 浮上するイメージ


195
日々眠り 起き くり返す
ふしぎはない
けれど 時に みどり影射す


196
「ああいいね」 言葉は走り
意味伝う
その道はずれ 言葉の芯が火照っている




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論


197 ★
知らぬ間に心臓動き
大気を吸う
ひとつ流るる 今を生きる


198 □
重々巡り巡っても
始発する
終着点は言葉であるよ


199 ●
静けさの夜の底を
突き抜ける
ただ 暗闇と小さな光


200 ▲
振り返れば あれこれそれと
色鮮やか
ひとつ流れに引き絞られゆく




 [短歌味体な Ⅱ] ちょっと試みシリーズ


201
ざっくり るる るるる
はじまりは
新たに設けた引き戸を引く


202
かあかあかあ ふいとカラス鳴き
大気震う
裏切るように無音の時流る


203
どんぶらこ ぐずぐずして
心急(こころせ)き
家の内にて早(はや)出会い演じてる


204
黙黙黙 煙出なくても
母子(ははこ)のように
晴れも曇りも屈折も伝う




 [短歌味体な Ⅱ] ちょっと試みシリーズ・続


205
石 木の葉 人の
足音
風の 時は 刻み畳まれゆく


206
音の 湧き 流れ
下る
桜花(おうか)滲み入る 春 sun sun


207
お構い無しに音の湧水あり
例えば
三波春夫 キング・クリムゾン


208
宇宙レベルでたかが音たかが言葉
人界に降り立てば
言うに言われぬ人の織り成し


209
恐っ 刃鋭い
切っ先の
山場を越えて下りゆくあり




 [短歌味体な Ⅱ] 物語シリーズ


[短歌味体な Ⅱ] 物語シリーズ
 
 
210
居たでしょうあの方の側に
微笑んで
イターニン夢の中まで追跡さるる


211
独りなら気楽なのに
背広着て
宗派の門叩き歩く


212
独りでは重量オーバー?
ふらふらと
宗派の門へ荷を運びゆく


213
七日前 あそこにあなたを
見かけました
そんな馬鹿な 事実溶け煙る

  註.裁判というものが存在せざるを得ないように、恐ろしいことに〈事実〉というものは、悪意や作為や精神の病からを含めて、一つとは限らない。





 [短歌味体な Ⅱ] 物語シリーズ・続


214
花ちゃんは笑顔がステキ
と言われても
肌を流れ落つ 花曇り


215
花曇りいのちの陰り
ドア開けて
また輝き出す 春の一日


216
春の一夜(ひとよ)語られなかった
種々(くさぐさ)の
言葉を浮かべ川に流してる




 [短歌味体な Ⅱ] 物語シリーズ・続


217
夢の一世(ひとよ)と離脱はしない
黙黙と
ありふれた日々をゆったり歩く


218
弓なりに引き絞られても
気ままに街歩き
YesとNoの谷地(やち)の住民たちは




 [短歌味体な Ⅱ] ちょっと試みシリーズ・続


219
深深途(しんしんと)静まり深まり
ぎっくり
腰折るるときイメージ野、暗転位す


220
るんるんるん言葉揺れ止み
ただ流る
流れに流れるんるんるるる


221
えええっ! 見てたの?
(装いもなく
ぼんやりとして佇む私?)


222
えさ投げる ひたすらの鯉たち
水面(みなも)から
返り来る思い水面へ浮かべ返す




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論


223 □
足もとに小石のあるが
ふと懸かり
歩み入るのは何の通路か


224 ●
重力なんて気にしない
実感無く
実感超え作動す宇宙原理は


225 ★
おそらくは月に降り立たずとも
始まりは
体の重み自ずから覚(おぼ)ゆ


226 ▲
知ってても知らなくても
変わらない
この人の世 光り明滅す

 註.人の日々の営みとこの世界の移りゆきということを思い浮かべて。




 [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論


227 □
ただいまと日々帰り来る
不思議さよ
と迷い込めば深淵(しんえん)開くか


228 ●
砂を見る ひとつひとつの
乾ききり
夜が下りれば冷えゆくばかり


229 ★
いつからか 振り返ることもなく
手際よく
焼き上げていく厨房の人


230 ▲
目に染みる煙り漂い
ストーカー
振り払っても煙煙煙




 [短歌味体な Ⅱ] ちょっと試みシリーズ・続


231
うっ ココデハイエヌ
イッテモ
シカタガナイ舞台ノ上ノヨウナ む


232
春 トイウコトハ
無意識ノ
内ニ季節ガ前提ノ流レ 去り


233
私・も・その・川・の・流れ・に・漬かり
つながり・の
糸・共鳴・し・止ま・ず

  註.この人間界で、人は〈ひとり〉でありながら、誰でもなんらかのつながりの糸を繰り出したり、糸を引き寄せたりする存在であるなあという思いから。





 [短歌味体な Ⅱ] ちょっと試みシリーズ・続


234
急に決壊しても
また補修(なお)し
定常値更新しゆく

  註.作品が何を指示(意味)しているのかわからないことがある。それは作者固有の極私的な表出なのか、あるいは、あらゆる対象を貫く抽出された本質的なイメージを指示しようとしているのか、ここでは後者をイメージして。



235
あっ どうしたの?
いや別に
(こころころころ つまづきかける)


236
おっ (言葉はなくてもいい)
ふうはあふう
いま出来たてのコロッケは・・・




 [歌味体な Ⅱ]  □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論


237 □
ドア開ける 日々くり返す
透き間より
アブナイ匂い微かに煙る


238 ●
人間界(ひとのよ)の蟻さんたち
俺 俺 俺!
あちこちそちこち (・・・・・・)


239 ▲
ズームイン 一つ一つの
川砂の
重み増し増す画面いっぱいに


240 ★
ズームアウトをくり返し
踏み踏み
固まる芯ははじまり記憶す




 [短歌味体な Ⅱ] ちょっと試みシリーズ・続


241
オレオレ! 意味が立つのは
引き連れて
前後左右に仲間居るとき

 註.このことは、言葉の表現に限らず、人間世界でもそうだ。しかし、前者は自然だが、後者は権力的な場面だ。



242
何ですか?! ていねいすぎる
しゃべり口
矢継ぎ早に杭打ち来る


243
独り言と思いきや
輪の中に
描きつつーと中心を占む

  242・243註.ネットでの言葉をたどっていて、ほんとに手ぶらな自分を見つめ語る者ばかりではなく、意識的無意識的に他を当てにする作為的な言葉もあるな、という思いから。





 [歌味体な Ⅱ]  □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論


244 □
日差しやら風雨にさらされ
ひび入るよ
芯の芯までざっくりんりん 


245 ●
記憶あり巨きな時間が
ゆったりの
夢の中までりんりんと響く


246 ▲
くり返す日々の自然に
溶け込んで
思いもしないぱっくり破局


247 ★
そういえばいちにーさんぽ
立ち上る
遠い微気配またぎ越し来る




 [短歌味体な Ⅱ] ちょっと試みシリーズ・続


248
心急(せ)き流れ下る
笹舟は
右へ左へ「あざーす」と浮上

 

 註.「あざーす」は、若者語で「ありがとうございます」の短縮形と電子辞書にある。 



249
ころがるこころころころ
ちら見して
またころがりごろごろ




 [短歌味体な Ⅱ] ちょっと試みシリーズ・続


250
生き急ぐ青葉の季節は
うわの空
しっとり濡れるみどり跨(また)ぎゆく


251
悪意や照れを脱色し
たむろする
茶髪の「きもっ」「あざーす」


252
歳によりものの見え方違う
例えば
「きもっ」「あざーす」はどこへ去りゆく?




 [歌味体な Ⅱ]  □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論


253 □
なぜなのか ものみなすべて
静止せず
始まりあって終わりがある


254 ●
生きものの数に合わせて
たくさんの
時間と空間(ときとば)がある 巨きな時間(とき)の内に


255 ▲
人のみがこの宇宙(せかい)の
沈黙の
さざ波立つ由来訪ねてる


256 ★
数百万年(ながいとき)歩み来た人の
足跡は
いろんな癖を今に刻みつつ




 [短歌味体な Ⅱ] イメージシリーズ


257
デコポンと言い終わらない
途上に
イメージは黄色く匂い包まれ


258
当てもなく駆動し初め
煙りゆく
イメージの流線(ながれ)は波立ちゆく


259
気がつけばここで行き止まり
と とっとっと
幕引きかけてまたイメージは流れ出す




 [短歌味体な Ⅱ] イメージシリーズ・続


260
くり返すくり返しゆくと
おぼろげに
深く イメージ場に言葉の飛び跳ねる


261
ぼんやりとそこに力入(い)り
イメージの
流れ逆巻き言葉の追いすがる


262
夕暮れの降り来る階段
イメージの
火照る終点(おわり)から花火の上がる




 [短歌味体な Ⅱ] イメージシリーズ・続


263
人界の巨きな年輪
分け入って
〈本願他力〉とイメージす すすっと

  註.おそらく、自己責任や自力中心のこの人間界と自力を超出した宇宙という次元(つまり、無に近い人の存在)とが、言葉によってある深みにおいて相互に出会う場から、親鸞の〈本願他力〉のイメージが浮上してくるという思いから、そのイメージ場に向けて。付け加えれば、親鸞のその〈本願他力〉という概念は、当時の仏教の言葉や概念に囲まれながら、一方で、大多数の人々の現世での苛酷な有り様への眼差しを突き抜けるようにして、繰り出されている。しかも、その言葉は現在に生きる思想性を持っている。





 [短歌味体な Ⅱ] ちょっと試みシリーズ・続


264
塀塀塀門という門
鍵がかけ
られ塀塀塀知る由もない

  註.「現在は樹木亭々として景観豊かな庭も古邸も高い塀に囲まれたまま放置されていて、門という門の鍵がかけられているので、内部を窺い知る由もない。」(「是公さんのこと」、『漱石の長襦袢』半藤末利子 文春文庫)





 [短歌味体な Ⅱ] イメージシリーズ・続


266
三時とは例えば時計
針の位置
暑い日差しを苦しげに動く


267
デジタルはただその時を
生きている
顔立ちして生ひ育ちゆく


268
せせらぎの水音聴こゆる
画像超え
みどり滴り流れが速い

 註.テレビに映るせせらぎの場面や水音から。




 [短歌味体な Ⅱ] イメージシリーズ・続


269
まぼろしの梅干し赤く
しゅみていく
ぽたりぽったり舌を励起(れいき)す


270
一言(ひとこと)に多言味(たごんあじ)あり
多言にも
ひそやかな一言うずくまり居る




 [短歌味体な Ⅱ] イメージシリーズ・続


271
こぼれ出るちっちゃい子の
ふだん着の
「ぽんぽんいくね」に乗り込んでみる



[短歌味体な Ⅱ] 速度論シリーズ


272
タンタンタタタタンタン
タンタタタ
タンタンタタタタタタタタン はやっ!




   [短歌味体な Ⅱ] 速度論シリーズ・続


273
走り走れば走れるか
一筋の
白白白走り抜けゆく


274
走らず走る走れるか
走走走
一筋の白走り抜けゆく


275
ビルビル 小 アンテナビル
山雲 雲
流 青 空川 小 岩

 註.電車の車窓から。


276
ゆっくりと弁当開いて
食べ始める
つむじ風舞いすれ違いゆく

 註.電車の車窓から。双方向性のかなわぬ、見ると見られる。




  [短歌味体な Ⅱ]  速度論シリーズ・続


277
るんるるんるるるるるんる
るんらるんろ
るんるんるんらるるるるるんろ

 註.例えば、ラーメンを食べる。


278
い~ち~に~つ~い~て~
よお~い
ど~おお~んとスローモーション


279
にい~~しぃ平敦盛
・・・・・
ひぃが~~しぃ熊谷直実




  [短歌味体な Ⅱ]  □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論


280 □
なぜ思い浮かび漂い
流れ出す
朝もやもやと人の気配なくとも


281 ●
生きものの現れる前も
死滅後も
光差しては闇下りる(だろう)


282 ●
わたしの生まれる前も
死後さえも
朝が明け夜が下りる(のだろう)


283 ▲
にぎやかな音と光の
ダンスする
表通りをひっそり抜けゆく


284 ★
言葉のどんな表情(しぐさ)にも
遙かな
生まれ育ちの傷跡の微(かす)か




  [短歌味体な Ⅱ] ちょっと試みシリーズ・続


285
微風(かぜ)に触れさおかのさらさら
泡立ちて
明日の出立風にふくらむ

 註.「さおかのさらさら」は、意識的には無意味な表出として。


286
ころころと己(おの)がこころ
ころびゆく
ぼおっと見つめる心ありあり


287
いちにーさんと数えれば
やさしいか
ぜの吹き下りまた踏み出す一歩




  [短歌味体な Ⅱ]  □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論


288 □
ああここかと石を反(かえ)す
うずくまる
まぼろしの魚(いを)眼窩に跳ねる


289 ●
雨に濡れ艶々(つやつや)みどり
何ゆえに
感応するやこの宇宙原理


290 ▲
知らぬ間にみどり流れて
ひとり負い
ふたりさんにん背負いゆく日々


291 ★
振り返る記憶たちの通路(みち)に
バックミュージック
反り跳ね屈(くぐ)むみどり流るる




  [短歌味体な Ⅱ]  □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論


292 □
さっと引く朝のはじまり
今日もまた
日差し差し込み模様替えする


293 ●
何気ない一言の揺らぎ
ずり落ちる
砂防ダム越え真っ暗闇


294 ▲
荒れ狂い飛沫浴びる
時もある
まぼろし寄せる堤防の道


295 ★
人により色や形が
違っても
まぼろしの防波堤(せき)止めるは同じ




 [短歌味体な Ⅱ] 数学シリーズ・続


296
始まりの1以前にも
以後にでも
眼差しに応じ世界は響く


297
数と数の間には
まぼろしの
きらめく星々銀河群群


298
iという架空のものも
じわじわと
新たな世界に住人となりゆく

 註.i : imaginary number 虚数




  [短歌味体な Ⅱ] ちょっと試みシリーズ・続


299
過ぎ去った とんとんとん と
しるしゅわ
今流れゆく とってんととと


300
たんとんたん 古い時間に
埋もれてる
遠い日々の匂い立つ今




  [短歌味体な Ⅱ] 政治論シリーズ


301
た・い・せ・つ・な・ことは今ここ
この辺り
開けては閉める日々の歩みよ


302
ほんとうは誰にとっても
やさしい
イメージあふれるには七十年の夜は深い




  [短歌味体な Ⅱ]  政治論シリーズ・続


303
遙かはるか巫女(みこ)晴れ着着て
つんりらんと
今と同じく蠢(うごめ)き回る


 註.政治やそこに日々活動する政治家たちの内部の世界を想像するには、わたしたちが町内の班長や役員、あるいは、職場で、人の上に立つ仕事を任されたなどの公的な仕事の体験を思い起こせばいい。その公的な場所では、普通の人々→公的な場所にいる人、という意識の向かうベクトルの向きも逆になりその質も異なってくる。つまり、公的な場所についた人々は、普通の人々(生活者)とは逆立ちした世界の住人になる。それは実感としても湧き上がるものである。したがって、公的な場所に就いた人々(政治家など)が変なことをしでかさないために必要なことは、意識的に、自分もまた普通の人(生活者)であると意識することや生活世界に対する内省を持ち続けることの他にない。 



304
神官と何が違うって
日々の言葉
内に向かいわずかにこぼれ出るのみ




  [短歌味体な Ⅱ] 政治論シリーズ・続


305
大切なことは議論の外に
ちっぽけで
ひっそり閑と片隅に居る


306
大切なことは肌触り
流れ来て
泣き笑む人の匂い立ち込む




  [短歌味体な Ⅱ] 政治論シリーズ・続


307
大切なことは同じでも
違う道筋(みち)
靄(もや)を進めば七色に分岐す

  註.「まずは、この列島の住民みんなが幸せであること」を否定する者は、おそらくほとんどいないと思われる。しかし、それではそれへと到る道筋はとなると、現在までのところなぜか混迷を極めてくる。その靄の中の見えない道筋の秘密よ。



308
政治(政治家)を叩いて伸ばして
まとめると
遠い集落の取り決めの今


309
知らぬ間に豪華なソファに
吸い込まれ
目も心も遠離りゆく




  [短歌味体な Ⅱ] 政治論シリーズ・続


310
そうだよね 多数の海に
密やかに
黙黙黙と流れる底流あり


311
上辺(うわべ)では今が全てと
思うけど
中身の底に映る古き祖父母(ひと)




  [短歌味体な Ⅱ] ちょっと試みシリーズ・続


312
はいはい えっ そうだった
んですか・・・
ええええ ちっとも 知りませんでした


313
物語に遠い言葉
ぽつぽつと
林(リン) 人知れず小雨の降る


314
同じ火を眺めていても
dandandan
流れ出る流量(もの)、勢いのちがう




  [短歌味体な Ⅱ] 政治論シリーズ・続


315
憎悪にて新約書(せいしょ)のように
裁断す
から何度も引き返す たとえ パリサイ人(てき)であっても


 註.国家(政府、行政組織)がなければ、学者やエコノミストの類いが擦り寄ったりよいしょすることもなく、わたしたち生活者住民に直接相対するほかないのであるが、国家というものが存在している以上、自らの経済的・思想的な支柱として国家を代弁する者がいる。

そのようなイデオロギー性を持つ者も出てくる。いかに学問ぶっていても本質は、わたしたち生活者住民とは異質な世界の住人であり、得意げな表情の巫女やシャーマンであるほかない。

しかし、歴史の起源からの光を当てれば、国という組織も巫女やシャーマンも、わたしたち住民世界の安寧に奉仕する存在に過ぎない。今でも得意げになり得ると言うことは、無自覚にも起源からその悪要素がずっと内在しつづけているということになる。



316
対立と憎悪 新約書(せいしょ)以前から
続いてる
パレスチナ越え血の流るる河よ




  [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論


317 □
石ころがころがっても
笑い出す
音楽みたいに飛び石を踏みゆく


318 ●
暗黒の光一滴もない
緘黙(かんもく)は
静かな宇宙の孤独の表情(かお)


319 ▲
小説(まぼろし)の中だけでなら
光内秘め
暗黒宇宙(うちゅう)に入る緘黙症 

 註.埴谷雄高『死霊』の登場人物を思い浮かべて


320 ★
今も続く 光る暗む
流れる
ぐぐっと引き合いばんと反発する





  [短歌味体な Ⅱ] ちょっと試みシリーズ・続


321
なんじゃろけかんじゃろけ
すううっと
過ぎゆく風はどんじゃろけ


322
すうまいる歩いてみても
ならだかな
丘陵地えむこともなし

 註.念のため「ならだかな」は誤記ではありません


323
ふたしかな言葉を降りゆく
夜の深み
じんぎかんと銅鐸の音する




  [短歌味体な Ⅱ] ちょっと試みシリーズ・続 


324
虫媒花 運んで行く
いくつもの
峠を越えて言葉の荷を付す


325
じゃんぐらん 暮れ泥(なず)む空
からがらん
音の響き色深まりゆく


326
今朝もまた日々の廊下に
滑り出て
しっきしっかりん歩み始める




  [短歌味体な Ⅱ] 政治論シリーズ・続


327
日々のきらめく肌合いの世界(よ)
世界を語る
者は抜け出て圏外に消失す


328
敗戦の七十年の靄(もや)晴れ無(む)
白い出自(くうはく)から
「優しいリアリズム」語る者あり

 註.『21世紀の自由論―「優しいリアリズム」の時代へ』 佐々木俊尚




  [短歌味体な Ⅱ] 政治論シリーズ・続


329
ジブンエライなぜ思い湧く?
愚かにも(すなおにも)
太古の表情(かお)を汲み上げている

  註.安倍晋三総理大臣を顔も見たくもない他人と思いつつも、がまんしてテレビ画像を察し、思う。太古からごまんと存在し続けている顔。



330
南米のシャーマンにも
記述では
邪悪ありと言う 太古も今もまた

  註.集落の邪悪なシャーマンの存在の記述は、『鳥のように、川のように―哲人アユトンとの旅』(長倉洋海)の中にあったと思う。





  [短歌味体な Ⅱ] ちょっと試みシリーズ・続 


331
くり返す日々街歩き
知らない
街はいつから既知に変わりゆくか


332
数えたのに空白があり
数えた気がしない
何か別の時間流れていたか


333
誘われてふと入り込む
音に溶け
「空と大地の間には」青のひと筋

 註.調べてみたら、「空と君のあいだには」(中島みゆき)。





  [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論


334 □
火花散る見知らぬ街を
通りゆく
心に映る十重二十重(とえはたえ)の火


335 ●
月から地球を見渡す
暗い海
から擬人の船が浮上する


336 ▲
フェリーから遠い岸辺の
灯り見ゆ
夜のしじまに肌を流るるあり


337 ★
ふいと肌流るるものは
深ああい
時間の海から起動し来たる




 [短歌味体な Ⅱ] 政治論シリーズ・続


338
アイドルと同じ匂いの
枝葉付き
ずんずんずんと表彰台(だい)の高まる


339
同じ木でも優劣分かれ
運ばれる
かたい岩盤のこの世の主流(ながれ)


340
ふいと流れに情感の川
個を越えて
数万年の峠下り来る

  338-339註.わたしたちが何かを有り難がる宗教心の根っこにある古い古い部分をイメージして。





  [短歌味体な Ⅱ] 政治論シリーズ・続


341
ぐーんとぐんぐんぐん
近づいて
内には入れぬただ外に匂う


342
ぐーんと近づきつつ
つつーと反転
内に自らの体験、像結び流る


343
政治家A いつものように
歩いてく
明るい廊下いつものように


344
政治家B 楽屋を通り
身繕(づくろ)い
スポットライトに声の裏返り微(かす)か


345
政治家C 踏み慣れた道
横切るは
無縁の顔の蚊声(モスキートトーン)




  [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論


346 □
片付け捨てる ビミョウな
分岐点では
年輪の手立ち迷う


347 ●
星々や銀河系にも
生死あり
生花のように輪廻転生す


348 ▲
人知れず泣き微笑むも
ありらんらん
歌うリズムは雑草のごとく


349 ★
人界(ひとのよ)の街歩きする
視線(め)走らす
こころ揺れ揺られ 同一性と差異性(ひとそれぞれに)




  [短歌味体な Ⅱ] ちょっと試みシリーズ・続


350
裏返し眺めてみても
わからない
手肌流しても ちゃんちゃんこ


351
いつものように廊下を渡る
ふいと傾(かし)ぐ
折れ曲がる年齢(とし)の おっとどっこい


352
ほんとうはそのことではなく
この空も
意味は不明で 日が燦々(さんさん)

註.「意味が不明」以前の言葉の歴史的な段階をイメージして。




 [短歌味体な Ⅱ] ちょっと試みシリーズ・続


353
下りてくるいつものように
下りてくる
わたしの 空は空 海は海


354
下りてくるいつもと違って
下りてくる
二人がシェアするする空海(そらみ)


355
下りてくる固いリズムで
下りてくる
国国(こくこく)カーカーちと息苦しい




  [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論


356 □
稲光る自然の現象
耳目(じもく)に入り
言葉を超えて肌の丘陵(おか)を流るる


357 ●
人超えた巨きな時間(とき)の巡りから
地震津波
人知を破り押し寄せてくる


358 ▲
人の世の悪行は
自然似でも
心ころころ鈍く転び出る


359 ★
突き詰めて無とか悟りとか
上り詰め
下を見返せば心ゆらぎ居り




  [短歌味体な Ⅱ] 政治論シリーズ・続


360
農から武士が出たように
赤絨毯(じゅうたん)
きりっと敷かれどこどこ渡りゆく?


361
皆の前誰もが覚えあり
ふぁんふぉんふぁん
揺れ魅(ひ)き膨らみfan吹き寄せる


362
政治好きと言うほかない
人人居て
分かれ道ではてきぱき巫女(みこ)してる




  [短歌味体な Ⅱ] 普通はシリーズ


363
引きこもる理由(わけ)も事情(あれこれ)も
透き通り
吹き来る風にのりのり遅る


364
変化無しとノート閉じ続け
ふいと風
吹き下り染む三十年後に


365
わかります?はいなんとか……
の場面が
何年もの後クリアーに身に染む




  [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論


366 □
知る知らず区別もなく
触手(て)を伸ばし
走査する言葉は疲れを知らず


367 ●
可能のみ言葉は発掘し
少しずつ
時の地平を超えダークマターと引き寄せる


368 ▲
わからないとつぶやく時も
その球面(せかい)
に肌触れつつ上り下りしてる


369 ★
そうですかと言いながら
言葉は
経験(とき)の始まりから反芻(はんすう)している




  [短歌味体な Ⅱ] 舟のイメージシリーズ


370
風吹いても吹かなくても
ゆっくりと
風に足掛けるまぼろしの舟


371
漕ぎ出せば漕ぎ行く日々の
積み重なり
木々の葉脈進む舟あり


372
進んでく平均台の
波間から
身を(微妙に)ずらしつつバランス取りゆく
 
 註.(微妙に)は、漢文の置き字のつもりです。つまり、読みません。




  [短歌味体な Ⅱ] 戯れ詩シリーズ


373
ニッキョーソ(ニッキョーソ)くり返す声
オウムより
もっとうまいぞと悦に入り

 註.(ニッキョーソ)は、置き字、つまり読みません。


374
耳あっても聴こえてこない
目あっても
おぼろ月夜で独り「ウォークマン」


375
人なのに尻尾見え見え
歩いてる
キリッと身だしなみしててもねえ




  [短歌味体な Ⅱ] 普通はシリーズ・続


376

 (ここから二区画進んで右折し、五メートル先にファミレスがあり、その隣の五階建てビルの201号室に彼は住んでいる)

住所入れ検索
すればする
するぐーんとグーグル(アース)到達

 註.(   )と(アース)は、置き字です。読みません。見るだけです。


377
普通は、と言ってもじゅ
わあと広
がり静まる間もなくころがり進む




  [短歌味体な Ⅱ] 独りのシリーズ


378
独り椅子腰を下ろせば
水面には
波立ち泡立つ静まることがない


379
生きて在るかぎり波立つ
泡立つ
流るる風にふいと静止点


380
発射し着地した
言葉には
万人(の影)とともに癖ある表情(しぐさ)

 註.(の影)は置き字です。




  [短歌味体な Ⅱ]  独りのシリーズ・続


381
短距離のここを上れば
見渡せる
ということなし靄に煙る日々


382
生涯はなだらかに続く
おそらくは
グレーな日々の長距離走


383
ゆったりん流れていても
ノックする
前触れもなく深夜の電話





  [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論


384 □
密やかにちろちろ水の
流れ照る
いつか誰かが気付きはじめる


385 ●
わたしたちの眼力(がんりき)超えて
てんきりん
遙か果てまで星々の瞬(またた)く


386 ▲
生涯は匂い味わい
絞り出し
ぐるぐるぐるん 静かな失地


387 ★
人はみな百花繚乱
奥処(おくが)には
古い古い一花(いっか)小花(しょうか)の咲く




  [短歌味体な Ⅱ] 掛け合いシリーズ


388
なんとまああんな所まで
上るとは
驚く言葉目まい舞い舞い


389
内側(うち)からは驚くことなく
日々一歩
まいまい足跡積み重なりゆく(のみ)

 註.(のみ)は、置き字です。見るだけで読みません。




  [短歌味体な Ⅱ]  掛け合いシリーズ・続


390
二十歳(はたち)の道もや霞立ち
アンバランス
の情景をぐいぐい歩む


391
六十の坂の途中の
空き缶は
カラカラカンところがりゆく




  [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論


392 □
ああ蟻だこんなところに
動き回り
キギありありと(我が心に)足跡残す

 註.(我が心に)は、置き字です。読みません。


393 ●
そんなことあんなことあろうと
モクモクと
日差し風流れ微変位し行く


394 ▲
細々(こまごま)と日々切り分ける
流しにも
柔らかな日差しサンサ差し込む


395 ★
(ユラユラ)夢現のように思っても
時の重力(おもり)
生涯を七色に均(ならす)

 註.(ユラユラ)は、置き字です。読みません。




  [短歌味体な Ⅱ] 掛け合いシリーズ・続


396
どうですか舌触りや
のどごしは・・・
穏やかな海の静かな航行?


397
訪れた見知らぬ街の
えとらんぜ
えきぞちっくに匂い立ち・・・


398
よかよかよ何んかよかよ
そおね・・・
あったかい朝ごはんの・・・




  [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論


399 □●▲★
今日もまた日上り沈む
タンバリン
昨日と今日(微妙に色合い違って)棚引いている

 註.(微妙に色合い違って)は、置き字です。


400 □●▲★
階段を上り下りする
静夕暮(せいゆうぼ)
靄もやから親しい顔の





  2月2日に始めた作品「短歌味体な」がほぼ毎日書き続けて五ヶ月ほど経ち、「短歌味体なⅠ」から数えて合計500首になりました。途中、意識し出しましたが半年は続けてみたい、そして表現の引き寄せる表現上の大きな岩盤にはきちんとぶつかってみたいと思っています。もうすぐ「短歌味体Ⅲ」へ。



  [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論


401 □●▲★
夕味林(ゆうみりん)独りさまよい
微かに
肌を流るるは遙かな(少年の)日々

 註.(少年の)は、置き字。


402 □●▲★
口癖は古い年輪の
一木(いちぼく)の
芯の方からモスキート香

  註.「モスキート香」は、「モスキート音」からの言葉のずらしです。




  [短歌味体な Ⅱ] 引用シリーズ


403
「ゆあーん」とびら開いて
少年の
「ゆやゆよん」はやる心は

 註.引用句は、中原中也「サーカス」より。


404
「びゅわーん」煙り湧きつつ
疾駆する
時代の病い振り切ることなく

 註.「びゅわーん」は、遠い昔、わが子の小さい頃耳にした新幹線の歌(「はしれ超特急」)から。




  [短歌味体な Ⅱ] 引用シリーズ・続


405
パクリとか目くじら立てて
泡飛ばす
言葉は誰もが無断引用さ


406
遙かな時間の向こうから
don don don don don
光速に 舞い 流れ 来たる 現在(いま)
(しゅぱあーーーあ)


407
言葉という同じ舟に乗る
誰もみどり
舟べりから異色の棚引く




  [短歌味体な Ⅱ] 引用シリーズ・続


408
わが母はと滑り出せば
母その母
時の深みより浮上する今


409
ある人の言った言葉を
新しい
よそゆき風に着こなしてみる


410
借り衣はちらちら気になり
滲み出す
肌の無意識につっかえひっかえ




  [短歌味体な Ⅱ] ふと眺めるシリーズ


411
みどり揺れる日かげびわの葉
実り終え
びわの居住まいみどりゆるりゆれり



412
ぼんやりと空見たことか
もくもくも
形ずれゆくも大空の人

 


413
農道の入口左に
畑あり
なぜか荒れ出し今日は(いちめんの)刈り跡

 註.(いちめんの)は置き字、読みません。その畑の主は、時々見かけたことがある。おそらくわたしより年上の人。花々や野菜を植え、きちんと手入れされていた。今年の春にはその畑が草が生い茂り荒れてきて、病気でもされたかなと通る度に思っていた。





  [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論


414 □●▲★
立ち上がり歩み始める
ここそこと
上り下りして終点を踏む


415 □●▲★
ジャンプして無常と見ても
重心を
流れ逆巻く血は現在(いま)を指す


416 □●▲★
(手前にてあることを)
知ってても知らなくても
引かれた
カーテンの後ろダークマター

 註.(手前にてあることを)は、置き字です。




  [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論


417 □●▲★
見ていても見えないことが
ありありと
動き回るのが小さく見える


418 □●▲★
外国に行ってみたいと
思わない
AKBも知らない この岐(わか)れ道は何?


419 □●▲★
外国に浮かれ旅をし
歌い手に
イカレルも良し 深まりきた自由だから




  [短歌味体な Ⅱ] ふと眺めるシリーズ・続


420
わがネコがじっと眺めてる?
光景を
眺めながらイイネと下る

 



421
おそらくはネコそのものに
なれないが
そんなネコ場の近傍にいる?

 





  [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論


422 □●▲★
星々は見えなくても
古びた
フライパンは焦げやすくなった


423 □●▲★
数値計算しなくても
ふとつまづく
人と人との距離測り難し


424 □●▲
見た画像(こころ)深く沈め
小さな
煙り出し朝食(しょくじ)を作る

 註.「見た画像」とは、ハッブル宇宙望遠鏡からの画像。(こころ)は、置き字。




  [短歌味体な Ⅱ] この地では誰もがあるあるシリーズ


425
ねえねえこれ見てよねえ
はいはい
ねえほらこーんな見てってばてば


426
先ほどの猫語の名残り
ふとながむ
木々の小枝の葉裏に揺れる


427
知りませんと答えた後に
もやもやと
立ち込め下り完結しない




  [短歌味体な Ⅱ] 何んかよくわからないシリーズ


428
ゆうりんはいのぼってみれば
えんろらんろ
なみのうちよせひまつのかかる


429
いちにいとふみゆくこころ
ふきよせる
かぜのあしかかりさんとふみだす




  [短歌味体な Ⅱ] 何んかよくわからないシリーズ・続


430
おわったの?(ええっ!なんで?)
ほんとに?
(あ、風、吹いてる)(時は、私の、時が)


431
歩けばるんば歩けば
るんび
歩けるんばぶるんばぶんぶん




  [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論


432 □●▲★
ぽったりんしゅわしゅわわ
内側で
波立ち広がり色混じり合う


433 □●▲★
関係は物と物でも
自身でも
ぶつかり合って色変わりしゆく


434 □●▲★
色あせても深みに息づく
色合いは
真っ赤な血の脈波打つ




  [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論


435 □●▲★
静かな雲 目をつぶらなくとも
引っ張られ
上横ふくらみ時間の海へ


436 □●▲★
静かな雲 に・から・へ・を
駆動する
もうもくもくと静かな起動音


437 □●▲★
いつから知り始めたのか
雲という
姿形や唇震う音


438 □●▲★
知ってから・・・何度目の
ver up か
何度目かの雲今大空に




  [短歌味体な Ⅱ] 朝シリーズ


439
朝セミがwan鳴いている
ふりしぼる
血の巡りらが地鳴り響かす


440
蝉時雨言葉あてがい
描(か)き変えた
朝の来客に応対す


441
吹き払う夜の名残りの
空(うつ)ろさを
朝を震わす交響曲




  [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論


[短歌味体な Ⅱ] 漱石シリーズ


442
「坊ちゃん」という言葉の
当時の
滲み入るイメージの総量を思う


443
「覚悟」という言葉に出くわし
いくつかの
己の覚悟を呼び起こす

 註.「覚悟」は、漱石の『こころ』に出てくる




  [短歌味体な Ⅱ] 漱石シリーズ・続


444
行き違う二人の在り処(か)
傍目(はため)越え
ざっくり峠日々分かれゆく

 註.漱石門下の妻鏡子、悪妻評価があり、夏目鏡子の『漱石の思ひ出』、夏目家に近い半藤末利子の『漱石の長襦袢』などなどが残されているが、人は他人の数だけのイメージを許す。また、自身でさえ、自分を掴(つか)みかねるところがある。





  [短歌味体な Ⅱ] 小さい子のための歌シリーズ


445
草の葉のにぎわう時は
風るんる
るんる吹いており押し押され歌う


446
草の葉もしずかな夜は
すーさんすー
すーさんすーす夢見て眠る


447
ちっちゃいふとんに眠り
かすかに
夢に漂い匂うおっぱいの




  [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論


448 □●▲★
灯り落ちびゅうびゅーん
荒れの記憶
この台風に溶け混じり居る


449 □●▲★
らむらむらむらむらむらむ
音揺らぎ
不定場から遙かな遠吠えの




  [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論


450 □●▲★
ものが頭に落ちてくる
そんな日は
いろんなつながりの糸たぐり寄せている


451 □●▲★
「ふと」という言葉につまずいて
すっからかん
底の底まで突き抜けている




  [短歌味体な Ⅱ] 57577シリーズ


452
57577ああ窮屈だと
脱ぎ捨てて
「街歩き」をゆったり流れゆく

  註.「街歩き」は、NHKの海外の街歩き番組。カメラは人の歩く速さで流れゆく。




453
心放ち器に盛る
57577
しっくりこなけりゃ「くたくた加工」

 註.「くたくた加工」は、「ビンテージ加工」とも言う。




  [短歌味体な Ⅱ] 小さい子のための歌シリーズ・続


454
「ひらけ、ごま!」 出来たての舟
に乗り込んで
藪(やぶ)打ち払い伐り払い進む

  註.「言霊(ことだま)」は、古代(大人)にあっては古今集仮名序のように言葉に残留するイメージとなってしまっているが、アフリカ的な段階(小さい子)にとっては、熱い言葉そのもの。



455
店頭に転び泣き喚(わめ)く
飛翔の
夢ひび割れてがんじがらまる




  [短歌味体な Ⅱ] 大人のための歌シリーズ


456
呪(まじな)いの生命線は
晴雨超え
二つに一つ験(げん)の雨降る

  註.「呪い」に対する眼差しと了解は、太古と現在と、天と地ほどの違いをもたらすようになってしまった。おそらく、現在と遙か未来においてもまた。



457
不随意にからだは動き
糸出し張る
「みぎむけ、みぎ!」に泡立ち揺れる


458
「もうみんな席に着かれてる」
響く言葉
カジュアルな心に拍車をかける




  [短歌味体な Ⅱ] 少年のための歌シリーズ


459
見上げれば星の瞬(またた)く
ゆっくりん
りんさざ波立ち空の滴染む


460
切り取られ小さな時の
流るるは
言い様もなく独りにぎわう


461
流れ星流れ来たらずも
少年の
あつくふくらむ幻に流る




  [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論


462 □●▲★
すべり出す言葉の舟は
かたち成し
チョーかわゆいと時の帆を張る


463 □●▲★
あれいいねのびる言葉の
触手
時間の空洞(ときのふかみ)から浮上する


464 □●▲★
時代(とき)の大気に触れ湧き上がる
いい感じ
からだの芯から肌のふるえる




  [短歌味体な Ⅱ] 黒シリーズ


465
まぼろしも狂気もまた
この世事(よごと)
時の淵から打ち上がる黒花火

 註.「黒花火」の「黒」は、置き字で読みません。


466
黒々と深まる時は
黒張り付いて
目まいするまで追い詰め来たる

 註.「黒張り付いて」の「黒」は、置き字。


467
選ぶ時避けているのに
黒々と
人待ち顔に蛇行し来たる




  [短歌味体な Ⅱ] 定住と旅シリーズ


468
小さい頃何度か耳にしたことがある
小字(こあざ)か
この地では〈ヤンバラ〉と言う


469
幻の鳥になり
風に乗り
どこ巡り来たか 〈ヤンバルクイナ〉


470
航跡は消え失せるけど
列島の
衛星画像に沈めている




  [短歌味体な Ⅱ] 舌足らずシリーズ


471
濃度が余りに高い
靄(もや)の中
するするするん言葉は抜け来ない


472
小さい子が息せき切って
言うことに
我もまた同じ軌道か


473
固まる前の溶けてる言葉
互いに
解離して靄に包まれて在る




  [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論


474 □●▲★
(((waowao))こんなに大きゅう
なんしゃって)
息せき切って駆けてくる言葉


475 □●▲★
(どれがいい?これあれそれ?)
どの道も
選び採らないただ本流の深味




  [短歌味体な Ⅱ] 観察シリーズ


476
ネコも遊ぶみたいに見えるけど
大方は
根負けするほど時に溶けている


477
ぼおっとしたネコが理想に
見えるとき
人の遙かな果てを反芻してる


478
手すりに手や棒きれ
触れながら
なぜか歩みゆく少年の時




  [短歌味体な Ⅱ] 少年の日々シリーズ


479
いろいろと日々沈んでも
朝食(あさげ)の
匂い立ち上り日々漂い来る


480
傘の下球面レンズ
駆動する
世界はただ肌合いに流る


481
日々通うなじみの木々が
揺れている
風ではなくみどりの流るる




  [短歌味体な Ⅱ] 何気なく音を感じるシリーズ


482
音がなく病気でもなく
ある丘陵地(おか)を
微かに流れる流れている音


483
ある丘陵地(おか)を流れ下りゆく
風の音
風の匂い舞い上がる来る


484
音という通路の他は
知らない
ただ んぱんぽんぱぱん 通りゆく気配の




  [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論


485 □●▲★
雲見てる しずかな大空
もくもくと
変貌しゆく姿形の


486 □●▲★
雲に見る 何かの形
捜している
遙か太古のイメージの匂いする


487 □●▲★
雲を出る 時間の旅路は
今もなお
残虐と豊穣と結ぶ







  [短歌味体な Ⅱ] 夢うつつシリーズ


488
夢うつつかはたれどきに
寄せる波
どこからどこへ引きゆく潮か


489
夢うつつ見慣れた景色
揺れ揺られ
なぎ倒されゆく木々の細道


490
お盆にはつながりの糸
ほの浮かび
群(グン)!夢うつつの内に火照る

  註.「群」は、当然ながら「むれ」という意味つながりも持つけれど、主要には「グン」という音として。





  [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論


491 □●▲★
降り積もる時間の言葉よ
歌うこと
何にもないと思っていても


492 □●▲★
誰も背を押していないのに
微風に
すっと入り込み言葉の滲む


493 □●▲★
なぜかしら持ってしまった
普段着の
言葉の自由度(かるさ)、変幻自在か




  [短歌味体な Ⅱ] 本流のイメージシリーズ


494
ひとり一人足足(そくそく)!どんなにあがいても
その足乗せ
本流は無言で流る


495
支流を押し広げて
本流
みたいな顔させられてもまた戻り来て流る


496
多言無言費やし果てた
疲労野を
影のようによぎる沈黙のある




  [短歌味体な Ⅱ] 赤ちゃんのための歌シリーズ


497
ぶーはぶーは あぶううううう
ぶぶはぶぶ
ぶーぶぶぶぶーぶ あぶううううう


498
とおおいやままっくらくらに
ほしひかり
どんどんどんとなりひびいてるよ




  [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論


499 □●▲★
はじまりとおわりの間に
(そこが全てと)
踊り出したりはにかんだり




  [短歌味体な Ⅱ] □:入口論、●:宇宙論、▲:世界論(人界論)、★:起源論


500 □●▲★
この世には残余があって
喜びも
また悲しみも沈黙の二十五時(とき)を持つ




 短歌味体なⅡ、500篇にて終了



 [短歌味体なⅡ]500篇になり、これでお終い。

[短歌味体なⅡ]が、書き積もり積もって500篇になりました。カタツムリのようにゆっくりとひとつ道を進もうとしても、難渋し、苦しくて、角出したり、槍出したりしてしまいます。集中と拡散の500篇になりました。

次からは、[短歌味体Ⅲ]。







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