詩『言葉の街から』 ①

     
(2018年4月21日~2019年7月6日)

 目次


詩『言葉の街から』 水の駅シリーズ 日付
1-3     気配もないシリーズ 2018年04月21日
4-6     きゅうくつシリーズ 2018年04月22日
7-10    きゅうくつシリーズ 2018年04月23日
11-13   揺ら揺ら小舟シリーズ 2018年04月24日
14-16   揺ら揺ら小舟シリーズ 2018年04月25日
17-19   気づきシリーズ 2018年04月26日
20-22   気づきシリーズ 2018年04月27日
23-25   匂うシリーズ 2018年04月28日
26-28   匂うシリーズ 2018年04月29日
29-31   はじまりはシリーズ 2018年04月30日
32-34   はじまりはシリーズ 2018年05月01日
35-37   はじまりはシリーズ 2018年05月02日
38-40   はじまりはシリーズ 2018年05月03日
41-43   水の駅シリーズ 2018年05月08日
44-46   水の駅シリーズ 2018年05月09日
47-50   水の駅シリーズ 2018年05月10日
51-55   水の駅シリーズ・市の駅 2018年05月11日
56-58   水の駅シリーズ・市の駅 2018年05月12日
59-61   水の駅シリーズ・市の駅 2018年05月13日
62-64   水の駅シリーズ・市の駅 2018年05月14日
65-67   水の駅シリーズ・丹の駅 2018年05月15日
68-70   水の駅シリーズ・丹の駅 2018年05月16日
71-73   水の駅シリーズ・丹の駅 2018年05月17日
74-76   水の駅シリーズ・讃の駅 2018年05月18日
77-79   水の駅シリーズ・讃の駅 2018年05月19日
80-82   水の駅シリーズ・讃の駅 2018年05月20日
83-85   水の駅シリーズ・讃の駅 2018年05月21日
86-89   水の駅シリーズ・死の駅 2018年06月02日
90-93   水の駅シリーズ・死の駅 2018年06月03日
94-97   水の駅シリーズ・死の駅 2018年06月04日
98-100  水の駅シリーズ・死の駅 2018年06月05日
101-103 水の駅シリーズ・娯の駅 2018年06月06日
104-106 水の駅シリーズ・娯の駅 2018年06月07日
107-109 水の駅シリーズ・娯の駅 2018年06月08日
110-111 水の駅シリーズ・娯の駅 2018年06月09日
112-114 水の駅シリーズ・録の駅 2018年06月10日
115-117 水の駅シリーズ・録の駅 2018年06月11日
118-120 水の駅シリーズ・録の駅 2018年06月12日
121-123 水の駅シリーズ・失(しち)の駅 2018年06月13日
124-126 水の駅シリーズ・失(しち)の駅 2018年06月14日
127-129 水の駅シリーズ・失(しち)の駅 2018年06月15日
130-132 水の駅シリーズ・失(しち)の駅 2018年06月16日
133-136 水の駅シリーズ・蜂の駅 2018年06月17日
137-139 水の駅シリーズ・蜂の駅 2018年06月18日
140-142 水の駅シリーズ・蜂の駅 2018年06月19日
143-145 水の駅シリーズ・苦の駅 2018年06月20日
番外      水の駅シリーズ・苦の駅 2018年06月20日
146-148 水の駅シリーズ・苦の駅 2018年06月21日
149-151 水の駅シリーズ・苦の駅 2018年06月22日
※ 詩『言葉の街から』の「水の駅シリーズ」は、これでおしまいです。
 
詩『言葉の街から』 大空シリーズ 日付
1-3     大空シリーズ 2018年07月12日
4-6     大空シリーズ 2018年07月13日
7-10    大空シリーズ 2018年07月14日
11-14   大空シリーズ 2018年07月15日
15-18   大空シリーズ 2018年07月16日
19-21   大空シリーズ 2018年07月17日
22-24   大空シリーズ 2018年07月18日
25-27   大空シリーズ 2018年07月19日
28-31   大空シリーズ 2018年07月20日
32-34   大空シリーズ 2018年07月21日
※ 詩『言葉の街から』の「大空シリーズ」は、これでおしまいです。

詩『言葉の街から』 道シリーズ 日付
1-3      道シリーズ 2018年10月05日
4-7      道シリーズ 2018年10月06日
8-11     道シリーズ 2018年10月07日
12-15    道シリーズ 2018年10月08日
16-18    道シリーズ 2018年10月09日
19-21    道シリーズ 2018年10月10日
22-25    道シリーズ 2018年10月11日
26-29    道シリーズ 2018年10月12日
30-33    道シリーズ 2018年10月13日
34-37    道シリーズ 2018年10月14日
38-40    道シリーズ 2018年10月15日
41-44    道シリーズ 2018年10月16日
45-48    道シリーズ 2018年10月17日
49-52    道シリーズ 2018年10月18日
53-57    道シリーズ 2018年10月19日
58-61    道シリーズ 2018年10月20日
62-65    道シリーズ 2018年10月21日
66-69    道シリーズ 2018年10月22日
70-73    道シリーズ 2018年10月23日
74-78    道シリーズ 2018年10月24日
79-81    道シリーズ 2018年10月25日
82-85    道シリーズ 2018年10月26日
86-89    道シリーズ 2018年10月27日
90-93    道シリーズ 2018年10月28日
94-96    道シリーズ 2018年10月29日
97-98    道シリーズ 2018年10月30日
99-101   道シリーズ 2018年10月31日
102-103  道シリーズ 2018年11月01日
104-107  道シリーズ 2018年11月02日
108       道シリーズ 2018年11月03日
※ 詩『言葉の街から』の「道シリーズ」は、これでおしまいです。

詩『言葉の街から』 世界はふるえるかシリーズ 日付
1-3      世界はふるえるかシリーズ 2019年01月23日
4-6      世界はふるえるかシリーズ 2019年01月24日
7-10     世界はふるえるかシリーズ 2019年01月25日
11-13    世界はふるえるかシリーズ 2019年01月26日
14-16    世界はふるえるかシリーズ 2019年01月27日
17-20    世界はふるえるかシリーズ 2019年01月28日
21-23    世界はふるえるかシリーズ 2019年01月29日
24-26    世界はふるえるかシリーズ 2019年01月30日
27-29    世界はふるえるかシリーズ 2019年01月31日
30-32    世界はふるえるかシリーズ 2019年02月01日
33-35    世界はふるえるかシリーズ 2019年02月02日
36-38    世界はふるえるかシリーズ 2019年02月03日
39-41    世界はふるえるかシリーズ 2019年02月04日
42-44    世界はふるえるかシリーズ 2019年02月05日
45-47    世界はふるえるかシリーズ 2019年02月06日
48-50    世界はふるえるかシリーズ 2019年02月07日
51-53    世界はふるえるかシリーズ 2019年02月08日
54-56    世界はふるえるかシリーズ 2019年02月09日
57-59    世界はふるえるかシリーズ 2019年02月10日
60-62    世界はふるえるかシリーズ 2019年02月11日
63-65    世界はふるえるかシリーズ 2019年02月12日
66-68    世界はふるえるかシリーズ 2019年02月13日
69-71    世界はふるえるかシリーズ 2019年02月14日
72-74    世界はふるえるかシリーズ 2019年02月15日
75-77    世界はふるえるかシリーズ 2019年02月16日
78-80    世界はふるえるかシリーズ 2019年02月17日
81-83    世界はふるえるかシリーズ 2019年02月18日
84-87    世界はふるえるかシリーズ 2019年02月19日
88-90    世界はふるえるかシリーズ 2019年02月20日
91-93    世界はふるえるかシリーズ 2019年02月21日
94-96    世界はふるえるかシリーズ 2019年02月22日
97-100   世界はふるえるかシリーズ 2019年02月23日
101-103  世界はふるえるかシリーズ 2019年02月24日
104-106  世界はふるえるかシリーズ 2019年02月25日
107-109  世界はふるえるかシリーズ 2019年02月26日
110-112  世界はふるえるかシリーズ 2019年02月27日
113-115  世界はふるえるかシリーズ 2019年02月28日
116-118  世界はふるえるかシリーズ 2019年03月01日
※ 詩『言葉の街から』の「世界はふるえるかシリーズ」は、これでおしまいです。
詩『言葉の街から』 重力シリーズ 日付
1-4      重力シリーズ 2019年06月22日
5-7      重力シリーズ 2019年06月23日
8-10     重力シリーズ 2019年06月24日
11-14    重力シリーズ 2019年06月25日
15-17    重力シリーズ 2019年06月26日
18-20    重力シリーズ 2019年06月27日
21-23    重力シリーズ 2019年06月28日
24-27    重力シリーズ 2019年06月29日
28-31    重力シリーズ 2019年06月30日
32-34    重力シリーズ 2019年07月01日
35-37    重力シリーズ 2019年07月02日
38-40    重力シリーズ 2019年07月03日
41-44    重力シリーズ 2019年07月04日
45-47    重力シリーズ 2019年07月05日
48-50    重力シリーズ 2019年07月06日
※ 詩『言葉の街から』の「重力シリーズ」は、これでおしまいです。

 ※ このファイルがなぜか重たくなって、文字入力がものすごく時間かかるようになってしまったので、
  次のシリーズから、「言葉の街から・続」の別ファイルに移行します。







詩『言葉の街から』 気配もないシリーズ



言葉の気配に気づく
こともない われら
しいのみ、やまもも、ぶっくに出歩く

註.「ぶっく」(イチジク属のイヌビワか)と呼び合う、その実を食べていた。



季節の(という感覚もなく)風に押されるままに
やまかわ
庭先と遊びほうける日々の



世界の 難しいことは知らない
見よう見まねの
気分は風のながれに乗り




詩『言葉の街から』 きゅうくつシリーズ



ある日ガッコウというもの
降りてきて
こちらの都合をプチプチプチ消していく



きゅうくつなのは服ばかりでなく
流れる時間
カクカクシャキンと迫って来る



時間の水路にはまってしまって
思いのままの
昨日の丘陵には戻れなくなった




詩『言葉の街から』 きゅうくつシリーズ



昨日と今日の境界が
しだいに
閉じていく閉じていくよお



戻れない時間はただ
奥深い どこかに
ひっそりしまい込まれている



きゅうくつに慣れていくのが
成長か
ときどき異和は夢に流れる


10
流れていく時間の飛沫
浴びながら
(なんだこのやろう)内向する小舟がある




詩『言葉の街から』 揺ら揺ら小舟シリーズ


11
自分の成長よりも
すばやく
言葉の村は街へと移りゆく


12
選択の自由以前の
急(せ)かされる
時の流れに揺ら揺ら小舟


13
嫌がった大人たちの
習わしに
少しずつ慣れつながりゆく




詩『言葉の街から』 揺ら揺ら小舟シリーズ


14
確かにそちら向きに
進んでいるが
波に逆らい揺ら揺ら小舟


15
基本形は未だなく なく
たましいは
揺ら揺らの内に刻まれてある


16
揺ら揺らの内に発掘される
言葉なく
ただ揺れに音色(おんしょく)流るる




詩『言葉の街から』 気づきシリーズ


17
遊びの中中(チュウチュウ)夢中
木の葉の
ささやきにも気づくことはなく


18
世界と交わるではなく
溶け合って
気づきの森は眠り続ける


19
〈木の葉が 落ちた〉
木の葉は
絶え間なく落ちているし落ちてきた




詩『言葉の街から』 気づきシリーズ


20
気づくということなければ
風は風のまま
ただ流れ続けている


21
〈木の葉が 落ちた〉の波紋
ひろがり
気づきの丘を下ってゆく


22
ふと気づく からだの芯が
ズキズキ痛む
今までの景色が塗り替えられてしまっている




詩『言葉の街から』 匂うシリーズ


23
においする (何の匂いかなあ)
手探りに
しっくりくる言葉の服がない


24
誰もが我知らずの
匂い持つ
異質さに出会い匂い場が立つ


25
この匂い どこかの路地裏で
風が
イメージの木の葉吹き寄せ始める




詩『言葉の街から』 匂うシリーズ


26
匂うのにはっきりと
言葉が立たない
素材そのまま漂っている


27
わかっているのに言えない
黙読の
路地裏にひとり静かに佇む


28
(何時かな) 待ち合わせには
場と時刻が
ぴったり合わなくっちゃ




詩『言葉の街から』 はじまりはシリーズ


29
確かに街の形成
以前と以後が
あるはずなのにもはや春霞の


30
不明を背に気づいた時は
鳴り響く
祭りの輪に入り込んでいる


31
遠い記憶はシームレス
に見えても
今ここと同じく継ぎ目はあるさ




詩『言葉の街から』 はじまりはシリーズ


32
今はただ流れ続ける
流れている
その深みにそっと触れる


33
ここでは言葉がからだ
言葉の街の
にぎわいも静けさも寄せてくる


34
ふ れ る 言葉の風や
日差し
言葉の大気に触れる




詩『言葉の街から』 はじまりはシリーズ


35
はじまりは たとえば毎年花咲く
草花の
花盛りの夜に訪れる


36
特別のこともない一日の
何にもない
足裏にもひとつの物語はあるさ


37
ありありと感じる読者が
いるならば
言葉の街に流れ星落ちる




詩『言葉の街から』 はじまりはシリーズ


38
はじまりは (きんちょうするなあ)
静まる部屋
けれど内ではもう始まってる


39
内と外、こんなにも違う
峠道
ひとり身を固くして下ってゆく


40
何が起こるかわからない
不安の風
内に対流し滞留し続ける




詩『言葉の街から』 水の駅シリーズ


41
今朝ぼくは言葉の舟に
すべり込み
すうっとしずかに岸を離れた


42
なぜか言葉の手にひかれ
水の道
心地よくすべり出したつもりが


43
水を差すように雨粒が
ぽつぽつぽ
つつうと頬を伝いゆく




詩『言葉の街から』 水の駅シリーズ


44
ふと浮かぶ〈駅〉というもの
バタバタバタン
かたち成しゆくのを感じている


45
水の駅はぼくの気づきに
ぽつぽつぽ
つぽつ自在に湧いては消える


46
子どもがはじめて口にする
言葉のよう
水の駅(みじゅき)がゆっくり始発する




詩『言葉の街から』 水の駅シリーズ


47
なぜかはわからない
ないかも
しれないしあるのかもしれない


48
わからないけど駅が立っている
なぜ と問う
前にすべては存在している


49
答えは流れてくる
問いの形に
沿うように切り整えられる?


50
少なくとも〈わたし〉を起点として
あらゆる断片は
集合し離散してゆく




詩『言葉の街から』 水の駅シリーズ・市の駅


51
呼びとめる市の駅に
舟寄せ降りる
無数の言葉朝市に立つ


52
客引きの匂いに魅かれ
客たちは
市のブースに消えていく


53
スイーツや朝露付いた
言葉の野菜たち
とってもおいしそうに立ち並ぶ


54
くたびれた魂たずさえ
客たちは
あちこちうろうろ迷いゆく


55
「癒やされるう」客たちの声
風に乗り
ノリノリでぼくの背を叩く




詩『言葉の街から』 水の駅シリーズ・市の駅


56
いつからか贈り贈られ
か細くなり
お金ばかりが大通り大声で行く


57
お金の光り輝き
たましいの
行路に深く差しているよ


58
交換はお金ばかりでなく
こっそりと
つながりつなげられるれろ




詩『言葉の街から』 水の駅シリーズ・市の駅


59
どこからかかすかに匂う
水の感触
この市の土台から来るような


60
ワンピース、ツーピース・・・
はまり込む
宝の地図もただ夢まぼろしよ


61
次々に並べられゆく
色鮮やかの
品々ももういいよと押し返される




詩『言葉の街から』 水の駅シリーズ・市の駅


62
店裏で「これどうぞ」と
差し出され
「ああどおーも」と木の葉差し出す


63
えええい、おまけだよと
外伝の
物語まで聞かせてもらった


64
マニュアル言葉を他所に
方言の
未だ生身を風にさらしてる




詩『言葉の街から』 水の駅シリーズ・丹の駅


65
水は流れ、流れている
静かに
舟は進む、小さな波紋立つ


66
どこからか赤い土の
匂い来る
まぼろしではなく確かな


67
ばああっと赤土の層なす
丹の駅
忘れられゆく静かな廃駅




詩『言葉の街から』 水の駅シリーズ・丹の駅


68
赤土もその言葉も
生き生きと
行き来していた丹の駅の記憶


69
働く手肌赤く
染まりゆく
日々の呼吸は今や記憶の倉に


70
人もまた忘れられゆく
丹の駅の
記憶は誰の内にも朧(おぼろ)の




詩『言葉の街から』 水の駅シリーズ・丹の駅


71
どんな世でも例えば丹の匂いにまみれ
悲喜こもごもの
歌い踊り泣き笑い合う


72
丹の色や匂い形は
人の暮らし
のかたち整え細道を歩ませる


73
人の感じ考える
自由度は
丹の時代の色かたち匂いに染まり




詩『言葉の街から』 水の駅シリーズ・讃の駅


74
水はとどまることなく
ながれる
静かに深く流れ続ける


75
讃の駅頭に降り立つ
場違いの
讃辞ばかりが生い茂りなびく


76
大文字と大声流れる
讃讃讃
小文字小声は裏通りにすばやくすべり込む




詩『言葉の街から』 水の駅シリーズ・讃の駅


77
結ばない非讃の草は
沈黙の
風にただラアラアとなびく


78
右も左も讃讃讃
サンサンサン
さんさんさん同じ根から匂い立つ


79
讃讃のがんじがらめに
臨死体験のよう
ドローン映像を見ている




詩『言葉の街から』 水の駅シリーズ・讃の駅


80
この地では太陽までも
サンサンサン
切り整えられ頭上に浮かぶ


81
身に付いた癖のように
サンと聞くと
讃という文字が先ず浮かぶ


82
讃というイメージの垣根に
囲われ
飛び跳ね踊るはサン・スター49




詩『言葉の街から』 水の駅シリーズ・讃の駅


83
作者たちがどんな作為の
罠仕掛けても
わなわなしない気にもしないさ


84
盆踊りみたいに讃讃
サザンサンサン
こちらが楽しけりやあいいさいいよね


85
宇佐の木に一緒に結ぶ
お札買い
うさうさうさうさ憂さ晴らしい



詩『言葉の街から』 水の駅シリーズ・死の駅


86
水が重たく澱(よど)み出す
夕暮れに
流れは寝やどを目ざすよう


87
ああこれほどの死屍累々(ししるいるい)
飢餓戦乱の
ヒガンバナ狂い咲き居る


88
押し黙りぞろぞろ行く
言葉の内
神も仏も病んでおるぞ


89
無言のなじみの通路
死の匂い
深く染み入る列島の秋




詩『言葉の街から』 水の駅シリーズ・死の駅


90
大声の制圧する
会議の席
無言は死のかたちに伏す


91
いってもいっても
しょうがない
と手混ぜし異空に飛ぶ


92
くり返し慣れ親しんだ
死の匂う
我知らずの言葉の姿勢とる


93
一二三と踏み抜けば
不吉な死
の匂い立ち迎えに来るよ




詩『言葉の街から』 水の駅シリーズ・死の駅


94
心臓が拍動しても
言の葉は
葉脈弱く流れ澱(よど)む


95
厳密な時刻表に
沿って来る
見えない速度に過呼吸する


96
緑の中に黄み広がり
心の葉は
不安と死が分布しはじめる


97
折り畳み折り畳み
果てしない
細分化の荒野を突っ走っている 今は




詩『言葉の街から』 水の駅シリーズ・死の駅


98
〈し〉はいろんなものが混じり合い
分離できず
しはしわしははと泡立っている


99
ひんやりした水の匂い触れ
はっとする
〈し〉が死の傾斜に踏み止まる


100
しいっしし、静かに深く
空気震わせる
ものたちが通り過ぎていくよ




詩『言葉の街から』 水の駅シリーズ・娯の駅


101
水はただ連綿と続く
無名灘(むめいなだ)
ただただ流れゆくばかり


102
舞え舞えガールズ、ボーイズ
舞わぬなら
我が目も耳もお金も使わないぞ


103
不安不吉は振り払い
ヤンヤヤンヤ
スポットライトの輪の中ダンス・ダンス・ダンス



詩『言葉の街から』 水の駅シリーズ・娯の駅


104
舞台にてお金ねじ込まれ
歌う歌
黄金色(こがねいろ)づきこぶしが入る


105
気にはしないわお金のことは
思い決めても
どこまでも付きまとうストーカー


106
お金持ちになってもいいよいいわよ
さりげない
楽しい響きを枯らさないならね




詩『言葉の街から』 水の駅シリーズ・娯の駅


107
お客さんのこと気にかけ
過ぎずに
天空の橋張り詰め渡る


108
楽しい、わけでもなく
楽しくない
わけでもない、微妙の歌原を過ぐ


109
娯の駅頭に歌姫ひとり
ぼんやりと
人の行き来を眺めている




詩『言葉の街から』 水の駅シリーズ・娯の駅


110
気難しい顔はこの門
入れない
enter enter entertain


111
まぼろしの時空に出会う
者たちの
からだ流れるentertainment流




詩『言葉の街から』 水の駅シリーズ・録の駅


112
音色(おんしょく)のほてりを芯に
滲(にじ)ませて
小さな舟が流れを下る


113
文字も録するものもない
夕べには
耳目(じもく)波打ち海原にこだまする


114
小さな波の民衆は
耳目ふるわせ
まぼろしの海原を渡りゆく




詩『言葉の街から』 水の駅シリーズ・録の駅


115
録されたリズムの流れに
乗りながら
波打ち付け小舟は進む


116
からだの芯に浮かぶ
まぼろしの
小舟うち揺れ歌流れ出す


117
経験は雪降り積む
気配の中
小舟にそっと録されてゆく



詩『言葉の街から』 水の駅シリーズ・録の駅


118
0と1のビットの谷間に
横たわる
無限の情報が手招いている


119
降り積もり雪片曲線
伸びてゆく
ただ冷たさが録されてゆく


120
細分化緻密細密
どんな蜜
起動するも疲労ばかりが録されてゆく




詩『言葉の街から』 水の駅シリーズ・失(しち)の駅


121
気配して流れ振り返る
小舟の
背の不安夢うつつに鳴り響く


122
失うは不在に向かう
まぼろしの
空虚の流れ湧き出しはじめる


123
誰もいないはずなのに ふと
振り返る
失の駅頭に今ひとり立つ




詩『言葉の街から』 水の駅シリーズ・失(しち)の駅

124
苦しみの一番線には
愛の不在
遙か母胎の物語を無意識にくり返す


125
知らぬ間に屈折してゆく
何度も
何度も不在からの道中


126
(あなたは誰?)と問いかけても
返事なく
見知った匂い立ち込めるだけ




詩『言葉の街から』 水の駅シリーズ・失(しち)の駅


127
時間の波立つ失の駅
二番線
世界の風に失の不安揺れる


128
二番線霧立つ迷路
知らぬ間に
一番線につながりゆく


129
失に失をたび重ね
灰に埋もれ
弱い熾火(おきび)失の駅に眠る




詩『言葉の街から』 水の駅シリーズ・失(しち)の駅


130
振り返る心の影が
つぶやいてる
(痛ましいことばかりだったよ)


131
ほんとうは喜怒哀楽
溶け合った
微妙の日々が心にこだまする


132
失の沼地の引く手あまた
振り払い
また今日も立ち上がる朝




詩『言葉の街から』 水の駅シリーズ・蜂の駅


133
どこからか窺(うかが)っている
気配の
水の匂いに溶け漂い来る


134
見られてる 見・ら・れ・て・る
鋭い
痛みの中悔やみに悔やんでも


135
もうここは蜂の圏内
ゆったりの
心引き締め感覚を放ち放つ


136
凌駕(りょうが)する蜂の視線を
超えてゆく
飛行シミュレーターの内で思う




詩『言葉の街から』 水の駅シリーズ・蜂の駅


137
仕事終え私服私心に
歩みゆく
ストーカー蜂がつけねらい寄る


138
ゆるゆるの心の分布
見渡して
ブンブブンブ蜂の視線は


139
なんら優位でない
蜂の視線
を夢想する蜂はいないか




詩『言葉の街から』 水の駅シリーズ・蜂の駅


140
失(しち)ならば成り成りて足らない
ものがある
蜂に刺されて人思い知る


141
きみは蜂の夢みることは
ないだろうか
蜂気分であちこち自由に飛ぶ


142
蜂ならばただ飛んでゆく
人ゆえに
飛鉢譚を得々と載せる説話たちよ
 

 註.飛鉢譚(ひはつたん)、「修行者が鉢(はち)を飛ばして布施を得る説話をいう」。例えば、『宇治拾遺物語』の巻十三(172)「寂昭上人、鉢を飛す事 」や巻八(101)「信濃国の聖の事」などがある。





詩『言葉の街から』 水の駅シリーズ・苦の駅


143
あやしい雲行き流れ
水面にも
溶け込んでいく重たい小舟


144
誰もが立ち寄りたくない
苦の駅に
ぐいぐいぐぐい引き寄せられる


145
縁起も何もありゃしない
99999
苦口苦口口苦来苦ばかり降る駅




詩『言葉の街から』 水の駅シリーズ・苦の駅・番外


(サッカーなんて、)(音楽なんて、)
(詩なんて、)
(消えて亡くなれ!)今は荒野行。


(サッカーでない「サッカー」、)(音楽でない「音楽」、)
(詩でない「詩」、)
(そんなみちはないか?)今は荒野行。




詩『言葉の街から』 水の駅シリーズ・苦の駅


146
初夏の青葉若葉も
苦の駅の
旅客たちには時空変容す


147
心たちただうつむいて
駅前に
目的地もなく旅支度で集う


148
心模様は墨文字の
黒々と
故知らぬ〈苦〉ばかりを背負い来る




詩『言葉の街から』 水の駅シリーズ・苦の駅


149
(何があったの)と言われても
よくわからない
ただここにこう苦の葉ばかり降る


150
(なぜこのように)たどり返す
足取り
当てもなく苦の丘陵を下る


151
この痛み伝えようもなく
黒々の
夜に急に稲光のする





詩『言葉の街から』 大空シリーズ



雲浮かぶ青海原を
なめらかに
若鳥のよう飛行してゆく



(大空に飛ぶ鳥を見よ)
言葉は
響き夢に鳥の羽ばたく



たくさんのライト兄弟
入れ替わり
立ち替わり手にするバーズアイ




詩『言葉の街から』 大空シリーズ



遙かな鳥の時代は
忘れられ
今自然に鳥の目を巡らす



大きな翼身にまとい
人鳥人
のモビルスーツに潜り込む



おお見える見える
遙か眼下
箱庭の家並みみたい




詩『言葉の街から』 大空シリーズ



草原に日の差して
晴青静(セイセイセイ)
今ゆったりと飛び越えてゆく



天候が傾いてくると
翼揺れ
雨宿りなく心揺れる



空からと地上からとの
二つの視線
時には交わりずしりと落ちる


10
大空以前がアリさん時代
に見えるなら
アリさんも思いのほか豊かなんだな




詩『言葉の街から』 大空シリーズ


11
空にも階段があり
土の匂いは
しないけどジャックは上る


12
空のみちぐんぐんぐぐん
上ってゆく
宇宙イメージの湧いてくる


13
見たことのない光景の
サンサン
サザンとからだ揺さぶる


14
ジャックは光の船に
乗り込んで
宇宙空間にきらり瞬(またた)く

註.「ジャック」は、「ジャックと豆の木」のジャックをイメージしている。




詩『言葉の街から』 大空シリーズ


15
大空は見上げるばかりの
時代から
遠くまで来た、でも見上げ続ける


16
もう月にはウサギさんはいない
ただ無機質の
イメージのみが引力する


17
気づかない見上げる言葉
の内をはらはらはらりと
剥げ落ちていったものたちがいる


18
それでもなお太古から
生きものたちの芯を引き、降り注ぐ
放射線みたいな深層の月




詩『言葉の街から』 大空シリーズ


19
どうしてまた大空に
上ってゆく
ことになってしまったのか・・・


20
大空への道に踏み出した
(さあさあさあ
もう振り返ってもダメだぜ)


21
胃カメラを初めて飲む
この気分
今はもう大空に上りきるほか道はない




詩『言葉の街から』 大空シリーズ


22
暗く狭い空洞を
いつ果てる
ことも知らずに上ってゆくよ


23
ZunZunZun、ZUZZZZZZ
ずっとずっと
聞き続けるほかない上昇気分


24
何事も終わりがあるさ
さあ生きて
新しい風肌に受けるぞ




詩『言葉の街から』 大空シリーズ


25
ちょっとした一言の
歩み出る
澱(よど)んだ空気が消えてゆく


26
どんよりの曇り空が
ぱあっと
晴れ上がってゆく、ああこの気分は


27
大空は慣れれば何も
苦しくはない
地上気分に接地してしてゆく




詩『言葉の街から』 大空シリーズ


28
ためらいをくり返し
行きつ戻りつ
海から陸にはい上がった朝の


29
苦しさはまだ引いていかない
けれども
潮の香りが薄れてゆくよ


30
ほらほら今ここに
陸から大空へ
はい上がって来たぞわれらは


31
人間はいろんなみちに
入り込み
未知に道をつけてゆくさ




詩『言葉の街から』 大空シリーズ


32
簡単にグーグルアースに
乗り込んで
おお世界が見える見えるぞ


33
上からは人の生動する
表情は
見えない見えない見えないよ


34
なんだか死後の世界
みたいな
ユッタリンリン今、飛行中


 ※大空シリーズは、これでおしまい。





詩『言葉の街から』 道シリーズ


  つまり、ある詩が書かれて眼の前におかれたとしたら、じぶんが書く書かないには関係なくたれがそれを書いたとしても、その詩は全面的にじぶんの持っている現在の生活感覚とか生活イメージとか、あるいは都市空間のなかに二十四時間のうち何時間かは必ずひたってゆくような生活の繰り返しみたいなところで出てくるじぶんの問題、もっと大袈裟なことをいえば、じぶんが持っている思想的な問題、日本の社会構成というのはどういうふうにこれから展開されてとか、どこが危機的なところかとか、どこが分析して報告しなければならない場所なんだという、つまりじぶんの中にあるそういうものも含めてじぶんが詩にたいして抱いているイメージが全部解放されてしまう、全部共鳴してしまう。そういう詩を想定しますと、どうしてもその中に重要な部分として都市がいまどういうふうな空間的な屈折とか折れ曲がりとか未知の部分を含んで変わりつつあるかということは含まれていきます。
 (吉本隆明 「変容する都市と詩」P15『吉本隆明資料集176』)




 詩『言葉の街から』 道シリーズ1~3 はじまりはじまり




現在の子どもらは
〈道〉と聞けば
アスファルト道を自然に歩いて来る



その足で歩いた笑った
道々は
〈道〉イメージを不随意的に決定する




同様に太古の〈道〉
イメージは
ぼくからずんずん遠離ってゆく




詩『言葉の街から』 道シリーズ




山川草木と束ねられない
大地を
人もちらちら蠢(うごめ)いている



次第に踏み固められて
人の道
小さな明かりとほのひかり出す



人も道もまだまだまーだだよ
自由に
身動きできない子ども時代があった



それはそれで今と同じく
やわらかな
日差しを浴びてうっとりもあったさ




詩『言葉の街から』 道シリーズ




道と道つながる交わる
色色の
音混じり合う村(エレーヌケレーヌ)



力強く唱和する
地域の
風の偏差から(せれーぬ しぇれーぬ)


10
山々の太鼓の音に足打ち鳴らし
風の笛の音に
舞い上がる道道の物語


11
はぐれゆくひとり道の
さびしさは
夕暮れに影長あくのびている




詩『言葉の街から』 道シリーズ



12
遠出する道の不安に
木霊する
山々が赤々とざわめく


13
赤々と火を振りながら
虫送り
これが俺たちの科学さ文句あるかい?


14
頬(ほお)照らす火祭りの道
下る言葉たち
〈おお〉や〈ああ〉と汗の流れる


15
傾いた貧しい大地
道を伸ばし
水を引き立て直してゆく




詩『言葉の街から』 道シリーズ



16
「僕の前に道はない」と
気負って
突き進むほかない時代は過ぎた


17
けれど時代の流れを
突き抜ける
ベクトルは今も青寂しい


18
あのアイスでも道々食べながら
ひとり進む
ほかないなあこの道、今も




詩『言葉の街から』 道シリーズ



19
びみょうな言葉のバランス
シーソーに
揺れながら重みは深みへ沈みゆく


20
重たい道の考察
は不要
と言い切ることができない、今も


21
〈みち〉の音の舟に乗り
満ち道の
未知の満ち道手触れ流れゆく




詩『言葉の街から』 道シリーズ



22
くたびれてでもなく、ないよ
ないよ
と自分探しでもなく、ありのままに


23
今から半世紀前の
道々は
泥道砂利道ばかりだった


24
信号機もなく車も
あまりなく
水溜まりバシャバシャ歩いた


25
道々にでこぼこあり
草々も
生えていて小石蹴って歩いたよ





詩『言葉の街から』 道シリーズ



26
今に一家に一台の車
を持てる
時代が来るぞ!と先生は言った

註。中学の社会科の先生が授業で語った。


27
欲望と希望とが縒(よ)り
合わさって
ひとつ道もうもうと開けていく


28
声々の飛び交う川の
洗濯から
洗濯機へテレビへ信号機へ


29
古い伝説芯にして
メカニックに
村々が都市の衣装に衣替えしていく




詩『言葉の街から』 道シリーズ



30
慌ただしい夢から醒めたきみは
ぼんやりと
眼前の風景の中にいる


31
あらゆる道も家々も
アスファルト
やコンクリートに敷き詰められ


32
これからはこの風景を
初期値として
子どもらは自然に歩いていくのだろう


33
眼前のどうあがいても
変わらない
時の主流に目を凝らさなくっちゃ




詩『言葉の街から』 道シリーズ



34
いつの間にか農業と
サービス業とが
入れ替わり自給自足も消失した


35
幻の「田舎」イメージに限らず
無数の死語
都市の墓地に眠りくり返す死後


36
1961年、三波春夫は
問われて
「お客様は神様です」とふともらした


37
三波の真意を越えて
「お客様」は
経済社会の波に乗る




詩『言葉の街から』 道シリーズ



38
あららあらら。知らぬ間に
ぼくらは
波に乗り乗るサーファーか


39
店に頼り切りに見える
生活も
店から見ると恐いもんだね、ぼくらの選択


40
ぼくらのしぼりにしぼる
ダイエット蜂起!
青息吐息の企業や政府が見えるか




詩『言葉の街から』 道シリーズ



41
大道無門はまだまだ表向き
とうりゃんせの
裏道が鳴り止まない


42
この道あの道
とうりゃんせ
とは言うけれどどのみち霧中さ


43
手垢の付いた細道を
今日も
人並みにせわしく行くよ


44
人の時間が敷いた道
偶(たま)には
のんびり歩いてゆくか




詩『言葉の街から』 道シリーズ



45
もうすでに生の自然のものはなく
みちみちを
朝ころがってゆく、このかんしょくの


46
みちみちにみちの言葉で
みちのこと
考えた、みちみちてくる水位


47
時には、現在のブレーキ踏まず
足ブレーキの
ざ、ざざざざ、ざぞざぞざざざ


48
あの朝焼けの空が消えている
いつの間にか
あのみちは大空深く




詩『言葉の街から』 道シリーズ



49
知らぬ間に未知に浸(ひた)され
滲透し
少しずつ未知の人間になってゆくのか


50
気づいた時ははっきりと
みちみちて
みちの入れ墨浮かび上がる


51
少年になっちまったら
もうもうもう
赤ちゃんは遙か太古


52
ああそのみちはいいねえ
とつぶやく
どのみちがそのみちなのか、みちの手前




詩『言葉の街から』 道シリーズ



53
(未来なんてわかりゃあしない)
泡立つ時が
人の声に無縁顔で流れるばかり


54
(ジタバタしてもなるようになるさ)
黙々と
主流は推移してゆく


55
人とシステムの流れる
交わる
底流の道人知れず続く


56
何気ない一日に見えて
底流は
大きな時間スケールの時も大地も流れる


57
人々の揺らぐ心の
丘陵の
底流しずかに今日も流れる




詩『言葉の街から』 道シリーズ



58
知らぬ間に未知の道に
つながって
道は更新されてゆく


59
例えば人工子宮
何か 危ない
恐ろしいものに今は見えてる


60
けれどぼくらは 遙か
海から
上陸してこんな体の今を生きてるんだぜ


61
時代の大きな変わり目は
必ず
正負のベクトル乱調す




詩『言葉の街から』 道シリーズ



62
主流の道をかぎわけて
匂い流れ
てゆく未知へと心絞る


63
主流のみちを見定めても
この現在の
揺らぎ乱れる渦中をあがく


64
知識と一歩一歩の生活の
シームレスの
帆、大風に張り裂けそうになる


65
イメージの小舟に乗る
ぼくの 深々(シンシン)
身心の隙間風吹く




詩『言葉の街から』 道シリーズ



66
黒々と夜の底に
明滅する
分布する光の粒の人間界


67
衛星の視線下には
人々が
その視線秘めてビル群を行き来する


68
やわらかに光を浴びて
少年たち
振り返ることなくダンスダンスダンス!


69
渇いたビル群の林を
リズムの舟に乗り
少年の心は夜露に濡れて走行する




詩『言葉の街から』 道シリーズ



70
書類慣れしていない
ぼくらは
うんざりする迷路に落ちる


71
あらゆる分野の行き詰まり
積もり積もる
塵芥に体の芯はジンジンなる


72
すいすいと歩いていたら
弾(はじ)かれる
今も生きてるカフカの『城』


73
ネットワークを走行し
ボタン一つで
細分化の森を抜けられない?




詩『言葉の街から』 道シリーズ



74
無数の光明滅する
宇宙母艦
がゆっくり浮上しても割と自然


75
微細な思わぬ所から
取り出す
電気マジックも割と自然だ


76
目覚めたら一夜にして
巨万の富
現代のIT説話も風にひらひら


77
イメージイメージイメージ!
イメージ過剰の
幻の街イメージ鳥の派手に飛び交う


78
ぼくらは過密な都市の
イメージの内側の
小さな部屋にアリのように眠る




詩『言葉の街から』 道シリーズ



79
夢に出るのはガラクタの
廃墟ばかり
古い自然の死に詩に死に


80
記憶ばかりはありありと
後ろの風景は
廃墟と風化してゆく


81
(なつかしい)は行き場なく
抽出され
ただ普遍の流れに注ぎゆく




詩『言葉の街から』 道シリーズ



82
電灯がぱあっと光る
衣更えの
部屋みたいに未来が席に着く


83
始まりの電灯ぶるんと
古ぼけた
顔の過去を塗り替えている


84
徴候は新旧の
夢の継ぎ目
深く未来の新芽を宿す


85
〈なんとなく〉〈うまく言えないけど〉
の感じとして
潜在する未知は手に触れる




詩『言葉の街から』 道シリーズ



86
潜在する未知や未来は
ただ今の
倫理を足蹴(あしげ)にする


87
ただ今の深刻な顔
ぶつけ合い
果てしない議論はイカロスの翼


88
たばこの煙禁じられ
居場所ない
議論の渦中に深く不毛の匂う


89
現在の〈人間的〉の
弓を張り
きりきりきりと、後はラララ




詩『言葉の街から』 道シリーズ



90
うとうとも酒気帯びも大丈夫さ
自動運転
古い不幸を吹き飛ばし飛ばしていけよ


91
スマホメールのやりとり
しばられしばり
しばれるなあ、自由に大空に放てよ


92
便利な文明の舟に乗り
好きなときに
いつでもどこでもどんなことでも、か


93
もうね、深刻な顔の
こわばりを
解いていいんだよ、ほら未知の春だもの



詩『言葉の街から』 道シリーズ



94
窓開けて朝が始まる
こんなところにも
世界の現在は朝の顔向けてくる


95
窓の向こう目を凝らして
探さなくても
未知の朝はもう大気に溶けてるさ


96
物忘れではなく、あれ、あれあれと
感触の舟に乗り
細い朧(おぼろ)なみちを探る




詩『言葉の街から』 道シリーズ



97
黙々とひとり仕事でも
ウインドーの
外からのまなざしが差すのもいいなあ


98
ひとりでも大勢の中でも
誰もが
独り明かり小さく明滅させている




詩『言葉の街から』 道シリーズ



99
ひとり椅子に座りながら
誰もが
遠くへ遠くへと出かけていく


100
(遠くにはかわいい子も
いるんじゃないか)
心の足が前のめる


101
そりゃあそれでいいけど
生まれ育った
ホームタウンは抹消できないなあ




詩『言葉の街から』 道シリーズ



102
ほらほらきみやぼくの
ちのめぐり
巡り巡って血は争えないな


103
ああ、やかんが沸騰しているよ
どうするんだよ
トウダイモトクラシイー!




詩『言葉の街から』 道シリーズ



104
今朝もまた目覚める世界
まといつく
クモの糸も柔らかなベッドもあるさ


105
ぼくがいて君がいる
あいつもいる
そんな世界が現前してるよ


106
感謝とか言わないが
この世界
今・ここにオレずしりとあるか


107
この世界の風に吹かれて
風に声聴く
オーレーオレオレオレー




詩『言葉の街から』 道シリーズ



108
〈大きな文学者になる
ことは、そんなに
大切なことなのか?〉世界がふるえる

註.〈 〉部分は、晩年の吉本さんの言葉。
 (「書くことと生きることは同じじゃないか」P17『吉本隆明資料集179』猫々堂、初出『新潮』2010年10月号 )





詩『言葉の街から』 世界はふるえるかシリーズ



一滴(ひとしずく)すうっと落ちる
水面に
波風の立ち朝がはじまる



朝の扉が開かれて
寝ぼけ顔の
ものみなすべて音立て合う



ピアノの音が駆けだして
音の森は
木々も下草も朝日に揺れる




詩『言葉の街から』 世界はふるえるかシリーズ



先ずはひとり、ひとりひとりの中
世界の朝は
沈黙のなか起き上がる



この地に醸成された
身も心も
素振りも見せずに朝を歩き出す



静かに放たれた言葉
矢と突き刺さり
記憶の方へ滲みゆく朝もある




詩『言葉の街から』 世界はふるえるかシリーズ



不意の来客覆い被さり
真っ暗ななか
赤ちゃん喉の奥から叫び出す



赤ちゃんが泣き出すと
凪の海
波立ち泡立つ小さな世界



世界には薄い膜が
かかっていて
ちらっと見える顔の異世界


10
ふるえる世界はゆっくりと
修復され
しずかに元の椅子に戻る




詩『言葉の街から』 世界はふるえるかシリーズ


11
世界を指で押してみる
粘土の
へこんだ苦笑いを返すよ


12
世界の肌を撫(な)でてみる
澄ました
コマーシャルの微笑みを返す


13
ヤスリで削ってみる
世界は
けば立った表情でやって来る




詩『言葉の街から』 世界はふるえるかシリーズ


14
静けさが退(しりぞ)いてしまった
現代は
微音武音と昼夜走行する


15
まぼろしの道路を抜けて
大空へ
突っ走ってゆくゲームのような夜


16
何度も何度もくり返す
ゲームのように
迫って来てゲームオーバーする一日




詩『言葉の街から』 世界はふるえるかシリーズ


17
沈黙の部屋に伝わる
騒音は
人人人(じんじんじん)と人の匂いする


18
しかすがに風雨草木
虫魚
訓のそよぎで交響する


19
ふれる世界は膜隔て
のっぺりん
空目空耳物の怪もこの人ゆえにこそ


20
知らぬ間に世界変換
遂げており
ぼくらもまた変換されてる




詩『言葉の街から』 世界はふるえるかシリーズ


21
言葉の駅から乗り込んだ
乗客たち
都市の賑わいも流れ来る


22
ボタン押し一群の人
さわやか顔して
自然純度100%の駅を出ていく


23
同じ言葉の〈自然〉でも
降りる駅
純度と組成が微妙に違う




詩『言葉の街から』 世界はふるえるかシリーズ


24
その人いいなあの人いいな
元気もらい
顔たちが駅を駆け下りていく


25
(別に どうでもいいけど)
とぼくは
ひとり電車に乗り続けている


26
誰もが乗り込んでいる
世界列車
時間の底を無音でガタンゴトン




詩『言葉の街から』 世界はふるえるかシリーズ


27
(ガタンゴトン) 空耳か しっ
ししししっ
詩の言葉が流れているよ


28
元気もらい顔達のドドドに
蹴散らかされ
踏まれても 詩は 奥底から湧く


29
世界の心音近く
しずかに
そおっとそおっと詩は巡る




詩『言葉の街から』 世界はふるえるかシリーズ


30
ミュージシャンにイカレるのは
自分では
できない金鉱山を発掘してくれるから?


31
(自分でやればいいじゃん)
と言われてもねえ
手が汚れるしきついしねえ


32
かれらは世界にくさび打ち
深層水も
湧き上がらせる、ぼくら分かち合うのさ




詩『言葉の街から』 世界はふるえるかシリーズ


33
世界の〈あ〉を剥いでみる
びりびり
びりり、〈い〉が不在にふるえる


34
世界の〈あ〉にムチ打つと
ぶんぶぶん
元気もらったと〈い〉が疾走する


35
メンバーの〈あ〉の振る舞いが
ふろいど通って
音の良し悪し左右する




詩『言葉の街から』 世界はふるえるかシリーズ


36
ざっくりと言葉斬り込む
みだれる
ふるえる世界の心音


37
世界にはいくつも時間の
層があり
いろんな顔に変化(へんげ)する


38
世界の内の階段を
下りていく
ふわっと風がイメージを巻き上げる




詩『言葉の街から』 世界はふるえるかシリーズ


39
世界の階段を下りてゆく
音のない音
世界音を感じている


40
踏み下りる足裏の感触
感じるよ
この世界の無音の流れ


41
流れ流れてどこへ行く?
疑問符が
流れの泡と消えてゆく 世界よ




詩『言葉の街から』 世界はふるえるかシリーズ


42
ここまで来ると世界は
抽象画
色色の形浮遊している


43
現在という時空の層に
まるでスターウォーズ
大小様々に飛び交っている


44
インフルエンサーなんていない
ただ赤々と
無数の星々が点滅している分布している




詩『言葉の街から』 世界はふるえるかシリーズ


45
ただ流れる世界流に
善も悪もなく
無時間のよう人影が揺れている


46
流れに手を差し入れる
どこか懐かしい
言葉の匂い、浮かんでくる


47
言葉に固まらない
漂いに
静かに立ち尽くすばかり




詩『言葉の街から』 世界はふるえるかシリーズ


48
走査する概念の糸たち
手を拱(こまね)いて
遙か彼方に視線を向ける


49
概念になれないが・い・ね・ん
固まることなく
るるるるるると小さい流れ


50
空も海も山も鳥も
人間も
あわい緑の影となり、あわわ




詩『言葉の街から』 世界はふるえるかシリーズ


51
目をつむり世界の内に
静かに立つ
重たい影が重力成す


52
苦しくてジタバタしても
逃れようも
ない圏内というのがある


53
他人(ひと)の手が届かない
ただ独り
歩みゆく 影 影 影




詩『言葉の街から』 世界はふるえるかシリーズ


54
詩や物語のみならず
誰もが
この世界流に影落とす


55
作者も読者も
溶け合って
だからからからと笑いもする


56
冒険した・しないの違いはある
でも、おんなじ
世界流に浸かってきた。匂う?




詩『言葉の街から』 世界はふるえるかシリーズ


57
世界流音の道に
引き込んで
ダダ ダダダン 音階を下る


58
垣根越え小さい子も
入り込み
ぱらぱぱらぱとからだに響く


59
見知らぬ人も引き寄せられ
ずんずんずん
ずんずずんと交響する




詩『言葉の街から』 世界はふるえるかシリーズ


60
世界流を見ろよミロよと
線が踊る
黄野を歩く世界の黒点ポツポツ


61
世界の鼓動波打つと
黄野の
黒点に赤の流れる


62
〈見る〉〈感じる〉世界は
衣装を着けて
色世界を滑り踊る




詩『言葉の街から』 世界はふるえるかシリーズ


63
薄暗い井戸の底
をのぞく
物語の破片がある


64
かたち成す物語るには
破片溶けて
固まり出す ダンスダンスダンス


65
世界の風や光の
発車の
時刻なんて待っていられるか




詩『言葉の街から』 世界はふるえるかシリーズ


66
世界の決まりと都合
に合わせたら
ぼくの井戸はかんからかんさ


67
ぼくのペースぼくの走り出し
ぼくの都合で
世界を塗り替えていくんだ


68
あれも世界ここも世界
侵入しているけど
気ままリズムが振り切るられろ




詩『言葉の街から』 世界はふるえるかシリーズ


69
何度も小ぶつかりを
くり返し
もうこれはおしまい デッド・ロック


70
ジタバタ羽ばたき居る
と ゲームのように
すうっと抜け出る新場面へ


71
世界は人に沿いつつ
表情を
千変万化 春三月




詩『言葉の街から』 世界はふるえるかシリーズ


72
長居できない世界の
内だから
戻っては入りをくり返す


73
持ち帰るものは空虚か
次元の
敷居をまたぐ時消えてゆくものたち


74
出会ったイメージ群に
浸かってた
今はもうもう浦島太郎




詩『言葉の街から』 世界はふるえるかシリーズ


75
いくつもの小世界から
追放されても
このイメージ世界、しっとりと在る


76
いやなことつらいこと
重なる
枯れ葉の中こころ生きて歩む


77
時にはふうっと日が差す
この世界
目を上げてまた歩み出すよ




詩『言葉の街から』 世界はふるえるかシリーズ


78
小さな病帰りゆえに
大気の
味わいいつもと違う 一葉舞う


79
ゆらゆらと舞い落ちる葉の
みどり滲む
ああこの世界の 内・に・ある


80
順風満帆の舟
大風に
ふいと横倒し 悲歌の流るるもある




詩『言葉の街から』 世界はふるえるかシリーズ


81
例えば古代に汲み上げ
組み直した
5・7・5・7・7風になびいたか


82
以前以後、リズムのからだ
同じ水路を
くねくねして流れ続ける


83
変わりつつ変わらないもの
微かに
世界の背骨が軋(きし)みを立てる




詩『言葉の街から』 世界はふるえるかシリーズ


84
晴れた日に気分の風に乗り
言葉の石を
投げてみるみる波紋広がる


85
言葉はコースを滑る
ボブスレー
これがた・ま・ん・・ない・・・んだよなあ


86
5・7・5・7・7に気配りしながら
おー迷子!
ということもなく終点に着く


87
旅の途中の感触は
粗い言葉
に荷造りするするよそよそしいな




詩『言葉の街から』 世界はふるえるかシリーズ


88
大空に響いているか
いないか
気に留めながら下ってゆくよ


89
アメリカのテレビドラマ
何シーズンも
続いてる いつ終わってもかまやしないさ


90
クールにそうは言っても
何でも
〈おわり〉というのはさびしいな




詩『言葉の街から』 世界はふるえるかシリーズ


91
使い切りの空き瓶を
振っても
ふっても 出て来るものはある


92
黄金でも失望でもない
何かが
滲みでているいつもの朝に


93
計測も計量も
できない
何か ほら 水中を泳いでいるぞ




詩『言葉の街から』 世界はふるえるかシリーズ


94
背びれが少し見えたから
〈魚だ!〉
とは限らないもやに霞む世界


95
色んな魚の思想や
魚たちの
物語があふれている現在


96
少なくとも何かが動き
進行している
ことは確からしい いつもの朝の大気




詩『言葉の街から』 世界はふるえるかシリーズ


97
作って並べて 買って
使って
使って使って使って また買って


98
目に見えないものも ふんわり売られ
買われて
神経網世界にネコを撫でている


99
タヌキの木の葉のお金たち
イメージ力に支えられ
光りながら疾走中


100
まぼろしのイメージの木々
枝葉にも
みどりの血流れ脈動する




詩『言葉の街から』 世界はふるえるかシリーズ


101
世界の衣装がはらり
翻(ひるがえ)り
世界はメロスのようにはにかむか


102
感知できないほどの微動
する大地
から地震について考察する


103
世界と人は〈世界・人〉の
存在面、
思考面に乗り進んでいる




詩『言葉の街から』 世界はふるえるかシリーズ


104
生きた時間の空洞に
十分に
呼吸されて世界はある


105
〈世界〉を論じる時に
いっしょに
内に溶けた世界がふるえる


106
世界イメージの溶けた
破片の
舟に乗りぼくらは〈世界〉へ漕ぎ出すのさ




詩『言葉の街から』 世界はふるえるかシリーズ


107
赤ちゃんのはやる気持ちの
ばたばたと
あそこ、あそこへと舟を漕ぎ出す


108
遙か彼方生き物たちとの
つらい別れの
記憶か、足を引くものがある


109
おそらくは〈世界〉の姿
生き物の
影に合わせて現れている?




詩『言葉の街から』 世界はふるえるかシリーズ


110
ああ、〈世界〉に月が出ている
世界の縁を
叩いてみるさ 「チャンチキおけさ」


111
沈思黙考、〈世界〉は深い。
が、重力に
引かれひかれて、今ここに踊り出す。


112
ぼくらの知らないところで
ぼくらと世界
歩調合わせて歩んでいるよ




詩『言葉の街から』 世界はふるえるかシリーズ


113
〈世界〉の新しい通路
を通って
光りを浴びた言葉となる


114
モノローグばかりでなく
だれか
どこかに響かせている 言葉は


115
新しいひかりの舟に乗り
波立たせ
合う 会うよ ひかりのツイート




詩『言葉の街から』 世界はふるえるかシリーズ


116
なんでも終わりはあるさ
それでも
終着駅までは何度も再生する


117
万事休すも一巻の終わりも
飛び越して
人は歩いているよ歩いて行くよ


118
もうこれでほんとにお終い
と閉じても
またいつか新芽が出てくるさ




詩『言葉の街から』 重力シリーズ



ぼくの知らないところで
たとえば
心臓が拍動しているぞ



ふれたりとめたりしようとも
どうしよう
もなくなく人の歩みは進む



重力はお月さんとか
行かないと
流れ出さないかもしれないなあ



ひたすらに無心と気づき
往還する
するすると全てが白日とはならないな




詩『言葉の街から』 重力シリーズ



自分と他人(ひと)を比べたら
重力差
のイメージが手に入るか



気づかれた重力の
舟に乗り
新気分で異次元世界へ 突入



舟が揺れるまだまだ未知の
気づかれない
無意識の大陸があるのかも




詩『言葉の街から』 重力シリーズ



都会に出てみたら
ほんとかい?
着ていた地域の服が色褪せていった



苦しい大気に耐えて
その地の呼吸法
整えてきた (なあんだそうか)


10
晴れ上がった大空から
鬱々の
曇天は過去形の中に?




詩『言葉の街から』 重力シリーズ


11
家から切れた風船は
自在に
幻の旅ができると思ったか


12
しゃれた言葉の舟に乗り
コマーシャルの
文体をカッコいいと思ったか


13
つなぎ止める糸意図糸が
どこに行っても
張り巡らされているこの世界


14
願ったことと願わなかった
ことたちが
重力に屈折してゆく




詩『言葉の街から』 重力シリーズ


15
国境(くにざかい)越えてゆけば
言葉の
色合いや音色が変貌する


16
同じような顔の下には
微妙な
水の匂いする川が流れる


17
中央の言葉だけが
ひかりごけ
方言たちを食べて光り輝く




詩『言葉の街から』 重力シリーズ


18
木々も川も同じでない
柳田の
足と耳に降る雨の数々


19
〈雨〉とつぶやく時
きみはどんな
イメージ野につながっているか


20
目の前に雨が降り
天空から
なじみの雨も降り重なる




詩『言葉の街から』 重力シリーズ


21
都会に出た若い言葉が
つぶやいている
(こんなはずじゃなかったのに)


22
何度も突き出た新芽
避けようもない
重力に折れていく


23
いく夜暖めたか
小さな
夢の卵たち (割れている)




詩『言葉の街から』 重力シリーズ


24
そこがもう息苦しいだけの
小世界なら
振り切って逃げればいいさ


25
重力には二つあり
はっきりと
見える重力は振り切ることができる


26
内にいても外に出ても
落ち武者のように
傷つき果てる季節もあるさ


27
見えない重力は
生きてるかぎり
受け入れるほかないよなあ




詩『言葉の街から』 重力シリーズ


28
今の引き出し戸棚を
調べ尽くしても
見つからないものがあるような


29
今在るのは生まれ育ちの
道ゆえに
今今今、今に見ていろは


30
おそらくは太古の人の
表情して
向こうの木をぼーっと見ている時がある


31
底の方目まぐるしく
胎動する
流れに浸かり日々ささいな踏み石を踏む




詩『言葉の街から』 重力シリーズ


32
向こうに家や木が見える
視線の
途中にふいと下りてくる時間がある


33
ひとりの意識や無意識
越えた峠
から重力波は訪れる


34
気づいてもどうにもならない
別れがあるように
重力はかかり続ける




詩『言葉の街から』 重力シリーズ


35
やみくもに純度高く
上り詰め
ふいと若さは滑落する


36
純度の高いものばかり
踏む飛び石の
ついには息切れが追い越してゆく


37
振り返る 通り過ぎた
稜線の
闇雲に苦い閃光上がる




詩『言葉の街から』 重力シリーズ


38
若さは思い込みの
さびしい秋
枯れ葉ばかりが背に降り積もる


39
思い込みはざっくりと
世界の
老木たちをなぎ倒している


40
わかっているつもり積もって
全世界!
逃げてゆく鈍色の重心




詩『言葉の街から』 重力シリーズ


41
(あ、重いな)肌にじんわり
滲みてくる
道を言葉は知らん顔して通る


42
実感の汗振り払い
観念の
走行に熱中してゆく


43
ゆくゆくはと夢見る言葉
内では
先走る気持ちもつれる足


44
忘れ去る場所にはいつも
重力の
圏内信号が上がっている




詩『言葉の街から』 重力シリーズ


45
朝露の「愛」の入口
を通り
小さなものたちが次第にあふれる日々に乗る


46
色褪せた「愛」であっても
時には
いい感じに日差しに映える時もある


47
小さく揺れ動く日々
の中にも
深刻な「人」の入口がありふと考え込む




詩『言葉の街から』 重力シリーズ



48
好きにやるさとつぶやいてみても
次々に
引き止める糸糸糸の


49
振り切っても振り切っても
言葉たちは
失速する重力圏


50
「なるようにしかならないさ」
と重力の
引力圏に上向きにつぶやく






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